[CJ2017]「Waves Nx」を世界初搭載したゲーマー向けヘッドセット「SpearHead Pro」を試してみた
Waves Audio(以下,Waves)という企業を知っているだろうか。サウンドエンジニアやクリエイター以外で縁のある人は少ないと思うのだが,音楽制作用の各種プラグインなどで有名な会社だ。そんな同社が,GDC 2016で発表した「Waves NX」というソリューションは,ゲームにもちょっと関係があるかもしれない技術だった。
Waves NXは,ヘッドフォン使用時に仮想的なスピーカーの位置を固定するためのものだ(関連記事)。これを使うと,ゲーム中に右から音が聞こえたので右を向いても,音はまだ右から鳴っていて,つまり画面に対して後方から音が鳴っていることになってしまう……といった,顔の向きによる不整合は発生しなくなる。
まあ,通常のゲームで画面から目を離す機会はそう多くないので,このあたりはあまり気にしていない人も多いだろう。むしろWaves NXでは,通常のステレオ再生時に,定位のいい位置に仮想スピーカーを設置できるというというほうにメリットを感じる人のほうが多いようだ。
最近はドライバの位置や角度を調整して,定位を前方にずらそうとしているヘッドセットが出てきていて,なにかと細かい4Gamerのハードウェアレビューがべた褒めする記事を見かけるようになってきている。まあ,たぶんステレオ定位を前方にずらすことができる技術はよいものなのだろう(小市民的認識)。
前置きが長くなったが,このWaves Nx技術を内蔵した世界で初めてヘッドセットが,今回紹介する1MOREの「SpearHead Pro」なのだ。
1MOREは,サンディエゴを拠点とした高級オーディオメーカーである。Wavesと1MOREの製品を,なんで中国で取材しているんだろうと疑問を感じなくもないが,1MOREが中国ゲーム市場を狙いにきているからこそのChinaJoy出展なのであろう。
実際にChinaJoy会場の1MOREブースで,通常のヘッドフォンとWaves Nxを有効にしたものを聞き比べてきた。前後の定位というか,スピーカーの位置が固定されていることは簡単に確認できるものの,スピーカーの位置の違いと空間定位の精度あたりまでを比較することは,筆者にはちょっと無理だった。
確かに聞き比べてみると,Waves Nx無効のほうは耳の真横で音が鳴っているなあとは感じたのだが,この手のものは実際にゲームをやり込まないと分からないだろう。
ちなみに,ChinaJoy会場内はもの凄くうるさいので,試聴には最低の環境だろうと思っていたのだが,ノイズキャンセル機能が効いていたので意外と外部音に悩まされることはなかった。
順序が逆のような気もしないではないが,製品自体の紹介をしておこう。
今回試用したSpearhead Proは,アナログないしUSB接続式のワイヤードヘッドセットである。
左右のエンクロージャを2本のアームで支えて,柔らかい布製ヘッドバンド部分はアームと独立しているという,まあよくある構造だ。2本のアームは,五角形のパーツにつながっており,そこから斜め後方に伸びたブリッジ部を通して,さらに斜め前方向きにパイプフレームが伸びている。そして,このパイプ部にエンクロージャが固定されている。
アームとパイプをつなぐブリッジ部は,プラスチック板2枚が合わさったような中空の構造であり,全体に強度的にはちょっと不安に感じる人もいるかもしれない。素人考えには,もうちょっとリッジにマウントしたほうがいいものじゃないのかという気はするのだが。
円形のエンクロージャ部には,50mm径のスピーカードライバーが入っている。もらったカタログの中国語を翻訳してみたところ,振動板にはグラフェンが使われているとのこと。いわゆるダイアモンドライクカーボン皮膜だろうか。
50mmドライバーにしてはエンクロージャは小さめな感じではあった。しかし「Super Bass設計」とパンフレットに書かれていたとおり,実際,ゲーム時はエンクロージャがブルブルくるくらいの低周波が出ていた。
左エンクロージャ部には,インタフェースとスイッチ類が付いている。左耳の後ろ上のあたりから,マイクミュート用スライドスイッチ,続いて音量調整ダイヤル(※ダイアルを押し込むとBASSブーストのオン/オフ)が並び,その下にはUSB Micro-B端子と4極3.5mmミニピン端子が設置されている。右エンクロージャにはスイッチ類はない。
会場で「Waves Nxのトラッカーはどこに入っているのか」について聞いたのだが,いまひとつ要領を得ない。エンクロージャ部らしいが右か左かなどは不明だった。
