【ACADEMY】デモからデビューまで:ゲームジャムのプロジェクトを製品化する

Under the Stairsの創設者Vladimir Bogdanic氏が,ゲームジャムのプロトタイプからEyes in the Darkを開発した経験について語る。

 ゲームジャムへの参加は,デベロッパがプロとしてのスキルを磨くための一般的な方法であり,数時間または数日で作られたこれらのプロジェクトが,本格的なゲームとして大成功を収めることもある。

 Baba is You,Goat Simulator,Celeste,Inscryption,Snake Pass,Donut County,Superhot…… ゲームジャム(内部または外部)から生まれたゲームは枚挙に暇がない。そしてEyes in the Dark: The Curious Case of One Victoria Bloomもその1つだ。

 クロアチアのデベロッパUnder the Stairs のデビュー作であるこの印象的なモノクロのローグライトは,Gearbox Publishing から先月発売された。

【ACADEMY】デモからデビューまで:ゲームジャムのプロジェクトを製品化する


とてもシンプルなプロトタイプでしたが,賞を受賞して,少し勢いがつきました

 Under the Stairsの創設者でありディレクターのVladimir Bogdanic氏は,「ある意味,偶然でした」と微笑む。「ゲーム開発業界に入りたかったのですが,当時はゲーム開発業界についてよく知りませんでした。住んでいる場所の近くにゲームデザイン学校があったので,趣味として,あまり期待せず,技術を磨くために入学したんです。今でもときどき,Web制作の会社をやっていて,それで生活しているのですが,もう少し手を広げて,クリエイティブな仕事をしたいと思うようになったのです」

 「ちょうどゲームデザイン入門の短期コースが終了する頃,ここザグレブでB2Cのイベントがあり,ゲームジャムが開催されたのです。誰でも応募できましたので,受講生数人で『よし,やってみよう,2,3日で何ができるか見てみよう』ということになったのです」

 「そのジャムのメインテーマは Andという言葉でした。我々は白と黒や光と闇というものを考えていました。Light and Darkはゲームのプロトタイプの名前でしたが,あまり深く考えずに作りました。とてもシンプルなプロトタイプだったのですが,そこで賞をいただいて,ちょっとだけ勢いがつきました。これは,『取り組めば必ず報われるものだ!』と思ったものでした」


物事をシンプルに


 物事をシンプルに保つことは,ゲームジャムプロジェクトを成功させるための核心であるとBogdanic氏は語る。しかし,もしあなたが考えているものが完全なゲームであるならば,その柱を確実に翻訳しておく必要がある。

 「超シンプルでなければなりませんが,ユニークである必要もあると思います」と氏は説明する。「自分たちが共鳴できるもの,うまくいけば適切なゲームに拡張できるものを見つけなければなりません」

この基本的なメカニズムで,最初の1時間,2時間,5時間後に面白くなるようなものは何でしょうか?


 「ゲームジャムにはもうあまり参加していませんが,かつての大きなジャムのいくつかは記録しています。やっぱり目にしがちなのは,必ずしも足がつかないようなものが多いですね。本格的な製品として展開することは考えにくいものです。それが,我々の課題でもありました。つまり,この基本的なメカニックで最初の1時間,2時間,3時間,5時間後に面白くなるようなものは何ができるのか,このコンセプトをどのように拡張すれば,どんな価格設定でも通用するようにできるのかといったことです」

 「ギミック的なメカニック」には注意が必要だとBogdanic氏は付け加える。これは,最初は面白く見えても,長時間プレイしているうちに壊れてしまう傾向がある。本格的なプロジェクトに使えるような,十分な肉付けをする必要があるのだ。

Eyes in the Darkは7月14日にSteamでリリースされた
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物事が早く進むことを期待しない


 しかし,最初のアイデアがシンプルで,開発スピードが速かったからといって,プロトタイプの段階を過ぎても,物事が急速に進化することを期待してはいけない。Bogdanic氏の旅が示すように,ゲームジャムのプロジェクトは,必ずしもすぐに完全なゲームになるわけではない。

 「悲しいことに,ゲームジャムをしていた当時は資金があまりありませんでしたので,作業を続けることができず,プロジェクトに戻れるようになるまでに丸1年ほどかかりました」と氏は語る。「元のチームはバラバラになりましたが,ゲームジャムに参加したプログラマの1人は,今も一緒に働いています。我々は皆30代半ばなので,ガレージのような形態ではやっていけないと思いました。ちゃんと給料を払って,自分たちのためになる方法を考えようと思ったんです」

Under the Stairsの創設者Vladimir Bogdanic氏
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 ゲーム開発はビジネスであり,とくに開発シーンに不慣れな場合は,すでに全機能を有する試作版を持っているという理由だけでそれを迅速に開発できると想像するのは誤解である。

 「私は,私を支えてくれていたWeb開発プロジェクトからの資金を使いました」とBogdanic氏は続ける。「その時点では,数年間,かなり好調でしたので,数人を雇って,きちんとした仕事を始める余裕があったのです。すぐに気づいたのは,ゲーム開発のビジネスモデル全体が,当時私が慣れ親しんでいたものとはかなり異なるということでした。当時のビジネスは,概要説明を受けて,何か作業をし,プロジェクトを作って,その対価としてお金をもらって,次に進むという感じでした。しかし,今回のプロジェクトは,まさに大金が動くようなものだったのです」

 「ですから,最初のころの最大の課題は,いかにしてバーンレートを最小に抑えつつ,ピッチデッキがどのようなものか理解するための時間を確保するか,ということでした。つまり,投資先はどこなのか,パブリッシャは何を求めているのか,ゲームに磨きをかけるにはどれくらいのレベルが必要なのか。この業界の仕組みを理解するのにとくに苦労したのが,最初の2,3年でした。私は,ビジネスを運営し,支払いを行った経験がありますが,これは非常に異なるタイプの仕事だったのです」

私はビジネスを運営し,請求書を支払う経験がありますが,これは非常に,非常に異なるタイプの仕事だったのです

 Eyes in the Darkとなる最初のプロトタイプは,2014年のゲームジャムで開発された。チームが再びそれに取り組むことができたのは2016年,そしてスタジオがフルタイムで取り組むのに十分な資金と投資を得たのは2018年になってからだった。そして,パブリッシャにゲームを売り込み始め,最終的にGearbox Publishingを見つけるまで,さらに数年かかっている。

 最初のアイデアを数時間で開発したからといって,製品版をサクサク進める必要はなく,Bogdanic氏のサクサクに対するスタンスは非常に明確だ。

 「このプロジェクトでは,1人もクランチしていないことを誇りに思います。長い目で見れば,それは必ずマイナスになりますので。我々は,自分たちのペースを守るように努めました。もし,実現不可能なことがあれば,プロジェクトから削除しました」

 「2色である以上,このゲームを純粋に美的な観点と技術的な観点から作ることの難しさを考えると,読みやすさとアクセシビリティを確保するために,解決すべき大きな問題がたくさんありました。このような問題を解決するためには,週末を返上して,ストレスを感じながら作業していたのでは,どうにもなりません。リラックスして仕事をすれば,自然と解決策も見えてきますし,問題解決のためのクリエイティビティも高まるので,すべてがうまくいくのです」


1つのゲームジャムに過度なプレッシャーを与えないこと


 ゲームジャムは,次の大作を探すためにアイデアを出すのに最適な形式だが,必ずしも「これが我々の一大ブレイクスループロジェクトでなければならない」と考えてコンテストに参加しないようにしよう。自然な流れに任せて,1つのカゴに全部の卵を入れないようにしよう。

こんな小さなゲームジャムが,こんな大きなものになるとは思ってもみませんでした

 「最初に言っておくと,こんな小さなゲームジャムがここまで大きなものになるとは思ってもいませんでした」とBogdanic氏は語る。「また,最初のゲームであるにもかかわらず,プレイしている人たちが本当に楽しんでくれていることに,とても満足しています。これは,我々にとって大きな励みになります。多くの人がスタジオを立ち上げて最初のゲームを成功させ,『よし,これを作ったぞ,ベストではないけど,次に進もう』と思えることを望んでいると思います」

 「ですから,我々にとっては,評判が良いというのは,ちょっとクレイジーなことなのです。しかし,それは心強いことでもあります。自分たちの評判を高め,最初のゲームを誇れるものにすることは,私にとって常に第一の目標でした。みんながこのゲームを気に入ってくれているようで,本当に嬉しく思います」


プロジェクトを発表する


 プロジェクトがもう少し充実してきたら,イベントなどで発表してみよう。ただし,投資家やパブリッシャにアプローチする前に,必要な要素がすべて揃っていることを確認すること。早くからプロジェクトを披露したくなるかもしれないが,それには手順がある。定期的に開催されるイベントは,ゲーム本体であれ,プレゼン資料であれ,手持ちのものをテストする良い機会になる。

 「あれは,我々にとって,とても勉強になる経験でした」とBogdanic氏は語る。「パブリッシャや投資家が何を期待しているのか,どの程度の情報量と完成度を求めているのか,我々にはよく分からなかったのです。しかし,我々はクロアチア出身でしたので,Reboot Develop.の存在が大きかったと思います。毎年,投資家やパブリッシャに作品を披露して,彼らがどう思うかを知ることができましたので,それが我々の成功に大いに役立ちました」

コアメカニクスに集中すること。それがうまくいって面白ければ,制作は二の次になります

 Under the Stairsチームは初期にピッチデッキを作成し,ゲームプレイ動画からトレイラーのモックアップを作成した。「このゲームが何であるかをどのように伝えることができるか,感触をつかむためです」とBogdanic氏は語る。

 「そして,その情報をもとに投資先を探していたのです」と氏は続ける。「我々は,彼らが要求しているすべての情報を持っていないことに気づきました。彼らは,予算,範囲,制作計画など,さまざまなことを要求してくるのです。毎年,前年度の内容をもとに,ピッチデッキを改良していました。我々は,基本的にゲームをあきらめず,反復し続けたのです」

 「本当にゆっくりとしたプロセスでしたが,送られてくるアドバイスはほとんどすべて取り入れました。そして,それを次のピッチングに活かしていきました。最終的には,我々のことを真剣に見てくれる人が出てくるほど,真剣なものになりました。

Eyes in the Darkとなった最初のゲームジャムプロジェクトは,2014年に開発された
【ACADEMY】デモからデビューまで:ゲームジャムのプロジェクトを製品化する


紙に書き出すこと,そして現実的になること


 過去を振り返って,もし,もう一度やり直すことができたなら,違うことをしただろうと思うこと,そしてそのプロセスから学んだことがあるとBogdanic氏は笑う。「ナラティブデザインというものがあるんだ!」

 「そういえば,仕事の範囲を把握できていないことがたくさんありましたね。ですから,もし過去に戻れるなら,もっといろいろなことを紙に書き出すように自分に言うでしょう」

「このゲームの制作プロセスは,初期に想像していたよりもずっと反復的でした。本格的なゲームデザインのドキュメントがあったわけでもなく,制作規模から見て,長期的に何をするのかがよく分からなかったのです。それが,多くの投資家やパブリッシャからのリジェクトに反映されたのだと思います」

 「しかし,私が言いたいのは,できる限り範囲を狭め,コアメカニクスに集中し,ゲームのプリプロダクションの部分を可能な限り完成させることに集中しなさい,ということです。それがうまくいって,面白ければ,制作は二の次になります」


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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら