「Oculusはデベロッパにサービスしていない」とHTC Viveは言った

「Oculusはデベロッパにサービスしていない」とHTC Viveは言った
Rikard Steiber氏とJoel Breton氏はHTC ViveのVRへのアプローチについて説明した。それはOculusとはまったく違ったものだった。

 今日のハイエンドPCバーチャルリアリティ市場では,デベロッパには基本的に2つの選択肢がある:Oculus RiftとHTC Viveだ。ヘッドセットにいくつか技術的な違いはあるものの,全体としてVRゲームはどちらも似通っている。しかし,両者によるこれらのデバイスの市場へのアプローチは何から何まで違っていた。先月行われたGDCで最初にOculusのコンテンツ部門長Jason Rubin氏と話し(関連記事),それからHTC ViveのRikard Steiber氏 (Viveportのプレジデント)とJoel Breton氏(グローバルコンテンツ部門副社長)と談話した私にとっては実に明白なこととなった。

 Oculusが繰り返し価格引下げの重要性を強調していたのに対し(実際,GDC期間に最初にやったのはそれだ),Viveはヘッドセット価格の引き下げに消極的であるように思われた。その代わりに,消費者に金利ゼロの融資オプションを提供している。「月40ドルでViveをいますぐ手に入れることができます」とSteiber氏は言及した。「もしあなたがゲーマーで,すでにハイエンドPCを持っていてもVRの導入に必要な800ドルは持っていないという場合でも,あなたはいますぐ手に入れることができます……そう,我々は入手を簡単にしようとしているのです」

 Steiber氏はViveのVRエコシステムが優れたコンテンツ体験をもたらすと確認することによって,消費者は掛け金を支払うことを気にしなくなると信じている。氏はスマートフォン市場との類似点を挙げた。「我々は最新のスマートフォンなどをを手に入れるために年間いくら払っているのか気にしていません。そして私は同じようなことがVRでも起こると考えているのです」

 VR分野は今後数年間成長を続けるだろう。我々は毎年発表されるよりよい電話機と同様に,新しいヘッドセットの更新アップグレードができるようになるのだろうか? 「将来の製品のローンチについてはコメントできませんが,もちろん,家庭電化製品で一般的に見られることですが,ひとたび臨界量を超えれば,よりお手ごろになると考えています。我々は今後も業界のリーダーでありたいと思っていますので,それに必要なことをやっていくつもりです」とSteiber氏は加えた。

 おそらくOculusとVive陣営の間での最大の論点は,エコシステムへの投資の対象がデベロッパかプラットフォーム独占契約かということだろう。Oculusは2億5000万ドルの投資を行い,“少なくとも”さらに2億5000万ドルの追加投資を計画している。この会社がデベロッパに投資するときにはゲームはOculus独占であることが期待されている。Oculusが巨額の投資でVRエコシステム全体を支援しているのに対し,HTC Viveはそうではない。Breton氏はVRコンテンツはどのプラットフォームへも自由に行けるべきだと考えている。

 今年初めに出されたGDCアンケートを引用しつつ,Breton氏はデベロッパはオープンプラットフォームアプローチゆえにViveを選択していると言及した。「我々はGDCの市場調査結果に喜んでいます。これはViveが現在のデベロッパの選択,開発に最良のVRプラットフォームとなっていることを示しています。もしデベロッパに『次のプロジェクトは何用なのか?』と聞けば,その答えはさらにViveのほうに広がっているでしょう。12か月間で劇的な変化です」と氏は語る。

※記事中ではこちらの記事が参照されているが,そこで挙げられている数値は,その時点で開発中のVRプラットフォームに対するもので,Viveの24%に対しRiftが23%と大差はない。参照したかったのは,こちらのVRDCでのアンケート結果ではないかと思われる

 「我々はプラットフォームにとらわれないアプローチを取っています。我々の内部開発についてもパートナーのコンテンツについてもです。それは,コンテンツを自由にさせようということです,そしてどのマーケットでも自由にいけるようにしようということです。反対に,コンテンツを壁の後ろに隠して市場の70〜80%から締め出すのはやめましょう。現時点のようなマーケットの初期段階ではそれは意味を成さないと感じています。同時にデベロッパに対しても意味を成しません。なぜなら,それは長期的な成功への道を示すものではないからです。ですのでデベロッパは間違いなく感謝しているはずです」

