alive 2017基調講演レポート:「描いた絵が動く」その感動をすべての2Dクリエイターに

Live2D代表取締役 中城哲也氏
 2017年12月4日,都内・秋葉原UDXでLive2D Creators Conference「alive 2017」が開催された。
 イベントの冒頭では,Live2D代表取締役の中城哲也氏から「動き出すLive2Dの未来」と題した基調講演が行われた。ここではLive2Dの現状や今後の予定などが語られた基調講演の模様をお伝えしていきたい。

 中城氏は,冒頭でLive2Dの現状を数字を示して説明した。そのうちからいくつか興味深いものを拾ってみよう。

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 Live2D Cubismの用途を見ると,ゲームが45%,映像制作が40%となっている。ただし,ゲームそのものはLive2Dではないがゲーム内の動画にLive2Dを使っているという微妙なものが9%ある。非リアルタイムの映像用途がほぼ半数,ゲーム関係が過半数になる。ゲーム以外での用途が意外に多いことに驚いた。
 また,AppAnnieによる2016年の日本のスマートフォンアプリパブリッシャのトップ52社について調べたところ,実にその88%がすでにLive2Dを導入しているという。限られた資源で動くスマホでは高い表現力をリーズナブルに発揮できるLive2Dが有効だということだろう。ちなみに世界のトップ52社では37%となる。この結果に対して中城氏は,なかなか「きたな」という思いとまだまだ「3分の2が残っている」という思いに駆られるという。日本の会社を含めての37%なので,海外自体にはまだまだ浸透が進んでいない。逆に言えば,成長の余地は大きい。最近は中国などアジア圏での採用の兆しが出てきているそうで,今後の展開が楽しみなところだ。

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 そのほか,ライセンス数は前年比1.5倍となったという。ただし,これはインディーズ作品や映像作品を含まないものなので,実数はさらに多くなると思われる。
 認知度という面では,Twitterでのワード検索数の推移が示された。Face Rigがバズったあたりで大きな山を成しているが,それもほどなく沈静化し,最近では自然と話題数も増えているとのこと。日常的につぶやかれるような単語ではないと思うのだが,いくつかの山が連なっている感じだろうか。最近の話題を見てみると……艦これ系か……。とにかく,採用作が増えたことからか,一般への認知も上がってきてはいるようだ。


Live2D Cubism 3.0以降の展開


 続いてLive2D Cubism 3.0についての話題だ。Cubism 3.0は,当初は昨年秋くらいにはβ版が提供される予定だったのだが,かなり遅れて今年の4月にリリースされている。3.0には,これまで要望の多かった機能が多く取り込まれており,作業効率と表現力が大幅に向上しているという。ただし予定されていた機能のうち,楕円補間の機能と動画書き出しの機能は未実装となっている。
 リリースが遅れた原因について中城氏は「機能を盛り込みすぎた」と反省していた。氏が「これくらいは」と盛り込んだ結果,開発の遅れにつながったようだ。

 すでにCubism 3.1のアップデートも行われているが,そちらでも重要な機能追加が行われている。

  • ユーザーデータ
  •  「ユーザーデータ」機能は,たとえばメッシュデータに「燃やす」などといったフラグを立てておくと,(そのようなシェーダを用意すれば)燃えているような表現ができるという機能だ。メッシュやアニメーションに対して,あらかじめ決めておいた機能をラベルで管理できる。

  • 物理演算のベイク
  •  ゲームなどでは物理演算は,揺れモノなどに威力を発揮するが,それを動画でも使いたいという要望に応えて,物理演算の結果をアニメーションに焼き込む機能が用意された。

  • マルチキー
  •  たくさんの形状を一発で編集できる機能。描画順などの機能から実装されていく。

  • ポータブルビュアー
  •  3.0の時点では用意されていなかったビューアが追加された。


 また,今後Cubism 3.2での搭載予定機能として現在開発中の機能も公開された。
 スキニングは,スケルトンの動きに対してモデリングデータを関連付ける3DCGの手法だが,それと似たことを2Dで行うものだという。中城氏は「初音ミクのような髪型を5分で動かす」ことを可能にするものだと説明していた。かなり重要な機能となりそうだが,まもなく3.1にβ版として追加される予定とのこと。

