「今後数年であらゆるプラットフォームがレイトレ対応に」Tim Sweeney氏が語るUnreal Engineとゲームの未来

 2018年4月21日,京都府・京都コンピュータ学院でEpic Games Japanによる「UNREAL FEST WEST 2018」が開催された。それに合わせて来日したEpic Games Founder兼CEOのTim Sweeney氏に話を聞くことができた。

 間違いなく業界最高峰のLegend開発者の一人であり,業界的なビジョナリーの一人でもあるTim Sweeney氏。せっかくの機会なのでUnreal Engineの状況から業界全体の問題までいろいろ無茶なことまで聞いてみたので,ぜひ一読してみてほしい。

GamesIndustry.biz Japan Edition(以下,GIJE):
 本日はよろしくお願いします。以前4Gamer.netでインタビューしたのはUnreal Engine 4が発表された2012年のことでした。動的ライティングによるハイエンドグラフィックスで注目されていたUE4が,実はモバイルからハイエンドPCまで共通で使えるスケーラビリティと生産性の向上を第一に置いたエンジンだと聞いてとても驚いた覚えがあります。
 スケーラビリティでいうと,最近ではモバイルでもUE4によるゲームが目立つようになってきましたね。

モバイルでも本格的なゲームが動くようになってきた
「今後数年であらゆるプラットフォームがレイトレ対応に」Tim Sweeney氏が語るUnreal Engineとゲームの未来

Tim Sweeney氏:
 我々も最近のモバイルの状況にはとてもワクワクしています。年々ハードの性能が上がることで,高速でパワフルな端末が登場しており,実際に家庭用ゲーム機並みのクオリティのゲームをモバイルで動かすことが可能になってきています。現実として,PS4 Pro向けに作られたようなゲームがiOSやAndroidにも提供されるようになってきました。例を挙げると,PUBGやRocket League,ARK:Suvival Evolvedだったりといったものがあります。これらはまさにコンソールクオリティを達成したゲームといえるでしょう。
 これまでの「モバイルといえばカジュアル」といった状況から, もっとシリアスなゲームをモバイルでも確実に起きています。この点で最も進んでいるのは韓国なのですが,同じようなトレンドは今後世界でも広がっていくと思います。

GIJE:
 昨年はいきなりあのレベルのMMORPGがサクサク動いていて,Lineage 2 Revotutionにはとても驚かされました。

Tim Sweeney氏:
 ビジュアルもそうですし,オープンワールドのMMOをモバイルで達成したという意味で我々も驚きました。

GIJE:
 あれはUnreal Engineの開発者から見ても凄いものですか?

Tim Sweeney氏:
 Lineage 2 Revolutionを作ったチームのことは古くからのつきあいでよく知っており,きっとまた凄いゲームを作ってくれるだろうとは思っていましたが,あそこまで商業的に成功するタイトルになるとは思っていませんでしたね。韓国では国民の5%がプレイしているという状況です。

※リリース直後の月間アクセスユーザー数は人口の10%に達していた(関連記事)。余談だが,韓国でのLineageシリーズは国民的なゲームであり,Lineage IIのモバイル版にはこのNetmarbleによるLineage 2 Revolution以外に本家のNCsoftがLineage 2Mを開発中となっている。別途,中国ではSnail Gamesによるものがサービス中だ。

GIJE:
 スケーラビリティのハイエンド方向でいうと,昔はハイエンドPCゲームが頂点でしたが,最近では建築,映画などエンタープライズ用途にまで広がっていますね。

Tim Sweeney氏:
 エンタープライズ系の企業というのは古くからコンピュータグラフィックスを使っていましたが,彼らのかけていたのはリアルタイムの要素でした。現在,どの企業もリアルタイムにシフトしようとしています。とくに建築分野においてはそれが顕著ですね。
 最初はそちらのニーズにまったく気がついていなかったのです。我々が気づいたときには,すでに建築分野のマーケットシェアの30%をUE4が占めていました。
 テレビなどでも同じ状況でした。リアルタイムで映像を作ることで制作パイプラインも変わりますし,大きな変化が起きているのかなと思います。実際に子供向けのテレビ番組をUE4でリアルタイムに作っている例もありますね。

UE4で作られているテレビ番組
「今後数年であらゆるプラットフォームがレイトレ対応に」Tim Sweeney氏が語るUnreal Engineとゲームの未来 「今後数年であらゆるプラットフォームがレイトレ対応に」Tim Sweeney氏が語るUnreal Engineとゲームの未来

GIJE:
 現在ではUE4はゲームエンジンという枠組みを超えたものになっていると考えてよいのでしょうか。

Tim Sweeney氏:
 そうですね。まさにおっしゃるとおりのことが起きています。これまでCGが使われていたのはテレビやスマートフォンのような2次元の画面に対してのみでしたが,今後数年で,メガネのようなデバイスでAR表示行われるなど,さらにリアルタイムのCGが使われることが増えてきます。ゲームエンジンが我々の生活の中心に位置するものになってくるでしょう。そういう意味では凄くワクワクしていますね。

GIJE:
 UEの方向性としてはビジュアルに特化しているのでしょうか。BluePrintなどはいろいろな目的で使えるものだと思うのですが,もっと一般的なプログラミングについてはどうなのでしょうか。

Tim Sweeney氏:
デジタルヒューマンの例:SIRENさんの目元
「今後数年であらゆるプラットフォームがレイトレ対応に」Tim Sweeney氏が語るUnreal Engineとゲームの未来
 我々としても,ビジュアル以外の部分,とくにネットワーキングであるとか,物理計算であるとか,シミュレーションといった部分には力を入れています。すでに,自動運転の分野では,ディープラーニングのプログラミングにUE4を使っているところもあります。そういう意味ではゲーム以外のあらゆる産業でUE4を使ってもらえるチャンスが出てくると思っています。
 ゲーム自体はこれからもどんどんリアルになっていくでしょう。その過程で,オブジェクトの物理的な関係であったり,破壊表現であったり,デジタルヒューマンであったりといった,ゲーム内で必要とされる要素を発展させていけば,それらがゲーム以外の産業で使われる事例もどんどん増えていくのではないかと思っています。

デジタルヒューマンの例:SIRENさん産毛
「今後数年であらゆるプラットフォームがレイトレ対応に」Tim Sweeney氏が語るUnreal Engineとゲームの未来

GIJE:
 現時点でもモバイルからエンタープライズまで広がったUE4のスケーラビリティですが,これはどこまで広がるとお考えですか。

Tim Sweeney氏:
 現在のスケーラビリティというと,モバイルでも3Dのゲームが動くというレベルだと思うのですが,次のステップとしては,まったく同じゲームがすべてのプラットフォームで動くということが重要になってくると思います。そして,すべてのプラットフォームでクロスプレイができるということがさらに重要になってきます。
 同じゲームを友達とプレイするというソーシャルな要素は非常に大事ですし,ある人はiPhoneしか持っていなくて,ある人はPS4しか持っていなくて,でも一緒に遊びたいというときに,同じゲームを違ったデバイスで楽しめるというのは今までになかった環境ですし,「友達と一緒に遊びたい」という我々人間の本能的なものを考えると重要なステップになると思っています。

※以前物議をかもしたRocket LeagueではPS4以外はどの機種とでもクロスプラットフォームでの対戦ができるのだが,PS4はPCとのみクロスプラットフォーム対戦が可能という仕様だった。Fortniteでは,PS4版はXbox以外のすべてのプラットフォームとの対戦が可能になっている。

2018年初めの時点でのFortniteのクロスプレイ対応状況
「今後数年であらゆるプラットフォームがレイトレ対応に」Tim Sweeney氏が語るUnreal Engineとゲームの未来

GIJE:
 そういう意味では,Fortniteはマルチプラットフォームとクロスプラットフォームプレイのショーケースのような感じで作られていますが,現時点で同じことをするのはそれほど簡単ではないのでしょうか。

Tim Sweeney氏:
 もちろん,単一のプラットフォームに向けてゲームを作ることと比べれば,多くのプラットフォームに向けたゲーム開発は労力が多くかかります。ただし,現在ではかつて思われていたほどの大変ではなくなっています。UE4もそこをサポートしていますので,日々必要な労力は減少しているといっていいでしょう。ユーザーベースも増えますし,クロスプレイというのは非常に重要なことです。
 逆に考えると分かりやすいかもしれません。FacebookやTwitterがそれぞれのデバイスごとに分断されていて,iOSユーザーはiOSユーザーとしかやり取りできないとなったら,どんなに不便でしょうか。それは非常に馬鹿馬鹿しいことですが,ゲーム業界は過去20年まさにそのような状態だったわけです。

