AIと機械学習がもたらすUbisoftの「Minority Report的プログラミング」とは

La Forgeは,バグ検知用のCommit Assistant AIはプログラミングの時間を20%削減できると主張している。

 人工知能は単にNPCを間抜けのままにしておくこと以上の仕事ができる。今週モントリオールで開かれたUbisoft Developers Conferenceの期間中,Ubisoftは,AIと機械学習でパブリッシャが行っていることの一部を少数のジャーナリストにチラ見せした。そのうちいくつかは,我々がよく知っているゲームでも大きな影響を与えていた。たとえば,Watch Dogsで運転の仕方をNPCに教える様子とか,For Honorで開発者が戦闘システムのテストプレイを行うのを補助するBotの作成などだ。

 しかし,おそらく彼らが語ったなかで最も素晴らしいAI/機械学習のプロジェクトは,プレイヤーからは機能的に目に見えないものだろう。そのプロジェクトCommit Assistantは,UbisoftのYves Jacquier氏が表現するところでは「Minority Reportのようなプログラミング」だ。「Commit AssistantはUbisoft Montrealの共同R&D部門Jacquierが率いるLa Forgeの製品です。これはプログラマに対してライターにおけるスペルチェック
のような仕事をします」

 Commit Assistantは,プログラマがゲームに新しいコードを追加したときに,バグを誘発するコートの部分にフラグを立てることを目的としている。
 La ForgeではUbisoftのゲーム開発のあらゆるステージから,約10年分のコード変更とバグレポートを使って鍛えることでこれを可能にしている。

 これは,過去にコードに追加されたバグやリグレッション(※バージョンアップによる不具合や性能低下)を分析し,プログラムのどの部分が手を入れられた新しいコードかをチェックし,どれくらい問題を発生させそうかを評価する「署名」を入れる。

 ここまでの結果は有望だ。Ubisoftは10個のバグのうち6個の精度で検出されており,誤検知率は30%だった。開発者がこれを使うにつれて,システムは自身を再訓練しており,バグ検知でのより高い信頼性と誤検知率の低下が期待されている。そして,これは潜在的なバグを特定するだけでなく,明白な問題は何であるのかを開発者に伝え,その解決策を提案する。UbisoftではすでにCommit AssistantをRainbow 6: Siegeので開発者とトラバーサルツールに取り組んでいる社内技術グループに向けて投入している。

 Jacquier氏は,このシステムがプログラマの作業時間を20%削減すると語っている。その数字はどうやって計ったのかについて尋ねると,Jacquier氏は,それは最近のテストケースをベースにしていると説明してくれた。

 「生産の管理下に置く前に動作確認をするため,我々はプロセスを停止して2つの製品を3〜6か月間観察しました」とJacquier氏は語った。「ちょっとどのように動いているか,作り出すバグがなにかを見るには,ヒストリーをベースとして,我々は単純にそのときに見つけたバグが何個あるかを知らせるプログラムを走らせます。そうすることによって,誤検知率などを推定します。我々は,それが開発チームが行ってきた仕事の20%になるという仮設に到達しました」

 氏は,これがプログラマの時間短縮に関してのみのものだと強調した。これにはQAスタッフの時間短縮が扱われていないが,60%のバグについて,彼らは再現や文書化,報告などに時間を費やす必要がなくなったのだ。

La Forgeの使命は,研究者が得意とすることとパブリッシャが得意なことの間の橋渡しをし,学会との協業をすることにある

 これによってどの程度開発期間を短縮できるのかを聞くと,Jacquier氏は,これの真価は人々をほかの作業ができるように解放することにあるのだと語った。氏は10年以上前にUbisoftが最初にモーションキャプチャに取り組んだときの苦労について語った。

 「我々が最初にモーションキャプチャを導入したとき,それは脅威として受け止められました。つまりそれはアニメーターの仕事を奪うと思われたのです」とJacquier氏は語る。「それは逆でした。モーションキャプチャはアニメーションを非常に容易にしたのです。それはアニメーターに,エモーションであるとか,目を見張らせるようなアニメーションの側面など,本当に価値がある部分にフォーカスできるようにしてくれます。我々はより目を見張らせるようなアニメーションを作りました。結局のところ,我々はアニメーターによって作られる,よりたくさんのアニメーションをゲームに入れたいと思ったのです」

 AIの進歩がゲーム開発の多くの分野に接していることもあり,これは多くの開発者たちを安心させることになっただろう。Jacquier氏は,AIプリグラムは,すでに人間の開発者が作る80%くらいのクオリティでゲーム用のアセットを作成することができると語っていた。

「完全に自動生成されたNPCを手にするにはあと3年かかると思います」

 「現在,AIはテキストの読み上げなどのかなり特定された分野の仕事を置き換えることができます。あなたが感情をいれなければですが」とJacquier氏は語った。「もしくはアニメーションですが,移動だけですね。フェイシャルアニメーションは,あなたが顔の表情に跳んだり動いたりといったもの以外を期待しなければですが」

 現時点で我々はキャラクターに残りの部分を加える開発者を必要としている。しかし,Jacquier氏はこれは一時的な状態だと信じている。

 「私は,ゲーム内で完全に自動生成されたNPCを手にするにはあと3年かかると思っています」と氏は語る。「それは自身のアニメーションとモデリングと表情,異なった表情やバリエーションによるテキスト読み上げなどを備えたキャラクターで,さらに,アニメーターやスピーチ,モデリングなどのスペシャリストによって現在作り上げられるものと総合的に比肩するくらいのものです」

 Jacquier氏は開発者がもっと多くのものをゲームに加えることができるようになることさえ負担になるとは思っていない。これは氏が作りたいものではないことを認めている。氏は単にうまくやれば新しい方向でゲームできるようなツールを作っているだけなのだ。

 「私が考えているのは,AIは単にツールだということです」とJacquier氏は語る。「それはいつもツールでした。そしてそれは人々の能力を増強するでしょう。ほかのツールと同様に,なにができてなにができないのか理解するのに時間がかかります。それは適切な方法で使われるべきなのです」

 AIと機械学習を「適切な方法」で使うということは,それらを不適切に使う方法があるという意味だということに注意しなければならない。そしてそれらはあらゆる種類のSF映画の前提とうろたえる技術記事をもたらしている。

 「当惑させられるのは,最近のAIの進歩について語るとき,人々がSkyNet(※映画ターミネーターに登場するコンピュータ)を考えることです」とJacquier氏は語った。「人々は我々がすでに人類より優れた汎用人工知能やロボットを実現していると思っているのです。私はそれが正しい疑問だとは思いません。現時点での正しい疑問というのは『会社は私のデータでなにをしていますか? 私がオンラインに残した情報の本当の使い道はなんですか? それらの会社は広告をターゲットにしたAIを作るのにどのようにそれを使っていますか? もしくはほかの会社に提供していますか?』といったものです。これが実際のAIで大事なことであり,我々すべてがもっと関心を持たなければならないことだと思います」

 「あとは,我々が,AIができること,データ利用という点で我々がどこまでそこに到達してるかということについて,透明性を高くしている限り,人間にそれを使ってなにをするのか決めさせることはほとんど倫理的な選択となっています。11年前にモーションキャプチャでやったように,我々はそれをアニメーターの手に託しました。なぜなら彼らはそれの使い方を知っていたからです。そして我々は現在AIツールについて考えています。これはまったく同じ問題です。私がクリエイターに期待しているのは,これが,もっと刺激的で魅力的な作品とゲーム体験を提供するために彼らの時間を開放してくれることです」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら>)