【月間総括】「モンスターハンター:ワールド」はPS4の普及を加速するか

 今月は,「モンスターハンター:ワールド」(以下モンハンワールド)の話をしよう。実は「モンハンワールド」はSIEJAにとっても,カプコンにとっても極めて重要なタイトルである。投資家やマスコミではまったく語られない視点になるが,それは「戦略」という点においてである。経営戦略とは「ヒト,モノ,カネ」をどう配分するかということになるが,それは何のために,どうするかという意思決定である。経営陣の意思決定能力の差は結果に大きな差を生むのである。

 順に話を進めよう。SIEJAは,前回の「ドラゴンクエストXI」で述べたように,PS4の国内での販売不振を大きく改善したいという意思を持っている。これは,一家に1台の普及を目指す盛田社長のコメントからも明らかである。
 そもそも,PS4はPS3と発売時からの同週比較では大差ない推移である。PS3は,PS2の半分以下の売上台数しか達成できず,実働5年のWiiを10年も掛けて,上回ることができず,大失敗だった。これと大差ない推移ということは,日本だけではあるが,現状のPS4は不調を極めている状況と言える。SIEは「ニンテンドーDS」のブームとスマホゲームの台頭をもって,日本の据え置き型コンシューマゲーム市場は魅力がない,つまり,売れない市場と考えたようだ。それが,SIEの本社移転と,PS4の発売を後発にするというあからさまな日本軽視につながったと考えている。

 とはいえ,努力は継続されている。下表をご覧いただこう。エース経済研究所が考えるSIEJAの課題と目標と,その対応策を挙げたものだ。

●SIEJAの戦略とその対応
課題 販売不振だったPS3並みのPS4の販売を改善したい
目的 PS4の販売トレンドを変える
手段 AAAタイトルに対する支援,囲い込み

 ポイントはサードパーティのAAAタイトルこそが,ハードウェア販売を決すると考えているということだ。よって,過去に国内トリプルミリオン以上を達成した実績のあるタイトル群である「ファイナルファンタジー」「ドラゴンクエスト」「モンハン」に対する支援ないし,囲い込みを実施したと,エース経済研究所では考えている。
 だが,何度も述べているように,サードパーティのAAAタイトルこそが,ハードウェア販売を決するとの考えはそもそも迷信である。実際,「FF15」は国内においては「FF13」比で40%以上の減少,「ドラクエXI」はDSで発売された「ドラクエIX」の3分の1の販売に留まり,両者ともトレンドを変えられなかった(FF14とドラクエXはオンラインゲームのため比較していない)。
 国内で最後に望みを託すのが,「モンハンワールド」となる。おそらくSIEがこのような迷信を信じるようになったのも「モンハン」が影響している。3DSが東日本大震災で失速しそうになった際,値下げと「モンハン3G」の発売で反転した経緯を,「モンハン」が救い,勝敗を決したと見たからだろう。
 しかし,3DSは以前指摘したように,発売2週間の実売42万台程度,販売台数50万台をクリアしていた。結局のところ,3DSはそもそも初動のハードルを越えていたので「モンハン」は,“形”仮説で浮かび上がっていたソフトウェアの従的側面,成功を加速させる効果があったということであろう。
 このような迷信に囚われたSIEJAは,戦略レベルでミスをしていると言わざるを得ない。戦略レベルでのミスは,戦術では挽回できないため,抜本的な戦略の変更が必要だろう。
 そもそも,日本企業は戦略と戦術の区別がついていないことが多い。これは,経済・経営学を事実上,大学教育でしか行っていないため,大部分の国民はストラテジー(戦略)を学ぶ機会がほとんどないことが影響している。この場は,教育について述べるところではないので,これ以上は触れないが,今の日本の電機メーカーの苦境の一端は戦略教育の欠如にあると考えている。
 話を戻そう。戦略ミスによって,「モンハンワールド」に対するSIEJAの期待は相当高いものになっていると思われる。これで事態を改善できなければ,SIEJAの考える「一家に1台」は絵空事になるだろう。

 また,「モンハンワールド」はカプコンにとっても大事なタイトルである。「モンハン」シリーズは国内では最大級のタイトルだが,海外では日本に比べると販売が大きく劣る。これを「バイオハザード」並みのIPにすることは同社の悲願であった。
 今回,国内以外で売れているPS4,米国で人気のあるXbox Oneに投入したのも,海外市場に期待してのことなのである。多少,極端な表現になってしまうが「モンハンワールド」は国内でいくら売れても戦略的には意味がないのである。海外で売れなければ戦略目標を達成できたとは言えない。結果に大いに注目したい。