 OculusがVR市場を活性化させるために投じた巨額の投資についてダイレクトに聞いてみると,Breton氏は「私は(彼らの投資手法が)マーケットにとって素晴らしいものだとは思いません。なぜなら……彼らが実際にしていることはデベロッパと長期にわたる成功と短期のキャッシュとの交換です。彼らはデベロッパにこう教えます。我々は君たちにX百万ドルの助成金をあげることができるけど,その代わりそのコンテンツは今後出てくるマーケットに対応させようと思ってはいけないよ,と。とくに市場全体から見てパーセンテージが非常に小さいプラットフォームのときには」

 「私の視点でいうと,これはデベロッパにサービスしていることにはなりません。ある意味,それは短期間のキャッシュと今年いっぱいで手に入るものを交換しているようなものです。しかし,地に足を付けて働いている人々は,開発規模と原価を現在の市場に合わせようとするものです。彼らは実際,長期的なビジネスを目指しています。我々が一緒に働きたいのはそういう人たちです」

Joel Breton氏
 Rubin氏は今年のDICE Summitのステージで,Oculusは実際にオープンプラットフォームだと信じていると語ったが,Breton氏はそれを受け入れていない。

 「彼らは口先だけではなく実際に行動すべきです。我々は現在やっています。我々が開発した最初の2つのコンテンツは,すでにほかのプラットフォームをサポートしており,数週間後にはローンチされます。実際のところ,Knockout Leagueは両方のプラットフォームで同時にリリースされます。彼らがこれをやっているところを見てみたいものです。私の感覚では,なにかを語る前にはそれをやるべきです。なぜならより多くの信頼を得られるでしょうから」と氏は語った。

 HTCはFacebookのような巨大企業ではない。しかしこの会社は同じくらいVRに投資している。具体的な数字が公表されていないだけだ。

 「我々はデベロッパをサポートするたくさんの手法を持っています。我々はすでに行ってきた会社レベルの投資とOwlchemy,Steel Wool,Wevr,Baobabといった会社……このうちいくつかは我々の投資でプレミアムコンテンツを発表している一流スタジオですが,それらへの投資の両方を行っています。これらの会社が成功したら,我々も成功するのです。これはエコシステム全体にとっても素晴らしいことです。さらに我々は(1億ドル規模の)ViveXアクセラレータプログラムも持っており,これもまたプラットフォームにとらわれません。そこに会社はエコシステム全体にわたって作業しているのです。これは我々にとって完全によいことです。我々はそうしたいと強く思っています」とBreton氏は語る。

「我々が母親を連れて実際にエベレスト山に登れたり,CardboardのようなものではないハイエンドなVR体験ができたりするということは非常に重要です」
-Rikard Steiber氏

 「もし,彼らの製品が標準プラットフォームかVRに特化したQAプラットフォームであれば,彼らはよいビジネスモデルを持っており成功への道を進んでいるといえます。我々は彼らに実際に投資し,彼らが2,3人のチームから10,15,20人のチームになるまで助けます。そして彼らの状況に従ってA,B,Cラウンドといった投資が行われます。3番めの手法はコンテンツに直接投資するもので,これは我々のチームがVive Studioでやっています」

「我々は常に我々の方法に対して数百本の申し込みを受けています。そしてそれらを評価し,市場を助けショーケースとなるような作品を見つけ出そうとしています。そしてそれから開発者個人に対して投資ができるようになります。これらは会社レベルの投資には含まれません。ですので,これはコンテンツの一つを成功に導くための投資となります」

 こういった投資手法とは別に,Viveは140億ドル規模のVRベンチャーキャピタルアライアンスを主導している。「そのすべてが消費されるのかは確実ではありませんが,お金はは減っています」とBreton氏は語る。さらに「我々はここのコンテンツ作品に対していくら支払われたかは公開していません。しかし,我々はまだ天井に届いているわけではありません」