GIJE:
 Fortniteでは,従来難しかったPlayStationプラットフォームとのクロスプレイを実現しています。それはどのようにして勝ち取ったものなのでしょうか。

Tim Sweeney氏:
 それの実現に至るまでにはとてもたくさんの交渉が必要でしたし時間もかかりました。なによりも重要なのは,我々が非常に熱意を持ってぷラットフォーマーに働きかけたことです。その熱意にソニーやMicrosoft,Apple,Googleといった会社が共感してくれたのです。我々はクロスプラットフォームでこんなことができますよというデモを作って説明に回りました。そこで強い共感を得て,各社も熱心に対応してくれました。

GIJE:
 それでも厳しそうな会社はあると思うのですが,実際のところ,どのように説得したのでしょうか。

Tim Sweeney氏:
 最近では,子供たちが最初に手にするゲームプラットフォームは,スマートフォンになってきています。あるゲームをモバイルでプレイしていたとして,その子が大きくなってもっとよい環境でプレイしたいと思ったときに,クロスプラットフォームプレイができる環境であれば,コンシューマゲーム機に移行するという自然な流れができます。ですので,クロスプラットフォームプレイは,コンシューマゲーム機メーカーにとってもメリットがあるものなのです。

GIJE:
 なるほど。では現在ではほかのメーカーがクロスプラットフォームプレイを実現したいと思った場合,以前よりは簡単になっていると思っていいのでしょうか。

Tim Sweeney氏:
 そうですね。我々が道を作ったので,ほかのメーカーもやりやすくなったでしょう。

GIJE:
 それは素晴らしいですね。
 話を少し戻して,今度はUE4の生産性について聞きたいのですが,スケーラビリティの発展については分かりやすいのですが,生産性についてはなにか具体例などはないでしょうか。

Tim Sweeney氏:
 いくつか挙げられると思うのですが,まずUE4がゲームに必要な要素の多くを備えているというのがあります。レンダリングや物理演算だったりネットワーキングだったりと,ゲームによって異なりますが,だいたい一般的なゲームに必要な要素の9割はすでにUE4で提供されていると思ってよいでしょう。ですので,UE4を使うデベロッパはそういった共通部分に煩わされず,ゲーム部分に集中して作業できます。
 2点めとしては,UE4ではレベルデザインなどアーティストだけで完結できる作業が多いことです。従来はプログラマチームの協力を得ながらでないと進められなかったものがアーティストだけでできるのです。どんな組織でもそうですが,違う部署の人が作業に関わってくると非常に効率が悪くなるものです。プログラマチームを待たずにアーティストだけで作業を進められるというのは非常に大きいと思います。
 3点めとしては,UE4にはたくさんのツールが含まれていますが,どのツールもEpicが作っているゲームで十分にデバッグを行い,最適化を済ませた洗練されたものです。かつ複数のプラットフォームやAmazonなどのサードパーティのツールのインテグレーションも済んだ形で提供されています。
 具体例を挙げますと,AstroneerというタイトルはPCとPS4とXboxでリリースされて何百万本も売り上げていますが,開発者はたった6人でした。日本でもTiny MetalはPC,PS4,Switchで発売されていますが,メインの開発者はたった2名です。

GIJE:
 少人数でもマルチプラットフォームタイトルが作れているということですね。
 では次にUE4の表現力についてなのですが,GDCではRTXに対応したリアルタイムレイトレーシングのサポートが発表されました。まだハード的にもソフト的にも普通のゲームに使えるようなものではないとは思いますが,いかがでしょうか。

※RTXはDirectX Raytracing(DXR)に使われているNVIDIAの基本モジュールだが,現状では唯一の実装なので,以下ではRTX=DXR=リアルタイムレイトレーシングとして扱う。

UE4上で動くレイトレーシングのデモ
「今後数年であらゆるプラットフォームがレイトレ対応に」Tim Sweeney氏が語るUnreal Engineとゲームの未来

Tim Sweeney氏:
 今すぐにということであれば,エンタープライズ系ではインパクトのあるものだと思います。テレビとか映像制作ですね。いままで不可能だったレベルのクオリティをリアルタイムで出せるというのが今回の技術ですので,反響は大きいと思います。
 ただ,ハードウェアメーカーがRTXを直接使えるようなGPUを出せていませんので,それが出てくれば,もっと広範囲でこの技術が使われていくようになるでしょう。

