VRコンテンツ開発技術のいまを総まとめ。Japan VR Summit「VR開発者を支える最新技術動向」レポート

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 開発者のクリエイティビティを加速させるゲームエンジンと,その表現力を支える強力なハードウェア。どちらも今日のVRコンテンツ開発には欠かせない存在だ。
 2016年5月10日に開催されたVRコンテンツ開発者向けカンファレンス「Japan VR Summit」のセッション4は,VR開発者なら誰もが知るUnity Technologies・Epic Games・AMDの日本サポートを担当する面々が集い,最新VR開発動向の報告を行った。Japan VR Summitの多くのセッションはVRの市場やビジネス観点におけるものであったが,本セッションに限っては,VRコンテンツの「作り手」にフォーカスしている。来場者の半分程度は実際に開発を行っている技術者であったようだ。本稿ではそのレポートをお届けする。


VR開発を支えるゲームエンジンとハードウェアメーカー


 まずはVRに対する取り組みについて,各社が現状を紹介した。

ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン 伊藤 周氏
 ゲームエンジンUnityを提供するユニティ・テクノロジーズ・ジャパンからは,エバンジェリストの伊藤 周氏が登壇。早期から「[Hiyoshi Jump](関連URL)」などで,Unityを使用したVRコンテンツ作りを自ら実践している人物だ。

 まず伊藤氏は映像でUnity採用のVRタイトルの数々を紹介しながら,Unityの誇る圧倒的な開発者数をアピールした。開発者数は昨年の段階で450万人。これは,ゲーム開発者の4人に一人はUnityを触っている計算になるのだそうだ。

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 また,Unityはマルチプラットフォーム対応であるということも大きな強みだ。スマートフォンはもちろんながら,Webブラウザ,家庭用ゲーム機など,世の中に存在するエンターテイメントプラットフォームのほとんどにおいてUnityコンテンツが動作している。

Project Tangoなどはつい最近実機が発表されたばかりだ
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エピック・ゲームズ・ジャパン 下田 純也氏
 Unreal Engine 4(以下UE4)を展開するエピック・ゲームズ・ジャパンからは,デベロッパ・サポート・マネージャーを務める下田純也氏が登壇した。下田氏はMicrosoftにてUnreal Engine 3の担当技術者として活躍し,スクウェア・エニックスのゲーム開発をサポート。その後エピック・ゲームズに合流した人物だ。現在ではUE4を使っているゲーム開発者のサポート担当をしている。UE4が低価格化,そして無償化して幅広い層のクリエイターに使われるようになって以降は,全国のさまざまなゲーム開発者向けイベントに行脚するなど,精力的に活動を行っている。

2016年5月12日10:30頃追記:初出時,下田純也氏の経歴に誤りがありました。訂正するとともに,お詫びいたします。

 そんな下田氏が最初に紹介したVR利用事例は,ゲームではなくNASAによるシミュレーションへの応用事例だ。HMDデバイスはHTC Viveで,国際宇宙ステーションの組み立て訓練に活用されているという。

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 もちろん日本発コンテンツとしても,PSVR向けの「サマーレッスン」や,Vive向けの「マブラヴVR」などの事例がある。とくに最近ホットなのは,バンダイナムコゲームスが提供している「VR ZONE Project i Can」だ。
 そのイベントで稼働する6つのアトラクションのうち,四つがUE4製のものだという。

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 そして下田氏は,UE4の強みは「すべてのクリエイターが力を発揮できる環境であること」だと表明した。

 UE4のビジュアルスクリプティング機能「Blue Print」による(ある程度の)スクリプトレス開発によって,アーティストでもインタラクティブコンテンツの単独開発が可能になること。
 そして,プログラマに対してはソースコードの公開によって自由な拡張性,信頼性を提供しているということによって,コンテンツ開発に関わるクリエイターがその力をいかんなく発揮できるエンジンなのだ,というスタンスだ。

日本AMD 西川 美優氏
 3人めの登壇者は日本AMDシニアアライアンスマネージャー ISVリレーションズの西川 美優氏だ。西川氏はアジア地域におけるWindows・VRコンテンツの開発者のサポート,R&D,QA,マーケティングなどの多岐にわたる支援を担当している。
 また,昨今は数多くのVR開発者イベントに出席しており。各協賛はもちろんのこと,機材の貸し出しを行うなど,積極的に開発者コミュニティに関わっている人物だ。

 AMDといえば,Radeonシリーズに代表されるグラフィックスカードを思い浮かべる人が多いのではないだろうか。コンパクトでパワフルなグラフィクスカード,という新しい切り口で話題を呼んだ「Radeon R9 Nano」は,VR開発者,とくに展示会出展常連組から熱い視線を浴びたことは記憶に新しい。

 そして,同社のアーキテクチャのAPUはPlayStation 4, Xbox One, Wii Uに提供されている。VR的には,PlayStation VRを支える技術,ということもできるだろう。
 新しい分野としては,オールインワン型のVRハードウェア「SULON Q」にもAPUを提供している。こちらはカナダの会社の製品なのだが,日本からもVRにハードウェアで参入したい企業があれば,ぜひ支援したいとのことだ。

 さらにソフトウェア面でもVR向けのツールキットを早期から開発。VRコンテンツの描画をいかに滑らかにして遅延を抑えるか,という観点において開発されたSDK「Liquid VR」はGDC 2015に発表されたもので,1年以上にわたってVRに注目した技術を提供していることになる。

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 西川氏はまた,Ubisoftの「Assassin's Creed」のVRコンテンツでの協力についても触れた。曰く,いまのVRにはこういった超大型タイトルがまだ欠けており,爆発的ヒットを生み出すようなIPをVRに持ってきてくれる開発会社に向けては積極的に協力をしているとのことだった。

 また,AMD本社ではVRコンテンツ自体の開発支援や,Quality Assurance(品質チェック)など多岐にわたる事業を行っているが,開発者・ハードウェア・プラットフォームまで全部が一丸となって,エンドユーザーへ最適な状態でコンテンツを届け,マーケットを拡大していこうという「VR as a Service」という概念を提唱しているとのことだった。

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リブゼント・イノベーションズ 橋本 善久氏
 以上3名を交えたディスカッションのモデレーターを務めるのはリブゼント・イノベーションズの橋本善久氏だ。スクウェア・エニックスにてCTOを務めたのちに独立し,現在は複数の事業を展開する橋本氏だが,VRに対しては「Japan VR Summit」主催者でもあるGREE VR Studioで技術顧問を担当している。


VR Editorという新たなコンテンツ開発環境


 橋本氏はまず,「VR Editor」の可能性について取り上げた。これはVRコンテンツを開発するエディタのことではなく,VR技術を使用してデジタルコンテンツ全般を開発する環境のことを指した言葉だ。
 すでにある事例として,3D空間上に絵を描くことができるGoogleの「Tilt Brush」,同じく3D空間でモデリングができるOculus VRの「Medium」などを挙げ,VR Editorによってアーティストの制作活動が本質的に変わる可能性を示した。

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Tilt Brush
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Medium

 このVR Editorの考え方に対し,伊藤氏は,VRがプレイヤージェネレイテッドコンテンツ(UGC)との親和性が非常に高く,専門知識がなくても簡単に3D空間のコンテンツを作っていける可能性があると述べた。
 従来のやり方で3Dモデリングやレベルエディットを行う場合は,平面のモニターの上で奥行き感を把握しつつ,適宜視点を変えながら作っていくような「コツ」が必要になっている。
 そこにVR技術を応用することで,この視点の問題を解決し,3D上での制作に馴染みのない人でも直感的に作りやすくなるだろう……という考えだ。

 ちなみに,すでにUnity・UE4ともに,VRと連動したエディタシステムを準備している。

 下田氏は,まずUE4におけるVRを使用したレベルエディットの様子を動画で紹介した。HMDを被ってポジショントラッキング機能の付いたコントローラにより,ゲームのレベル(ステージ)の中に家などを配置していくデモだ。
 すでにこの機能はGitHub上でβ公開されており,対応機器を持っている開発者はすぐに試すことができる。しかしながら,UIや操作感にはまだまだ改良の余地があるという。

