Daybreak,早期アクセスは「業界全体にとって利益になる」

 Daybreakの最高パブリッシング責任者Laura Naviaux Sturr氏が,新しいビジネスモデルへの適応と「H1Z1」でe-Sports界に挑戦することの意義について語った。

 今週は,Daybreakが新体制を公式発表してから丸1年の節目にあたる。同社がColumbus Novaに買収され,ソニー傘下を離れてからの道のりは谷あり山ありの波瀾万丈だった。多くの辛い経験があった。レイオフを余儀なくされたり,社長のJohn Smedley氏や「Planetside 2」のクリエイティブディレクターを務めたMatt Higby氏が辞任したり,最近では「EverQuest Next」が開発中止に至るという失意の出来事もあった。一方で,「H1Z1」シリーズがローンチされ,その結果,Jens Andersen氏の昇進があり,ライブストリーミングスタジオを併設した本社ビルに移転し,ゲーム部門の副社長にEAからベテランのLarry LaPierre氏を,H1Z1シリーズのプロデューサーに「Mass Effect」や「Gears of War」のChris Wynn氏を迎えるなどの明るい材料もあった。

 GDC期間中に,GamesIndustry.bizは,Daybreakの最高パブリッシング責任者であるLaura Naviaux Sturr氏とインタビューを行い,同スタジオの過去12か月の変遷と,今後の見通しについて話を聞くことができた。

 「これまでの動きは非常に良いものだと感じています。Daybreakは本当の意味で新しい時代を迎えています。昨年10月には真新しいスタジオに移転し,全員が一つ屋根の下に集うことで,従業員間の協力がしやすくなりましたし,新たな一体感も生まれました。根っこの部分では変わっていませんが,新しいチャンスにも目を向けています。収益は前年度比で30%成長したことも,大きな明るい出来事です。いま成功しているのは,新しいタイトルだけではなく,昔からのタイトルにもよるものだと考えています」と彼女は話の口火を切った。

 「『H1Z1』は昨年Streamでリリースされた新作のトップ5に入りました。早期アクセスでリリースしましたが,売れ行きはほかの製品と同じように徐々に進んでいきました。そのため,私たちは『行く末を見守ろう。私たちは自分たちの作品について本当に理解しているわけではないから,コミュニティと一緒に開発していこう』ということになりましたが,それ以降の各ステップは,私たちにとって良い意味で衝撃と驚きの連続でした。
 それが,『H1Z1』シリーズに関する最近の意思決定に大きく影響しています。『DC Universe Online』も引き続き好調で,今春にはXbox Oneにも移植します。『EverQuest』は,信じられないことに来週で17年目を迎えます。今秋には,EQとEQ2の両方に大規模な拡張パックが追加されます。そしてもちろん,昨年PlayStation 4に移植した『PlanetSide 2』もあります」


「開発企業は,全力を尽くす必要があります……開発チームは,フィードバックをきちんと消化してワークフローに反映し,軌道修正と調整を行えるようでなければなりません」

 Columbus Novaによる買収後,Daybreakはいくつかの難しい選択を迫られ,140名ほどの人材を失うことになったが,Sturr氏は,長い目で見れば状況がよくなっている。実際に具体的な人数は明かされなかったが,手放さざるを得なかった人材の「かなりの部分」を再雇用するに至っているとのこと。Sturr氏は,同社は成長期にあると語る。「求人ページには多くの募集があります。そこを見れば健全な状態にあることがお分かりいただけます」

 昨年,Daybreakが導入したとくに興味深い戦略は,Steamの早期アクセスモデルへの対応に関するものだ。早期アクセスは,通常,大きな企業が行うものではないが,その構図は変わりつつあるのかもしれない。

 「早期アクセスに挑戦するなら,状況をよく理解しておく必要があります。誰にでも向いているわけではありませんが,いずれ潮目が変わり,もっと多くの企業が採り入れるのではないかと考えています」とSturr氏は話した。「とくにライフサイクルが長いゲームには,このビジネスモデルが確実に向いています。なぜなら,そのようなゲームは,ある期間爆発的に流行するプレミアムなゲームにはならない傾向があるからです。ですから,当社のゲームに早期アクセスを採用するのは理に適っています。私たちは,1つのシリーズに5年から10年,『EverQuest』の場合には17年も費やしています。これほど息の長いゲームに育つということは,それを支えるコミュニティが存在するはずです。だから彼らに最初から制作プロセスに加わってもらうことが最良の選択なのです」

 Kickstarterと同様,どのフィードバックを重視し,プロジェクトに採用するかの判断が早期アクセスでの成功における生命線だ。

 「開発企業は,全力を尽くす必要があります……開発チームは,フィードバックをきちんと消化してワークフローに反映し,軌道修正と調整を行えるようでなければなりません。私は,その点に関してDaybreakは非常に迅速に対応しているのが良いところと思います。創業以来,私たちはゲームをサービスとして提供しています。それが当社のDNAなのです」と話したSturr氏は,さらに「私たちには,コミュニティのフィードバックをどのように受け止め,そこから製品を改善するノウハウがあります。とはいえ,いつも簡単に進むわけではありません。コミュニティ内にもさまざまなセクターがあり,フィードバックも多様です。それを受け止めるときにノウハウが役立つと考えています。フィードバックをどう受け止めるか,優先度をつけるか,ゲームを改善するために何をするのが良いか」と続けた。

