Eidos Montreal「シングルプレイの新しいゲームモデルに取り組まねばならない」

シャドウ オブ ザ トゥームレイダーのデベロッパは1億3500万ドル(※約150億円)のナラティブ・プロジェクトを軌道に乗せようとしている。

 1週間かけてシングルプレイのナラティブなゲーム作りに専念するデベロッパに話を聞いてきたが,Eidos Montrealが3社めだ。

 まったく偶然だったが,興味深いのは,3社とも(最初はPlay Magic(関連英文記事),残りのインタビューは来週掲載される)大幅に拡大していることだ。Eidos Montrealの重鎮,David Anfossi氏との会話の冒頭でも,まず,同社社屋の大型改装プロジェクトの工事音について謝罪があったほどだ。

 「ゼロからスタートしています」とAnfossi氏は話し始めた。「とにかく規模を大きくしならなければならないので,いったん全部取り払ったんです。スタジオのスタートから10年経ち,私たちが創り出すイメージを反映させたものにしたいと思いました。ライバルに負けないようにするためでもあります」

 「三つの大規模なプロダクションが同時進行で進んでいるので,開発者を100人,事務所も同じく増やしています」

David Anfossi氏
Eidos Montreal「シングルプレイの新しいゲームモデルに取り組まねばならない」
 今のゲーム業界では,少なくともAAAタイトルの開発と言う点でいえば,シングルプレイのナラティブなゲームエクスペリエンスは消滅しつつあると信じられている中で,同社の動向は興味深い。今は,Fortnite,Overwatch,PUBGの時代だ。最近のゴッド・オブ・ウォーの大ヒットはむしろ異例なことだった。それにシングルプレイゲームは,大型のソーシャルなマルチプレイのゲームほどに効果的に収益を上げることはできない。……はずではないか?

 Eidos Montrealはこのことを最もよく知っているはずだ。同社の直近のデウスエクス マンカインド・ディバイデッドは,評論家たちに感銘を与えたにもかかわらず,商業的にはちょっと残念な結果となった。

 「おそらく,トレンド,時期,またはタイミングの問題でしょう」とAnfossi氏は思い巡らす。「毎年新しいトレンドが出てきますね。今はFortniteでしょう。実際素晴らしいゲームです。こういうゲームに注目が集まっていますから,私たちは(別のタイミングを)待たなければなりません。デウスエクスのゲームやエクスペリエンスを変えたくないですし,むしろ尊重したいと思っています」

 他方,Anfossi氏は,シングルプレイゲームのオーディエンスが年齢を重ねつつあり,大規模で広がりのある冒険のナラティブに没頭する能力が衰えていることを認識している。

 「マルチプレイ,Co-op,MMO,シングルプレイ,いずれであっても,毎年,あるいは1年おきにこのような傾向があります。適切な品質のエクスペリエンスを提供すれば,自分たちが望むオーディエンスに到達できると思っています」とAnfossi氏は主張する。

 「そのうえで,ストーリー主導のエクスペリエンスは今後,大きな世代交代を経ることになると確信しています。とくに私のようなオヤジ,25歳以上の人々のところで。ゴッド・オブ・ウォーがそうでしょう。シングルプレイのエクスペリエンスとしてはかなりいい例だと思います。個人的にもかなり好きですが,コンプリートする時間がなさそうです。そうなるとフラストレーションにしかなりません。ストーリー主導のエクスペリエンスは,一度始めたら,結論を見たくなるものです。ですから私たちは,新しいゲームモデルを採用して試してみる必要があると思っています」

 「まったく個人的な意見で,何かにコミットするわけではありませんが,例えば,複雑な世界観,強力なキャラクターを使って,非常に良いナラティブを作ったとしましょう。ゲームを始めてから3時間でコンプリート,金額は30ドル。そういうことです。つまり,それがストーリー主導のゲームを続ける方法かもしれません。強いエクスペリエンスを打ち出し,オーディエンスが興味を持てることをちゃんと確認する。そうすることでオーディエンスは実際にゲームをコンプリートできるのです」

 「私たちは常にそれを自問していますが,シングルプレイのゲームはこれまでと同じくらい強いもので,続けるべきだと思っています」

デウスエクス マンカインド・ディバイデッドはレビューこそ良かったが,商業的には苦戦した

 このようにシングルプレイに対する愛はあるものの,Anfossi氏は,Eidos Montrealのウェブサイトで,同社のゲームにおけるオンライン体験に一層の重点を置くと述べている。それはつまり同社はこれまでの道を捨て,デウスエクスMMOやトゥームレイダーでバトルロイヤルをやることを余儀なくされるということなのだろうか?