 Viveは彼らのもう一つのイニシアティブの成功も信じている。新たに発表されたViveportのサブスクリプションサービスと同社が強くプッシュするViveport Arcadeは,VR開発者にとって,いまだ立ち上がって間もない市場での彼らの製品のさらなるマネタイズの主要な手段となるだろう。サブスクリプションサービスは,ユーザーに毎月6.99ドル支払うことで5本のVRタイトルを受け取れるようにするサービスだ。ユーザーは5本のタイトルのどれでも別の期間の5本に差し替えることができる。サブスクリプションの要請に同意した開発者には最終利益1ドルにつき84セントが支払われるとSteiber氏は示した。

 「我々はこのテストで市場に先鞭をつけたいのです。なぜなら,ユーザー視点からすると,彼らは多くの素晴らしいコンテンツを発見し選択する自由を低価格な月額費用で得ることを望んでいるからです。しかし,デベロッパにとっても大きなチャンスになります。なぜなら,これは追加のマネタイズ期間を並列で提供するからです。我々は(サブスクリプションと直接ダウンロード販売と)両方が選ばれると考えています。またこれは彼らに追加のマーケティング期間を得る機会でもあります」と氏は語る。

 「もしあなたのゲームを選んだ人が1万人いれば,……あなたは月に8400ドルを受け取ります。10万人ならその月は8万4000ドルです。ですので,これはなにかをとても意味のあるものに変える可能性を秘めています。すでにサインアップしているデベロッパも大勢おり,我々は信頼を感じています」とSteiber氏は続けた。デベロッパはゲームのライフサイクルの初期にOpt-Inして,ダウンロード購入の熱が冷めやらないうちにマーケティングの盛り上げをしたり,ゲームノライフサイクルの末期にOpt-Inしてロングテイルを狙うこともできる。

 VR Arcade,ここはOculusがまったく興味を示していない分野であるが,Steiber氏は今年1億ドルのビジネスになると信じている。Vive Arcadeは,現時点で20の事業者による1000か所でテスト運用が行われている。そのパートナーは,米国ではImax,カナダではCtrl V,フランスではMK2,そして台湾と中国ではLeke VRといった面々である。VR Arcadeの収益方法は本質的に時間単位の料金モデルにある。利用者はHTCから一定時間に相当するポイントを購入し,HTCはそれぞれのVRアプリでの利用時間を追跡する。最終的に支払われたお金はデベロッパに分配される。

 「私は,これはデベロッパにとって重要なものになると思っています。なぜなら,ユニットあたりの収益が非常に高いからです。計算してみてください。一つのステーションで1日に3時間の売り上げがあったとしましょう。1時間10ドルで300日として,年間9000ドルになります。これが1000か所だったとして,一つのバートナーでいきなりかなりのお金を得ることになります」とSteiber氏は説明する。

 長期的に見て,VR Arcadeは家庭内のVRほど大きな市場にはならないかもしれないとしても,Steiber氏はビジネス上2つの役割を果たすと見ている。マネタイズの可能性を拡大するだけでなく,VRをより幅広い層にアクセスしやすくすると。「私はこれはデベロッパにとってだけでなく,VR関連市場を教育し一般に公開する意味でも重要だと考えています。……私にとって母親たちを連れて実際にエベレスト山に登ったり,Cardboardの体験だけではないハイエンドなVR体験をできるというのはとても重要なことなのです」と氏は語った。

Rikard Steiber氏
 Viveport Arcadeの体験もまたプラットフォームに依存しないように維持される。Steiber氏は「我々はすべてのプラットフォームを追っていますので,Viveのコンテンツであろうとほかのプラットフォームのコンテンツであろうと問いません。どこかのアーケードがほかのプラットフォームやモバイルVRのゲームを入れたいといった場合,我々は同様に提供予定するつもりです。我々はこれは『どうすればVRエコシステムを構築し,デベロッパに最大のマネタイズ機会を与えられるか』の問題だと考えています。私はOculusのデベロッパがArcadeに参入するのを援助することに躊躇はありません。家庭用に参入する場合も同様です」