左エンクロージャで特徴的なのがパイプの先端にあるLEDだ。一見するとマイクブームかと思うが,単なる「LEDライトで光る部分」でしかない。用途は不明だが,約1677万色で点灯させることができるようだ。
では,マイクはどこかというと,それは右エンクロージャのパイプ部である。パイプの上下端に2つのマイクが搭載されており,下側はボイスチャット用,上側はノイズキャンセリング用で使われる。外界の音を90%消去できるとのこと。
スペック表から数字を拾ってみると,ヘッドフォンの再生音域(周波数特性)は20Hz〜20kHzとごく一般的で,インピーダンスは32Ω,許容入力は20mW,感度が103dBとなっていた。重量は約324gである。
また,試用したときは普通のUSBケーブルでつないでいたように思うのだが,それが正式なケーブルかどうかは分からない。線材は「漆包線(エナメル線)」となっているので,ビニル被覆電線と考えていいようだ。会場では確認できなかったが,1MORE製品には頑丈なケブラーを使ったケーブルもあるので,このヘッドセットでも使われている可能性はある。ちなみに,アナログ用のケーブルは長さ約3.5m長とのこと。
ところで,1MOREは,2017年からゲーマー向け製品を扱うことになったのだそうだ。高級オーディオを扱ってきた同社が,自信を持って投入するのがSpearheadシリーズである。
ちなみに,ChinaJoy 2017では,ゲーマー向けヘッドセットとゲーマー向けチェアを出しているブースがやたらと目についた。以前,ヘッドセットがMad Catzを支えていたという記事を掲載したこともあるが,ヘッドセットは現在,ゲーマー向け周辺機器として世界的に「金になる」分野ではあるらしい。
ほぼ雰囲気だけだと思われるゲーマー向けの椅子はともかく,ヘッドセットについては中国企業だけでなく,Turtle BeachやSENNHEISERも,ChinaJoyに出展していたので,中国のゲーマー向けヘッドセット市場は世界的に注目を集めているのだろう。
中国では,ゲーマー向けヘッドセット市場に,どれほどの伸び代があるのだろうか? 聞いたところによると,これまで中国では100〜200元程度(だいたい1500円から3000円くらい)の安価な製品がよく売れていたそうなのだが,1MOREが狙うのはハイエンド層であるという。
同社が展開するSpearHeadシリーズには,本稿で取り上げたSpearHead Proと,「SpearHead VR」という2タイプがあり,ノーマル版といえるSpearHead VRでさえ,699元(約1万1500円),Waves NXを搭載したSpearHead Proだと1199元(約2万円,今夏発売予定)という強気の価格が設定されている。
中国での値段感は分かりにくいのだが,たとえば,だいたい3万円程度のPlayStation 4について通訳さんに聞くと,「すごくほしいけど全然無理」な価格であるらしい。2万円のヘッドセットは,日本でも高価なわけだが,中国のゲーマーは富裕層が多いらしいので,これでも成り立つのだろうか。
Waves Nxを搭載ということで,機能的には世界最先端のヘッドセットかもしれない製品だが,日本での展開は不明だ。1MOREが初めて作ったゲーマー向けヘッドセットの真価を,早く知りたいものである。
まあ,通常のゲームで画面から目を離す機会はそう多くないので,このあたりはあまり気にしていない人も多いだろう。むしろWaves NXでは,通常のステレオ再生時に,定位のいい位置に仮想スピーカーを設置できるというというほうにメリットを感じる人のほうが多いようだ。
最近はドライバの位置や角度を調整して,定位を前方にずらそうとしているヘッドセットが出てきていて,なにかと細かい4Gamerのハードウェアレビューがべた褒めする記事を見かけるようになってきている。まあ,たぶんステレオ定位を前方にずらすことができる技術はよいものなのだろう(小市民的認識)。
1MOREは,サンディエゴを拠点とした高級オーディオメーカーである。Wavesと1MOREの製品を,なんで中国で取材しているんだろうと疑問を感じなくもないが,1MOREが中国ゲーム市場を狙いにきているからこそのChinaJoy出展なのであろう。
実際にChinaJoy会場の1MOREブースで,通常のヘッドフォンとWaves Nxを有効にしたものを聞き比べてきた。前後の定位というか,スピーカーの位置が固定されていることは簡単に確認できるものの,スピーカーの位置の違いと空間定位の精度あたりまでを比較することは,筆者にはちょっと無理だった。
確かに聞き比べてみると,Waves Nx無効のほうは耳の真横で音が鳴っているなあとは感じたのだが,この手のものは実際にゲームをやり込まないと分からないだろう。