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UE4のVR Editor

 Unityの場合は,VR Editorは開発中であるもののまだ提供は先になっており,今回はコンセプトムービーの紹介となった。
 開発者がHMDを被るところまでは同じだが,仮想コンパニオンと音声でやり取りして,Unityの持つコンテンツ(プレハブ単位だろうか)をカード形式で並べてカードデュエルのように3Dオブジェクトを具現化させ,レベルエディティングを行っていくという,なかなか夢のある映像になっていた。

 とくに驚異的だったのは,現在も多くのクリエイターが利用しているオンライン上の素材ストア「Asset Store」の商品が同列にVR内でリストアップされ,確認から購入までワンストップで行えるというところだ。これはうっかり素材を買いすぎて現実世界に戻って残高を見るのが恐ろしくなりそうな,素敵な機能である。

UnityのVR Editor
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 両社のエンジンとも,開発者がOculus TouchやHTC Viveのコントローラを使って,自由にオブジェクトを置き,角度や大きさを調整することができる仕様だ。
 橋本氏は,こうしたゲームエンジンが提供するVRエディタに対し,VRコンテンツを開発する際に使えるだけでなく,VR以外のあらゆるエンターテイメントコンテンツ制作に応用できるものだと語った。

 また,今後はクリエイターがHMDを被りっぱなしになってしまう可能性も踏まえ,完全にVR空間内で制作を完結させるためにも,音声認識による操作やキーボードに代替できる入力装置が望ましいと話した。

 そして,もしスマホアプリを開発しているならば,実機の確認は手元の端末で行いたいだろう。その場合,いちいちビルドとHMDを被る行為を繰り返すのではなく,VR空間内にスマートフォンの画面を投影してしまうアプローチも考えているとのことだ。
 実際に伊藤氏はその仕組みに近いものを見たらしく,早期に実現しそうなアプローチである。

 関連して,現実世界との連動でユニークな観点として,GREE社内では,開発者が一息つくための「現実世界のコーヒーマグ」がHMDを被ったまま見えれば...という意見も出たそうだ。


多種多様なVRデバイスに対する開発者の心構え


 続いて橋本氏は,現在市場にあるさまざまなVRデバイスの特徴について整理していった。大きく分けると4グループだ。
 ハコスコやGoogle Cardboardに代表される安価で手軽なローエンド環境。Samsung Gear VRのような,高性能スマートフォンを使ったミドルエンド機器。既存のゲームハードウェアと一緒に動作するPSVR。ハイスペックPCが前提のRift,Viveというハイエンド領域の四つだ。

近年のVR機器
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 開発者として悩ましいのは,どの機器に対してコンテンツを供給していくか? ということだろう。

 伊藤氏は,ハイエンドに属するRift/Vive/PSVRに関して,HMDの品質・トラッキング性能・コントローラあたりはだいたい同じ環境が揃っているため,おおむね同じコンテンツを提供することは可能だと話した。

 一方,Gear VRはどうしても性能として物足りないところがあるとし,モバイルであるがゆえ,動作が重いアプリはバッテリーの持ちにも関連してしまう点を指摘した。
 そこで,当面はハイエンドと,モバイルを使ったローエンド/ミドルエンドの二つで線を引き,別のコンテンツを作ったほうがよいだろう,という見解を示した。
 例えば,ハイエンド環境がリアルタイム3Dコンテンツの本編であり,ローエンドVR環境の活用としては,そのタイトルの販促としてプリレンダームービーで体験してもらう,などの住み分けがあるとよいそうだ。

 ここで西川氏は先ほどのスライドにもう一つ視点を加え,この先のVRデバイスがどうなっていくか,という紹介に移った。
 将来的にには,現実と変わらない「スーパーハイエンド」としてのVR機器が登場することは必然と思われるが,AMDの予測では,それを達成するには現在比で100万倍のGPUパワーが必要になるのだそうだ。

 解像度は16K(15360×8640ドット!)で,フレームレートは最終的には144fpsに進んでいき,おそらくはこれぐらいで進化が止まるだろうと予想していた。これ以上スペックが上がっても人間の目では違いが分からなくなるラインなのだそうだ。

