PS4 Proの4KとHDRは真価を発揮できているのか? 

 2016年11月10日,無事PlayStation 4 Proの発売を迎えた。PS4 Proの最大のウリとなるのが4K+HDR表示だろう。

 4K表示については,思いのほか滑らかだ。本来,4K解像度で,ある程度のグラフィックスのゲームをプレイしようと思った場合,GeForce GTX 980 Ti以上,できればGeForce GTX 1080クラスを使用することが望ましい。PS4 ProのGPU性能は格段に向上したものの,それらと比べるとだいたい半分くらいの演算能力しかない。しかし,現実にはほぼ問題なく4K表示でのゲームプレイが実現されている。
 これまでの説明では,ある程度の解像度でレンダリングされたゲーム画面をスケーリングで4Kに拡大して表示するようなことが言われていたのだが,文字のエッジや画面の細部からもクリアで,スケーリングぽさはほとんど感じられない仕上がりになっている。おそらくスケーリングは行われていないものと思われる。それでも,テクスチャなどが4Kを対象にした解像度でないことは見て分かるので,今後登場するであろう,開発時から4Kも考慮に入れたゲームに期待したいところだ。

 ただ,4KにしてもHDRにしても,ぱっと見ただけではなかなか違いが分からないというのが現状の結論のようだ。4KやHDR対応のゲームで,画面をよくよく見比べて違うかどうかと問われれば違うと答えるしかないのだが,かろうじて違いが分かるといった程度のものであり,多くの人が期待したであろう,性能差ほどの画面の違いはないとしか言いようがない。

 とはいえ,試してみたものはすでに発表されているゲームに後付けで対応させたものがほとんどなので,十分な対応が行われているとは言いがたい。現状をもって4KやHDRがダメという判断はすべきではないかもしれないが,とにかく最初に感じたのはHDR表現の弱さだった。これまで展示会などで見ていたモノは見ただけで「これがHDRか」と思わせるHDRとしての説得力があったのだが,そこがどうにも弱かったのだ。
 ちょっと気になって現在発売されているHDR対応テレビについて調べてみたのだが,なんとスペック表に最大輝度が表示されていないのだ。およそありえないと思うのだが,HDR対応のマスターモニターとして販売されているソニーBVM-X300ですら,「標準輝度 100cd/m2」と全然HDR対応ではないスペックしか掲載されていない。

 HDRとは,白と黒の範囲を大きく広げたというか,白よりも明るいところまで色の再現領域を伸ばした映像フォーマットだと思っておけばだいたい間違いない。実際は黒に近いところの表現力も上がるのだが,ゲームで見えないくらい暗い部分の表現が重要だと思っている人はほぼいないので気にしなくてよい。

最低でもこのマークが付いたテレビを選びたい
 Ultra HD Bru-rayの規格によって,だいたいHDR規格の標準的なところが固まってきたようだが,Ultra HD Bru-rayに採用されているPerceptual Quantizer方式は1万cd/m2までの輝度を絶対値で使用する方式となっている。1万cd/m2は(直射日光下での明るい面)くらいのものを表現できる規格となっている。ただ,現状ではHD対応と謳われていても,1万cd/m2はおろか,その1/10にも達しない製品が多く存在する。業界的には,HDR対応の映像信号を入力可能であればHD対応ディスプレイとしてかまわないらしい。ただ,それではちゃんとしたHDR映像の基準がなくなるので,「液晶ディスプレイで1000cd/m2を超えていたら合格」みたいな「ULTRA HD PREMIUM」認定が行われている。とりあえず,このマークが付いているかどうかを目安にするのがよさそうだ。
 ちなみに,有機ELディスプレイでは540nitがULTRA HD PREMIUMの認定基準となっている。540nitでは明らかに表現できる輝度範囲が狭いので,本来かなりおかしなことだと思うのだが,そういうことになっているのでしかたない。液晶ディスプレイの1000cd/m2と有機ELでの540cd/m2が同じくらいの明るさというわけではまったくないので注意しよう。

 PS4 Proに接続された表示デバイスで,私が確認したのはSIEで見たBRAVIA X8500D(55型)と編集部で用意した機材はAQUOS LC45US40だ(ちなみに4Gamer編集部のほうだが)。ULTRA HD PREMIUMマークが付いていないので,残念ながらどちらも最大輝度が1000cd/m2に達していないようである(BRAVIAに関しては,X9300Dから1000cd/m2に対応したらしい)。

