「3D&バーチャルリアリティ展」で空中立体結像装置や視線探査メガネの可能性を探る

「3D&バーチャルリアリティ展」で空中立体結像装置や視線探査メガネの可能性を探る
 2022年3月16日,東京ビッグサイトで「3D&バーチャルリアリティ展」が開催された。会期は18日までで一般の人の入場はできないイベントだが,バーチャルリアリティ展と書かれたバナーの下を進むも,3Dプリンタが多い……。

 3Dプリンタの動向もしばらく追っていなかったのだが,近頃は金属は当たり前で,タービンブレードやエキゾーストチャンバーなどの1点モノでの用例など,かなり具体的に活用されている事例が示されていた。
 いつのまにやら(筆者が知らなかっただけだが),最近の3Dプリンタではカーボンファイバーも出力できるようになっている。おお,アラミド繊維もグラフファイバーもいけますか。なにをどうすればそんなことができるのかと見てみると,プリンタにはカーボン繊維とプラスチックフィラメントの2つのリールがあり,プラスチックを塗った上にカーボン線をぐるぐると押し付けていくという仕様だった。敷き終わったらカッターで切って,間をプラで埋めていく。つまり,本当にカーボンファイバーだった。
 これにより,出来上がったモノの強度はアルミに迫るとのことで,非常に夢のある製品であるように思われた。工作例の断面図を見せてもらうと,外側5mmくらいをカーボンで仕上げてあり,内側はプラだけの格子リブ仕上げになっていた。使い分けもできるわけだ。

 余談は置いておいて,3D&バーチャルリアリティ展の展示だが,大方の予想どおり,非常に少なかった。VRコンテンツ制作やVR/XRでの業務訓練などが大半であり,正直ちょっと困った状況だ。そんな中で注目のブースを3つ紹介したい。


空中立体結像装置

「3D&バーチャルリアリティ展」で空中立体結像装置や視線探査メガネの可能性を探る
 Spacialが出展していたのはアスカネットと共同開発している「空中立体結像装置」というデバイスだ。
 名前だけでだいたい分かるものの,写真ではなんなのか分かりにくいとは思うが,これは特殊なディスプレイから投影された映像を空中に投影する表示デバイスである。裸眼立体視に自信のある人は,VR180のサイドバイサイド画像を掲載しておくので試してみてほしい。VRデバイスをお持ちの方は,YouTubeにVR180映像をアップしてあるので,YouTube VRで確認してみよう。

「3D&バーチャルリアリティ展」で空中立体結像装置や視線探査メガネの可能性を探る


 空間投影には同社がアスカネットが開発しているというハーフミラーぽい特殊なパネルが使用されている。
 アスカネットのAIプレートに関しては姉妹サイトである4Gamer.netに小西氏の書いた取材記事があるので,参考にしていただきたい。ちなみに,この技術が当時いくつかの展示会に出展されていたのに小西氏の記事しかない(私の記事がない)のは,同技術のことをよく理解していなかったからだ。「浮き上がって見える」というウリだったのだが,当時はあまりそう見えなかった。この手のモノでは単純なハーフミラーを使った空中映像表示もあるのだが(これはこれで侮れない),ハーフミラーではミラーの奥側に結像するものをAIプレートは手前側に結像させることができる。今回のモノはちゃんと浮き上がって見えた。話を聞いても初期のものとは全然別モノレベルで改善が行われているとのことだった。

 今回の展示では,多視点に対応しており,正真正銘立体映像の空間投影が行われていた。視野角は40度と狭かったのであまり奥行きを感じることはできなかったのだが,それでも左右に位置を変えると,映像の見える角度も変わっていく。最大120度まで視野角を広げることも可能だという。
 現在,等身大表示を目指しているとのことだが,16K相当のディスプレイが必要とのことで1億円くらいかかるというか,そんなプロジェクタはまだ存在しないわけで,なかなか難しそうではあった。操作者の手の動きを検出したり,超音波触覚デバイスを組み合わせることも検討されているという。
 単純に大きくすると凄く高価になるという難点はあるが,等身大までいかなくても複数人が裸眼で見える立体映像,さらにインタラクティブにもできるとなれば,その可能性は計り知れない。

 バーチャルな歌姫のリアルコンサートなどで使えるかなと考えたが,さすがに大会場では視差数が足りないので立体表示までは無理だろう。しかし,遠い席だったら細部の立体感とかを両眼の視差で感じることは元々無理なのだと考えれば,少ない視差数でも案外問題ない気もしてくる。夢は広がる。


Mreal S1


「3D&バーチャルリアリティ展」で空中立体結像装置や視線探査メガネの可能性を探る
 キヤノンITソリューションズでは,2021年に発売されたMreal S1を使ったデモが行われていた。Mreal S1は,光軸一致処理でプリズムなどを使わず直線配置できるようになり,小型化が行われている。ヘッドセットについた2つの映像カメラで左右の目の映像を,2つの深度カメラで周りの状況を撮影し,左右の目の映像に対してCG映像をリアルタイム合成していくシステムだ。ヘッドセットには頭に装着するタイプと手持ちのものがあり,どちらもPCとケーブルで接続して利用する。

手持ちタイプのMreal S1。外側が深度カメラ,内側が映像カメラの4眼式だ。裏側では,左右の映像表示部を動かして瞳孔間距離を調整できる
「3D&バーチャルリアリティ展」で空中立体結像装置や視線探査メガネの可能性を探る 「3D&バーチャルリアリティ展」で空中立体結像装置や視線探査メガネの可能性を探る

 MRなので,実際の風景の中にCGを合成し,さまざまな処理が行える。自動車のデザインを実寸大で目の前に表示し,ボディ色を変更して確認するといったことも簡単にできる。それを複数人で同時にというのも可能だ。何気に手持ち式というのが,位置合わせなどの手間がほぼなくて気軽かつ快適だった。

「3D&バーチャルリアリティ展」で空中立体結像装置や視線探査メガネの可能性を探る
 デモでは工場などでの機器の操作性を確認するシミュレーションなどが行われていた。操作には自分の手を使うのだが,風景映像にCGを上書きする関係で,手を手前に出すと肌色を認識して手の映像を抜いて表示している。手自体は実写なので非常にリアルだ。手や顔以外につながった部分も抜いて表示されるようだが,たとえば,人物が画面に入ると顔から肩の下あたりまでは抜いて表示され,そこから下はすっと消えているような処理になっていた。

 ただよく考えてみると,それはシースルー方式ではそうやるしかないものの,フルデジタル方式であれば風景ごとZバッファに入れてCGをレンダリングするなどしたほうが単純で応用が利くような気もする。Mrealシリーズのエントリーモデルということで,処理内容自体は,シースルー式に合わせてということなのだろう。

 映像とのインタラクトは,指先などを該当部に当てて,ヘッドセット側にある物理ボタンを押すことで行われていた。このあたりはソフトの作り方にもよるのだろうが。

デモで使われていたのはHPのZ4 Workstation
「3D&バーチャルリアリティ展」で空中立体結像装置や視線探査メガネの可能性を探る
 気になったのは,映像の遅延だ。頭の動きに対する追従が1秒ほど遅れるのだ。デモはUnityで作られているとのことだったので,デザイン用のデモなどがグラフィックスクオリティ側に思いっきり振られているためかと聞いてみたのだが,カメラからの位置検出などの処理が重くて,現状のPCスペックでは遅延が出るのだという。以前のMrealのデモでそう違和感はなかった気がするのだが(シースルーだし遅延は分かりやすい)。ちょっと謎が残った。



Tobiiの視線探査メガネ


「3D&バーチャルリアリティ展」で空中立体結像装置や視線探査メガネの可能性を探る
 Tobiiブースでは,Tobii Proグラス3が展示されていた。このメガネをかけて作業すると,作業者の見ている映像と,どこを見ているかの情報がデバイスに記録できるという製品だ。今後のVRデバイスなどでアイトラッキングが一般化してくるのは確実視されており,アイトラッキングのトップ企業の動向は気になる人もいるだろう。

 さて,同社のグラス2などの製品を知っている人は,レンズ面に引かれた短い線に驚くかもしれない。


「3D&バーチャルリアリティ展」で空中立体結像装置や視線探査メガネの可能性を探る

 まず,下側にある左右に2つずつある少し大きめの点は,実はカメラなのだという。2つずつのカメラを使って瞳の動きを検出している。それ以外の短い線の先端には赤外線LEDが搭載されている。これを目に照射して,その反射を先ほどのカメラで拾うわけだ。超小型なので驚いてしまうが,レンズを小さくしてフレームに収めるような仕上げよりも広い視界を選択したのだろう。全体の見た目は,ほぼ普通の眼鏡である(レンズの線さえ除けば)。
 映像とデータはケーブルで接続された記録デバイスに送られ,そこからさらにWi-Fiで飛ばしてリアルタイムモニタリングにも対応している。

「3D&バーチャルリアリティ展」で空中立体結像装置や視線探査メガネの可能性を探る
 プロゲーマーの視線の動きをアイトラッキング内蔵PCで追うような試みも行われていたりするが,こういったデバイスであれば作業を問わず,場所も問わず利用できる。なにより,あからさまにちょっと変わった形をしていた前世代などと比べると,遥かに「普通」であるので,日常生活での視線の動きなどを追うようなこともできそうだ。

「3D&バーチャルリアリティ展」公式サイト