モリカトロン,AIを利用した5つのゲーム開発ソリューションを発表
2021年6月8日,モリカトロンは,AIを使った新しいゲーム開発支援サービス群を発表した。ウェビナーで紹介された新サービスの概要について紹介してみたい。
同社では依頼されたゲームやアプリに合わせたAIの開発をメインにしているが,すぐに使える汎用的なツールも作っており,今回はそれがある程度まとまったので発表ということになったようだ。
発表された5つのツール(ソリューション)については,同社チーフエンジニアの松原卓二氏から紹介が行われた。
●AIせりふサポート
最初の製品は「AIせりふサポート」だ。昨今のゲームには非常にたくさんのキャラクターが登場するものがあるわけで,多くの場合,極端にセリフでキャラ付けがされていたりする。そんなゲームでセリフとキャラを間違えてしまったりすると,これはもう致命的におかしなことにもなりかねない。のじゃババァが急に語尾に「にゃん」とか付けていたら誰だって何事かと思うだろう。おそらくは,ひたすら目視チェックを行っているのだろうが,まあ校正をやったことのある身からすれば,それでも量が多いと見逃しが出てくるのは,なかなか避けがたいものである。かくして何重にもチェックが行われることになるのだろう。
さて,AIせりふサポートは,文字どおりゲーム内で使われる大量のセリフの品質管理をサポートするもので,キャラクターごとの口調がおかしくないかなどを自動でチェックしてくれる。僕,私といった一人称の使い方や特定のキャラクターに対する呼称,語尾といった特徴を過去のセリフデータから抽出しておき,新しく入力されたセリフがそのキャラクターらしいかどうかが判断される。そのキャラらしさを数値化したものが表示され,だいたい60%くらい一致すると同一キャラクターのセリフだとみなせるようだ。ほかのキャラクターと間違えていそうな場合は,その候補も表示されるようになっている。
デモでは,以下のような設定のキャラクターに対して,
このようなセリフを入れてチェックが行われた。
結果は10.8%と非常に低いものとなった。口調データベースを作成するためのデータは,キャラとセリフがペアになった非常に簡単なものなので,用意することは難しくないだろう。
また,補助的な機能として,NGワードのチェックや,表示欄に収まるかといった字数チェックを行うことも可能だ。ゲーム特有な固有名詞などは辞書登録しておけば,誤入力があったと疑われる場合に指摘してくれるようにもなっている。
分析に必要なセリフデータは多ければ多いほどよいとのことだが,数百ずつもあれば十分な口調データを抽出できるだろうとのことだった。
同社では,どうせならセリフ自体もAIで自動生成できないかとさらなる研究を進めているという。
●AI会話ジェネレータ―
「AI会話ジェネレータ―」はゲーム内で使えるチャットボットだ。たとえばNPCとの会話をより柔軟なものにできる。具体的に言うと,雑談ができるのだ。
「ここははじまりのむらだよ」以外にしゃべらないNPCから始まって,ゲームの進化とともにキャラクターのセリフも多様化してきてはいるのだが,多くはまだ選択肢への応答の域を出ていない。「会話」という感じではない。これをAIにより,人間との会話のようなものを実現できるのか? それに挑戦したのがこのツールだ。
特定のジャンルの専門的な会話をするチャットボットよりも雑談をするチャットボットは難度が高いと森川氏は語っていたが,そういうものをゲーム内でも使えるようにできるソリューションだ。GPT-2を使用とのことなので,Microsoftの「りんな」系のチャットボットだと思っておけばいいだろう。基礎データとして1億5000万ペアの会話データが用意されており,特定のキャラの口調をまねることもできる。そのための会話データは200〜300もあれば,その会話主の個性を持ったチャットボットを作れるとのことだった。
サーバーが必須なのでどうしてもオンラインにはなってしまうのだが,これによってNPCとの会話を劇的に自然なものにできる可能性がある。昨今ではテキストを声優の声で再生するようなソリューションもあるので,そういったものと組み合わせれば,アドリブのセリフも音声付きで出せるようになる可能性もあるだろう。