UE4デモの光源形状の一例
「今後数年であらゆるプラットフォームがレイトレ対応に」Tim Sweeney氏が語るUnreal Engineとゲームの未来
※GDCで公開されていたさまざまなリアルタイムレイトレーシングのデモを見て,「あんなに動くわけがない」というのがある程度レイトレーシングに詳しい人が共通で抱いた感想だろう。
 実際のところ,いくつかのデモについてははラスタライズとのハイブリッドでかなりトリッキーな手法で実現された映像ではあるらしい。Epicのデモについては,おそらくほとんどがレイトレーシングによるものだと思われ,発表時には光源の形状を変えて影の変化を見せるなどのデモが行われていた。

UE4のデモでは光源の形状を変えると影の状態も変わる
「今後数年であらゆるプラットフォームがレイトレ対応に」Tim Sweeney氏が語るUnreal Engineとゲームの未来 「今後数年であらゆるプラットフォームがレイトレ対応に」Tim Sweeney氏が語るUnreal Engineとゲームの未来
「今後数年であらゆるプラットフォームがレイトレ対応に」Tim Sweeney氏が語るUnreal Engineとゲームの未来 「今後数年であらゆるプラットフォームがレイトレ対応に」Tim Sweeney氏が語るUnreal Engineとゲームの未来

こちらはMetro Exodusでアンビエントオクルージョン処理のみをレイトレ化した実装(右がレイトレーシングによるAO,左がSSAO)
「今後数年であらゆるプラットフォームがレイトレ対応に」Tim Sweeney氏が語るUnreal Engineとゲームの未来

 ただし,Volta世代のGPU Tesla V100を4基搭載するDGX Station(約800万円)上で動作させるという力技だ。。Tesla V100を16枚使ったDGX-2に映像出力を付けたようなマシンを作ればもっと凄いこともできるのかもしれないが,ゲーム用途ではコスト的に見合うものにするのは難しいだろう。
 NVIDIAのOptix(RTXのもとになったと思われる技術)以外でもGPUメーカー各社はAMDのProRenderやImaginationのレイトレーシングチップなど,独自にリアルタイムレイトレーシングを研究しており,それなりの下地は持っているが,どれくらいで具体化されるのかは不透明だ。
 現在はAI用に設計されたTensor Coreを動員して実現されているRTXだが,Sweeney氏はもっとRTXを直接的にアクセラレートするGPUの登場と,その普及を確信しているようだ。
 さらにレイトレーシング部分は,より少ないレイでレンダリングしたノイズの多い画像を,機械学習したデータを使って綺麗に仕上げるというパスも用意されており,リアルタイムレートレーシングの可能性はさらに広がりそうだ。いずれにしても現状のRTXはまだ実験段階であり,対応GPUが登場してからがリアルタイムレイトレーシングの真価が問われる局面となるだろう。


Tim Sweeney氏:
 おそらく今後数年の間に,モバイルを含めたあらゆるプラットフォームにおいてこの技術が使えるようになるのではないのではないかと思います。ハードウェアアクセラレーションが有効になれば,プラットフォームの垣根を超えてこの技術が使えるようになりますので,より大きなインパクトが出てくるでしょう。

※「あらゆるプラットフォーム」というあたりは当然ながら家庭用ゲーム機を含んでいると思われる。現状ではRTXを持つNVIDIAにも対応GPUは存在せず,NVIDIA以外のメーカーがどれくらいの期間で対応できるのかはさらに未知数だ。次世代の家庭用ゲーム機が噂される時期にレイトレーシング対応のGPUが出ているかなど,ロ−ンチタイミングがスパンの長い家庭用ゲーム機では問題になりそうではある。
 
GIJE:
 Timさんはかなり以前から現在のラスタライズをベースにしたリアルタイムCGに限界を感じていたようですが,今回のレイトレーシングはTimさんを満足させるようなものだったのでしょうか?

