alive 2018開催,Live2Dの現状と未来を示す基調講演レポート


 2018年12月3日,東京都・ベルサール秋葉原でLive2Dクリエイターのためのイベント「alive 2018」が開催された。
 その基調講演では,Live2D社長の中城哲也氏からLive2Dを巡る現状と今後の展望が示された。基調講演の模様をかいつまんでお知らせしたい。


Live2Dの現状


Live2D社長の中城哲也氏
 まず語られたのは数字を挙げてのLive2Dの現状についてだった。aliveの参加者は昨年の有料化で少し減っていたのだが,今年は同じ有料化にも関わらず過去最高の規模となっているという。
 アクティブユーザー数は昨年比で1.8倍,学校など教育機関での採用数も72校5745ライセンスと拡大しており,Live2Dを使えるクリエイターの母数拡大にもつながっている。一方で就職面で見ると,求人サイトWantedlyでLive2D関連のものが101件と,Live2D関連のスキルを指定して求人されることも増えてきている。
 世間一般的な認知度に関しては,Twitterでの扱われ方を集計しており,これまでも右肩狩りではあったものが,今年は非常に大きく伸びていることが示された。2018年6月……あまりにも大きな動きだが,なんだろう?

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 ユーザーの用途としては,アニメやゲームの制作といったもの以外に,「Vtuber」というものが出てきて,しかも急進している。全体の1/3がVtuberで使われているというのは驚きだ。ユーザー属性は,学校で使われるようになったため「学生・教員」が追加されているものの,企業・フリーランス・趣味といった割合自体はそれほど大きくは変わっていない。企業や仕事で使われる割合が増えた程度だろうか。

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Live2Dの用途
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こちらは2017年の用途

 国内ゲーム会社での採用状況はほとんど変わっていない。上位52社で見た場合に87%が採用済みである。海外では,トップクラスの企業では7割に使われるようになってきている。

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ちなみに昨年は88%でほぼ変化なし
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ちなみに昨年のデータは上位52社で37%というものだった


Live2D Cubism


 今年1年間に行われたCubism 3に対する機能拡張は66件,バグ修正は282件にのぼる。Cubism 3.1から3.2に移行し,その途中でも都度ごとに新機能が追加されている。サブスクリプションモデルにしたことで,こういった対応はやりやすくなっているとのことだ。

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 年内に出るというCubism 3.3での機能拡張の主なところでは,動きの反転を自動生成する機能などが紹介された。片方の向きの動きを作れば,反転した動きを作ってくれる機能だ。これは頑張って左右非対称なモデルに対しても行われるようにしているという。

 使い勝手に関する細かな拡張は以下のように多く実装される予定で,オブジェクト名やIDの検索と置換などは地味に便利そうだ。

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 デフォーマの品質改善では,3次元的な動きでカタ付きが起きていた部分が改善されている。

これまではエッジがガタガタすることがあった
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 そのほか,動画書き出しでは,モバイルやTwitterなどで使いやすい音声コーデックAACに対応した。特許料が高額だったのだが書き出しに対応したという。メッシュの4分割機能,ブラシによるメッシュの頂点追加機能などが実装されている。

アートパス機能
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 今後の予定としては,半年後くらいには出したいというCubism 3.4ないし次期バージョンとなるCubism 4での実装が検討されている機能についても紹介された。
 アートパスを設定して線幅などを自由に変えられるようにする機能はEuclidで実装されていたものだが,Cubismにも実装される予定だという。

 昨年も実装予定として紹介されていた楕円補間については,SDKでの負荷が予想以上に高かったので採用が見送られていたそうだが,アルゴリズムを見直して改めて実装されることになる。

左は分割数を指定して楕円補間を指定しているところ。3点の指定で補間が行われるが,処理自体は途中の点を細分化して実行されるという
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 オブジェクトの切り替え機能も昨年紹介されていたものだが,ゆっくりした動きの場合に,切り替えるパターンが両方見えてしまう瞬間が出てくることを回避しづらかったという。これも実装法が改められる。

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 また,Live2Dで補間された動きだと滑らかすぎるという場合には,コマ落としを指定する機能も柔軟に指定できるものが追加されるという。
 そのほか,アニメータ上で直接オブジェクトを修正・編集できる機能も追加予定だ。下の写真では,右手を上げたときに脇の下にできている隙間をアニメータ上から修正しているところが示されている。この機能は,最初は映像制作向けに提供されるが追ってSDKでも対応する予定だそうだ。

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Cubism SDK


 ゲームなどへの組み込みで使われるCubism SDKでは,Original Workflowが導入されている。これはViwerで確認しながらモデルデータやモーションなどの組み込み用のアセットをセットアップし,そのとおりの動きをSDK上で再現できるというワークフローで,そういった環境がLive2Dから提供される。これはUnityであればとくに必要なかったそうなのだが,逆にUnityへの対応が遅れており,こちらは近日中に提供される予定だという。

 SDKの対応プラットフォームも拡大中で,現在下のスライドのようなものに対応している。
 さらに,やろうと思えば,ユーザーが独自にさまざまなシステムに対応するようにできなくもない……ということで,独自にLamberyardに対応した例があるようだ。

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 また,Cubism 3のAfter Effect用プラグインは来春に正式版をリリースする予定だそうだ。これはPro版のライセンスがあれば自由に使えるものになるとのこと。