 早期アクセスというモデルは万人向きではないが,F2P同様業界に選択肢が増えるのは良いことだ,とSturr氏は言う。コンソールの世界でもF2Pや,Xbox One Preview Programのような早期アクセス型の取り組みが始まっているのは,総じてポジティブなことだ,と。

 「コンソールでのF2Pを含め,あらゆるライフサイクル,あらゆる種類の製品が存在することは,ゲーム業界にとって実に健全なことだと思います。このまったく新しいカテゴリはプレミアムな体験を補うものだと考えています。そして,一消費者としての私は,日曜の朝に腰を下ろしてPlayStationを起動したときに,たくさんの無料コンテンツを利用できることで,よりゲームを体験しやすくなると感じています……小規模な開発者たちにとってもメリットがあり,それは業界にとって良いことです。これまでゲーム制作をしていなかった多くの人にも制作する機会があります。そして,プロジェクトの初期に資金を調達できないために実現するチャンスすら得られなかったゲームも世に出るようになります。ですから,業界全体にとって良いことだと思っています」とSturr氏はコメントした。


「F2Pはゲームのグローバル化に貢献する部分はどこか。アジアで共感を得ると思われるゲームがあれば,おそらく一部のコンポーネントをF2Pにするべきでしょう」

 F2Pといえば,SOEがこのモデルに熱い視線を向けているが,最近のDaybreakは明らかに異なる視点を持っている。

 「何もかもが1つのモデルで片付くものではありません。ビジネスモデルを決めるには,ジャンルやオーディエンスを加味して慎重に検討する必要があります。数年前には,今とは大きく状況も世相も異なっていました。ですから,長期的な目標は何か,長期戦略はどうするのか,F2Pがゲームプレイのグローバル化に貢献する部分はどこかを現実的に考える必要があると思います。アジアで共感を得ると思われるゲームがあれば,配信され成功するためにおそらく一部のコンポーネントをF2Pにするべきでしょう。ほかの新興市場も同様です」と,Sturr氏は説明した。

 「現在が製品の寿命サイクルのどの部分にあたるかにもよると考えています。今のところ,『H1Z1』は控えめなダウンロード料金にオプションのマイクロトランザクションを加えたモデルを継続するのがベストです。F2Pがハッキングやチートを抑制し,ゲームのプレイ感を損ねないようにすることにつながることもあります。ですから,時と場所,そしてゲーム特性やオーディエンスによると申し上げているのです」


 各20ドルの2つの別タイトルに分かれた「H1Z1」は,単にDaybreakがF2Pという型を抜け出すきっかけになっただけではない。同社がe-Sportsという急成長分野に進出する足がかりとなっている。第1回大会「H1Z1 Invitational」は,118,000人の同時視聴者を集め,2015年のTwitchConで最も視聴されたイベントとなり,17万3千ドルの賞金につながった。
 現在,Daybreakは秋に行われる次のTwitchConでの第2回「H1Z1 Invitational」開催に向けて準備中だ。そして,つい先週,この大会の最初の4つの参加権はe-Sports組織のEcho Fox(NBAのスター選手Rick Foxによって2015年12月に設立)に与えられることが発表された。これにより,公認「H1Z1」イベントで初めてプロのe-Sportsクラブが参加することになる。

 「e-Sportsは,非常に大きなポテンシャルを秘めています……しかし,その力を発揮するにはコミュニティの力が必要です。私たちは,その環境におけるサポートシステムのような役目だと思っています。ツールや観戦の場を用意し,インフラや基盤を整備することで,有機的かつ並行的に成長させるにはどうすればいいでしょうか。一番やってはいけないことは,コミュニティの成長速度を追い越してしまうことです。足並みをそろえて成長し,肩を並べて共生していくことが望ましいのです」とSturr氏は説明した。


「e-Sportsで一番やってはいけないことは,コミュニティの成長速度を追い越してしまうことです。足並みをそろえて成長し,足並みをそろえて成長し,並行に共生していくことが望ましいのです共生していくことが望ましいのです」

 「TwitchConについては,参加することに異論はありませんでした。誰もが『すべて理にかなっている。さあ,やろう』という感じでした。そこで計画をまとめたのですが,最初から放送関連のサポートを得られたことには本当に感謝しています。TwitchConに向けて実にうまく運用することができたため,この大会の参加者が,練習をして参加資格を得られるようにすることと,走り始めたコミュニティによって,さらに足を伸ばして表舞台に出ることができました。Twitchは,いつも私たちがTwitchCon参加企業にとっての成功モデルだと話してくれます。今年は,規模を2倍にして,さらに大きく良いものにしたいと考えています」

 e-Sports以外で最近大きなバズワードとなっているのは,もちろん「VR」だ。Daybreakの元社長であるJohn Smedleyは,1年前にGamesindustri.bizに対して「VRについてはかなり期待しているのでできるだけ多くのゲームに導入していきたい」と語っていたが,現在のDaybreakはそのような認識ではなさそうである。