6Kと言われても,コンテンツを作る側としてはなかなか現実感のない超高解像度環境だ
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 性能100万倍と言われるとまだまだ先のように思えるが,現時点で消費者が購入できるGPUも,10年前のスーパーコンピュータ相当であることを考えると,思ったよりも早くその日はくるのだろう。
 VRコンテンツの制作は年単位でかかることも多いため,急速にVR環境が進化していくことを見越してコンテンツを作るべきとした。

橋本氏の「無茶振り」に対しても終始和やかな二人
 さて,ここまで穏やかに進んできたディスカッションだったが,橋本氏「プレイヤーはゲームエンジンをどう選べばいいのか?」という質問を繰り出しながら,UnityとEpic,両社からお互いを誉める形で教えてほしい,という振りを入れた。

 この質問に対し,先攻の伊藤氏はUnreal Engineの歴史に注目。長くゲーム業界で育ってきたエンジンであり,グラフィックスに関しては一日の長があるとした。Unityとしては,そこは羨ましいと考えているそうだ。

 続いて下田氏は,Unityは個人・小規模のゲーム開発者のサポートが当初から厚かったことに言及した。Epicの取り組みとして,無料のエンジンだったUDKが幅広い開発者に向けて受け入れられにくかった過去を振り返りながら,とくに見習っている部分だと話した。


VRコンテンツ制作の課題とは


 次のテーマは,VRが世の中で再ブームになって以降,開発者が長らく取り組んできた課題についてだ。

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 橋本氏はまず,VR空間内での移動表現が難しい点について挙げた。
 一般的なゲームのFPSにおける一人称視点と異なり,頭の位置をむやみに移動することはできない。そのため,HMDのトラッキングで頭が先に移動して,あとから体をついていかせるような「つじつま合わせ」が必要になってくる。
 なかでも,VR内に自分の体を描写することは違和感のもとになり,多くのコンテンツでは手しか描かないことが多い。

 これに対し伊藤氏は,VR酔いに関してはすでにさまざまな知見が蓄積しつつあるが,あまり固定概念に捕らわれなくてもよいのでは? という見解を示した。
 これは,伊藤氏が個人的に開発中のゲーム「Spider Racer」を作る中で,発見したのだそうだ。

建物の間を高速に移動する,巨人が出そうなゲーム(出ない)
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 「Spider Racer」はロープを引きながら主観視点で高速に移動するというVRゲームだ。
 こういった主観視点で動きの激しい映像は必ず酔う,と言われていたのだが,実際に作ってみるとあまり酔わなくなったのだという。
 曰く,「VR酔いの原因は絶対こうだ」という固定概念を固めるにはまだ早く,開発者に対して,あまりそれに縛られないように,と考えているそうだ。

 続いて西川氏から,AMDが課題解決に対するアプローチとして,ハードウェアとソフトウェア両面からのサポートを紹介した。
 酔いの原因として,頭を動かした瞬間にすぐ画面が付いていかないという遅延の問題や,トラッキングがうまくいかず,頭の動きが正常に取れなくて画面とずれるケースなど,人間の頭の中で予想しているものと違う絵になることが酔いの根幹だとした。

 なかでも絶対に外せないものは,VR開発者であれば何回も耳にするフレームレートの死守であり,高いフレームレートが基本固定で,多少落ちても許される従来のゲームとは重要性がまったく異なるものとした。

 また,開発者特有の事例として,本人は長期間VRを体験することで「慣れ」てしまう。
あまりVR体験のない人に見てもらうなどして,酔わないことをしっかり確認する必要があるとした。


VRコンテンツの最適化


 続いて挙げられたテーマは「VRコンテンツの最適化」だ。

 西川氏はここで,VRコンテンツに置けるベンチマークの重要性を説いた。Windowsゲームであれば,プレイヤーが持つ環境がどれだけのスペックなのか,総合点数を出すベンチマークはごく当たり前に行われている。すでにVRコンテンツ向けにもベンチマークソフトが各社からリリースされている。

VR用ベンチマークソフト
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 西川氏は,今後VR市場がこなれてきたころには,Windowsゲームのようにグラフィックスオプションが搭載され,VRコンテンツの中で自分のスペックに合わせて調整できるようになってほしいと述べた。

 最適化に関して下田氏は,UE4に備わるVRコンテンツの高速描画の仕組みについて紹介した。また,エディタにはもとから,CPUやGPUのプロファイリング機能が備わっており,ボトルネックを素早く見つけることができるとアピールした。

[UE4のVR向け課題対策
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 対して伊藤氏は,Unityに最近搭載された「Heat Map」機能を紹介した。これは,たくさんの人がゲームをプレイした際のログを集積し,それをエディタ内でビジュアライズする機能だ。例ではプレイヤーがどこで死んだかをレベル内に視覚的に表示していた。

 伊藤氏はこれを,処理が重い場所をログとしてとるなどの方法で,VR向けにも活用できないか? と研究をしているのだそうだ。

UnityのHeat Map機能
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注目のVR領域。ノンゲーム分野


 VR分野はゲームコンテンツ以外での活用事例も年々増加しつつある。橋本氏はここで,ノンゲームでVRが可能性を秘めている分野の一覧をパネルに表示した。

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 ノンゲーム分野での伊藤氏のイチオシはリモートコミュニケーションとのこと。なかでも『Cluster.』というサービスに期待しているそうだ。これはVRの空間内で,1000人単位のカンファレンスイベントを行うことができるサービスであり,今回のJapan VR Summitのブースエリアにも出展していた。
 最近では5000万円規模のファンドを受けたり,アメリカに支社を立てたりと,徐々に認知が広まってきており,つい先月の「Unite 2016 Tokyo」でも基調講演を中継するなど,多くの注目を集めている。

 ノンゲームに関して下田氏は,UE4での事例はやはり「建築分野」,そして「トレーニング」であると語った。
 冒頭でもNASAの事例が登場したが,UE4の持つフォトリアリスティックでの強さを生かし,写実的な環境でのシミュレーションに適しているという考え方だ。
 また,会場に向けて,VRをきっかけとしてゲームクリエイターからもノンゲーム,B2B領域に進出してほしいと呼びかけた。


各社がVRに対して今後取り組んでいくこと


 最後のテーマとして,各社がVR分野に対して取り組むことについてが挙げられた。

 西川氏は,今後もVRの進化を予測しながらCPU,GPUをアップデートさせていきたいとした。具体的には,電力消費を効率化させ,グラフィックスメモリの高速化技術であるHBM(High-Bandwidth Memory)を製品に順次導入していくなどで,ハードウェアを向上させていくことを掲げた。
 また,日本国内でVRコンテンツを開発していこうとしている企業に対しては,積極的にサポートを行っていくとの姿勢を示し,ぜひ相談してほしいと会場に呼びかけた。

 下田氏は,UE4の今後として「モバイルVR」側をもっと充実させたいという思いとともに,日本国内での数多くの勉強会を開催することをアピールした。この週末にも関西方面で二つの勉強会があり,VRに関するいろいろな知見を基にした事例を紹介するということだ。

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 なお,来月6月には東京では「[第2回 Unreal Engine 4 Tokyo Meetup](関連URL)」というイベントもあり,VR Editorも展示するとのことだ。

 伊藤氏は,Unity5.4から搭載されるVR関連の大きなアップデートとして,来月6月に「Single Pass VR」の実装が控えていることをアナウンスした。
 この技術は簡単にいうと,右目左目でそれぞれ別にレンダリングしていた描画処理をまとめて,異なるカメラ位置の処理であっても一度で行うことができるようにするものだ。

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 同アプローチの導入により,将来的には現状の2倍のパフォーマンス改善を目指すとのことだ。
 この機能に関しては,UE4では,先ほどの資料にもあったように,「Instanced Stereo Rendering」という似た位置にある技術を開発している。両社とも,レンダリングの効率化には注目していることが分かる。

 最後に橋本氏は,こうしたゲームエンジンとハードウェアの活躍があってVRクリエイティビティを支えていることに感謝の意を述べ,会場からの拍手の中でセッションを締めくくった。

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