 ここで,最近のLive2Dの盛り上がりを支えるVtuber関連の話題として,FaceRigを開発するHolotech StudiosのCEOであるDragos Stanclescu氏が登壇して,同社の展開について語った。カメラによる顔の撮影データから表情を読み取り,2D画像に反映していくというFaceRigはLive2Dに特化した製品ではないのだが,FaceRigのオリジナルアバターの95%はLive2Dで制作されているとのことだ。また,元々アジアでの人気は高かったがこの1年でさらに売り上げは上がり,現在では半分以上がアジア市場のものになっているという。
 同社では,Cubism 3.3に対応したFaceRigを開発中で,壇上ではオブジェクトの切り替え機能を使った映像なども流されていた。またアバターを売り買いするためのプラットフォームを構築中で,多彩なアバターを手軽に使えるような環境を構築していく。さらにSDKを提供して,アプリなどにFaceRigを組み込みやすい環境を整えていくとのことで,今後もアバターを使ったコミュニケーションを推し進めていくという。同社のアプリにも重要なアップデートが行われると予告していた。


Live2D Euclidについて


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 すでに伝えられているように(関連記事),10月でEuclidの販売は停止され,サポートも4月までで打ち切られる。中城氏は期待に応えられなかったことを詫びつつ,状況について説明していた。
 2Dで3Dのような動きの実現を目指したEuclidは,野心的な試みであり,動きについては,かなりのところまでできるようになったらしいのだが,ビジネス的なところではまだまだ立ち上がっていかないことなどから,やむなく開発中止ということになったという。後述されていたCubism Mのことなども考えると,開発リソースを集中したいというのはやむなきことかもしれない。

 ここまでできるようになっていたという例として,登場したキャラクターがおもむろにバク宙したあと,くるりと一回転(水平方向)する様子が動画で示されていた。

Live2D,ついにバク宙に成功する
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 こういった開発で得た知見はCubismにも生かされつつ,将来的なEuclid2に関してはゼロベースで作り直していくことになるという。まだまだ諦めたわけではなさそうだ。

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ANIPLEXとの提携,長編アニメーションの制作


 3月末に発表されていたLive2DとANIPLEXの資本提携の話についても解説が行われた(関連記事)。

 中城氏は,作業的にも資金的にも長編映画はアニメーションの最高峰であるとしており,Live2Dで長編映画を制作するまたとない機会として今回の提携を捉えている。
 ANIPLEXもアニメーションの技術革新を模索しているようなのだが,世界的に認められた技術力を持ち,映像制作への野心を持った会社はLive2D以外になかったとのことで,順調に話は進んだようだ。現在では,両社が協力してLive2Dによる長編アニメーション制作へ向けてのさまざまな試行が行われているという。

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 その過程で作られたのが,長編映画制作用のLive2D Cubismともいえる「Cubism M」である。
 Cubism Mでは,映像制作の現場からの要望などをもとにした拡張が行われているようだ。いくつか例も示されていた。

 まず陰影の色指定である。影の色を演算で作るのではなく,色指定で行うアプローチが導入されているという。肌の色などを暗くして自動で影色を作るのではなく,影色として指定されたコードで塗るのだ。演算すればいちいち色指定しなくても影表現が作れるので手軽だが,色指定の専門家がいる環境であれば,手付けによる色指定のほうが仕上がりイメージをコントロールしやすいのだろう。これは立体表現時の自動影生成などと組み合わされることになるようだ。

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 次に,アートメッシュ内のアートメッシュを外側のアートメッシュごと変形させる機能だ。変形後も個別に制御可能だが,入れ子構造でまとめての制御もできる。さらに特定のオブジェクトにガウスぼかしをかける機能などが紹介されていた。これ以外にもさまざまな機能が検討されているという。

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 こういった機能は,残念ながら動作が不安定なものが多いとのことで,しばらくはCubism Mで実験的に使用されることになるようだ。機能が安定してくれば,一般のCubismにも反映していく予定だという。Cubism Mは,Cubismの機能を飛躍的に向上させるためのパイロット版としての機能も果たしていくのだろう。


Live2D Creative Studio


Creative Studioが手がけているBeyond Creationのメイキング風景
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 長編映画の制作に向けて,Live2D社内のクリエイティブ制作チームとなるCreative Studioも役割が少し変わってきている。以前はゲームのデータ作成サポートなどを中心に独自作品も作っていくようなチームだったのだが,今後は映像制作の比重が大きく上がっていくことになりそうである。ということで,大幅な業務拡大に向けてデザイナーから進行管理,アシスタントといった幅広い人材が募集されていた。

 中城氏は,かつて3DCGによる映画制作を一般化したPixarのように,2DCGによる映画制作を切り開くことに挑戦していくとのことだ。その場では,同スタジオが映画制作に向けて実験的に作っている動画「Beyond Creatin」のメイキング動画が公開された。Live2Dによるより本格的なキャラクターアニメーションに向けての取り組みが示されている。


2次マ


 続いて,10月に正式オープンした,2Dコンテンツのマーケット「2次マ」についての紹介が行われた。2次マは,2DイラストやLive2Dデータ,Live2Dアバターなどのコンテンツを作る人と,ゲームなどでそういった2Dコンテンツを求めている人をマッチングさせるマーケットである。
 低解像度データでのプレビュー機能をつけるなど,売り手と買い手のトラブルを防ぐべく工夫がされているという。
 2Dクリエイターにとって理想的なマーケットを目指して運営されているが,その成果についてはまだこれからの話だろう。今後の展開に期待したい。

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 最後に中城氏は,昨年示された4極による今後の展開プランがEuclidの終了で3極になり展開されることになるが,将来的にはまた4極で,2Dコンテンツの活用を進めていきたいとしていた。氏自身,2Dでどこまでいけるのかはまだ果てが見えないとしつつ来場者に向けて一緒に切り拓いていこうと呼びかけ,基調講演を締め括った。

alive 2018公式サイト