 「とても注目していますし,単に興味を惹かれているというだけではなく,実験もしています。また話の中にもよく登場しています。けれども,私たちは今自分たちがしていることを理解しています。私たちはオンラインゲーム,それもMMOゲームのメーカーです……ですから,当社の今ある中核事業や価値を考慮して,VRをどのように生かせるのか,また,体験をどのように高めることができるのかを考え出そうとしている段階です」とSturr氏はコメントした。
 「じきに,VRでもさまざまなジャンルが出現するでしょう……たとえば,モバイルのトップ10ジャンルのリストを眺めているだけでも,「エンドレスランナー」といったようなおかしな語句が見つかります。VRでもきっと同じようなことが起きるでしょう。今,そのような体験がゲームになるとは思ってもいないようなジャンルです。人々はそういうジャンルの可能性に魅せられるでしょうが,私たちはそのようなものに対しては懐疑的です」

 Jesse Schellなど,VRがオンラインの世界やMMO型の体験を作り出しているスタジオに最適な技術であると考える人たちもいる。特にSchellは,VRによってMMOのサブスクリプションが再び増加すると信じている。

 Sturr氏は,「VRが有料のコンテンツになることは,誰でも受け入れられると思います。万物は繰り返されるものですから,私たちの宇宙,PCゲーム,コンソールのF2Pゲームなどで起きてきた進化がここでも起きるのだろうと予期しています。VRというリセットボタンを押して,また一から進化が始まるのを見守るのです。おそらく,すでに起きたことからパズルのピースを拾い上げ,VRのモデルに当てはめていくことになるでしょう。私たちは,その行方を見守りたいと思っています」と付け加えた。

 「おそらく,現時点では市場に一番乗りをして,目新しさや最先端の技術というニュアンスを利用するために,投資しすぎているのが現実ではないでしょうか。アナリストのレポートに目を通し,人々の予測に耳を傾ければ,その投資が実を結ぶとは限りません。本当にメインストリームの技術になるには,3年から5年は見ておく必要があります。現状では過剰な投資ですが,それは悪いことではありません。それによって技術が前進するからです」

「私たちの宇宙,PCゲーム,コンソールのF2Pゲームなどで起きてきた進化がここでも起きるのだろうと予期しています。VRというリセットボタンを押して,また一から進化が始まるのを見守るのです」

 もしかすると,将来的には「EverQuest」がVRでリリースされることがあるかもしれない。数年を費やして開発が進められてきた「EverQuest Next」の突然の開発中止はあったが,現時点では「EverQuest」はDaybreakにとってコア事業であるということをSturr氏は強調した。

 「ゲームの開発中止は大きな悲しみです。長年にわたり,『EverQuest』を愛し続けている人々に加え,開発に力を貸してくれたコミュニティやプレイヤーたちの愛の結晶であったことを思えばなおさらです。けれども,私たちが中止を決定した理由は極めて健全なものであり,業界の中でもっと起こるべき出来事だと思います。もし,ゲームに楽しさを見いだせず,期待に応えられる作品になっていないのであれば,Daybreakの利益だけでなく,プレイヤーのためにも,そのゲームをリリースするべきではありません。『EverQuest』シリーズにかかる期待は大きなものです。そして,おそらく誰よりも私たち自身が高いハードルを設けています。EQ Nextの舞台となるノーラスで可能なことが分かっているからこそ,それを実現したいと切望しているのです。ノーラスの全貌が明らかになるのはこれからだ,と言えば伝わるでしょうか。『EverQuest』は,これまで通り私たちの心の中に生き続けています。今回学んだ教訓は,おそらくゲーム開発の基礎そのものです。鼓動が早くなったり,楽しいと感じたり。技術面では,業界人があっと驚くようなこともやってのけました。きっと,一部は将来的に別の場所で生かすことができると思います。何が起きるかは,誰にもわかりません」

 では,同社がゲームの面白さが足りないから中止しよう,という判断に至るまでこれほど長い期間がかかったのはなぜだったのだろうか。結局のところ,エマージェントAIのような「あっと驚く」技術的な特性が,プロジェクトを頓挫させたのだった。「外側のプログラム面に力を注ぐあまり,それを機能させることに多くの時間を割いてしまったのです…ゲームの設計すら始まらないうちから基礎的な要素を構築したこと,それが技術プロトタイプ制作期間を長引かせてしまいました。技術的な課題が山ほどあったからです」とSturr氏は認めた。

 「今は,過去を振り返らず前に進み,『EverQuest』を次世代のゲーマーにも遊んでもらえるような体験にすることに注力しています」と彼女は語った。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら