データドリブンなゲーム開発とは。データ分析の重要性と,具体的な手法などが紹介されたオンラインセミナーをレポート

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 日本オンラインゲーム協会(JOGA)は2022年11月1日,オンラインセミナー「Data Driven Game Development ビッグデータの分析とPDCAサイクルの回し方」を開催した。このセミナーでは,ThinkingDataの白石 陸氏が,データ分析によってユーザーのゲーム内での行動や属性を理解することの重要性や,データ分析の効率と質を上げるためのツールを紹介した。

データドリブンとは

 白石氏は最初に,このセミナーにおける“データドリブン”のうち“データ”を「電子的に利活用できるもの」と定義。すなわち,手で触れることができない情報一般で,かつ利活用できることがデータとする制約条件であるとした。それでは“利活用”とは何を指すのかというと,手に触れられない何かの情報を,きちんと知り,理解して,何かが可能になる段階に到達することを指す。つまり,我々の行動をこうしようと意思決定できるレベルにまで到達することを,利活用といえるとした。

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  白石氏によると,データを利活用する目的は,一般的な企業であれば「価値創造」である。さらに価値創造とは,端的に言って売上を上げるか,コストを下げるかの2パターンであり,それらを実現するためには、大きく2つの方向性があると考えているという。

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 方向性の1つが,「ユーザーごとの施策の最適化」だ。これはパーソナライズやユーザーエンゲージメントの向上などと表現されることもあるが,分かりやすく言えば個別最適化を行うことである。このユーザーにはこれを与えよう,あのユーザーにはあれを与えようといった形で,ユーザーごとに施策を変えるという方向性である。

 より具体的には,ゲームアプリであればプッシュ通知で使い分ける,アプリ内メッセージを利用するといったように,ユーザーそれぞれに向けてカスタマイズしていく施策が紹介された。

 もう1つの方向性は「サービス全体の最適化」で,こちらはユーザー全体を1つのペルソナとして認識し,そのペルソナにとっていいこと──たとえばサービスを強化・改善していく方向性である。 

 より具体的には,ゲームアプリであればキャラクターのデザインやストーリーの展開を変えるといった施策が紹介された。それでは,どうすればうまくデータを利活用できるのか。白石氏は「小さいコストで,機能を上げて,価値を向上させる」とし,より分かりやすく「ツボを押さえる」と表現。逆に何かをうまく利活用できない理由として「対象をよく知らない,分からないといった背景がある」と指摘し,対象をきちん理解することで,うまくツボを押さえつつ満足度を高めることができる──つまり分析が重要になると語った。


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 その一方で,白石氏は理解できないことが昨今増えていることにも言及し,その理由として「グローバル化」「情報化」「可視化」の3つを挙げた。
 グローバル化に関しては,たとえばゲームであれば日本人や日本の文化に親しんでいる人に向けて作ったものが,日本以外の国や地域の人に受けるとは限らない。

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 情報化については,たとえば同じ年齢の男性であっても,生まれてきた環境や接してきた情報によって,考え方などは大きく変わる。昨今は,簡単に大量の情報を得られるため,その変化の幅が以前よりも大きくなっているというわけだ。

 可視化に関しては,たとえば昨今では国民的ヒットとされる歌謡曲がなかなか見られなくなっていることに言及がなされた。「最近流行っている曲は?」という問いかけに対して,回答者によって異なる答えが返ってくることも珍しくない──すなわちマスが減って,ニッチな市場が増えてきており,もはやニッチとは言えないレベルになっていることを白石氏は指摘。したがってゲームを作ったとしても,どれがどういうユーザーが遊んでが使っているのかについては,少々ぼやけてしまうという状況に陥っていると続けた。

 次に白石氏は,“データドリブン”の“ドリブン”を「意思決定の理由」と説明。意思決定の理由は,何かを利活用するときの分析の領域と同様に,物事をきちんと知り,理解することによって形成されると続けた。

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 ここで白石氏は,日本のDXがなかなか進まない理由として,「KKD」があることを紹介。KKDとは,「勘」「経験」「度胸」の頭文字で,何かの事象が発生したときに,長年の勘と経験──自身が体験してきた過去の事例を基準に打開策を見つけ,度胸によってそれを実行に移す手法を指す。この手法には,属人化や経験のない事例に対応できないといった問題が生ずる。

 白石氏は,近年の日本の企業では,20年前の成功事例を外部環境が変わった現在でも続けてしまう傾向がある──つまり,外部環境をきちんと理解することや,外部環境のデータをきちんと取る環境を整えることができていないことを指摘。さらに,そうした状況をデータドリブンに変える必要があると,20年来にわたって指摘されていることに言及した。

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 データドリブンとは,ユーザーや世界の動きと施策に対して論理的な一貫性を作ることを指す。これができるようになると,サービスの迅速な改善やチーム内での言語の共通化,決定プロセスの透明化,そして市場の変化に対する対応力が期待できるようになるという。

 さらに白石氏は,最重要ポイントとして「組織文化・制度」を挙げた。これは,ただデータがあっても多くの人は見ようともしないことが理由で,うまく利活用させるためにはマネージャーが組織文化や制度を作る必要があると説明した。
 また組織文化や制度を作るにあたっては,「公平性」「透明性」「納得感」の3つが必要になることも紹介された。

 以上をまとめて白石氏は,データドリブンを「データを理由に意思決定し価値創造すること」と表現した。


データ分析とは

 データ分析の領域は,データの利活用における知って理解する部分であり,それによって誰かが意思決定をして施策に落とし込んでいく重要な過程でもある。仮にゲームのプロデューサーがデータを持っていて,どんな施策を取ればいいか分からないのであれば,それはデータ分析の領域が抜け落ちているからだと,白石氏は指摘した。

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 白石氏は,データ分析について「ユーザーを多面的に理解する」と表現し,円錐を例に説明。たとえば円錐は真横から見ると二等辺三角形だが,真下から見ると円である。それら2つの視点から見ることによって,初めて本来の姿はこういう形なのだということが理解できるわけだ。

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 白石氏は,同様にありとあらゆる面からそのユーザーを見ることによって,ユーザーも立体的に理解することができるようになるとし,これこそがデータ分析の本質的な意味であると語った。

 たとえば,あるゲームのユーザーAは,データを見るとチュートリアルを終えたことが分かり,また別のデータを見ると1週間のうち5日間ゲームを起動したことが分かる。さらに異なるいくつかのデータを見ることで,「初回起動時にチュートリアルを突破し,その後5日間連続で起動したけれども,ここ数日は起動していない」ということが判明したとする。しかしそこまで理解できても,何かしらの施策に落とし込むのは難しいというのが,白石氏の見解だ。

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 そこで必要となるのが,比較である。たとえば「毎日起動している」という事象に対して,数か月前はどうだったのか,起動はしているけれどもどのくらい課金しているのか,ほかのユーザーはどうなのかといった比較をすることにより,「このユーザーは,平均と比べて高頻度で起動している」「数か月前まではあまり起動していなかったのに,最近は頻度が高くなっている」といった多面的な理解が可能となり,施策に落とし込めるレベルになっていく。

比較には「分析のものさし」が必要とのことで,白石氏はその軸として「時間」「ユーザー」「空間」を挙げた
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 また分析の方向性も紹介された。データ分析は,ビッグデータから主要なKPIを抜き出して行うわけだが,大きく2つの手法があるとのこと。1つは「データ起点」で考えるというもので,膨大なデータを逐一分析して特徴を見つけ出していく。この手法は,これまでにないような示唆を得られる可能性はある一方で,手間がかかるというハードルが高いうえに,実現性が低いとされているそうだ。

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 もう1つの手法が,結果から探る「イシュー起点」だ。これは,定常的に主要KPIをチェックし,それが上がったり下がったりしたときに,その理由を探るというもの。たとえば主要KPIである課金率が下がった理由を探し,ツボを見つけてそこを押さえれば,課金率が上がる可能性が高くなるというわけだ。白石氏はイシュー起点によるデータ分析について,比較的実現可能性が高くまっとうな分析手法であると話していた。

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そのほかデータ分析に必要なものとして,「DRINK」が紹介された
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ThinkingDataが提供するデータ分析ツール「ThinkingAnalytics」

 セミナーの後半では,ThinkingDataが提供するデータ分析ツール「ThinkingAnalytics」と,その特徴が紹介された。

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ThinkingAnalyticsのデモも披露された
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 セミナーの終盤,白石氏はThinkingDataの哲学として「誰でもデータを扱える」「誰でも高度な分析手法が使える」を挙げ,「ThinkingAnalytics」にはその2つが落とし込まれていると説明し,それに共感した800社以上の企業がこのツールを使っていること紹介。

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 また同社はゲームの開発期から運用期までのあらゆるフェーズ,さらにあらゆるゲームジャンルに対して必要と思われるデータ分析のメソッドを蓄積しており,そのうえでデータドリブンにより外部環境の変化に応じたプロダクトの改善を日々行って,顧客のニーズに応えているとのこと。

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 最後に,「ThinkingAnalytics」の強みは,誰もがデータアナリストになって,データを使ったマネジメントや意思決定を行えることであるとまとめていた。

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