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 そのほか,入出力関係の強化ではインポートが強化されてレイヤーマスク,クリッピングマスクなどに対応する。PSDファイルへの書き出しでは,原画の書き出しとレイヤー化されたレンダリング結果の書き出しの双方に対応するという。

 アニメータの強化ではユーザビリティの改善を中心に作業が行われており,アニメータキャンバス上で一部の編集作業ができるようになる。また,3.0で搭載予定だった動画書き出しはライセンス関係で難航しており,3.2ないし3.3での提供になりそうとのことだった。


Cubism SDK 3.0の新機能


 Live2Dのデータをゲームなどに組み込むときに必要になるSDKについての進捗も報告された。Cubism 3.0 SDKは,移植性などを考慮してこれまでC++で書かれていたものをCで作り直したという。
 さらにデフォーマなどのコア部分以外,レンダリングやアニメーションなどのフレームワークの部分はオープンソース化されたので,独自のカスタマイズを行うこともできるようになった。

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 Unityサポートが強化されて,Mecanim対応になったことで,Unity上で違和感なく扱えるように変更されている。また,C#で書かれていたプラグインのコア部分をCで書き直したことで,以前のものと比べて約3倍の高速化が図られたという。
 こうしてUnityでの使い勝手が上がる一方で,それ以外のゲームエンジンではネイティブ対応が必要になっていた。それのためのライブラリなどは用意されて,オープンソース化も図られているものの,どうしても手間はかかるため,今後はLive2D側でエンジンとのつなぎ込みの部分を作っていくとのこと。対応プラットフォームについては,要望の多いものから順次行っていくという。
 また,Web対応ではJavaScript版もasm.js出力がされるようになり,大幅な高速化が行われているとのこと。いつの間にかpixi.js対応で出力されていたことへの驚きのtweetもあったが,こちらも日々着実に進化しているようだ。

 そのほか,Cubism 3.0で作ったモデルを2.0系に慣れた人が使いやすいように,同様なワークフローで扱えるようにしていくという。イベント後半に行われた事例紹介でも2.0系のものがほとんどだった。開発期間を考えるとしょうがない面もあるが,簡単には移行できなかったということでもあろう。今後は,2.1のノウハウを生かしつつ,3.0へも自然に移行できるようになるとのことだ。


Live2D Euclidの状況


 デフォーマによる変形で擬似3D効果を出していたたCubismとはまったく違ったフォームコンポジットという技術でさらに立体的な動きを実現したLive2D Euclidだが,4月にリリースされて以降,すでに1.1,1.2のアップデートを完了している。
 1.1では,マーカー,ワープ変形,メッシュジェネレータが搭載され,11月にリリースされた1.2では長い髪の毛が動かせるようになったという。これはかなり大きな進展だろう。
 Euclid発表時のムービーに出ていたメリルのように,これまでもあまり動かないものなら扱えないことはなかったようではあるが,今回のアップデートにより,自然な長髪が表現可能になっている。

 今後の開発予定としては,2018年1月に予定されている1.3ではアートメッシュに3Do情報を付与するような作業効率アップ系のアップデートが行われ,4月に予定されている1.4では表現力を上げる方向でのアップデートが予定されているという。現在の研究内容のうち,どれが実装されるかはまだ確定していない。

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 当面の目標としては,現在の制作工数から50%削減してもっと手軽に扱えるようにすること,そしてゲーム組み込みなどを前提としたSDKでは,画面内に3体のEuclidキャラが表示できるようにすることだという。将来的には,現在の頭部のみの2D化から,3Dモデルを使わない,全身2D化が目標とされている。
 メリルの頃はちょっと見ると「あ!」という感じだったのが,ユイの頃になるとよく見ると「あれ?」くらいになり,最近のものではほとんどどの方向から見ても不自然さを感じさせられることがなくなってきている。360度全周からの視線に耐える2Dイラストは完成の域に至った。これを使った作品展開などに期待がかかるところだ。


Live2D Creative Studio


 Live2D社内のクリエイター集団であるLive2D Creative Studioの活動内容についても報告が行われた。Live2D Creative Studioは,Live2D採用企業への技術支援や作品制作を行っている部署だが,現在,Live2D採用作品が急増したことで,Live2Dクリエイターが枯渇状態になっているとのこと。
 とくに強調されていたのは,映像制作への挑戦だ。将来的にはアカデミー賞を取ることを目標として掲げていたが,そのための第一歩となる「The Lamp Man」はLive2Dのデモというよりは,作りたい映像を第一に制作が行われており,Live2Dで作られたことを感じさせない作品になっている。



絵描きとLive2Dクリエイターつなぐ「2次マ」の構想


 中城氏が続いて発表したのは,「2次マ」という新たなコンテンツマーケットの構想だった。あえてLive2Dの色をつけていない名称にしており,2次元のイラストを描くすべての人に
 2次マは,簡単に言えば,2次元のイラストを描ける人と,イラストをLive2Dでアニメーションできる人,さらにそうして作られた動くイラストを必要とする人をつなぐコンテンツマーケットだ。Live2D職人はイラストレーターから原画を購入し,動きを付けて第三者に販売する。このときにも収益はイラストレーター側に還流される。こういった仕組みを作ることにより,クリエイターに収益の手段が与えられ,静止画として作られたイラストをより価値の高いものとして活用することができるようになる。

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 絵は描けるけど動きを付けられない人と,絵は描けないけど動きを付けられる人をマッチングさせることで新たな市場を生み出すシステムとなっている。また,IPキャラクターの2次創作などへも導線をつなぐことのできる仕組みでもある。2次マは現在準備中で,2018年春の開始が予定されている。

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 加工しても売れなかったらどうするんだという気もしないではないが,Live2Dの技術を習得するにも高品質なイラストを使用するほうがモチベーションは上がりやすく,一度技術を身に付ければ現状ではまず仕事に困らないので,Live2Dクリエイター養成システムの一環として考えるとリーズナブルなのかもしれない。

 最後に中城氏は同社の活動をまとめて製品・サービスの位置づけと同社のビジョンを示した。
 Cubismは1枚絵があれば(レイヤー分けされている必要はあるだろうが),誰でも簡単にイラストを動かせるものを志向している。絵を描いたら「動かさなければもったいない」,動かすことが当たり前といった世界を目指しているという。
 一方のEuclidは,さすがに1枚絵だけというわけにはいかないが,素材さえ揃えれば究極の2D表現を実現するものであり,描いた2D絵のタッチそのままに多彩な3D表現ができるようになる。キャラクターにそのシーン内で命を与えるCubismと,キャラクターに究極的な生命を与えるEuclidといった棲み分けになるのだろう。
 Creative Studioは,それらを使ってとくに映像制作,究極的には映画の制作を行いアカデミー賞を目指すという壮大なビジョンを掲げている。
 さらに,動く絵を巡る環境を整備するためには,2次マが用意され,「イラストを動かす」という文化を醸成するとともにLive2Dクリエイターを育成し,双方がWin-Winとなるかたちで2Dクリエイター全般に寄与していく。


 以上,上から下まで揃ったLive2Dの今後の戦略となる。

 2Dイラストを動かすという,ある意味,夢物語のようなことに取り組み,何度も壁にぶつかったが,それでも諦めずに続けていれば,やりたいことはすべて実現できたと中城氏は振り返る。目指すところはまだまだ遠いのだが,これまでどおり難関を乗り越えていくことに期待したい。


alive 2017公式サイト