【月間総括】四半期決算から見る国内ゲーム業界の動向

 7月下旬からから8月に掛けてゲーム会社の決算発表が相次いだ。今回は,各社の四半期決算について触れたい。

 まず,スマートフォン用ゲームアプリが主力のミクシィ,ガンホー・オンライン・エンターテイメント(第2四半期),コロプラ(第3四半期),DeNAは軒並み大幅減収減益となった。詳細は個別にIRサイトをご覧いただきたいが,各社とも個別要因(周年イベントの有無など)としている。しかし,エース経済研究所では,市場要因も大きいと考えている。

【月間総括】四半期決算から見る国内ゲーム業界の動向
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【月間総括】四半期決算から見る国内ゲーム業界の動向
※初出時のDeNAのグラフが親会社の所有者に帰属する四半期利益とすべき部分の数値を四半期包括利益に間違えた形で掲載されていました。お詫びして訂正いたします
【月間総括】四半期決算から見る国内ゲーム業界の動向

 スマートフォン用ゲームアプリ市場全体は緩やかな成長が続いている。しかし,新興の中華系メーカー(荒野行動など)がシェアを拡大しており,市場成長とは裏腹に日系メーカーのシェアが低下してしまっている。しかも,新規投入されるタイトルは依然として多く,プレイヤーの分散による収益性の低下が進行している。
 とくに日本のスマートフォンゲームは,RPGの比重が高い。これには,いろいろな理由があると考えているが,そのうちの一つに,イベントの効果や,ゲームを止めるタイミングなどを分析しやすいことがあるようだ。
複数の会社とディスカッションを行っていても,KPI(重要指標:課金者一人当たり単価,アクティブプレイヤー数など)を重視する日本式運営も相まってRPGへの最適化が進み,新ジャンルがはやると対応が難しい面があると考えている。
 昨年,世界市場でリリースされた「PUBG」「フォートナイト」「荒野行動」といったバトルロワイヤルゲームの好調が続いている。日本でもApp Storeランキング上位に「荒野行動」がある。このようなFPS,TPSタイトルは,これまで日本では流行しないと思われていたため,日系のスマートフォンゲームアプリメーカーは対応が遅れた。こうした状況を改善する方法としてアクション系のゲームを開発することが考えられるが,開発期間が長期化し,開発費も巨額になっているメーカーは,今から着手するとバトルロワイヤルゲームブームが終わっているリスクを考慮して対応できずにいる。
 エース経済研究所では,このままでは収益悪化局面が長引く可能性が出てきていると見ている。過去に電機業界ではパソコンや折り畳み式携帯電話で,海外勢の攻勢に対して投資を躊躇した結果,大きくシェアを失ったケースがある。同じ轍を踏まないよう早急な対応が必要だろう。

 次に,ソニーである。第1四半期決算は大幅増収増益だった。最大に貢献役がゲーム事業である。以前,ここで現状のゲームビジネスに問題点は見られず,十分な収益をあげることができるだろうと述べたが,早くも実現した格好だ。

【月間総括】四半期決算から見る国内ゲーム業界の動向
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 エース経済研究所のヒアリングに対しても,会社側は,自社タイトルの育成に向けて開発スタジオの増強を行っていると回答している。
 平井前社長時代,ソニーの戦略目標は「安定的に利益を出す,赤字を許容しない」であった。ゲームビジネスは本質的に不安定なため,変動に対応するためには固定費の削減が急務だった。そのため,一部スタジオの閉鎖を行って開発費を削減したものの,PS4がヒットした後,利益率の高い自社タイトルを一定間隔で出すことが難しくなってしまうという弊害があった。現在は,このあたりの改善を目指しているようだ。
 同社は,「Detroit: Become Human」「God of War」など欧米で高い評価を持つタイトルを有している。新規IPに注力することでハードウェアの魅力を高めることができるはずである。同社経営陣からは以前,PSプラットフォームはサードによって成り立っているとの消極的な発言が目立っていたが,ここにきて自社開発力を高める施策にでてきたことは,とても評価できる。長期的には大きな成果を得られるだろう。
 もう一つが「Fate Grand Order:FGO」を含む音楽事業の好調である。前段で,日本のスマートフォンゲームアプリは収益性が悪化しているとしたが,例外的な存在になっている。シナリオとキャラクターの魅力で依然として多くのプレイヤーを引き付けている「FGO」は,長期にわたって業績拡大が続いている魅力的なコンテンツと言えるだろう。
 この8月下旬には「マギアレコード」も,アップストアランキングでトップに立つなど,アニプレックスの成功には驚かされることが多い。
コンテンツ系事業から生み出されるセグメント利益は,ソニーの営業利益の過半を占めるまでになっている。AV機器メーカーからコンテンツ会社へ,見事な変身を遂げつつあると,エース経済研究所では考えている。
 コンテンツ事業は,限界利益率が高いビジネスなので,事業拡大の恩恵を受けやすい。以前も指摘した通り,マネジメントの改善で十分な収益を得ることができるだろう。

 任天堂も,第1四半期は大幅増収増益だった。Switchハードの販売は,エース経済研究所の想定200万台を若干下回ったが,利益率の高いソフト販売が伸びたことで大幅増益となった。決算前は,一部のマスメディアがSwitch販売の低迷,あるいはソフトが不足していると報道していたが,これが誤解であったことが明らかになったと考えている。

【月間総括】四半期決算から見る国内ゲーム業界の動向

 エース経済研究所では,2500万台の販売予想を現時点では見直していないが,第1四半期の想定未達で実現は難しくなった面がある。
 それでも現時点で見直していないのは,ハードウェアは利益率が低く,全体の利益に対する影響が小さいこと,年末のタイトルの動向を見極めたいためである。
 エース経済研究所では,“形仮説”に基づき,ハードウェアが販売の主な動向を決めていると考えている。以前も指摘したが,ソフトの影響がまったくないわけではない。第1四半期は大型タイトルがなかったことに加え,「Nintendo Labo」の失敗もあって,販売がエース経済研究所の想定を下回ったということである。

 では,今後はどうだろうか? 同社側も6月以降,日米欧およびその他地域でハード販売が増えているとしている。
 日本でも,Switchの販売は5月中旬をボトムに伸びてきており,週間販売は7月以降,5万台前後で推移している。任天堂の新作タイトルも無い,フォトリアル系のサードのAAAタイトルも無いにもかかわらず,である。この状況を見ていると,果たして「大型タイトル(AAA)」がハード販売を決めているのだろうか?疑問に思わざるを得ない。

 思えば,昨年,「Switch」が発表された時も,マスメディアはソフト不足としていたが,結果は期初計画の1000万台を大きく上回る1505万台だった。
 今年も「ソフトが無いため,Switchの販売は落ち込む可能性がある」と報道されているが,昨年を大きく下回るとは考えにくいのではないだろうか?
 結果は,年明けに判明するだろう。