また,APIの形でも用意されているので,LineやSlack用にすることも可能とのこと。無料ライセンスも用意されているので,興味を持った人は試してみるのもいいだろう。
●AIパズルジェネレーター
AIパズルジェネレーターは,よくあるタイプの3マッチパズル(3個揃えて消す)のステージを自動生成してくれるというツールである。
盤面の大きさや難度,使用するブロックの数や障害物,クリア条件など多くの要素を指定できるようになっており,逆に言えば,これらを指定するだけで簡単に3マッチパズルのステージが生成できるのだ。生成されたデータはAIでの自動プレイで解けることが確認されるので,ステージ作成とチェックの労力は大幅に削減できる。
標準状態では,一般的な3マッチパズルのルールとエンジンが組み込まれているが,この部分は相談してもらえれば別の種類のパズルにすることも可能だそうだ。もちろん,大幅に異なるルールのパズルだとそれなりに追加開発コストが発生するだろうが,できる限り対応していく方針のようだ。
なお,このツールは森川氏から自動で新しいパズルゲームを作れないかと振られたものを,現在できる範囲でまとめたものだそうで,将来的にはパズルのルールから自動生成したり,難度のみならずステージの面白さといったものも調整できるようにしたいとのことだった。これまでにないパズルを作りたい人は問い合わせてみるといいだろう。
●AIアニメ制作サポート
AIアニメ制作サポートは,直接ゲーム開発用というわけではないが,CGで制作したアニメーションに,リミテッドアニメーションならではのキレを加えるのにAIを利用している。昨今ではテレビアニメでもCGが大幅に取り入れられていることが多いのだが,CGシーンだけ妙に滑らかで地のアニメーションと合っていなかったり,無駄に回り込みを多用したりと非常に下手な運用が目立つように思われる。CG部分を手書きアニメと同じフレームレートにコマ打ちすることで不自然なヌルヌルさは解消されるのだが,機械的にコマ打ちをすると動きのダイナミズムが損なわれることがある。それを解消してくれるのがこのツールだ。
具体的には,動きのキーとなるフレームを残すようにしてうまいこと間引いてくれるもののようだ。なお,手塚治虫氏が始めたころは,コマ落ちとかコマ落としと呼ばれていたと思うのだが,最近はコマ打ちというらしい。こういったものはCGでも動きにキレを出すテクニック的に扱われることもあるが,手編集でやっていたものが自動化できるのだ。公式サイトに比較ムービーも用意されているので見比べてみよう。
●COM DK
「COM DK」はAIと直接関係のあるものではないが,ゲームプレイの自動化ツールのための土台となる部分をまとめたものだ。元々は同社がAIでの自動プレイを行う際に作ったもので,それが手軽に使えるようにライブラリ化されたのだそうだ。
平たく言えば,これはコンピュータプレイヤーにゲームをプレイさせるための仕組みであり,ゲームからの各種ゲーム情報を自動プレイプログラムに与え,自動プレイプログラムからのパッド情報などをゲームに伝えるインタフェースである。使用するには,ゲーム側にプラグインを入れる必要がある。制御側は自由に制作できるようで,発表会ではPythonを使った例が紹介されていたが,JavaScriptでもCでもなんでも使えるようだ。なお,レースゲームでコースに沿って走っていく自動プレイスクリプトの場合,Pythonで100行くらいでできたそうだ。
自動プレイの情報は自在に取り出せるので,テストプレイプログラムも自在に書ける。長時間テスト用のものから,デバッグ用に一般的ではない操作を繰り返すものなど,用途によって自由に書けばよい。すでに同様なシステムを導入しているところもあるのだろうが,自動プレイを未導入の企業にはありがたい製品となりそうだ。さらに,導入しても使いこなすのが……というところには,モリカトロンの関連企業であるAIQVE ONEでテスト運用までやってくれるとのことだ。
モリカトロンは,日本初のAI特化ゲームツール企業であり,AIを前面に出したゲーム開発のサポートのほかに,このようなツールでの省力化なども手掛けている。それぞれは一定のパッケージ化された製品のようだが,相談次第で細かいカスタマイズもできるようではあった。また研究パートナーなども求めているようなので,今回紹介したツールに興味を持った人は問い合わせてみるといいだろう。
