高エンゲージメントな広告クリエイティブを作成する2つのプロセスと5つの戦略

 本連載では,モバイルゲームの成功に欠かせない広告のクリエイティブについて,さまざまな角度から考察していきます。第1回第2回では,「プレイアブル広告」と「動画広告」において,広告効果を高めるクリエイティブを制作する上で重要なポイントについて解説しました。第3回では,広告制作の「プロセス」にフォーカスし,スピードが重視されるモバイルアプリ業界において最適な考え方や,それを実行するための戦略方法について紹介します。


継続的な「アイディエーション(発想)」と「テスト分析」


 モバイルアプリ業界において,広告はユーザーをアプリのダウンロードへ誘導する重要な役割を担っています。広告のクリエイティブを改善することは,インストール率の向上やユーザー獲得に直結すると言っても過言ではありません。効果的な広告を制作するためのプロセスは,実はとてもシンプルです。アイディエーションとテストによる分析を繰り返し行いながら,一番効果の高い広告を追求していきます。ここで重要となるのは,データ分析に基づいた改善をいかに短いスパンで実行できるかということです。このような反復プロセスを開発現場では「イテレーション」と呼びます。

 最初のステップ「アイディエーション」では,広告に取り入れたいアイデアを書き出していきます。ここでは,アプリの特徴的,あるいは一押しの機能をどのようにアピールできるかについて考えましょう。ユーザーの視点に立ち,ユーザー体験の向上に繋がるようなクリエイティブを意識すると良いでしょう。具体的なアイデア例については,こちらを参照ください。

 次に,アイディエーションをもとにしたクリエイティブを完成させ,「テスト分析」を行います。ここでは,最低2種類のクリエイティブを比較するA/Bテストを実施します。クリエイティブのパターンをデータで分析するために,1つ1つの要素に切り分けてテストを行います。具体的には,インストール数やCTR(クリック率),CPM(インプレッション単価)の項目ごとに分析情報を収集して,パフォーマンスの向上または低下に影響している要素を特定します。

 テストする要素はクリエイティブやUI以外にも,アプリアイコン,スクリーンショット,アプリストア内の説明文などがあります。

 たとえば,App Storeで人気のパズルゲームで,広告の背景の色をいくつか試してみたところ,勝利したときに表示される色を追加することによってリテンション率が6%上昇したという結果が出ました。6%は一見すると少なく感じるかもしれませんですが,これが何千,何百万ものインストール数に加算されると大きな利益になります。
 このように,A/Bテストの結果に基づいて,広告に使用するクリエイティブを選定していきましょう。

 アイデアを書き出し,テスト分析により効果を高めていくというステップ自体は,モバイルアプリの広告制作に限らず,モバイルゲームやソフトウェアの開発等でもよく見られるプロセスですが,この手法に慣れていない方にとっては,最適な広告をリリースする前にテストを実施することに抵抗を覚えるかもしれません。しかし,トレンドの変化のスピードが速いモバイルアプリ業界においては,ビジネス上の重要な意思決定を行うためにも,早い段階で失敗を経験し,テストによる改善を継続することのほうが成功への最短距離に近づきます。

高エンゲージメントな広告クリエイティブを作成する2つのプロセスと5つの戦略

 続いて広告のクリエイティブを制作するプロセスの中で,押さえるべき戦略について紹介します。

●成功を測るためのKPIを設定する
 広告のクリエイティブを制作するうえで,KPIの設定は非常に重要となります。多くのチームはコンセプト作りから始めてしまいがちですが,最初の段階でビジネスチームと一緒にクリエイティブの価値設定に時間をかけることで,よりスムーズに成功へ近づくことができます。KPIを目的として,新規ユーザー獲得に置くのか,それとも収益向上に置くかによって制作の進め方が変わってきます。ビジネスプランに沿ったKPIによるクリエイティブの制作ができなければ,せっかくのリソースと時間が無駄になってしまうため,このポイントは留意しておきましょう。

●課題の把握とリサーチ
 こちらも1つめと同様に制作前の準備作業として,どのような課題が起こりうるのか想定することが重要です。広告のクリエイティブでどのような課題を解決する必要があるのか,またどのようなクリエイティブが世間で受け入れられているのかなどをリサーチし,知識を高めましょう。チームの一人一人がマーケターになるつもりで制作に取り組む姿勢が大切です。また,クリエイティブの改善に必要なテストをどう実行すべきかなど,さまざまな視点から考えるように意識しましょう。

●テストのベースプランを立てる
 クリエイティブのテストを実行する前に,テストで測りたい項目について,ユーザー獲得チーム,クリエイティブチームなど,各チームの意向を理解しておきましょう。これは完璧である必要はまったくなく,ベースとなる項目に焦点を当てて準備することが重要です。たとえば,プレイアブル広告で複数のストーリーボードがある場合でも,テスト本番で測りたい項目について共通の理解を得られていれば,その結果に基づいてどう対応すべきか容易に判断することができます。

●テストの結果をすべて記録しておく
 実際にテストを行う際には,失敗から学ぶためにすべて記録しておくこともポイントとなります。失敗を早期に経験しておくことが大事ですが,成功するためにはその失敗から学ぶことが何よりも大切です。必要なだけ,動画またはプレイアブル広告を試します。100回テストしてみてもいいでしょう。テストの回数を重ねるたびに,結果の記録を残しておくことで,あとで振り返ることができます。一番最初に行ったテストを上回る結果が出せなかったとしても,すべてのオプションを試したことで自信を持つことができます。A/Bテストを何度も繰り返し,データから決断して先に進みましょう。そうすることで,テストを繰り返し改善していくという好循環を生み出すことができます。

●広い視野を持って取り組む
 毎日のようにクリエイティブの作業に没頭していると,孤立してしまい豊かな創造力が発揮できなくなってしまうこともあります。これを改善するには,チームのみんなとブレインストーミングすることが効果的です。チームで意見を交換し,アイデアを出し合うことでみんなが同じ目標へ進んでいることを確認でき,自由な想像力と発想も高めることが出来ます。また,これはプロジェクトマネジメントの観点からも有効的です。ブレインストーミングのほかにも,広い視野を持って取り込む方法の1つとして,新しい視点やアイデアを提案してくれる人をチームに取り入れるように心がけることも重要です。

 以上,モバイルアプリの成功につながる広告クリエイティブを制作するためのプロセスと戦略について紹介しました。どちらの側面でも,データに基づいた改善の継続が鍵となります。ビジネスを成功させるためには,完全なクリエイティブを目指すことよりも,定めたKPIを達成するための道筋を立て,ゴールに到達まで走りながら進めることが重要です。

 次回は,最高なクリエイティブチームを作るために重要なことを主題に,今後のクリエイティブ業界に関する考察を紹介解説します。

林 宣多(はやし・のりかず)
AppLovin日本法人代表取締役。GREE,Yahoo! Japanでの広告プロダクト立ち上げ後,米国に拠点を移し,設立直後のAppLovinに参画する。AppLovin本社の営業責任者として事業の成長をけん引した後,2016年4月にAppLovin日本法人の代表取締役に就任する。