【月間総括】新ハードの初期出荷台数はプラットフォームの成功を左右するのか?
PS4ローンチ以降の営業利益は,2013年度263億円,2014年度481億円,2015年度886億円となり,今期はさらに1350億円と伸長する事業計画である。前世代機PS3は,ゲーム事業の営業損益が2006年度-2323億円,2007年度-1245億円の巨額損失となり,PS3単体ではライフサイクル通算で大幅な赤字だったと推測されることを考えると大きな成果である。今回は,PS4成功の背景について考察したいと思う。
まず,11月の記事において,エース経済研究所では,
(1)2週めまでに50万台販売できなければ失敗がほぼ確定し,
(2)発売までの準備が成否を決め,
(3)発売後の挽回策にも効果がない
という経験則があることを指摘した。PS3は(1)を満たすことができず,大失敗に終わった。このように書くと8000万台以上の累計売上台数があるPS3を大失敗いうのはおかしいと思われるかもしれない。
しかし,1億台以上の販売を目指すという戦略目標を達成できなかったことに加え,ライフサイクル全体で巨額の損失を計上したと推測されることから見て,大失敗とする判断は適切である。つまり,経営という観点からは,ある時点での瞬間的な販売台数にはまったく意味がない。
PS4は,この点を大きく反省し,初回の出荷台数を大幅に増やし,販売国も広げることで初動からハード,ソフトウェアの販売数量が伸びるような努力を行ったことが大きい。とくに,初回の出荷台数を増やした点は非常に効果的だったと考えている。
ゲーム機販売の初期は逆ザヤで販売するケースが多く,積極的な在庫投資を行うのは大変なリスクとなる。当時の体制ではこのようなリスクを取ることができ,結果としてPS4を成功に導いた。初期出荷が少なければ,購入できる人も少なく,売れるソフトの本数も少なくなる。採算が取れそうになければ本格的にソフト開発を行うようなところが出てくるわけもなく,低コストでできる移植作が出ればよいほうだろう。魅力的なソフトがなければユーザーも増えないといった悪循環に陥りやすい。好循環に持っていくには,ユーザー数の確保は絶対に必要な課題といえる。逆ザヤを切ってでも初期投資としての大量出荷は必要なことであったが,当時のソニーなら一つのプロジェクトが一時的に赤字になっても部門全体でカバーすることができたのだ。
しかし,現在のソニー本社の施策である「サブセグメントまですべて黒字にする」という目標が設定されていると話は変わってくる。新しいプロジェクトに対して積極的な投資が行えなくなり,利益が見込める範囲でしか動けなくなる。
現在は,この目標が経営の大きな足かせになっていると見ており,このような経営戦略上まったく意味のない目標設定は早急に止める必要がある。実際,この目標がPSVRの初動が低くなった要因にの一つとなっている可能性が高い。生産体制の確保には多大な投資が必要だが,黒字化を優先しすぎて十分な生産量が確保できなくなっているのである。平井社長の英断に期待したいところだ。
さて,ここからは1月13日にプレゼンテーションが開催された「Nintendo Switch」について話を進めたい。発表会では発売日,価格,ローンチタイトルおよび今後の展開について開示された。こちらに詳細があるのでぜひご覧いただきたい。
まず,価格についてであるが,マスメディアでは,株価が下がった要因として,Switchの価格設定が任天堂の標準価格である2万5000円を上回る2万9980円(税別)になったことを挙げている人が多いが,エース経済研究所では販売価格が実売に与える影響はほとんどないと考えている。ゲーム機は娯楽であり,常識を著しく逸脱した価格設定ならともかく,5万円以下のレンジであれば少なくとも初期の販売数量に影響はないようだ。これは,過去25年間に発売されたハードの実売動向を見て判明したことだが,ワンダースワン,ドリームキャスト,Wii Uなど販売が芳しくなかったハードは価格が1万円以下から5万円オーバーまで幅広いにも関わらず,販売推移に大きな違いが見られないことからも明らかである。経済学用語では,このような価格設定が需要に変動を及ぼさない現象に対して「価格弾力性が小さい」という。ゲーム機は値段だけで選ばれるものではなく,価格弾力性が小さい分野であるにも関わらず,価格の高低が主要な評価対象となっているのは疑問である。Switchは2万円でも4万円でもおそらく需要変動はわずかであろう。
Switchのローンチタイトルは8本であった。これが少ないとして株価が下落したとも言われているが,これも販売に大きな影響があるように思えない。実際には,投資家の多くは海外のサードパーティから大作の発表があると期待していたものの,そのあたりがほぼ肩透かしに終わったことの反動が株価下落の主要因だとエース経済研究所では見ている。年末発売の新作タイトルはE3で発表されるのが慣例であることや,任天堂が発表したのは基本的にスイッチ独占タイトルであったことを考えると,マルチ大作はこの場では発表しようがなかったのだろうと見ている。
発表されているサードパーティのタイトルは移植が多く,会場で取材した感触でもローンチに間に合うように開発体制を構築できなかったという印象である。その中でも異色だったのは,PS4独占で供給していた日本一ソフトウェアの「ディスガイア5」であろう。
同社は,任天堂プラットフォームに供給したことがなかったわけではないが,DS,Wiiの際は普及してから参入したため,多数のソフトに埋もれて成果が出せなかった。また,3DSはハードウェアの仕様が特殊だったこともあり,「ビックリマン」や「洞窟物語」を出すに留まっていた。
今回は,これらの反省を生かし,最初から積極的にタイトルを出す意向のようだ。2月1日開催の経営方針説明会では,宮本フェローからPCベースで開発していればゲームの移植は一年程度で可能との発言もあった。スイッチの開発がサードパーティに紹介されたのが昨夏であるとのことなので,今年の秋以降は大作のマルチ展開も期待できよう。
体験会で特徴的だったのは,スプラトゥーン2の人気の高さである。13日に発表されたばかりにも関わらず,体験会での人気は圧倒的であった。そこでとくに目立ったのがカップルと思しき人たちであった。従来,こういった体験会は休日の早朝に出発する必要があることから,自身の経験でも圧倒的に男性が多い傾向があったため,これは驚きであった。
Wii Uの販売は確かに不振であったが,新しいゲームを楽しむ層を生み出した可能性があるのではないかと感じている。
予約も,現時点で地方の一部を除き,ほぼ発売初日分は完売になっているようだ。1月23日に任天堂が直販を開始した際も販売サイトがほぼ1日中つながりにくいような状態で,多くの人がNintendo Switchを買い求めた模様だ。
おそらく,現時点でSwitchのほぼ成否は決まっていると思われるが,任天堂側から予約状況について公式の発表がないため,確定することができない。ただ,プレイヤーの反応がすこぶる良好に見えるのは期待できる状況にあるということであろう。
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