瞳が実現するVRインプットの未来像
バーチャルリアリティのルールブックはまだ書き始められたばかりだが,その中でも早くもエキスパートとして台頭してきている独学の開発者たちは,この没入性の高い新しいメディア体験でも最も重要な要素をすでに洗い出している。
何人かのエキスパートたちにとっては,こうした没入性はパフォーマンスに依存するところが大きく,フレームレートが少しでも落ちてしまえば人々をバーチャルの世界から引き離してしまうどころか,VR酔いを引き起こす原因になると考えられている。あるいはサウンドが非常に重要な意味を持つと考えている人もいれば,ビジュアルスタイルの重要性を説く人も少なくない。アメリカと日本を股にかけるテクノロジー会社FoveのCEOを務める小島由香氏にとっては,その没入性の拠りどころはコントロールにある。
「インプットは,プレイヤーが何ができるかできないかを定義します。ですから,バーチャルリアリティやその没入性には非常に重要な意味を持つのです」と本誌に語る小島氏は,続けて「アクティブで良い入力システムというのは,プレイヤーの意識から消えてナチュラルに感じてくるものです。本当のプレゼンスというものを獲得するためにはシームレスでストレスのない操作が本質でなければなりません」と語り始める。
クラウドファンディングによりパイオニアとなったOculus VRに率いられる形で,現世代のVRヘッドマウントディスプレイが波のようにリリースされ始めたころ,そのインプットは通常のゲームパッドのような既存のデバイスに限定されていた。多くのVRタイトルにとっては,それがプレイヤーたちがゲームとインタラクトするのに十分なものだったからだ。とくにコアゲーマーたちは,目をやらなくても感覚的に押すことができる,ボタンの配置に慣れきったゲームコントローラを,まるでテレビの前でプレイするかのようにVRゲームでも好んで使っていた。
しかし,小島氏はすでに慣れ親しんでいるコントローラならコアゲーマーをターゲットにするアドバンテージはあることは認識しながらも,ゲームパッドの利用は「本格的なVRには限定的な利用」を科すものであることを指摘する。
「VRの本質を完全に引き出すためには,こうした異なるテクノロジーが一つにまとまって機能する必要があるでしょう。現在のシステムでは触感や操作感のVR上での解釈を行うものですが,VR体験の最高点というものがあれば,それは映画『アバター』で見られるようなものであると考えます」
「ゲームパッドだけを使ってプレイした場合,二つのことが起こる可能性があります」という小島氏。「一つはプレイヤーのレスポンスが遅くなるために,プレイヤーが何かの入力によるレスポンスを期待しても,タイミングが合わず,苛ちを引き起こす原因になる視差のエラーが生じます。二つめに起こりえるのは,我々はまだレスポンスが遅いヘッドトラッキングに比重を置きすぎるために,すぐに疲れて飽きてしまったり,こちらでもVR酔いを引き起こしてしまうことになりかねません」と語る。ゲームパッドを使った初期の船出から,多くのVR業界でのリーダーたちはHTCの「Viveコントローラ」,Oculus VRの「Oculus Touch」,そしてSony Interactive Entertainmentの「PlayStation Move」のようなモーションコントローラへの移行を進めている。これは,新しい可能性を広げるものであり,ゲーム内のアクションにさらにリアルなジェスチャコントロールをマッピングできる。このことで,プレイヤーはアナログスティックを指で動かし,銃から剣までを操作するのではなく,自分自身の腕を動かして現実的な感覚でプレイを楽しめるようになるわけだ。
しかし,旧Sony Computer Entertainment時代にはジャパンスタジオのプロデューサーであった小島氏も,こうしたモーションコントロ―ラを称賛するものの,さらに没入性の高いVRコントロールへの第一歩にすぎないと考えている。「モーションコントローラはVR体験の重要なものですが,まだ次の段階に達するようなものではないと思います。多くのゲームはモーションコントロ―ラで十分であったとしても,複雑な表現には向いておらず,フラストレーションを生む要素になりかねないからです」と小島氏は言う。
過去,数年間にわたって,入力やゲームの操作に関して異なるアプローチを実験するいくつかの企業については,散発的ながらも報告されてきた。指の動きをトラッキングしたり,ハプティックなグローブを手にはめると言った革新的なテクノロジーから始まり,細かい動きをバーチャルリアリティで実現してしまうという試みが盛んに試されている。
小島氏は,こうしたデバイスが洗練されて商業的に発売されるようになれば,VR表現における重要なコンポーネントになっていくだろうという信念を持っているが,これも究極的なVRソリューションへの布石であると述べる。一つのシステムだけでは,完全なVRデバイスにはなりえないというわけだ。
「VRの本質を完全に引き出すためには,こうした異なるテクノロジーが一つにまとまって機能する必要があるでしょう。現在のシステムでは触感や操作感のVR上での解釈を行うものですが,VR体験の最高点というものがあれば,それは映画『アバター』で見られるようなものであると考えます。もちろん,あのようなテクノロジーに達するまでにはまだまだ時間はかかりますが,一般の人が思うよりもそれほど遠くないのではないでしょうか」と小島氏は語った。
そのアプリケーションは,被写界深度(Depth of Field)のリアルタイム表現を追加するだけでなく,さらに自然なゲーム操作も可能にする。例えば,複雑なユーザーインタフェースは,用意されたオプションを見るだけで作動させることができるようになり,ゲーム内でのテレポートは実際にコントローラを使ってマーカーを指定するのではなく,見ている場所に移動できるというわけだ。さらには,ゲーム内のキャラクターとのアイコンタクトによって会話やストーリーが進行するといったことも可能になる。
「VRは非常に速い速度で進化しており,その可能性はほとんど制限がありません。しかし,現時点ではインプットという障害が前提にあるのです」
「チャットボックスでほかのプレイヤーたちとコミュニケ―ションするだけではなく,我々は実際にアバターを使ってアイコンタクトを行うことができるようになると考えています」と言う小島氏は,「バーチャルリアリティは,その中のキャラクターに本来の意味での息吹を与え得る驚くべきツールなのです。そして我々は,そこに,向かうためにさらに一歩を踏み出しているのです」と語る。しかし小島氏は,アイトラッキング技術が既存のコントロール方式を完全に駆逐するのではなく,共存することでエンハンスしていくものであると強調する。「アイトラッキングは,インプットを補うためのレイヤーの追加です。ゲームパッドの操作をより速く正確に行えますし,手や指の動きをほかの操作をすることを可能にします。メニューのスクロールなどのナビゲートもたやすくできるようになるでしょう。頭の動きに頼っている現状のインプット方式と比べると,アイトラッキングは大きな飛躍であるのは間違いありません」と続ける。
「我々の最大のテクニカルなチャレンジは,このアイトラッキングをすべての人に正確にチューニングできるかどうかということです。すべての人種やメガネをかけた人,さらには子供からお年寄りまでを含め,みな異なる眼や瞳孔を持っているからです。しかしこうしたことも,現在我々が導入している機械学習や分析システムを使って,かなり実現に近付いていると確信しています」と小島氏は打ち明けた。
つまり,モーションコントロールやフィンガートラッキングと同様に,アイトラッキングもVRインプットの最終的な着地点ではないということだ。やがては,FoveやほかのVR企業は視線追跡からさらに拡張し,例えば顔の動きを読み取ることでプレイヤーの感情を理解することを可能にできるようになるのである。未来のVRは,プレイヤーのリアクションの一つ一つに反応できるようになると小島氏は言う。
「我々の持つテクノロジーと,フェイストラッキングを融合し,プレイヤーが選択するアバターをVR世界の中で表現できるようにしたいと考えています」と語る小島氏は,「これがVRコミュニケーションを現実世界に近付けるわけであり,このすでに素晴らしいVR環境の可能性をさらに広げていくことになると思うのです」と最後に述べる。
「VRは非常に速い速度で進化しており,その可能性はほとんど制限がありません。しかし,現時点ではインプットという障害が前提にあるのです。メインストリームな入力システムは,すべての追加機能に関連するコストがかかるため,最適な機能セットを獲得していくはずです。当然ながら,これらのコストが減少するにつれて,このセットも拡大していくでしょうが,今はコンテンツの品質を保証するためにリソースを費やしていく必要があります」
※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら)