開発版Windows Mixed Reality Headsetとはどういうものか

開発版Windows Mixed Reality Headsetとはどういうものか
 2017年8月28日から出荷の始まったAcerのWindows Mixed Reality対応ヘッドセットの開発者版が編集部に届いた。現在,Windows Mixed Reality対応ヘッドセットの開発機はAcerが追加分を含めて売り切れ,HPも売り切れの状況なので興味を持っていても触れないという人も多いだろう。ここでは概要を簡単に紹介しておきたい。

 さて,Windows Mixed Realityというと,Microsoftが進めているAR/VR戦略の一環であり,Hololensがよく知られている。Hololensは単体で動作し,素通しのメガネと半素通しの実際の風景の上にスクリーンに投影したCG映像を上書きしてMixed Realityを作り出す端末であり,どちらかというと産業用寄りのデバイスだった。それに対し,PCなどで生成した映像を中心に扱う民生用寄りのデバイスが,今回のヘッドセットだ。Microsoftによる分類では「Immersive headsets」となっている。

 とはいえ,PCでの展開がどんなものになるのかについては,まだ具体的には分からないところも多い。イメージは多く語られているものの,Microsoftがもう一方で展開するHololensと今回発売になったWindows PC版ではやや性格が異なり,どの範囲をカバーするものなのか判然としない部分もある。PC版は今回のAcer以外にHPからも開発者用のHMDが販売されており,出荷の第1弾がようやく開発者のもとに届き始めた段階だ。ほかにもDell,ASUSが製品化を表明しているほか,ChinaJoyではLenovoの製品も展示されていた。今後はかなり多くの製品が出回るようになるはずだ。

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 “Mixed”Realityと名前にあるのだから,現実の風景とCG画像を合成したところを主眼にするはずではあるのだが,HololensがAR寄りなのに対して,こちらはVR寄りの製品になるのだろう。
 一応,この製品には二眼のカメラが付いてはいるが,両眼カメラのIPD(瞳孔間距離)は12cmと,人間の倍ほどの広さであり,AR/MR用としては適していない。カメラの映像が表示される局面は少なく,基本的にVRデバイスとして使うことが多そうな雰囲気ではあった。ではカメラがなにをしているのかというと,外界を撮影しての“Inside-Out”なポジショントラッキングだ。これが主要な用途になるのだろう。

 届いた箱の中身は単にヘッドセット(ケーブル付き)と説明書が入っているだけだった。外部からのトラッキングを行わないのでシンプルなものだ。
 とはいえ,これだけで使えるわけではない。セットアップではWindows Mixed Realityコントローラをつなげとなっているのだが,そんなものはまだ売られていない。


 「ないときは代わりにXboxコントローラを使え」とある。これはUWPでサポートされたゲームパッドを使えという意味なので,Xbox OneコントローラとXbox 360ゲームパッドの両方が利用可能だ。しかしPCゲーマーでも必ず持っているというものでもないだろう。なお,Xboxコントローラがなくても,一応,マウスでも操作は可能だが,かなり不便なことにはなりそうだ。

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 また,ヘッドセットの左上部に3.5mmのジャックが付いているが,ヘッドセット自体は付属していない。適当にVive用のイヤフォンをつないだら片チャンネルしか音が聞こえなかった。PSVR用をつなぐと両方から音が出てきたが音声コントロール機能もあるので,ちゃんとマイクもついたものを使うのがよさそうだ。PC用だとケーブルが長すぎて大変なので携帯電話用のものが無難だろう。音声コントロールを使わなくても操作自体には問題はない。チュートリアルの途中で音声入力が要求される場面もあるが,通常の操作で代用可能だ。ただ,手が離せないゲームのスクリーンショットをとりたい場合などでは音声コントロールも有用ではある。まあ,いちいち「コルタナさん写真を撮って」としゃべるのは遠慮したいのだが……。

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 PCとの接続は,先が二股になった1本のケーブルをPCに差し込むだけだ(HDMIとUSB)。インストーラもドライバも付属していないが,Windows 10(要Creators Update)の設定から開発者モードにしてさえおけば,インストールはデバイスをつなぐだけで進行する。このあたりはさすがMicrosoftといったところか。有無を言わさずProgram Filesにインストールするのも同社ならではかもしれない(Cドライブから切り替えておくんだった……)。

