なぜ中国のパブリッシャは,西欧でPSVRが大ヒットすると信じているのか
この記事を読んでいるような人でも,Oasis Gamesの名前を聞いたことのない人のほうが多いかもしれない。同社は中国をベースにする独立系のパブリッシャで,これまでにPlayStation 4向けの「KOI」や「Naruto Online」などを海外向けにリリースしてきた経験を持つ。Oasisは現在,コンシューマゲーム機向けにゲームを海外販売している中国唯一のメーカーであり,同社CEOのWang Yuhui氏はVRゲーム市場への参入が,海外で知名度を上げる道だと信じている。とくに,同社はSony Interactive Entertainmentの「PlayStation VR」(以下,PSVR)が最良の機会であると考えており,今後90日以内でローンチするタイトルを,我々の知るどのメーカーよりも多く抱えているのだ。
Oasisは,すでにローンチタイトルとして「Ace Banana」を10月13日に発売しており,「Pixel Gear」が10月20日,「Weeping Doll」が10月27日,そして「DYING: Reborn」が2017年初頭,そして販売時期未定の「Mixip」がある。しかし,なぜこれほどPSVRに力を入れているのだろうか?
「Oasis Gamesと我々の親会社であるZeus Entertainmentは,VRゲームは世界規模で大きな潜在的な市場を持ち,とくにPSVRには大きな機会があると考えています。我々は,そのパフォーマンスの高さと競争力のある価格からプレミアムVR市場の中でもPSVRが独占的な市場シェアを保有するに至ると考えているのです」とWang氏は話す。「我々は,ここ1年ほど,多くの開発者たちと話する機会を持ち,VR市場の全体像を見てきました。その過程で,我々の考えるゲームがPSVRに非常にマッチしており,ほかのVRプラットフォームと比べてより広いゲーマ―層にアピールできると判断したのです」
「PSVRは,そうした状況の中で最高のタイミングでリリースされたのですし,ほかのVRデバイスと比べても非常に快適で良いパッケージの商品であると考えます」
また,Wang氏は「この5つのゲームを手始めにし,より魅力ある価格帯に抑えることで敷居の非常に低いゲームにしていますし,VRゲーム市場の形成されていく過程でインパクトを残すことでより多くのプレイヤーに興味を持ってもらうこともできるでしょう。多くのパブリッシャが,アーリーアダプタたちはコアゲーマーだと考えているようですが,我々はVRを大きな市場にアピールできる,見逃せない機会であると見ており,そのことについて非常に興奮しています。活動を始めたばかりの小さなパブリッシャではありますが,その分,足回りよく活動できますし,信じる分野に集中するというリスクも取りやすい。PSVRは,我々のVRゲーム市場でのポジションを短期的縮めてくれるだけでなく,長期的にもブランドを確立できるプラットフォームだと考えているのです」と続けた。一度に5つのゲームタイトルを一つのプラットフォーム向けにリリースするというのはもちろん大きなリスクであるが,一つ一つの開発費はAAAタイトルの開発コストほどではない。「どのタイトルも情熱的なデベロッパたちの手掛ける作品で,みな自分の作品をアーリーアダプタだけでなくVRを挑戦してみたいという,広い層に遊んでもらいたいと考えているのです。我々のゲームはBatman: Arkham VRと競合してはいないのです」とWang氏は語る。
バーチャルリアリティというのが一般化し始めてまだまだまもないために,VRタイトルからの収益を求めるのはほとんどのパブリッシャには難しいことである。しかし「VRビジネスに非常に自信を持っているというOasis Gamesは,ほかのプラットフォームにも熱い視線を投げかけている。とは言いつつも,同社はPSVRはVR市場の先頭に立つはずだと見ている。SuperDataの最新の予想においても,PSVRはOculus VRの「Rift」やHTCの「Vive」よりもずっと多い260万台を年末中にも販売するという(関連記事)。
「私は,VR市場の成長に関しては非常に強気で楽観的な展望を持っており,我々のゲーム業界と開発テクノロジーが全体的に向かっていく自然進化の道筋であると考えています。VRは,現在の,そして未来の消費者が欲しているニーズを補うものたりえ,今後のデマンドと成功のためにもゲーム業界が一丸となって取り組んでいく分野であるのではないでしょうか。すべてのテクノロジーに始まりと終わりがありますが,VRに関して言えばOculus VRやHTCの半年ほどの取り組みがあるとはいえ,まだまだ始まったばかりです。PSVRは,そうした状況の中で最高のタイミングでリリースされたのですし,ほかのVRデバイスと比べても非常に快適で良いパッケージの商品であると考えます」とWang氏は語る。
Wang氏は,VR市場においてOasis Gamesが差別化を図るには時間はそれほど掛からないだろうとしており,その理由として多くの企業がVRビジネスへの参入に“保守的で用心深過ぎる”ことを挙げている。「まだまだVRゲームが多いとは言えませんし,大きなパブリッシャはすでに存在するIPに頼っている現状であります。我々のストラテジーはVRゲーム市場で素早く展開することによって消費者からのグローバルなパブリッシャとしての認知度を高めるとともに,VR市場におけるノウハウを早くから構築していくことです。我々は,長らくゲーム市場においてどうすれば成功するかを考えており,早くスマートに成長して,消費者の皆様がより多くのゲームから選べるような状況に近付くように,どこまでリスクを取り,どのような行動を取っていくべきかという戦略を練ったのです」
Oasis Gamesの計画の一つは,自社タイトルの価格を落として,より消費者の目に留まりやすいようにしていることだ。少なくともしばらくの間は,同社からAAAタイトル並みの価格帯で発売されるゲームが登場することはなさそうだ。
「どのプラットフォームにおいても,とくにその初期においては制限というのは存在するものですが,アイデアのある開発者が常に良い表現方法を導き出し,ゲームの面白さを維持できるようにするものじゃないでしょうか」
「我々が発売するソフトの第1弾は,独立系開発者との契約でパブリッシングを行うもので,彼らは小さいチームではありますが,新しいテクノロジーについて大きな情熱を持っています。我々はまだゲーム業界でもスタートを切ったばかりで,グローバル市場ではまったく認知されていませんので自分たちを証明する必要もあります。ですから価格を下げて消費者にアピールし,我々のことを知ってもらうということも重要なのです」と語るWang氏は,続けて「例えば,ローンチタイトルになったAce Bananaは価格を14.99ドルに設定して敷居を低くすることで,気軽に遊べるパーティゲームとして楽しんでもらうと思っています。それ自体でも低価格だと思うのですが,PSVRのプレイヤー向けにはさらに期限的なセールス価格をご用意しているのです。今のところは,我々のゲームはデジタルダウンロード専用ですが,来年以降に我々のビジネスが成長するに従い,リテールでパッケージ販売も行うなどして,より認知度を高めていこうというオプションも考えています」と話した。本誌を含める多くのメディアでは(関連英文記事),Sony> Interactive EntertainmentのPlayStation 4は,RiftやViveを起動するのに必要なハイエンドなPCと比べると十分なパワーを持っていないことが指摘されている。さらに,すでに登場してから何年も経過し,元々はVR向けに開発されてなかったはずのPS Moveテクノロジーは当然ながら古くなりつつある。しかしながら,Oasis GamesはこうしたPSVRの制限についても大きな心配はしていない様子だ。
「我々は,PlayStationのテクノロジーと周辺機器は,我々の必要とする条件を満たしていると考えています。さらに開発者たちにとっても,よりクリエイティブで機知的にゲーム開発に取り組む必要があり,ゲーム開発のノウハウを得るのは願ってもないチャレンジであると受け取ることもできるのです。どんなものにも,良い面と悪い面はあるものです」とWang氏は語る。
「PSVRテクノロジーは,キャラクターがゲーム中でどのように移動するかに限界があって,PSVRのプレイヤーの動きをトラッキングするシステムは今後も進化していくはずです。とは言うものの,ゲームを楽しむという点においては,そのことが現時点で大きな問題になっているようには思いません。例えば,Ace BananaやPixel Gearでは我々はうまくPS Moveコントローラを使ってアーケードシューティングのような遊び方を体験できるよう調整することができました。また,DYING: RebornではDUAKSHOCKコントローラを使っての動きを既存のコンシューマ機向けゲームのように遊べますし,Weeping Dollではプレイヤーがロケーションをクリックしながらアバターを移動させていくというシステムに挑戦しています。どのプラットフォームにおいても,とくにその初期においては制限というのは存在するものですが,アイデアのある開発者が常に良い表現方法を導き出し,ゲームの面白さを維持できるようにするものじゃないでしょうか」
Oasis Gamesが,突然巨大ゲーム企業となったTencentと同じ規模に変身するわけではないだろうが,海外においてもパブリッシングを行っていくという同社のアプローチは,Tencentのように外国企業への投資や買収を行わなくても,徐々に,そして確実に足場を築いていくことになるだろう。
「私は,中国のゲーム開発現場での視点は変わりつつあると考えており,Oasis Gamesをゲーム市場でしっかりと立脚できる本格的な企業であると認めてもらっていると思います」
「我々が第一に考えていることは,最も重要なのはそれぞれの国の文化に配慮するということで,我々のアプローチを信じていただいて,共に活動できるパートナーシップを探るということです。ここまで来れたのも,我々がゲームソフトを配信するそれぞれの国の文化や慣習を理解しようと努めたからだと思います。KOIとNaruto Onlineは,我々が世界的にアピールする製品を作ることができるという二つの好例ですね。Naruto Onlineは,世界的にも非常に知名度の高いIPで,どこに住んでいようがアピールできますが,KOIはそれとはまったく別の観点で作られたもので,言葉を必要とすることなくゲームストーリーを理解できるというコンセプトでゲームを開発しているのです」とWang氏は強調する。そして,「我々は,これまでも何度も間違いをし,そこからさまざまなことを学んできましたが,我々はさらに賢明になり,我々のビジネスに価値のある判断をできるよう適応しているのです。我々は,自分たちのブランドを作ることを熱望しており,ゲーマーの皆さんがOasis Gamesの名を目にしたときに,質の高いゲームプレイを連想していただけるよう邁進していきます。当初のタイトルが期待どおりの成功につながらなかったとしても諦めることはなく,うまく企業としての統制を取り,素早い思考とアクションを繰り返しながら,良いファンベースを構築していくつもりです」と付け加えた。
中国国内で知名度のあるTencentやShandaなどの企業に対抗心を燃やすこともなく,Wang氏は「我々のような次の世代のパブリッシャを導いてくれている」と語る。彼は,Oasis Gamesは「ほかの中国企業にとって,外国と接するうえでどのように計らっていくべきかを学ぶロールモデル」でありたいと語る。
「私は,ゲーム開発現場での中国の認知は変わりつつあると考えており,Oasis Gamesをゲーム市場でしっかりと立脚できる本格的な企業であると認めてもらっていると思います。大きな国ではありますが,ゲーム開発コミュニティは意外に小さく,皆がそれぞれにポジティブな協力関係を保っています。大きくても小さくても,中国のメーカーはそのゲーム開発力を世界に示し,世界的にビジネスを拡張させていこうと考えているのです」とWang氏は締めくくった。
※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら)