【月間総括】21万本を売り上げた「Nintendo Labo」は何に失敗したのか

 今月は先月予告したとおり,「Nintendo Labo」の戦略的失敗について取り上げたいと思うが,その前に,先日行われたソニーの中期戦略説明会SONY IR DAY 2018についてお伝えしたい(関連記事)。その場で,SIEの小寺社長に質問する機会があったのだが,PSVRとスマートフォンゲームアプリが想定を下回り,学びがあったとの回答を得た。
 以前からエース経済研究所では,まず,失敗を認めることがSIEの企業価値を長期的に向上させる第一歩と主張してきた。誤りを認めることは,とても勇気がいることである。公式の場で認めたことを大いに評価したい。
 なお,音声アーカイブがソニーIRサイトにある。ぜひ,御聴取いただきたい(参考URL)。

 本題に入ろう。4月20日に任天堂は,ダンボールを使った新しい遊び「Nintendo Labo」を発売した。
 メディアクリエイトによる発売4週間のデータでは「バラエティキット」「ロボキット」の累計販売本数は21万本強である。新規IPとしては,販売本数が多いという指摘もあろうが,「Nintendo Labo」のような戦略的商品の成否を販売本数で判断することは間違いを犯しやすい。成否という観点からは,任天堂が何を課題と捉え,何を目標として,「Nintendo Labo」を投入したかという点を考える必要がある。

 任天堂は,ここまで「Nintendo Switch:以下Switch」の普及に関して,ゲーマーが先行しており,ライトプレイヤーが少ない点を課題と認識していた。一般には,任天堂プラットフォームは,ライトプレイヤーが多く,コアゲーマーが少ないイメージだが,任天堂はSwitchに関してはコアゲーマーに訴求できたと考えていたのである。

 そこで,次の段階として,ライトプレイヤーに訴求したいと考え,新規層を取り込むことを目標に「Nintendo Labo」を投入した。
 これに対する任天堂の5月上旬段階での見解は,

  1. 「Nintendo Labo」のうち,バラエティキットは想定内
  2. ロボキットは想定以下
  3. 期待していたハードの牽引はほとんど見られない

であった。任天堂は,これまでハードを買っていない層への普及を目指して「Nintendo Labo」を投入し,拡販効果が見られなかったわけであるから,戦略レベルでは失敗と言える結果だ。

 企業において,想定した事象と違う結果となること自体はよくあることである。大事なことは,失敗から何を得て,どうするかであろう。
 冒頭に述べたPSVR,スマートフォン用ゲームアプリの件にしても,日本企業では失敗を水に流してしまうと,せっかくの知見が後世に伝わらず,結果的に大きな損失につながってしまうケースが多いことを危惧しているためだ。

 とくに問題が大きかったのはロボキットである。筆者が,ロボキットを実際に体験してみて言えることは,大人が遊んでいる姿に今一つの印象を受けたことだ。また,両手両足にJoy-Conをセットし,背中にランドセルタイプのダンボールを背負うのはやはりスマートではない。
 エース経済研究所では,“形仮説”を提唱してきた。この考えはとてもシンプルなものであり,「モノ・サービス」ビジネスの成否には,視覚情報が大きな影響を与えるとしているとするものである。その点から考えると,ロボキットは遊んでいる当人と見ている人たちにギャップがあったと言わざるを得ないように思う。この点を発売前に見抜けなったのは,大いに反省しなければならないところだろう。

 なお,「バラエティキット」は組み立ての工程の面倒さが購買の阻害要因になった可能性もあるが,どこまで販売を阻害したかは判断が難しいところだ。ゲーム機でも「操作が難しい」「ボタンが多すぎる」などと批判されることがあるが。かつてPSPで大ヒットした「モンスターハンターポータブル」の「モンハン持ち」と呼ばれるような操作を多くの人が受け入れたケースもあり,難しさが阻害要因になるとは一概に言えない。

 さらに,ハードの牽引が弱かった点については,Switchのコンセプトである「いつでも,どこでも,誰とでも」のうち,「いつでも」「どこでも」を「Nintendo Labo」が制約してしまい,ハードウェアの魅力を削いだことが要因と考えている。
 2017年度末までの主なSwitch向け任天堂タイトルの累計出荷本数を見ると,「マリオオデッセイ」1041万本,「マリオカート8DX」922万本,「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド」848万本と,テレビモード,テーブルモード,携帯モードで制約がまったくないものの販売比率が高く,携帯モードで若干遊びにくい「スプラトゥーン2」は602万本,携帯モードではモーションコントロールが使いにくい「ARMS」は185万本,携帯モードでは遊べない「1-2-Switch」が229万本となっており,「Nintendo Switch」の「いつでも,どこでも,誰とでも」を制約しているタイトルの販売は弱い。

 では131万本の「ゼノブレイド2」はどうだろうという指摘もあろう。これは前作のWii版がミリオンに到達していないことと比較すれば,大きく販売を伸ばしており,相対的にSwitchの魅力を引き出したと言って差し支えないだろう。
 そして「Nintendo Labo」である。必然的に「Nintendo Labo」は,テレビモードか,テーブルモードでしか遊べない。エース経済研究所では,Switchの魅力を引き出しきれなかったと考えるのが妥当と見ている。
 子供向けという反論もあろうが,任天堂は新しい顧客に売るとしており,非ゲームプレイヤーには大人も含まれるはずである。

 再度,明言しておくが,「Nintendo Labo」は戦略的には失敗といって差し支えないと考えている。そのうえで気になる点がある。それは,Switchの魅力とは何か? ということである。
 任天堂にヒアリングすると,Switchの魅力を引き出したとしているタイトルとして挙げているのは,「1-2-Switch」「ARMS」,そして「Nintendo Labo」である。お気付きだろうか? 任天堂自身がSwitchの魅力を引き出したとしているタイトルは販売が今一つなのである。
 一方で,強化移植である「マリオカート8DX」,Wii Uとのマルチ「ゼルダの伝説 ブレイスオブワイルド」の販売は絶好調である。
 任天堂に対するヒアリングから,このように想定と逆のことが起こったのは,同社がSwitchの魅力をJoy-Conにあると考えていたためと見ている。任天堂は,Joy-Conに搭載されたセンサーこそがSwitchの付加価値の源泉と考えていた。しかし,プレイヤーは「いつでも」「どこでも」,据え置き画質ゲームを遊べることを魅力としているのではないかということである。
 任天堂は,この点を早急に検証する必要がある。プレイヤーがJoy-Conではなく,プレイスタイルの自由度を評価しているなら,ゲームソフトからマーケティングまで,抜本的な対策の見直しが必要となるだろう。