Tim Sweeney氏:
 そうだと思います。
 過去10年を振り返ると,映画産業においてもほとんどの会社がラスタライズを離れてレイトレーシングに進んでいます。なぜかというと,この現実世界にあるすべての事象を再現しようとしたときに,唯一それが可能な手法がレイトレーシングだからです。ですので,映画産業にとっては重要な技術であり続けると思います。

GIJE:
 これがPCゲームに降りてくるのにどれくらい時間がかかるでしょうか。

Tim Sweeney氏:
 ハードウェアアクセラレーションがないと実現できませんので,完全に新しい世代のGPUが必要です。NVIDIAやAMDがいつ頃そういったものを出すのかはこちらでは分かりません。しかし,過去の事例を見ても,新しい世代のGPUはかなり早い間隔で登場していますし,MicrosoftもRXTには非常に力を入れています。

GIJE:
 それほど待たなくてもよさそうですね。
 さて,スケーラビリティや生産性,表現力などで完成度が高まっているUE4ですが,現状で抱えている課題などはありますか。

Tim Sweeney氏:
SIRENさんのスペック。ポリゴン数は顔だけで70万。顔以外の身体全体は4万。顔のリグコントロール数は185に上る
「今後数年であらゆるプラットフォームがレイトレ対応に」Tim Sweeney氏が語るUnreal Engineとゲームの未来
「今後数年であらゆるプラットフォームがレイトレ対応に」Tim Sweeney氏が語るUnreal Engineとゲームの未来
 いくつかあります。まず,本当に現実の人間と寸分変わらないレベルのデジタルヒューマンを作ることですね。現在,我々も非常に真剣に取り組んでいます。GDCではSIRENという新しいデジタルヒューマンを発表しました。ただ,あれも本当に人間と変わらないかといわれると,まだその域には達していません。この分野は今後も研究開発を続けていきます。
 2点めとしては,もの凄い規模のマルチプレイヤーをサポートする機能ですね。数万人から数百万人の同時接続をサポートするような技術です。そのレベルのマルチプレイヤーサポートが今後必要になってくると思います。
 そして,一般的な話になりますがツール類をもっと生産性の高いものにしていくことも重要ですね。ゲームの開発費はいまだに高騰を続けており,これがゲーム開発のボトルネックになっていますので,これを解消するのはとても重要だと思います。

GIJE:
Tencent,Riotと協業で作られたAR的合成映像
「今後数年であらゆるプラットフォームがレイトレ対応に」Tim Sweeney氏が語るUnreal Engineとゲームの未来
 デジタルヒューマンにしてもARにしても,今回のGDCでは中国企業との連携が目立ちました。最近の中国のゲーム進出はもの凄い勢いなのですが,そもそものところで,EpicがTencentの資本を受け入れたというのは,どういう経緯だったのでしょうか。

Tim Sweeney氏:
 Epicは以前から業界のトップクオリティの企業と協業することを心がけていました。一つ前の世代でいうと,Gears of WarをMicrosoftと共に育ててきたというのもその一例です。振り返ると,2012年の時点でそれまでのコンシューマゲームの売り切り型からGame As a Serviceへのモデルに切り替えていくべきだという判断を会社としてしました。
 Gears of WarでMicrosoftと協業した次のステップとしては,普通のパブリッシャをパートナーに選ぶのはないと判断していました。当時,我々Epicとしてもゲームのパブリッシングや運営に舵を切ろうとしていましたので,その分野で大きな実績を持ち,中国という大きなマーケットについて豊富な経験と知識を持つTencentが最もよいパートナーになるだろうと判断したのです。実際,彼らから教えてもらった情報がFortniteの成功に大きく役立っています。

※6年前の2012年(UE4を発表した年)にTencentを選んだというのは驚きだ。
 Tencentは中国のQQというメッセンジャーサービス(当時中国でWindowsを買うと一緒に自動インストールされるレベルのソフト)から始まって,PCオンラインゲームに進出し,2012年当時は中国国内で最大規模のゲーム企業とになっていた。その後は世界の主要なゲーム企業に多大な投資とM&Aを繰り返している。
 かつて中国最大として知られていたShanda Games(盛大)も現在ではTencentの子会社であり,モバイルの巨人SupercellやLeague of LegendsのRiot Gamesなどを買収しており,Unreal EngineのEpic Gamesに対しても40%の株式を取得し,かつて敵対的買収に乗り出していたVivendiが保有していたUbisoftの株式20億ドル分を取得し,Paradox InteractiveやActivision Blizzardなどへも多大な投資をしているなど,現在のゲーム業界の主要な企業に対しての影響力は驚くほどの規模になっているといえる。
 調査会社のDigi-Capitalによると,2018年第1四半期に行われたゲーム関係の投資のうち,40%はTencentによるものであり,M&Aに関しては75%がTencentによるものだとしている。世界最大規模のゲーム企業体は現在もさらなる拡大を続けている。