ちなみに,ChinaJoy会場内はもの凄くうるさいので,試聴には最低の環境だろうと思っていたのだが,ノイズキャンセル機能が効いていたので意外と外部音に悩まされることはなかった。
今回試用したSpearhead Proは,アナログないしUSB接続式のワイヤードヘッドセットである。
左右のエンクロージャを2本のアームで支えて,柔らかい布製ヘッドバンド部分はアームと独立しているという,まあよくある構造だ。2本のアームは,五角形のパーツにつながっており,そこから斜め後方に伸びたブリッジ部を通して,さらに斜め前方向きにパイプフレームが伸びている。そして,このパイプ部にエンクロージャが固定されている。
アームとパイプをつなぐブリッジ部は,プラスチック板2枚が合わさったような中空の構造であり,全体に強度的にはちょっと不安に感じる人もいるかもしれない。素人考えには,もうちょっとリッジにマウントしたほうがいいものじゃないのかという気はするのだが。
50mmドライバーにしてはエンクロージャは小さめな感じではあった。しかし「Super Bass設計」とパンフレットに書かれていたとおり,実際,ゲーム時はエンクロージャがブルブルくるくらいの低周波が出ていた。
会場で「Waves Nxのトラッカーはどこに入っているのか」について聞いたのだが,いまひとつ要領を得ない。エンクロージャ部らしいが右か左かなどは不明だった。
左エンクロージャで特徴的なのがパイプの先端にあるLEDだ。一見するとマイクブームかと思うが,単なる「LEDライトで光る部分」でしかない。用途は不明だが,約1677万色で点灯させることができるようだ。
では,マイクはどこかというと,それは右エンクロージャのパイプ部である。パイプの上下端に2つのマイクが搭載されており,下側はボイスチャット用,上側はノイズキャンセリング用で使われる。外界の音を90%消去できるとのこと。
スペック表から数字を拾ってみると,ヘッドフォンの再生音域(周波数特性)は20Hz〜20kHzとごく一般的で,インピーダンスは32Ω,許容入力は20mW,感度が103dBとなっていた。重量は約324gである。
また,試用したときは普通のUSBケーブルでつないでいたように思うのだが,それが正式なケーブルかどうかは分からない。線材は「漆包線(エナメル線)」となっているので,ビニル被覆電線と考えていいようだ。会場では確認できなかったが,1MORE製品には頑丈なケブラーを使ったケーブルもあるので,このヘッドセットでも使われている可能性はある。ちなみに,アナログ用のケーブルは長さ約3.5m長とのこと。
ところで,1MOREは,2017年からゲーマー向け製品を扱うことになったのだそうだ。高級オーディオを扱ってきた同社が,自信を持って投入するのがSpearheadシリーズである。
ちなみに,ChinaJoy 2017では,ゲーマー向けヘッドセットとゲーマー向けチェアを出しているブースがやたらと目についた。以前,ヘッドセットがMad Catzを支えていたという記事を掲載したこともあるが,ヘッドセットは現在,ゲーマー向け周辺機器として世界的に「金になる」分野ではあるらしい。
ほぼ雰囲気だけだと思われるゲーマー向けの椅子はともかく,ヘッドセットについては中国企業だけでなく,Turtle BeachやSENNHEISERも,ChinaJoyに出展していたので,中国のゲーマー向けヘッドセット市場は世界的に注目を集めているのだろう。
中国では,ゲーマー向けヘッドセット市場に,どれほどの伸び代があるのだろうか? 聞いたところによると,これまで中国では100〜200元程度(だいたい1500円から3000円くらい)の安価な製品がよく売れていたそうなのだが,1MOREが狙うのはハイエンド層であるという。
同社が展開するSpearHeadシリーズには,本稿で取り上げたSpearHead Proと,「SpearHead VR」という2タイプがあり,ノーマル版といえるSpearHead VRでさえ,699元(約1万1500円),Waves NXを搭載したSpearHead Proだと1199元(約2万円,今夏発売予定)という強気の価格が設定されている。
中国での値段感は分かりにくいのだが,たとえば,だいたい3万円程度のPlayStation 4について通訳さんに聞くと,「すごくほしいけど全然無理」な価格であるらしい。2万円のヘッドセットは,日本でも高価なわけだが,中国のゲーマーは富裕層が多いらしいので,これでも成り立つのだろうか。
Waves Nxを搭載ということで,機能的には世界最先端のヘッドセットかもしれない製品だが,日本での展開は不明だ。1MOREが初めて作ったゲーマー向けヘッドセットの真価を,早く知りたいものである。