【モバイルゲーム中国進出 虎の巻】第3回 中国でのアプリリリースとマーケティングのコツ

 魅力的で巨大な市場でありながらも,独特の仕組みもあって,海外企業にとっては進出が難しく感じられる中国のモバイルゲーム市場。
 第1回のコラムでは,中国モバイルゲーム市場の現況とユーザーの特徴についてご紹介し,第2回のコラムでは,参入時に気をつけたほうがいいローカライズのポイントについてご紹介してきました。
 最終回となる今回は,中国国内でアプリをリリースをする際の実際の手順と,マーケティングのコツについて紹介をしていきます。

第1回 中国市場とゲームプレイヤー動向

第2回 ゲームの中国ローカライズについて

※2018年11月15日現在、中国政府による中国市場での新規ゲームのリリース承認が停止されているという状況が起きています。当初、一時的なものと見られていましたが,かなり長引いている状態です(関連記事)。そのため、中国市場への日本アプリの進出をテーマとした本連載も休止しておりました。
残念ながら現在もリリース承認の停止は続いていますが,今後,解除される可能性を見据えて第3回の記事を掲載させていただきます。以上の状況をご理解のうえ,一般的な中国市場でのマーケティング情報として参考にしていただければ幸いです。


■現地パブリッシャとの提携


 第1回のコラムでもご紹介しましたが,中国ではアプリリリースの承認プロセスに事実上,中国政府の許可が必要となります。とくにAndoroidでは,開発したゲームアプリをSART(SAPPRFT)SAPPRFT(国家新聞出版広電総局)に提出し,承認を得て,政府機関から発行されるコード(もしくはパブリケーションナンバー)をまず取得する必要があります。
 SAPPRFTの承認を得るためには,そのゲームが政治的,軍事的,国家的,宗教的な内容を含んでいないことと,簡単なストーリーがあるということが必須条件となっています。承認期間は,チェス,パズルなどの操作性が簡単なカジュアルゲームの場合は,20日間程度で完了します。
 しかしながら,カジュアルゲーム以外のジャンルは,段階的なテストが必要となるため承認にかかる時間はさらにかかります。海外ゲームの場合は3か月以上かかることも多いです。
 また,中国政府の組織変更に伴って,現在は審査が非常に滞っており(関連記事),新作ゲームの認可では半年程度の遅延が予想されています(関連英文記事)。

 SART(SAPPRFT)の承認プロセスをスピーディに進めるためには,こうした事情に精通している中国現地のパブリッシャと提携を結ぶことが効果的です。とくに,Androidゲームではパブリッシャが中国国内にビジネス拠点を設置していることが義務づけられているため,わざわざ拠点を設置する手間を省くこともできます。なお,中国のパブリッシャのタイプには,「サードパーティパプリッシャ」と,「プラットフォームベースバブリッシャ」の2種類のバブリッシャがあります。

●サードパーティパブリッシャ
 サードパーティパブリッシャは,最も一般的なタイプのパブリッシャで,ゲームのローンチ,流通,プロモーションを担当し,その見返りとして分配収益を得ています。中国国内と海外両方のゲームをサポートできる主要なサードパーティパブリッシャとしては,Longtu Game, Elex Tech,37wan.net, Yoozoo, Funplus, IGG,Happy Elements, Yodo1, iDreamSkyなどがあります。

●プラットフォームベースパブリッシャ
 プラットフォームパブリッシャとは,FacebookやAmazonのアプリストアのようなもので,対応するアプリのパブリッシングプラットフォームを持ち,独自のユニークユーザーグループへのアクセスを可能にします。例えばTencent,Xaiomi,Bilibiliがこれにあてはまります。通常これらの企業でローンチされるゲームは特定のSDKでゲームクライアント上に統合され,専用のプラットフォームに合わせてカスタマイズされます。プラットフォームのオーナーは広告宣伝やそのほかのインストール・使用にかかわるメカニズムを引き受け,見返りとして収益分配を得ます。
 このアプローチはより複雑なため,今後制限が増える可能性がありますが,すでにプラットフォーム自体にユーザーがついているため,ユーザー獲得コストの観点では,有利に進めることができます。



■中国市場でのマーケティング


 無事に中国でゲームのリリースを実現したら,マーケティングの戦いです。マーケティングの面でも中国は海外の市場とは異なる面も多いため,よく気をつけながら進める必要があります。

●ソーシャルメディアプラットフォームの活用
 中国市場の特徴の一つに,少数の大手デジタル企業が中国のソーシャルメディアユーザーをほぼ独占していることが挙げられます。BaiduとTencentの2大企業は日本でもよく知られていますが,Toutiao,UC Browser,Weiboといった企業も有力です。
 中国のソーシャルメディアの状況は,各企業が複数の統合プロダクトとサービスを提供しており,海外のFacebook,Google,Twitterと比較しても,はるかに複雑で細分化された市場となっています (図1,表1) 。モバイルゲームのリリース時のプロモーションにおいては,Baidu,Alibaba,Tencentの3社が,中国のプログラマティック広告の約90%を占めています。

図1 中国のソーシャルメディアプラットフォームの使用状況

表1 中国のソーシャルメディアプラットフォームの特徴

QQ (Tencent)
・中国最大手で,最大の人気を誇るTencentが提供するメッセージアプリ
・ゲームや動画,eコマースを展開している
・8.6億の月間アクティブユーザー数を誇り,若年層に人気

Wechat (Tencent)
・中国全土に浸透しているメッセンジャーアプリ
・ビジネスメールやモバイル決済の手段などあらゆるニーズに対応している
・月間アクティブユーザー数は9.38億で,ユーザー層の年齢はやや高め

TOUTAIO (TOUTAIO)
・人々と情報をつなぐことに特化したニュース配信アプリ
・中国のニュースアプリの人気ランキングで第2位に位置付ける
・ユーザーの年齢層は18〜35歳で,50%以上が主要2大都市に集中している 

UCBrowser (UCBrowser)
・世界最多のユーザーを抱えるサードパーティモバイルブラウザ

Baidu (Baidu)
・中国最大手のサーチエンジン
・オンラインコミュニティやモバイルブラウザなども展開している 

Weibo (Weibo)
・「中国のTwitter」とよばれる国内最大級のSNS

●アプリストア最適化(ASO)
 アプリストア最適化 (ASO) とは,モバイルアプリ向けのSEOです。効果的なASOは,ユーザーがアプリストアで検索するたびにアプリが発見されるチャンスを最大限に高めます。海外で使われているASOツールのほとんどが中国のアプリストアに対応していないため,中国のASO向けに特別にデザインされたツールの使用をお勧めします。こちら(<https://technode.com/2016/08/13/get-apps-discovered-five-chinese-aso-tools/>)では中国のテクノロジーメディアTechNodeが最も人気のあるASOツールのリストを公開しています。

●サーチエンジン最適化(SEO)
 Googleのない中国では,Baiduが最も人気のある検索エンジンです。Baiduは,Googleと同様にプロモーションのためのさまざまなソリューションを提供しており,企業はSEOの最適化や,PPC(リスティング広告)を利用することができます。中国ではBaidu経由の検索が約80%を占め,欧米諸国でのGoogleよりも高い割合を占めています。この点から中国でSEOを行う場合,Baidu以外の検索エンジンを気にかける必要はないでしょう。

●中国のゲームメディア
 メッセンジャーやミニブログアプリを重要視するあまり,中国に独自の動画ゲームメディアが存在することを忘れてしまいがちですが,人気のゲームメディアサイトのいくつかはプラットフォームが所有しているので,どのようなPRキャンペーンがゲームの認知向上とバズの醸成の助けとなるかを一考する価値はあります。プラットフォームが所有するゲームメディアにはNetEaseやTencent Games,Sinaなどがあります。そのほか,遊資網 <http://www.gameres.com/>,游戏陀螺 <http://www.youxituoluo.com/>,游戏葡萄 <http://youxiputao.com/>といったゲームメディアも有名です。

●Shuabang
 「Shuabang」(シュアバング)とは,アプリのランキングを引き上げるために,さまざまな対策を実践するマーケティング手法のことです。Shuabangでは,数千から数百万のフェイクのアプリストアアカウントを使ってアプリをダウンロードし,インストールのピークを作りあげることで,アプリランキングを向上させます。ほとんどの企業はShuabangをモラル的に容認できるものではないと思っていますが,その現実は多くの企業がアプリのランキングを維持するために,Shuabangに頼っているようです。お勧めできる手法ではありませんが,広く利用されている事実を知っておくことは重要だと思います。

●オンラインインフルエンサー
 世界ではYouTube,Instagram,Twitchなどのおかげで,ソーシャルメディアのインフルエンサーの力が増していますが,中国ではインフルエンサーのリーチ範囲とその重要性は,それ以上と言えます。というのも8億人以上のインターネットユーザーを抱える中国では,「ニッチ」なインフルエンサーさえもが,かなりの数のフォロワーを持っています。もちろんトップインフルエンサーには数百万人ものフォロワーがついており,たとえば,風刺動画で評判のPapyJiangは1億人以上のフォロワーがおり,ファッションブロガーのHan Huo Huoには300万人以上のフォロワーがいます。こうしたインフルエンサーを起用したキャンペーンは,うまく機能すると爆発的なプロモーションにつなげることも可能です。

 さて,全3回にわたって連載させていただきました「モバイルゲーム中国進出 虎の巻」も今回で最後となります。
 Mobvistaは中国広州に本社を置き,世界中に拠点を持つモバイルプラットフォームとしては世界最大級の企業で,昨年,日本法人を設立しました。
 昨今,中国のゲーム会社の日本進出が目立ってきていますが,逆に考えると,日本のゲームが中国市場でもっと進出するチャンスでもあります。Mobvistaとしては,今後も中国進出にチャレンジされる皆様に,さまざまな形でお役に立っていきたいと思います。

 最後までお読みいただき,ありがとうございました。

【井料氏のプロフィール】
Mobvista Country Manager, Japan
関西学院大学卒。産経新聞社に新卒入社,その後2000年にリクルートと米国About.com のジョイントベンチャーであったAll Aboutのスタートアップに参加。営業マネージャー,大阪営業所長として活躍し,同社の2005年JASDAQ上場に貢献。2009年に楽天に入社,国内の広告ビジネスを営業面で大きく成長させたあとシンガポールに移り,グローバル広告ビジネスのパイオニアの役割を担った。2014年台湾本社のAI企業Appierに入社,日本法人の設立から大阪オフィス設立まで,同社の日本市場における立ち上げから急成長を3年間に渡って指揮した。2017年9月Mobvista.に入社,カントリーマネージャーに就任し,同社の日本における事業の責任者を担う。

【Mobvistaについて】
Mobvistaは世界最大級のモバイルプラットフォームを運営し,プレイヤーの獲得,マネタイズの提供,分析など,世界中のモバイルマーケティングに関わる人々にサービスを提供しています。1000を超える企業がMobvistaを利用しています。
TUNEの「2016年度モバイルアドプラットフォームTOP25」に選出され,世界243の国と地域で100億以上のデイリーインプレッションがあり,優れたアドテクノロジー企業として知られています。2015年冬にNEEQに上場し,時価総額は10億ドルです。
また世界14拠点に,500人以上の従業員が働いています。