なにもしなくてもインストールが始まる
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うう,ディスク容量が……
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 ヘッドセットの基本スペックを挙げておこう。解像度は1440×1440ピクセルを2枚と,RiftやViveよりも高い。視野角は95度とRiftやViveの110度よりも狭い。つまり臨場感などでは劣るだろうが,画像の精細感は高いはずだ。実際に着用してみると,画素は見えるといえば見えるが,さほど気にならない。有機ELではなく液晶が使われているのだが,残像が気になるというわけでもない。ちなみにグラフィックスカードがHDMI 2.0接続をサポートしていれば90fpsでの表示となる。
 以上のように一般的なVRヘッドセットとして考えてもスペックは悪くない。開発版が4万円程度,製品版は299ドルからとされているので,かなり低価格で出てきそうなのも魅力と言えるだろう(製品版はコントローラ付き)。

 ヘッドセットの装着はヘッドバンド1本で固定する方式で,荷重を主に額で支えることになる。プラスチックバンドの長さ調節は物理的な刻みを使った方式で,キチキチと引っ張って固定する。留め具のボタンを押せば物理的にリリースされる仕様だ。ちなみに,だいたい同スペックのHP製ヘッドセットだと新型Viveのように頭の後ろのつまみを回す方式になっている(値段は少し高い)。
 ハード的にIPDや視力の調整要素はとくにないが,Windowsの設定には「複合現実」という項目が新設されており,そこからソフトウェア上でのIPDを設定可能だ。ほとんどの場合いじる必要はないだろう。

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 また,ヘッドバンドからぶら下がったヘッドセットの本体部分は蝶番で接続されたような形になっており,本体部を跳ね上げればカチリと固定され,手元を見ることができる構造だ。

内側と下面。フレネルレンズなので,逆光気味の場合にリング状の光漏れは発生する
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 セットアップでは,基本的な行動範囲を登録する必要がある。このあたりはVive,Riftと同じ感じだ。ヘッドセットを腰の辺りの高さにして部屋の周りを一周するタイプのUIである。ただ,これは机の前でちょっと試してみるようなことができないことも意味している。開発版くらいはプレイエリアを確保しなくても使えるとありがたいのだが。

身長を入力してフロアを検出し,続いて動けるエリアを設定する
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 さて,インストールが終わってもメニューに起動項目やショートカットアイコンなどは用意されていないことが分かる。ではどうやって使うのかというと,「ヘッドセットを装着する」それだけでWindows Mixed Realityのシステムが立ち上がる。
 起動後のヘッドセット内でのホーム画面は,リゾートの別荘のような建て付けだ。部屋数が多いRiftホーム画面といった感じだろうか。家の中は実際に歩くかワープで移動可能であり,ワープはViveのような着地点を指定して選択するUIが採用されている。もちろんインストール時に設定したエリアに近づくと「壁」が表示される仕様だ。断崖絶壁に突き出した絶妙なロケーションなので,テラス(柵なし)の端で玉ヒュン体験も可能だ。ワープでは建坪の範囲しか移動できないが,スティック操作による移動では境界や障害物を無視した移動ができる(遠くに行ってもあまり面白いことはないが)。

MRのホーム画面。可動範囲に近づくと点点で壁が表示される
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遠くから見た全景
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Windowsストアアプリを実行可能
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 部屋の中にはスクリーンを空間に固定するタイプのムービービューワやWebブラウザ(ただしEdge),メーラー,Windowsストアなどが用意されている。部屋の中に置かれている家具などは位置や大きさを変更可能だ。
 また,Windowsストアアプリは,同様に空間内にウィンドウを広げて利用可能となっている。ただ,場合によっては,(ほかの環境でもありがちだが)Windows画面側でダイアログが開いて動作が停止してしまったり,マウスを使わないと操作できなかったりといったことがあるので気をつけよう。マウスのシミュレートくらいは標準でやってほしかったところではある。UWPのゲームパッドではマウスモードが用意されているようなので,これでやれということなのだろうか。このあたりはいまひとつ把握できていない。
 その他,操作方法などはこちらが参考になるだろう。

 開発系の情報は,開発者サイトにまとめられている。
 開発環境のインストールについては,こちらの手順どおりに行えばいいだろう。一見Hololensのことしか書いてなさそうな感じではあるが,ここのツールでいいはずだ。

 Windows Mixed Realityの開発にはUniversal Windows PlatformとUnityの知識が要求されることもあり,難度は高めではあるが,PCとおそらくはXbox One XでサポートされるであろうVR/MR環境は非常に可能性のある市場でもある。今後の動向にも注目しておきたい。

Windows Mixed Reality開発者サイト