 目に見える状態の映像ということで,HDRモードとSDRモードで画面を直撮りして比較しようと思っていたのだが,カメラ越しだとなかなか厳しいものがあった。以下は,デジカメをマニュアルモードにして,インフォマスの画面をF4,1/60秒,ISO1600の設定で固定して直撮りしたものだ。
 全体にやや露出不足気味ではあるのだが,SDRは明るく,HDRは暗いという傾向がはっきりと出ている。SDRではそれでも明るい部分の白トビが目立つ結果となった。

SDR
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HDR
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SDR
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HDR
PS4 Proの4KとHDRは真価を発揮できているのか? 

 HDRで実際のゲーム画面がここまで暗いかというとそうでもない。人間の目は自動補正してくれるので見た目には写真ほどの違いはない。明るさは明らかに違うのだが,SDRではこんなに夜空が輝きまくっていたかということもない。
 正直「だいたい同じような絵で,明るい部分がSDRよりももっと明るい」といったものを期待したのだが,「SDRよりも全体に暗く,明るい部分はSDRよりも明るい?」といった感じの結果になってしまっている。照明付近で飽和している範囲を比較すると,SDRより明るいかどうかの説得力にも欠ける写真だ。全体を暗めにして,照明などをより明るく見せる技法は古くから使われているのだが,それによるHDR表現と勘違いされかねない。

川瀬氏によるHDRの注意点
PS4 Proの4KとHDRは真価を発揮できているのか? 
 以前,HDRで規格どおりに出力するとSDRよりも暗くなったり色が地味になったりすることがあるとシリコンスタジオの川瀬正樹氏が指摘していたことがあったのだが,まさにそれが起きているのだろうか(関連記事)。
 ディスプレイ的に高輝度の部分がいまひとつ弱く,全体に暗くなっているのは処理系の問題であろう。インフォマスはPS4 Pro用のHDRゲームとしては代表的な作品なのだが,あまり模範とされないことを願いたい。

 現段階でもPS4 Proは4Kでのゲームが現実的であることを示してくれている。一方でHDRでは課題が多い。
 画面がHDRだとどうなるのかについては表現が難しいのだが,個人的には「画面ぽくなくなる」というのが適切かと思っている。古来,映像の中心にはカメラがあった。その出力形態となる写真では,印画紙の地の白が表現しうる最大輝度であり,映画の時代になっても,スクリーンの白に反射する光が最大輝度を決めていた。発光するデバイスであるテレビなどが登場しても,反射光の白が映像の最大輝度であることは変わらなかった。SDRは拡散反射光が基準となっている。問題点を分かりやすくいえば,ディフューズ成分についてはSDRで十分だが,スペキュラー成分や直接光には不十分だったわけだ。
 HDRでは,そこが根底から覆される。光るモノが光るモノとして表現できるのだ。ゆえに,最大輝度はかなり大きな問題となる。眩しいものを眩しく表現できることが要求されるからだ。
 1万cd/m2対応が理想なのだろうが,当面の基準値と目される1000cd/m2以上に対応したHDRディスプレイであればそれなりに見えていたので,HDRディスプレイを導入しようという人は最大輝度に注意しよう。はっきり言って,現状ではおすすめできる製品はない。CES2016の動向などからして,来年には3000cd/m2くらいに対応した製品も出てくるのではないかと期待されるので,CES2017に注目だ(ただし,高輝度のディスプレイは消費電力と発熱も凄いので覚悟しておこう)。

 HDR対応ディスプレイとHDR対応コンテンツの関係は鶏と卵のようなもので,どちらかが先行しないとうまく回っていかない。これまでも対応テレビとULTRA HD Bru-rayドライブなどが存在はしたのだが,実質的にPS4 ProがHDRを先導していく存在となるだろう。現状で対応状況が悪いのはある意味当然の話である。ただ,不十分な状態で広まることで,HDRに対する誤解が生じる可能性もある。
 現状ではHDR対応製品とは言ってもデバイスごとに最大輝度が異なる。ソフトを作る側がどう対応すればいいのかについては,前述の川瀬氏の講演が大いに参考になるだろう。
 正しいディスプレイデバイスと正しい実装が着実に普及していくことが望まれる。