 「私たちは,新しいものを試し,経験を積み,学ぶ必要があります」とAnfossi氏は説明する。「強力なオンライン技術を構築したいと思っています。テストして学習し,それをゲームにどのように適用させるのかを検討していますが,ファンへの留意は必要です。オンラインが必ずしもマルチプレイである必要はありません。もちろんそれでいいですが,別のものも考えられるかもしれません。例えばシングルプレイのエクスペリエンスでオンラインもアリでしょう」

 「私たちはいろいろ試しています。任天堂のアプローチでは,小さなグループでいろいろテストしています。少々面倒ですが,とてもいいことだと思います。今すぐには意味をなさないことでも,いつか,ゲームのベースにしたり,ゲーム内に置いたりするのに良いものが出てくるかもしれません。私たちは今まさにそれをやっています。私にとって,オンラインはシングルプレイのエクスペリエンスを忘れるようなものではありません。オンラインのエクスペリエンスをいろいろ試していますが,シングルプレイも,そして,マルチプレイに関することも同時に試しているということになるのかもしれません」

「オンラインが必ずしもマルチプレイである必要はありません。もちろんそれでいいですが,別のものも考えられるかもしれません」

 我々GamesIndustry.bizのRob Faheyが最近のコラムで書いたように(参考英文記事),シングルプレイのゲームプロジェクトで大きな成功を収め続けている任天堂やソニーなどの企業が使うビジネス・テンプレートは,必ずしも賢明な選択肢ではない。これらの企業はプラットフォームホルダーであり,複数の収益源を持っている。ゴッド・オブ・ウォーはほぼ間違いなくPlayStationに収益をもたらしたであろうが,仮にもしそうでなかったとしても,彼らは顧客を自分たちのエコシステムに導き,ほかのPlayStation製品でお金を使わせるだろう。小売業者はこの経営戦略をLoss-leading(損失主導型)と呼ぶ。そこでは何か一つの領域で(客寄せのため赤字で)打撃を受けていようが,結果として全体の売上は向上する。

 Eidos Montrealはスクウェア・エニックスに収益を提供する義務がある。したがって,実験チームや新しいビジネスモデルを試そうとするとき,実際はどれだけの自由があるのだろうか?

 「シャドウ オブ ザ トゥームレイダーや,ほかのAAAレベルのシングルプレイゲームは,7500万〜1億ドルのコストがかかっています」とAnfossi氏は認める。「しかもこれは制作費だけです。そこに3500万ドル近いプロモーションコストもかかりますから,プレッシャーは相当なものです。避けることはできませんが,他方,これらのインキュベーション・プロジェクトをやりつつ,ちょっとしたことを試せるのは,テストしたり,準備したり,何かしら確保したりする機会にもなりますし,リスクを取り除く機会にもなるわけです」

 「私たちにはまた強力なプロセスもあります。スタジオができて10年経ちましたので,ゲーマーとテストを行い,マーケット分析やプレイヤー調査を準備して実行する方法を確立しています。もちろん,すべての答えが得られるわけではありません。クリエイティブな部分でリスクを取らねばならないこともありますが,最終的には,私たちの運命を握るクオリティについては名案があります」

 これらのインタビューでは必然的にほぼ毎回,Hellblade: Senua's Sacrificeの話題が持ち上がる。Ninja Theoryによる,やや短くも強い印象を残すこのシングルプレイゲームは,素晴らしいでき栄えで,そこそこの収益を生み出し,数々の賞を受賞したが,比較的低予算で開発された。

「シャドウ オブ ザ トゥームレイダーや,ほかのAAAレベルのシングルプレイゲームは,7500万〜1億ドルのコストがかかっています。しかもこれは制作費だけです」

 「素晴らしいゲームですよね。今ちょうどプレイしています。ビジネスモデルを変えようとすることについて先ほど話したこととまったく同じです。これは6時間程度でクリアに至るゲームだと思います。きわめて映画的で,キャラクターが中心に据えられていて,エクスペリエンスとしてかなり好きです。20人ほどのチームで作られたと聞き,いろいろ調べました。興味深い新しいアプローチで,素晴らしい結果を出しているからです。比較的年齢が高いストーリー主導のゲームのファン層を引きつけるとてもいい方法だと思います」

 Eidos Montrealは新しいスタッフを大量採用する予定だと前述した。現在手がけている実験と技術開発のためで,同社はAIと機械学習の部門を立ち上げ,データ・サイエンティストやアナリストを採用し,「新しいプラットフォームの準備をする」ために技術グループを再構築しているという。

 「私はリアクティブの対極となるプロアクティブであることを好みます」とAnfossi氏は説明する。「AIの分野での一例を紹介しましょう。現時点では,良い経験を生み出すためには,100種類のアーキタイプを作成する必要があります。現時点での作業は,その試みを変えてAIを一つだけ作成し,それをプレイヤーのスタイルにリアクトするように教育することです。これは開発に対するこれまでにないアプローチで,こうすることでより効率的になります。ゲーム制作の予算を抑えつつ,エクスペリエンスはずっと良くなると信じています」

 Eidos Montrealの作品リストには,デウスエクスやシーフのようなよりニッチなゲームがずらりと並ぶ。結果として,その規模(スクウェア・エニックスチーム最大の500人以上のスタッフを抱える)にもかかわらず,Crystal Dynamicsのような兄弟スタジオほど有名ではない。だがスクウェア・エニックスの欧米最大のIPであるシャドウ オブ ザ トゥームレイダーで変わるところかもしれない。Eidos Montrealはトゥームレイダーのすべてのリブート作品に関わってきたが,Crystal Dynamicsがリードし,同社はサポート的な位置付けだった。だが今回は違う。

シャドウ オブ ザ トゥームレイダーは,Eidos Montrealの最大のプロジェクトだ

 「Eidos MontrealとCrystal Dynamicsはこのリブート作品の開発を一緒に始めました」とAnfossi氏は回顧する。「彼らがライズ オブ ザ トゥームレイダーをデリバリしていた2015年の終わり頃に,シャドウの開発が始まりました。ですから,ライズからシャドウへのトランジションがまずあり,一緒に作業していました。それからはタイミングの問題で,彼らはアベンジャーズに焦点を当て始めました。私たちはそのまま作業を続け,シャドウ オブ ザ トゥームレイダーは主に当社での開発となりました。私たちはアベンジャーズでもCrystal Dynamicsとコラボレーションしていますよ」

 「一緒にやっていくためのやり方を学びました。決して簡単なことではありません。遠く離れた場所でのコラボレーション,両者で異なるゲーム開発方法や社内カルチャー……正直に言いますが,簡単なことではありません。私たちEidos Montrealは2フロアに入っていますが,その中で一緒に仕事をしている人の間にですら距離があるくらいですから。何度も言いますが,決して簡単なことではないものの,これらの問題をなくしたり軽減したりするツールやプロセスを開発しました」

 シャドウ オブ ザ トゥームレイダーがリブート3部作の完結編であり,そして前2作は違うグループにより制作された経緯を考えると,彼らが作ったテンプレートを踏襲する必要性と,そこから脱却したいという気持ちの間で板挟みになるに違いない。Anfossi氏によれば,本作が前2タイトルの一部であることは,同社がトゥームレイダーというブランドの主要人物を理解し,同社ができること(そして,すべきでないこと)を把握していることを意味する。

 「デウスエクスやシーフと同様,コンセプトを作り始めるよりも前にまずやるべきことはシリーズの本質を理解することです。でもその後は……私たちはクリエティブ側の人間です。前作の単なるコピペはやりたくありませんし,とはいえ,これまでの2タイトルをリスペクトしなければなりません。私たちは,ララ・クロフトのストーリーを完結させなければならないので,連続性についてはきちんと担保する必要があります」

 「そのうえで,私たちが作り上げるララ・クロフトを取り巻く環境や世界の作り方は,きわめてEidos Montreal らしい特徴を備えています。環境,キャラクター,ライティング,音楽,こういったものをどうやって作り上げるのか,どうやって伝えていくのか,知識を積み上げてきました。直接目で見えなくても,潜在意識で感じ取ることができる,これはデウスエクスで私たちが大いに学んだことです。これをシャドウ オブ ザ トゥームレイダーでもやります。私たちの特徴がはっきり出るはずです」

 Eidos Montrealはトゥームレイダー,アベンジャーズ,そして現在未公表の第3のプロジェクトに取り組んでいる。Eidos Montrealは独自のスタイルと特徴を有しているというAnfossiの信念を踏まえると,完全にオリジナルのプロジェクトはいつごろ期待できるのだろうか?

 「実際のところ,この10年はそのことを考えてますよ」とAnfossi氏は結論づける。「経験上,新しいIPを開発するのはとても難しいことは分かっています。謙虚でなければなりませんね。どのようなプロジェクトでもそうですが,見合った能力と十分な経験があり,共にやっていける人材を探さねばなりません。非常に大きな挑戦になりますが,いつか私は新しい世界観を作り出してみたいと思っています」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら