【月間総括】なぜPS4は日本では安売りされないのか? 任天堂はSwitchを量産できるのか? 年末商戦に見る課題

 米国の調査機関NPDによると,2017年11月のPlayStation 4の米国販売が過去最高となったようだ(関連記事)。これは,ブラックフライデーに期間限定の大幅な値下げを断行したことが最大の要因である。米国は所得格差が大きいため,一定の価格を下回ると販売が急増するケースがある。
 ニンテンドー2DSも価格を100ドル以下にしたときに販売が大きく伸びた。値下げでトレンドを変えることはできないが,短期的な需要喚起効果は大きい。
 Xbox Oneもそうだが,PS4も含めて日本では人気がない。PS3並みの水準に留まるPS4を健闘していると評する向きもあるようだが,PS3はPS2の半分にも満たない大失敗だった。大失敗の製品と同じということはPS4も国内では大失敗なのである。このことが,Microsoft,ソニー両社に米国に注力する余裕を生じさせ,11月に大量投入できたという側面もある。
 1年以上前にPSVRについて述べたときにも指摘したが,普及するためには「大量生産できる」という要素が重要である(関連記事)。PS4は設計思想が優れており,自動化されたラインで大量生産しやすいように単純な構造が採用されている。ソニーは電機メーカーであり,EMSが大量生産しやすい設計を熟知している点は,他社には真似できないものである。MSや任天堂のゲーム機が構造上,自動化しにくいのとは対照的である。

 まとめると,11月の米国における記録的な販売量は,

  1. 値下げの効果
  2. アロケーション的に米国を優先できたこと
  3. 優れた生産性によるもの

と,エース経済研究所では考えている。
 そのうえで,疑問なのはここまで米国を優先している点である。確かに米国は大きな市場であり,全体の約半分を占めるが,英米市場で強いXboxシリーズが世界全体で見ると存在感が薄い点からしても,米国だけに注力する意味があまりない。
 しかし,何度か指摘しているように同社があからさまな日本軽視,米国偏重になったのは,米国に本社を移したことが影響していると見ている。ソニー本社は投資家向けに,米国移転は,

  1. アメリカ市場が大きいこと
  2. PSビュー,PSNOWといった米国の最先端技術を活用したサービスを展開するため

としていた。しかし,PSNOWも,PSビューもうまくいっているとは聞き及んでおらず,Wii,DS,スマートフォンゲームアプリ,そしてNintendo Switchのような日本で最初にはやったもののほうが,世界全体で受け入れられやすいのが実情である。
 しかし,SIEは失敗を受け入れらない組織になっており,市場の大きなアメリカに注力する必要があるとすることで移転の正当化を狙っているのではないかと,エース経済研究所では考えている。
 また今後,国内のPSプラットフォームの衰退をもたらす可能性があるとも指摘していた。実際,今回の値下げは日本ではまったく実施されず蚊帳の外である。本社からは,サブセグメントレベルでの黒字化と,リカーリング施策を求められており,日本ではとても一時的な値下げを実施できる状況にはない。要するに,日本は重要性の低い市場として扱われてしまっているのである。

 米国での11月の販売好調,そして国内販売の不振は,日本軽視を一層強めることになろう。とくに,SIEは日本でゲーム機販売が低迷している要因をソーシャル・スマートフォンゲームアプリ市場の拡大によるものとしていた。これが誤りだったことは,Nintendo Switchの販売好調ですでに明白だが,SIEはこれを認めることができない。事実,Vitaは誰が見ても失敗は明白だが,決して認めようとしていない。PS4も同様で,SIEは,今後も日本市場ではゲーム機自体が売れないと言い続けるしかないということである。
 何度も指摘しているが,SIEに必要なのは失敗を認めることである。任天堂の経営陣とSIE,ひいてはソニー本社の経営陣との決定的な差がここにある。失敗を認められなければ,今後も同じことを繰り返すことになるだろう。

 次に任天堂である。NPDのデータからは,

  1. 日米欧で好調に販売が伸びている影響で,アロケーション上の問題を抱えていること
  2. Nintendo Switchは生産と部材調達に問題があり,簡単に生産を増やせないこと

が明らかになっている。
 任天堂は現在,月産200万台程度の生産能力を外部の協力工場に持っているようだ。しかも,発売からずっと販売好調だったために夏場に作り溜めすることもできなかった。生産は秋から月産200万台に到達したと見ているが,11月生産分は船便では欧米のクリスマスに間に合わない。航空便を使っても11月のブラックフライデーに間に合う量は極めて限られていたということである。しかも,同社は値下げを実施していない。同社の戦略目標は「ゲーム人口の拡大」であり,Nintendo Switchを世界に普及させることを目指しており,特定の地域での値下げには積極的ではない。
 以上のことを踏まえると,10-12月全体でのアロケーションも考慮した総数を見ないと正確な分析はできないだろう。
 少なくとも任天堂は11月に米国で販売台数がトップになることに意義があるとは考えていない。任天堂にとって重要なのは多くの人に自社IPを認知してもらい,「ゲーム人口の拡大」を実現することである。販売台数に一喜一憂しても仕方ないということであろう。

 ところで,エース経済研究所では,Nintendo Switchは来期3000万台の生産が必要と考えている。この点については,多くの人に異論があるのではないだろうか。例えば,エース経済研究所の今期の販売(着荷)台数予想は1600万台で期初から変更していない。おそらく,現時点でも予想は高すぎると思っておられる方が多数ではないだろうか。期初時点では,会社計画が1000万台,アナリストのコンサンサスよりはるかに高い水準で,常識的な予想ではなかった認識している。そして,来期の大型タイトルが発表されていないことが,エース経済研究所の予想に異論をもたらしており,Nintendo Switchの販売が来期に急減速するとの見方の根拠になっていると思われる。
 しかし,そもそもゲーム機はソフトでは売れてないのである。これは,エース経済研究所だけが主張しているのでは無く,任天堂もそのように回答しているのである。
 理由は主に二つある。一つは,“形”仮説でも述べたように,任天堂は非常に強力なIPを持っているにも関わらず,ハード販売の波が大きすぎる点のである。ソフトでハード販売が決まっているなら,このようなことは起こりえない。もう一つは,最初に低迷すると,キラータイトルでも挽回できない点である。実際,PS3はFF13をはじめとしてサードパーティの大作が投入され,Wiiよりも長期間販売したにもかかわらず,ついにWiiを超えられなかった。不振だったWii Uも任天堂の主力タイトルが発売されたが,事態を改善できなかった。さらにPS4も,「FF15」「ドラクエ」,12月には「モンハンワールド」のダウンロード権付き限定ハード「PS4PRO」まで投入しても,国内ではPS3と大差がないのである。
 一方で,タイトルが少ない,価格が高い,クリスマスにタイトルが発売されないと批判を受けたNintendo Switchはすでに国内販売(実売)台数が300万台に迫る水準(原稿執筆時点では未発表だが,クリスマスで大きく超えたであろう)にある。
 ソフトウェアでハード販売が伸びるなら,この状況をまったく説明できない。

 ゲーム機はハードウェアのデザインとスタイルで売れていると考えるのが妥当だろう。ソフトがまったく必要ないと言っているのではない。勝敗を決する力がないだけなのである。一定量のソフトがあれば,Nintendo Switchは来期も大きく販売を伸ばすだろうと,エース経済研究所では考えており,今期が1600万台の販売(着荷)台数であれば,来期は2000万台後半の販売(着荷)台数に達し,生産台数は3000万台規模が必要になると見ているということである。
 その実現には,問題が二つある。一つは,Nintendo Switchの生産性である。Nintendo Switchは,コントローラも含めて複雑な工程が必要と推測される。部品点数を減らし,自動ラインで大半の工程が済むように設計されたと考えられるPS4と同じというわけにはいかないのである。生産性が低いということは多数の人員とラインが必要になる。この設備投資を決断しなければならない。経営者は在庫が溜まるリスクも考えざるを得ないため,この手の投資には躊躇しがちである。
 もう一つは,受動部品の不足である。積層セラミックコンデンサ(MLCC)や抵抗器などの受動部品も世界的な半導体需要の高まりで,需給がかなりタイトになっている。
 MLCCメーカーにヒアリングすると,来期の増産分はすでに大部分の販売先が決まっているようだ。Nintendo Switchはそもそも,任天堂自身を含め,これほどまでに売れるとは思われていなかったので,部品メーカーもノーマークだったのでる。それが前期300万台程度,今期1800万台(エース経済研究所予想)と急激に増えるため,需給に影響が出たと考えている。
 来期はさらに増産を目指すとなると,MLCCをはじめとした受動部品の調達も課題となるだろう。

※12月年末最終更新日につき,本日掲載しています。