 Viveport Arcadeにとって最大のショーケースはGDC期間中にFront Defenceのデモを行ったことだった。これは社内スタジオFantabornによるミリタリーシューティングゲームで,さまざまな武器を使って掩蔽壕を防衛するという内容だ。「これは4月にViveport Arcadeで最初にローンチされます。そして6月に家庭用をリリースする予定です。我々はデベロッパに家庭用とアーケード用の両方を作ることを推奨しています」とBreton氏は語る。「2つの市場で2種類のマネタイズ手段が得られます。アーケード版は家庭用のプロモーションに役立つでしょう。その逆もあります。その際,少しだけ独特な部分を作るべきです。家庭用を持っている人はアーケード版をチェックする理由ができますし,友達をそこに連れて行く理由にもなりますから。これはエコシステムの中でよい橋渡しになります」

 「デベロッパにとって,2つのバーションを作ることはすでにあるコンテンツのリミックス版を作るようなもので,そう難しいことではありません。ゼロから始めるわけではないのです。『ペースの速い5〜7分くらいの体験がいいな。ややこしいチュートリアルはなしで。学ばなければならないものは少なく,その場でジャンプするだけで楽しめるような』といった感じであったなら,これはアーケードゲームになるかもしれません。しかし何時間ものコンテンツを望んでいるなら,それは家庭用に向いています」


 GDC期間中にViveで示されたさらに2つの体験は,VRスポーツ ― 正確な物理演算によるテニスと卓球を合わせたようなもの ― と,CAD風のモデリングツールMakeVRだった。MakeVRはゲームデベロッパだけでなく,さまざまな産業でプロダクトモデリングを行うエンジニアにも有用なものだった。Breton氏は,デザインやツールのカテゴリは数あるVRコンテンツの垂直展開の一つで,彼のチームが強化が必要だとしている分野だと説明する。

「我々はデベロッパが列車に飛び乗ってくれたことを大変嬉しく思っています。我々はこれから彼らをサポートし,助けていきます……新しいVive用タイトルは200〜300本あり,SteamとViveportに今後毎月アップされていきます」
-Joel Breton氏

 「5つのスタジオで,我々はViveが最高のVRを手に入れるための最高のモノだとの確認を担当しています。我々は上層部から10のカテゴリにわたってショーケースとなるコンテンツを作ることを課せられています。ゲーム産業は今日では大きな900ポンド(約408kg)のゴリラになりました。コンテンツの主力はゲームです。ですので,我々はそこに十分な時間と労力を投入するつもりです。しかし,我々はほかの9カテゴリ,ヘルスケアや教育,デザインツール,映画,そしてテーマパークなどでも課せられています。さらにArcadeやロケーションベースのものもあります。ですので,我々は幅広いポートフォリオで,ショーケースコンテンツが必要になるであろう分野を追っていく予定です」と氏は語る。

 新たな99ドルのVive Trackerは興味深いゲームプレイの扉を開く。しかし,これはつまるところ周辺機器であり,Breton氏はデベロッパが放っておいても相手にするようなものではないと認識している。「デベロッパはモーションコントローラを使ったバージョンを作りたいと思うようになるでしょう。彼らは非常に簡単に新たなモードを作ることができます。たとえば我々のボクシングゲーム(Knockout League)で,我々は足にTrackerを付ければキックボクシングができることに気づきました。開発チームは先週Trackerでの実験を行っていましたが,『おお,キックボクシングゲームができたぞ。やらなきゃいけないのは足にアニメーションをつけるだけだ』と言っています」

 最後に,HTCはVRの未来に大いに楽観的だ。そしてそのイニシアティブは動き始めている。Breton氏は結論として「我々はデベロッパが列車に飛び乗ってくれたことを大変嬉しく思っています。我々はこれから彼らをサポートし,助けていきます。Vive Studioは今年25本のタイトルをリリースします。これはわれわれの仕事の一部にすぎません。新しいVive用タイトルは200〜300本あり,SteamとViveportに今後毎月アップされていきます」

 「そう,ここはとてもアクティブなマーケットです。減速することはありません。現時点で1300本のVive用タイトルがダウンロード可能であり,SteamとViveportの両方のアカウントを取れば,そこにはたくさんのコンテンツがあり,コンテンツ発表のペースト品質を加速させています。第2四半期は我々が発表する別のタイトルとサードパーティデベロッパコミュニティが作業しているタイトルの両方でとてもエキサイティングな時期となるでしょう」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら