インディゲーム開発者の視点から見た「Nintendo Switch」
メインカンファレンスであるプレゼンテーション全体のレポートはこちらの記事をご覧いただくとして,筆者はゲーム開発の視点から,Nintendo Switchの魅力とそのポテンシャルを分析する。
「Switch & Play」任天堂が提唱するプレイスタイルはゲーマーのニーズに沿っているか?
プレゼンテーションから読み取れた戦略と展望
続いて,任天堂のファーストパーティ,サードパーティ各社のタイトル映像が初出も含めて次々と発表された。強く印象に残ったタイトルは,アトラスが発表した「真・女神転生」シリーズ最新作だった。今回はティザー映像のみで,本作がどのような立ち位置になるか詳細は語られなかったが,ゲームエンジンUnreal Engine 4で開発されていることが,同エンジンの「Powered by Unreal Engine」ロゴマークと共に強力にアピールされた。
すでに昨年10月の発表において,多数のタイトル開発会社と共に代表的なゲームエンジンやミドルウェアのNintendo Switch対応が公表されている。
PlayStation 4, Xbox One向けのタイトルでは国内でも数多くの導入が進んでいるUnreal Engine 4だが,ついに携帯(にもなる)ゲーム機への対応を果たす。
もちろん,対するUnityエンジンも対応を完了している。こちらは採用タイトルとして「いけにえと雪のセツナ」が,ローンチと同時に発売される布陣だ。
これまでWii U, Nintendo 3DSにはUnityゲームエンジンが対応してきたが,今世代からUnreal Engine 4での開発が可能になったことが,一つ大きなポイントといえるだろう。
Nintendo Switch ハンズオン!
まずは「マリオカート8デラックス」を用いたTVモードの体験が始まった。大型の液晶テレビの前に4名ずつ案内され,係員によるNintendo Switchの携帯モードからTVモードへの切り替えの実演があった。携帯モードの本体をドックに差し,実際に大型液晶テレビに映像が表示されるまでは3秒とかからなかった(編注:私のときはもう少しかかったような気がする。取り外しで2秒,ドックに取り付けて4秒くらいという体感だった)。この待ち時間は,Nintendo Switch側ではなく,液晶テレビがHDMI入力を認識するまでのラグのように見えた。PVにあったように,ドックへ差してすぐ大画面へ移行する快適なプレイスタイルは実際に得られるようだ。
Nintendo Switchは本体に組み込まれたスタンドで自立ができ,Joy-Conを外してそのまま遊ぶことができる。小さなテーブル程度の平らな面さえあれば,両手で握ることなく,非常に軽量なコントローラを両手それぞれに握ったスタイルで遊ぶことができる。PVでは飛行機の中で遊ぶ男性が描写されていたが,配布されたパンフレットでは,サラリーマン風の男性が新幹線でテーブルモードを楽しむ姿が描写されていた。出張のお供には最高だ。ただし,スタンドが角度調整可能なものかどうかなどは,今回は確認することができなかった。社会生活の中で「ゲームを快適に遊び続ける」ことを意識したからこそ,Nintendo Switchは合体・分離のシステムを得たのかもしれない。
本体編 〜タッチパネルであることが確認されたスクリーン〜
以前からスマートフォンタイトルのニンテンドー3DSなどへの移植は脈々と続いていた。これまでも「ぐんまのやぼう」「新宿ダンジョン」など個人ゲーム開発者のヒットアプリや,「拡散性ミリオンアーサー」「ドラゴンファング」などの人気ソーシャルゲームなどが移植されている。今回,静電容量方式のタッチスクリーンを得たことで,これらのスマートフォンアプリからの移植も比較的容易になると思われる。ただし,タッチスクリーン操作のみのタイトルがそのまま発売できるかどうかは定かではない。
スペックシートによると,Nintendo SwitchのCPU/GPUは「NVIDIA製 カスタマイズされたTegraプロセッサー」とだけ記載されている。NVIDIA TegraはARM系のSoCシリーズであり,NVIDIAの家庭用ゲーム機Shieldシリーズで実績がある。詳細なスペックは不明だが,発表されたタイトルのクオリティを見るに,スマートフォン発祥のタイトルを移植するならば何ら不自由はないだろう。なお,Nintendo Switch本体の背面下方には吸気口らしきスリットと,上方側面に大型の排気口がある。手を近づけてみた感覚では,空冷ファンによる排気が行われているように感じた。
また,Nintendo Switch本体には「明るさセンサー」と「ジャイロセンサー」が組み込まれている。明るさセンサーはおそらく画面照度の調整に使われるものと予想できるが,ポイントは「本体のジャイロセンサー」だ。これは本体がどの方向を向いているか,検出できる可能性を示している。Nintendo Switchを縦にして遊ぶタイトルはいまのところ発表されていないが,縦横回転はタブレットにおいては標準的なギミックだけに気になるところだ。
Joy-Con編 〜新しい遊びとUI作りの課題〜
Joy-Con(L)と(R)両方に共通しているのが加速度センサーとジャイロセンサー,そして「HD振動」と呼ばれる細かい制御が可能な振動機能だ。Joy-Con(L)にのみ,「キャプチャーボタン」と呼ばれるスクリーンショットの撮影ボタンがある。ローンチ時は静止画のキャプチャーで,動画のキャプチャーは今後のアップデートにより可能になるそうだ。PS4におけるSHAREボタンと近いものと予想される。パンフレットにある「※ソフトによっては撮影できないシーンがある場合があります」という注意書きから,PS4同様の「キャプチャー禁止エリア指定」が,ソフトウェア側から制御可能になっていることが想像できる。
Joy-Con(R)だけにある機能の一つめはNFCリーダー/ライター機能だ。動画ではamiiboとの連携が紹介されていたが,個人的には「Suicaカード」に代表される電子マネーカードへの対応に期待を寄せたい。New Nintendo 3DSではNFCを介したSuica決済が利用できる。これはクレジットカードの利用比率が低い日本のゲームファンにとって,Nintendo e-shopにおける決済のハードルが一段下がることを意味する。また,Nintendo Switchはオンラインサービスの提供が発売当初は無償とされているが,一定期間後の有償化が予告されている。オンラインサービスの月額分や,短期間での利用がSuicaでピッと決済できるようになれば,遊びたいときにオンラインを使うプレイスタイルもぐっとやりやすくなるだろう。
そして今回のカンファレンスで電撃的に発表された目玉が「モーションIRカメラ」である。
ネーミングから赤外線を用いたセンサーと思われるが,コントローラと手の距離だけではなく,グーチョキパーなどの手の形状も検出できるとのことだ。手の検出といえば「Leap Motion」が想像されるが,どこまでの精度で手の形が判別できるのかは今のところ不明である。
少し注目したいのは,本体を携帯モードにしたとき,このモーションIRカメラは,プレイヤーの右手下の方向を向くように取り付けられている。小ネタだが,手で特定の印を作ると本体のロックが解除される……などのギミックがあったら面白そうだ。
「マリオカート8デラックス」のキャラクター選択画面は,四つのボタンが並んだアイコンが表示され,どのボタンが相当するのかを位置関係によって説明していた。稚拙な図で申し訳ないが,概要は以下のものである。
開発における正確なUIガイドラインは定かではないが,少なくともマルチプレイがあるゲームの場合は,Joy-Conの状態によってUIを切り替えることが必要になりそうだ。
また,筆者が係員の案内にしたがってJoy-Conをいったん取り外し,また元に戻すと,スクリーンに「どのコントローラで遊びますか?」というガイドがゲームの上から表示された。テーブルモード,携帯モード,Proコントローラの三つから選ぶようになっていた。
つまり,Nintendo Switch向けのタイトル開発では,コントローラ自体のモードは「Joy-Con片方」「Joy-Con両方」「Proコントローラー」の3種類の想定が必要であり,これにローカルマルチプレイ,オンライマルチプレイ,画面4分割でJoy-Conを四つ使用する場合……といった多数のバリエーションにUI側も対応しなくてはならない,ということである。
なお,Nintendo Switchのタイトル一覧には「対応するプレイモード」という項目があり,例えば「1-2-Switch(ワンツースイッチ)」ではそのプレイスタイルの都合上,携帯モードでは遊べないタイトルとなっている。つまり,すべての操作モードに必ず対応させないといけない,というルールではないようだ。
多彩なプレイスタイルとプレイヤーの利便性向上と引き換えに,こうした一工夫がNintendo Switchタイトルの開発には必要になっている。
Nintendo Switchは,インディゲーム開発者を魅了するハードウェアになりえる
プレゼンテーションで登壇したグラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏は,自身が近年のインディゲームからインスピレーションを得ていることを紹介し,Nintendo Switchが「インディとメジャーの懸け橋になる」という展望を語ったが,それが何を意味するのか現段階では不明であった。
なぜなら今回,Nintendo Switchによるインディゲームクリエイターへの施策はとくに何も発表されることはなかったからだ。海外では「RiME」「Has-Been Heroes」「Shovel Knight」シリーズなどが,パブリッシャを介した形で参入することを予告している。おそらく日本国内からインディタイトルが現れる場合も,当面はパブリッシャが関与する形でのリリースとなるだろう。それもそのはず,個人向けにも開放されている任天堂の開発者向けポータルサイト「Nintendo Developer Portal」(参考URL)は 誰でもアカウントを取得し,開発機の購入ができてしまうからだ。インディゲーム開発者への施策が発表されるのは,早くともローンチ以降であると予想できる。
2016年7月以降,任天堂は日本国内の法人を持たないインディゲーム開発者に向けて,Wii Uならびにニンテンドー3DSへの参入をオープン化した。お披露目の場となったBitSummit 4thのレポートはこちらをご参照いただきたい。
このラインナップは「Nindies」と呼ばれ,実際に「トルクル(TorqueL)」「ACE OF SEAFOOD」などの国産インディゲームがクリエイター自らの手でリリースされ,大きな話題をよんだ。また,先月にはニンテンドー3DSへのリリースを目標としたクラウドファンディングも国内でスタートするなど(関連URL),熱気は続いている。
もしこの「Nindies」施策にNintendo Switchも加われば,近年日本国内の個人ゲーム開発者の間で大きな広がりを見せているUnreal Engine 4製のインディゲームが任天堂プラットフォームへ新たに参戦可能となる。個人的にも,なるべく早いうちに自由極まりないクリエイターへ託してもらえればと感じている。発売まで3か月後を切っているが,Nintendo Switchの新しいセンサー郡の組み合わせを活用するアイデアはまだまだ発見できそうだ。このハードウェアで何ができるか,今から考えておくのも一興だろう。