同社では依頼されたゲームやアプリに合わせたAIの開発をメインにしているが,すぐに使える汎用的なツールも作っており,今回はそれがある程度まとまったので発表ということになったようだ。
発表された5つのツール(ソリューション)については,同社チーフエンジニアの松原卓二氏から紹介が行われた。
●AIせりふサポート
最初の製品は「AIせりふサポート」だ。昨今のゲームには非常にたくさんのキャラクターが登場するものがあるわけで,多くの場合,極端にセリフでキャラ付けがされていたりする。そんなゲームでセリフとキャラを間違えてしまったりすると,これはもう致命的におかしなことにもなりかねない。のじゃババァが急に語尾に「にゃん」とか付けていたら誰だって何事かと思うだろう。おそらくは,ひたすら目視チェックを行っているのだろうが,まあ校正をやったことのある身からすれば,それでも量が多いと見逃しが出てくるのは,なかなか避けがたいものである。かくして何重にもチェックが行われることになるのだろう。
さて,AIせりふサポートは,文字どおりゲーム内で使われる大量のセリフの品質管理をサポートするもので,キャラクターごとの口調がおかしくないかなどを自動でチェックしてくれる。僕,私といった一人称の使い方や特定のキャラクターに対する呼称,語尾といった特徴を過去のセリフデータから抽出しておき,新しく入力されたセリフがそのキャラクターらしいかどうかが判断される。そのキャラらしさを数値化したものが表示され,だいたい60%くらい一致すると同一キャラクターのセリフだとみなせるようだ。ほかのキャラクターと間違えていそうな場合は,その候補も表示されるようになっている。
デモでは,以下のような設定のキャラクターに対して,
このようなセリフを入れてチェックが行われた。
結果は10.8%と非常に低いものとなった。口調データベースを作成するためのデータは,キャラとセリフがペアになった非常に簡単なものなので,用意することは難しくないだろう。
また,補助的な機能として,NGワードのチェックや,表示欄に収まるかといった字数チェックを行うことも可能だ。ゲーム特有な固有名詞などは辞書登録しておけば,誤入力があったと疑われる場合に指摘してくれるようにもなっている。
分析に必要なセリフデータは多ければ多いほどよいとのことだが,数百ずつもあれば十分な口調データを抽出できるだろうとのことだった。
同社では,どうせならセリフ自体もAIで自動生成できないかとさらなる研究を進めているという。
●AI会話ジェネレータ―
「AI会話ジェネレータ―」はゲーム内で使えるチャットボットだ。たとえばNPCとの会話をより柔軟なものにできる。具体的に言うと,雑談ができるのだ。
「ここははじまりのむらだよ」以外にしゃべらないNPCから始まって,ゲームの進化とともにキャラクターのセリフも多様化してきてはいるのだが,多くはまだ選択肢への応答の域を出ていない。「会話」という感じではない。これをAIにより,人間との会話のようなものを実現できるのか? それに挑戦したのがこのツールだ。
特定のジャンルの専門的な会話をするチャットボットよりも雑談をするチャットボットは難度が高いと森川氏は語っていたが,そういうものをゲーム内でも使えるようにできるソリューションだ。GPT-2を使用とのことなので,Microsoftの「りんな」系のチャットボットだと思っておけばいいだろう。基礎データとして1億5000万ペアの会話データが用意されており,特定のキャラの口調をまねることもできる。そのための会話データは200〜300もあれば,その会話主の個性を持ったチャットボットを作れるとのことだった。
サーバーが必須なのでどうしてもオンラインにはなってしまうのだが,これによってNPCとの会話を劇的に自然なものにできる可能性がある。昨今ではテキストを声優の声で再生するようなソリューションもあるので,そういったものと組み合わせれば,アドリブのセリフも音声付きで出せるようになる可能性もあるだろう。
また,APIの形でも用意されているので,LineやSlack用にすることも可能とのこと。無料ライセンスも用意されているので,興味を持った人は試してみるのもいいだろう。
●AIパズルジェネレーター
AIパズルジェネレーターは,よくあるタイプの3マッチパズル(3個揃えて消す)のステージを自動生成してくれるというツールである。
盤面の大きさや難度,使用するブロックの数や障害物,クリア条件など多くの要素を指定できるようになっており,逆に言えば,これらを指定するだけで簡単に3マッチパズルのステージが生成できるのだ。生成されたデータはAIでの自動プレイで解けることが確認されるので,ステージ作成とチェックの労力は大幅に削減できる。
標準状態では,一般的な3マッチパズルのルールとエンジンが組み込まれているが,この部分は相談してもらえれば別の種類のパズルにすることも可能だそうだ。もちろん,大幅に異なるルールのパズルだとそれなりに追加開発コストが発生するだろうが,できる限り対応していく方針のようだ。
なお,このツールは森川氏から自動で新しいパズルゲームを作れないかと振られたものを,現在できる範囲でまとめたものだそうで,将来的にはパズルのルールから自動生成したり,難度のみならずステージの面白さといったものも調整できるようにしたいとのことだった。これまでにないパズルを作りたい人は問い合わせてみるといいだろう。
●AIアニメ制作サポート
AIアニメ制作サポートは,直接ゲーム開発用というわけではないが,CGで制作したアニメーションに,リミテッドアニメーションならではのキレを加えるのにAIを利用している。昨今ではテレビアニメでもCGが大幅に取り入れられていることが多いのだが,CGシーンだけ妙に滑らかで地のアニメーションと合っていなかったり,無駄に回り込みを多用したりと非常に下手な運用が目立つように思われる。CG部分を手書きアニメと同じフレームレートにコマ打ちすることで不自然なヌルヌルさは解消されるのだが,機械的にコマ打ちをすると動きのダイナミズムが損なわれることがある。それを解消してくれるのがこのツールだ。
具体的には,動きのキーとなるフレームを残すようにしてうまいこと間引いてくれるもののようだ。なお,手塚治虫氏が始めたころは,コマ落ちとかコマ落としと呼ばれていたと思うのだが,最近はコマ打ちというらしい。こういったものはCGでも動きにキレを出すテクニック的に扱われることもあるが,手編集でやっていたものが自動化できるのだ。公式サイトに比較ムービーも用意されているので見比べてみよう。
●COM DK
「COM DK」はAIと直接関係のあるものではないが,ゲームプレイの自動化ツールのための土台となる部分をまとめたものだ。元々は同社がAIでの自動プレイを行う際に作ったもので,それが手軽に使えるようにライブラリ化されたのだそうだ。
平たく言えば,これはコンピュータプレイヤーにゲームをプレイさせるための仕組みであり,ゲームからの各種ゲーム情報を自動プレイプログラムに与え,自動プレイプログラムからのパッド情報などをゲームに伝えるインタフェースである。使用するには,ゲーム側にプラグインを入れる必要がある。制御側は自由に制作できるようで,発表会ではPythonを使った例が紹介されていたが,JavaScriptでもCでもなんでも使えるようだ。なお,レースゲームでコースに沿って走っていく自動プレイスクリプトの場合,Pythonで100行くらいでできたそうだ。
自動プレイの情報は自在に取り出せるので,テストプレイプログラムも自在に書ける。長時間テスト用のものから,デバッグ用に一般的ではない操作を繰り返すものなど,用途によって自由に書けばよい。すでに同様なシステムを導入しているところもあるのだろうが,自動プレイを未導入の企業にはありがたい製品となりそうだ。さらに,導入しても使いこなすのが……というところには,モリカトロンの関連企業であるAIQVE ONEでテスト運用までやってくれるとのことだ。
モリカトロンは,日本初のAI特化ゲームツール企業であり,AIを前面に出したゲーム開発のサポートのほかに,このようなツールでの省力化なども手掛けている。それぞれは一定のパッケージ化された製品のようだが,相談次第で細かいカスタマイズもできるようではあった。また研究パートナーなども求めているようなので,今回紹介したツールに興味を持った人は問い合わせてみるといいだろう。