【月間総括】問題は形? ゲーム機が売れる要因をもう一度考える

 本来,今月はロサンゼルスで開催されたE3について解説すべきところだが,すでに多くのメディアで取り上げられているため,少し異なる話をしたい。
 今回取り上げるのは,ゲーム機に限らず"モノ"が売れる要因は何か?ということである。国内で統計データが取れる過去25年間を見ても,さまざまなハードが発売されたが,なぜ売れるのかは判然としなかった。ゲーム機販売に関して,エース経済研究所が従来,開始から2週間の実売台数が重要としてきたのは,売れる要因を特定できなかったためである(参考記事)。

 現時点では,データが不十分で証明が難しいものの,エース経済研究所では今回,新しい考え方を提示し,多くの方々からの意見を求めたいと考えている。

 これまで,ゲーム機の成否を決めるとされていた要因として代表的なものが三つある。そのうち二つは,任天堂の元社長である故・山内氏の発言に由来する。

(1)ゲーム機の発売をクリスマス商戦に間に合わせるべきである
(2)ゲームソフトで遊ぶために,ハードは嫌々買うものである

の二つである。故・岩田氏が追認したこともあり,ある意味,神聖視され,定説となっていた。これに加えて,もう一つが「価格」である。任天堂は公式にはコメントしていないが,据え置きゲーム機の価格が2万5000円と固定されていた厳然とした事実から,価格が販売に影響していると根強く信じられているのは間違いない。

 しかし,過去のデータを分析すると,これらは必ずしも正しくないことが分かる。順番に検証していこう。
 「年末発売」に関しては明らかに迷信である。2001年3月発売ながら,生産出荷100万台を早々に達成し,大成功したPS2が存在する。
 「ゲームソフトのためにハードを買う」には主に二つの反証が挙げられよう。一つは,ローンチタイトルの数である。「Nintendo Switch(以下Switch)プレゼンテーション」のあとにも強く指摘された点だが,これも誤りである。PS Vitaはローンチ時に,日本で30タイトル以上が投入されたが,最近はソニーが売上台数を開示できないほど極度の不振を呈している。ローンチソフトの数は販売に明らかに影響していない。

 もう一つは,キラータイトルなる存在である。米国でAAA,日本でキラーソフトと呼ばれるタイトルがハードウェアを牽引するとされている。しかし,そのようなタイトルが少なかったWiiが1億台を超える販売を達成する一方,同じような状況にあったWii UはPS Vitaと同様の極端な販売不振に陥った。また,Switchに投入されたWii Uと同じタイトルの「ゼルダの伝説」を見るとSwitch版のほうが好調である。

 つまり,ソフト販売は遊んでいるハードに影響されているのであって,タイトルに左右されていないのである。これは,間違いなく反論を浴びるところだろう。強力なタイトルが発売されると,ハードの週間販売が瞬間的に伸びるのは確かだからだ。しかし,ハードの販売トレンドを覆す力はない。PS3には,「ファイナルファンタジー(以下FF)」をはじめ,欧米でも有力なタイトルが発売されたが,ついにWiiを超えることはできなかった。サードパーティのAAAタイトルにトレンドを変える力はなく,単なる迷信である。
 ゲーム機が誕生して30年以上経つが,トレンドをソフトで変えた事例はない。「FF7」にしても,PS1の優勢なトレンドを強固にしたというだけのことである。

 最後に価格だ。これは,明示する必要もないが,PS2は3万9800円という価格でスタートしながら,日本で2000万台を超えるセールスを達成している。任天堂だけが2万5000円でないと売れないというのはおかしい。また,かつて携帯ゲーム機ではワンダースワンやネオジオポケットカラーなどが1万円を切る価格で提供されたが,販売は芳しくなかった。
 以前も指摘したように,ゲーム機には価格弾力性が小さい傾向が見られ,そもそも価格で需要が大きく変動するようなものではないのである。

 これらを踏まえたうえで,矛盾なく説明できる仮説が"形"仮説である。要点は二つ。

(1)形状が前世代,他社機と違うこと
(2)遊んでいる姿(プレイスタイル)に違和感がないこと

である。

 この仮説なら,ゲーム機の販売が機種により大きく違うこと,任天堂が強力なIPを持ちながら成功,失敗の格差が大きいことをうまく説明できる。ゲーム機の成功はハードの形状と遊び方にあったのではないか? ということである。実際,Wiiがゲームマニアに受けなかったことも説明できると考えている。「Wiiリモコン」を使った遊び方がマニアには違和感があったと考えられるのだ。
 なお,すでに結論が出ているため,取り上げなかったが,性能も関係がないことが分かる。PS2,Wii,DSと成功を収めたゲーム機が同世代で最も高性能な機種だったとは限らない。
 強く信じられていたソフトや価格,発売時期,性能はゲーム機の成否を決める要因ではないことになる。おそらく,読者にはあまりにも突拍子もない話に聞こえるかもしれない。筆者の主観に依存するため,証明も難しい。

 ただ,この仮説が正しいなら将来起こりえることが予測できることになる。証明には数年が必要だろうが,最後にこの仮説から予測される将来について記そう。

(1)Switchは,爆発的に普及する
(2)Switchで発売されるゲームマニア向けタイトルでもヒットが出る
(3)PS4とSwitchの攻守が年末商戦以降,顕著に逆転する
(4)PSVRは販売が低迷する
(5)Xbox One Xの販売もおそらく低迷する

 (1)ついては,ゲームマニアにも,ライトプレイヤーにも違和感がないデザインとプレイスタイルを実現しているためだ。しかも,Switchは一家に1台ではなく,一人に1台売れる可能性があり,多くのアナリストの予想を上回る結果になろう。

 (2)Wiiがリモコンのプレイスタイルがゲームマニアに受け入られなかったという仮説が事実ならば,違和感を与えないSwitchであればサードパーティタイトルが今後発売されればマニア層にもヒットするだろう。ゲーム機の成否にAAAタイトルは必要ない。しかし,有力なサードパーティタイトルが発売されれば任天堂のタイトルしか売れないような誤った考えは否定されるだろう。

 (3)今まで,SIEも任天堂も顧客層が競合するとは言ってこなかったが,Switchは競合する可能性が高い。これまで一世代に一機種しかヒットしないように見えたのは,途中で出しても差別化できなかったためだと考えられる。Switchは差別化されており,多数のAAAタイトルを擁するPS4が年末商戦で攻守逆転になるとは,予想だにされていないはずだ。PS4には,「ドラゴンクエスト11」「モンスターハンターワールド」が投入される。しかし,これらタイトルをもってしても,PS4の国内における不振トレンドを変えることは不可能だと推測されるのである。PS4の国内販売はPS3並みである。このままでは,10年販売しても5年で1200万台を販売したWiiを超えることは難しいだろう。欧米でも競争が今後激化するはずだ。

 (4)PSVRは遊ぶ姿に違和感を感じる。ソーシャルスクリーンがあってもタイトルで遊んでいるときの挙動は周囲から分かりにくい。平井社長は「PSVRの成功は,ソニーの各セグメントの利益を保証する」としているが,このままでは逆になるのではないか?

 (5)Xbox One Xは年末に発売されるが,現時点ではXbox One Sとの外見上の差異が小さい。小型化は評価されるところだが,プレイヤーに違うゲーム機と果たして認識されるかどうか。ただ,Xbox One Xはまだ全容が明らかになっていない。成否を決めるのはプレイスタイル次第だろう。

 今回の“形”仮説は大胆なものであり,証明が十分できたとは言い難い。予測の成否でさらに精度向上を図りたい。