「今後数年であらゆるプラットフォームがレイトレ対応に」Tim Sweeney氏が語るUnreal Engineとゲームの未来
GIJE:
 Tencentは昔から大きな企業ではあったのですが,近年の世界市場でのM&Aなどを見ると,非常に的確な企業にもの凄い投資が行われています。これはEpicからのアドバイスなどもあったのでしょうか。

Tim Sweeney氏:
 我々はエンジンビジネスを通じて世界中のゲーム企業と深いコネクションを持っており,そういった部分でTencentにアドバイスをするといったことは当然あります。またTencentのほうはゲーム運営についての豊富な知識をフィードバックしてくれますし,我々はゲーム技術や経験をTencentにフィードバックしており,非常によいパートナーシップができていると思います。GDCのデジタルヒューマンにしても,デジタルヒューマンの可能性を探るためTencentと協力しながら進めました。

GIJE:
 Epic Games自体の中国進出についてはいかがでしょうか。現状,中国ゲーム企業ではほとんどがUnityを使った開発をしています。今後Epicとしてはどのようにしていきますか。

Tim Sweeney氏:
 中国に限りませんが,UE4を使うかUnityを使うかは,どのようなコンテンツを作るかによって決まるものが大半だと思います。小さめのカジュアルなゲームであれば,Unityのスピードが向いていると思われているようですし,もっと大きな規模のコンソールクオリティのゲームであればUE4の生産性や表現力が役に立つと思われているようです。韓国やアメリカではより規模の大きなコンソールタイプのゲームが増えていますし,ハイエンドタイトルをモバイルでも展開しようという動きも増えています。そういった傾向は我々の追い風になるのではないかと考えています。

GIJE:
 分かりました。
 では次に業界全体の話をお聞きします。最近ではWHOのゲーム中毒など,ゲーム業界にネガティブな動きが出ていますが,これについてはどうお考えですか。

Tim Sweeney氏:
 全体として言うと,そういったゲームを攻撃するようなキャンペーンというのは往々にしてゲームのことを理解していない人によって起こされているというのが実態です。というのも,今のゲームの主流というのは非常にソーシャルなものになっているからです。一人で部屋にこもってといったオタクな生活は過去の話です。たとえばFortniteでは,クラスみんなで一緒にプレイしたり,プレイを通じて新しく友達が増えたりといったことが現実に起きていますので,そういった意味でゲームというのは非常にソーシャルなものになっているといっていいでしょう。

GIJE:
 Loot Boxなどの問題についてはどうですか。

Tim Sweeney氏:
 欧州を中心にLoot Box(ガチャ)の問題なども出ていますが,ゲーム中毒にしてもギャンブルに近い扱われ方をしています。そういう部分については,ゲーム業界全体で真摯に取り組んでいかなければならないと思っています。とくに子供向けのゲームについては注意していかなければなりません。

GIJE:
 Loot Boxやガチャについてですが,多くのゲームでの主要な収入源として定着しています。これに代わるマネタイズモデルなどはなにかありませんか。

Tim Sweeney氏:
 実際にFortniteでやっているものは,見た目がカッコよかったり,面白かったりといったスキン(コスチュームアイテム)ですね。そういったゲーム内の有利さにつながらないアイテムを販売するほうが好ましいと思います。プレイヤー同士が公平ですし,ガチャに付いて回るギャンプル的な仕組みも避けることができるので最適だと思っています。
 でなければ,コンシューマゲームのように定額での売り切りのほうが優れているでしょう。いずれにせよ,Loot Boxでゲーム内の有利さのためにお金を払わせるのはよくないやり方だと思います。

※スキンやコスチュームアイテムに人気が集まるというのは多くの地域,多くのゲームで共通している。オンラインゲームなどで主要な収入源になっているのはご存じの方も多いだろう。その需要が高いところにガチャを入れるのが主流だったりもするので困るのだが,Fortniteでは定額で直接購入できるようになっている。
 こういったものをユーザー間で取引可能にしてゲーム内賭博システムが構築されていたりするタイトルもあるのだが,それはまた別の話だ。


GIJE:
 Foortniteのモバイル版では,そういったスキンだけで1か月に2500万ドルの収益を上げたというニュースもありましたが。

Tim Sweeney氏:
 数字については一切お答えできませんが,Epicとして非常にいいビジネスになっているのは確かですね。ゲーム内で有利になるアイテムやLoot Boxに頼らなくても十分ビジネスとして成り立っています。

Superdataによると,モバイル以外のものも含めた全プラットフォームでの3月度の売り上げは2億2300万ドル(約244億円)になるという。

GIJE:
 分かりました。心強いですね。
 ただ,FortniteについてはPUBG(Bluehole)からシステムについての抗議が入っていましたよね。ゲームシステムやアイデアには著作権などは適用されないので,法的な問題はないとは思うのですが,これまでデベロッパの立場を代弁していたEpic Gamesの動きとしては少し意外に思えました。

Tim Sweeney氏:
 バトルロイヤルというシステム自体が,日本の映画に触発されて出てきたものですし,一つのジャンルの中で複数のゲームが出てきて競走が起きるというのは,これまでのゲームの歴史でも常にあったことですし,むしろ同じジャンルで多くのゲームが出てくるということは健全なことだと思っています。映画のバトル・ロワイヤルからArmaのMODが出て,H1Z1が出てPUBGが出てといった一連の流れがありますが,これは3Dシューターで言うとWolfensheinがあってDOOMがあってQuakeがあってUnrealが出たという系譜に当たります。一つのジャンルでまた別のゲームが生まれるのは,ゲーム業界にとってごく普通のことです。むしろ健全なことだと思います。

「今後数年であらゆるプラットフォームがレイトレ対応に」Tim Sweeney氏が語るUnreal Engineとゲームの未来

※Arma2のMODを開発したPLAYERUNKNOWNことBrendan Greene氏が,深作欣二監督の映画「バトル・ロワイアル」のオマージュとしてこのジャンルを作り上げたという話は広く知られている。映画バトル・ロワイアルは高見広春氏の小説を原作としているのでルーツとしてはさらに遡ることもできる。「無人島内のだんだん狭くなるエリア内で大勢が最後の1人になるまで殺し合う」という,近年のバトロワゲームのエッセンスはすでにここで出来上がっている。
 「大人数で最後の勝者が決まるまで戦う」ところまでなら,ラストマンスタンディングタイプのゲームルールとして,昔から多くのFPSで(それこそUnreal Tournamentなどでも)ルールの一つに採用されてはいたが,さほど人気があったわけではない。
 Greene氏が新タイプのルールを投入してから盛り上がったジャンルであり,PUBGが深作作品にインスパイアされたタイトルであるように,FortniteがPUBGにインスパイアされたゲームであることも間違いないだろう。ただ,後追いのバトロワ作品でもすべてがヒットしているわけではない。同じくUE4で作られたCliff Bleszinski氏のLawBreakersなどはかなり苦戦していたり,日本で人気のオンラインFPSであるAVAなどでも2015年には同様のルールが追加されていたりしたのだが,さほど話題にはなっていない。後追いでのヒットは荒野行動とFortniteくらいのものであろう。


GIJE:
 Fortniteの開発ではエンジン自体の改良を含め,バトルロイヤルゲームに適した手法の開発が行われており,またマルチプラットフォームやクロスプラットフォームプレイでの最良のショーケースとなっているように思われます。Fortniteのソースコードを公開する予定はないのですか。

Tim Sweeney氏:
 エンジンのコードとゲームのコードは厳密に分けて考える必要があります。Fortniteを作るうえでエンジンに加えた拡張については,すべてソースコードを公開していますのでUE4ユーザーの方は自由に参照可能です。ただし,ゲーム部分のコードについてはチートなどを防止する意味もあって,快適なゲーム環境を守る意味でも公開することはできません。ゲーム部分はEpicの所有物であり,そこを公開する予定はありません。UE4を使ったゲームのサンプルという意味ではUnreal Tournamentなどのソースコードを公開していますので,そちらを参照していただければと思います。

GIJE:
 分かりました。では最後に日本のゲーム開発者に一言お願いいたします。

Tim Sweeney氏:
 日本という非常にゲームの歴史のある国でたくさんの人にUnrealを使っていただいていることは,我々にとっても非常に誇り思っています。なによりも日本製の素晴らしいゲームがUnrealを使って作られていることに日々感謝しています。現在ではパブリッシャのEpic GamesとしてもFortniteを日本語版で日本の皆さんの楽しんでいただいており,ゲームの面でも日本の皆さんとご縁ができたことを喜ばしく思っています。

GIJE:
 本日はありがとうございました。