■HDRの現状

 HDRとはどんなものかを説明することは非常に難しい。言葉では仕組みは理解できても,それがもたらす効果などについてはまったく直感的ではない。こういった場合の説明には,SDRだとくすんでいてHDRだと抜けのよい画像が説明で使われることが多いのだが,実態を考えるとあまりフェアな比較とはいえない。
 以前AMDがHDRの説明として出していた画像は,おそらくHybrid Log Gamma方式のSDRの基準白がHDRの0.5になるようなカーブを適用してトーン変換したものと思われる。単純に輝度を半分にしたものとあまり変わらない。しかし,それを映像として比較するのは意味が違わないだろうか。

PS4 Proの4KとHDRは真価を発揮できているのか? 

 これだと,毎月子供に1000円のお小遣いをあげていたのを「来月から上限を10倍にします」と言って支給額を500円にするようなものだ。従来の1000円は新しいカーブのこの辺になるからと説明して納得するお子様をお持ちならなかなか頼もしいが,多分教育を間違えている。

 以下,各HDRテレビを扱うメーカーなどが使っているイメージ図を見てみた。SDRで表現するWeb媒体では扱いきれないものなのだが,どう表現するかで各社のスタンスが分かるかもしれない。

 パナソニックのテレビの公式サイトの場合,下の部分はあまりいじらないまま,SDRだと白領域の飽和が早くくるような感じで比較画像を作成している。わりとまっとうな紹介の仕方であるように思われる。

PS4 Proの4KとHDRは真価を発揮できているのか? 

 ソニーの場合,BRAVIAのページに項目としてHDRを取り上げたページがそもそもない。最新機種の場合,HDR押しではなくてSDR時点で高輝度化してコントラスト上げまくるような処理がウリになっているようで,HDRは色階調の細かさをアピールする項目になっていた。その他の機種では,HDRの説明部分はCSSでフィルタリングする感じで明度を半分にしていたりもする。そこはAMDとだいたい同じ路線だ。HDR対応機種の特徴部分での説明はまた少し変わっており,明るい部分の輝度はあまり変わらないが,暗い部分の見えやすさなどが強調された説明図となっていた。パナソニックとは逆の方向性だ。

PS4 Proの4KとHDRは真価を発揮できているのか? 

 シャープの説明図の場合,HDR画像と比較して白部分の飽和が早く,黒部分のツブレが起きている。上はパナソニックと同様で下も色域を狭く処理したイメージである。見た目にダナミックレンジはSDRのほうが広いと思う人もいるかもしれない。

PS4 Proの4KとHDRは真価を発揮できているのか? 

 東芝は,全体にコントラストを強めにしてHDRをアピールしていることが分かる。SDR画像も別に低画質ではない範囲のものを使い,単純にコントラストを上げているようだ。

PS4 Proの4KとHDRは真価を発揮できているのか? 

 以下,カーブの曲がり具合はまったく無視して線形で話をするが,画像で比較する場合に適切な変換を考えてみたい。
 単純にHDR画像は明るい部分と暗い部分の範囲が拡大されたものと解した場合,SDRの画像は右図で橙色の線のようなトーンカーブになるべきである。そのカーブで変換した画像は以下のように全体にくすんだ感じになる。

左は元画像,右が変換後の画像
PS4 Proの4KとHDRは真価を発揮できているのか? 

 これだと白トビや黒ツブレなどのイメージとは違って,灰トビ灰ツブレになっているので,非線形にはなるが,一定値以上/以下のものを最大値/最小値に置き換えてみよう。先ほどのシャープのサンプルがこの路線だ。


 しかし,HDRの白(要素が最高数値の色)がSDRの白より明るいのはよいとしても,HDRの黒(要素が最低数値の色)がSDRの黒より暗いかというとそんなことはない。明るい部分と暗い部分の階調が拡大されるような表現がされることが多いのだが,実際は普通の明るさの範囲も拡大されている。見た目で伸びているように見えるのは非常に明るい部分だけといってもいいだろう。
 見え方を現実的に考えて,SDR範囲は同じように見えるように上側だけクリップすると,下のようになる。パナソニック路線がこれである。


 これが実情に合っているような気はするのだが,SDRとあまり差が出ないので納得しない人も多いかもしれない。
 ということで,本題からかなりズレてしまった気もするが,SDRとHDRを画像で模式的に比較する場合は,最後のものが適切であるように思われる。