吉田修平氏らキーパーソン4名がVRについて語った「Japan VR Summit」の「VRがもたらす大変革」レポート

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 グリーとVRコンソーシアムは2016年5月10日,VRに関する大型カンファレンス「Japan VR Summit」(以下,JVRS)を東京都内で開催した。このカンファレンスでは,VR関連ビジネスに関心のある経営者および幹部,開発責任者に向け,VR業界第一線で活躍する国内外の関係者をゲストに迎えた5つのセッションが行われた。

 本稿では,ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE) ワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏,Oculusの池田輝和氏,台湾HTCのRaymond Pao氏,そして理化学研究所 適応知性研究チームチームリーダー / ハコスコ 代表取締役 藤井直敬氏ら4名によるセッション「VRがもたらす大変革」の模様をレポートしよう。

左から藤井直敬氏,池田輝和氏,Raymond Pao氏,吉田修平氏
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 セッションの序盤では,藤井氏によってVRのこれまでと現在が簡潔に紹介された。まず藤井氏は,「Virtual」という言葉について,よく「仮想」と訳されているが,それは誤解を招きやすい表現であり,実際には「見た目が異なっていても実質的には同じもの」という意味であることを指摘し,「Virtual Reality」とは,「人類の認知を拡張し進化させる環境技術」であると定義した。

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 そうしたVRの研究は,米国の計算機科学者であるIvan Sutherland氏が,1965年頃に世界で最初のヘッドマウントディスプレイ(以下,HMD)を開発したことによりスタートした。
 当時のVRは,HMDを覗くと,リアルの風景にコンピュータで描いた図形が重ね合わさって見えるというものだったという。つまり現在でいう,AR(Augmented Reality)やMR(Mixed Reality)がすでに実現されていたわけだ。

 1980年代には,NASAによって現行のRiftやPS VRとほとんど変わらないスタイルのVR用HMDが開発されている。ただし価格は比較にならないほど高額であり,使用するPCも最高峰のスペックを求められたとのこと。
 同じく1980年代には,「ニューロマンサー」や「攻殻機動隊」といったSFコンテンツに,近未来的な技術の一つとしてVRが取り上げられたりもしていた。

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 1990年代には,エンターテイメント向けのVRがブームとなり,セガ(現セガゲームス)の「Sega VR-1」や任天堂の「バーチャルボーイ」が登場する。

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 そのあとVRは下火となってしまい,2012にRiftのプロトタイプが世に出るまで日の目を見ない存在となってしまう。しかし,周知のとおりRift以降は,HTCのViveやSIEのPS VRが続々と登場し,VRブーム再燃と言える状況となった。

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 セッションの中盤は,池田氏とPao氏,吉田氏の3名が,それぞれの所属する各社の取り組みや製品のプレゼンテーションを行った。
 池田氏は,Oculusが2016年3月にリリースしたRiftの製品版と,韓国Samsungとの共同開発によるGear VRとともに,それらで楽しめるVRコンテンツを提供するOculus Storeを紹介。Oculus Storeがオープンした3月下旬には50タイトルほどのラインナップだったが,日々増えているとのこと。

 また,VRはゲームやエンターテイメント以外にも,すでにショールームなどで活用されているが,Oculusでは数年後には今の時点だと想像もつかないような使われ方をすることを見越して,研究開発を進めているという。
 そうした中では,Riftをより手軽に使えるよう,一般的な眼鏡サイズに近づける取り組みをしているとのこと。池田氏は,それが実現できれば,VRも今のスマートフォンのように多くの人にとって身近なものになるだろうと展望を語った。

2016年後半に発売予定となっているRift用インタフェースのTouchも紹介された
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 Pao氏は,今後VRの市場規模が大きく拡大していくとするとともに,2016年におけるVRを取り巻く状況を,スマートフォンが登場した2006年に似ていると指摘する。
 2006年の登場から10年が経過したスマートフォンは,今や多くの人にとって非常に身近な存在となっているが,VRも10年後にはすべての産業,すべての人,すべてのスクリーンで活用されるようになるだろうというのである。

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Viveの大きな特徴となる「ルームスケールVR」も紹介された。これは縦横3m×4m,対角5mの部屋の範囲にいるプレイヤーの頭部(HMD)の向き,位置をリアルタイムに検出し,そこに展開されるVR空間内を自由に歩き回れるようにする機能である
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 さらにPao氏は,ゲーム以外のVRの活用法の例として,スポーツ観戦を挙げた。それによると,観戦者は自宅のリビングなどでも実際の会場にいるかのような臨場感が得られる上,会場を複数のカメラで撮影することにより,試合中のどの選手であっても動きを追うことができるようになるという。

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 Pao氏は,顧客が何を求めているかを捉えたうえで,集中力やクリエイティビティを発揮してVRを活用すれば,大企業でなくとも成功を収めることは可能だとまとめていた。

Pao氏は,VRによって,クリエイターにもこれまでになかった表現の場が提供されたとする。その一つの例が,立体作品のデザインを2Dに落とすことなく3Dのまま表現できるGoogleのVRペインティングソフト「Tilt Brush」である
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アウディやBMWのショールーム,あるいは教育現場や観光地,建造物の設計などでVRが活用されている事例も示された
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 吉田氏は,PS VRをあらためて紹介した。なお,気になる日本での予約開始日は,日本向けソフトの発表と合わせて,後日アナウンスされるとのことだ。
 PS VRの特徴は,まず専門知識がなくとも,購入してくればすぐに楽しめることである。また開発者にとっても,PCやスマートフォンと異なりハードの仕様/スペックが固定化しているため,プレイヤーが快適に楽しめるコンテンツを開発しやすいというメリットがある。

 そして,もっとも大きな特徴は「ソーシャルスクリーン」である。これはHMDを装着したプレイヤーが見ている映像を他人が見られるようにしたり,あるいはHMDを装着したプレイヤーと,そうでないプレイヤーが同時に同じゲームをプレイできるという機能だ。
 吉田氏はソーシャルスクリーンを用意した理由として,「VRとは一人で楽しむもの」という固定イメージを払拭したかったことを挙げ,現在,この機能を活用した5種類のコンテンツのセットを準備しているとした。

PS VRには2つのモードがある(左)。5月30日まで開催されている企画展「GAME ON 〜ゲームってなんでおもしろい?〜」でPS VRが体験できることも紹介された(右)
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 セッションの終盤には,藤井氏をモデレーター,ほかの3名をパネリストとしたパネルディスカッションが行われた。
 一つめのテーマは,「初めてのVR体験はいつでしたか? それはどのようなものでしたか?」だ。池田氏は,藤井氏も紹介したSega VR-1が初とのことなのだが,乗ったことは覚えているものの,そこでどんな感想を抱いたかについては記憶に残っていないという。ちなみに,もっともインパクトを受けたVR体験は,Rift DK1に初めて触ったときだとか。
 また,Pao氏は,2014年にRift DK2とViveの試作品で初めてVR体験をし,大きなショックを受けるとともに,本当にクールだと感じたという。

 吉田氏は,1990年代にセガが開発した「Sega R-360」をよくプレイしていたそうだが,その当時はあまりVRとは意識していなかったとのこと。
 VRを意識するようになったのは,2010年にSCE(現SIE) ワールドワイド・スタジオのスタッフが,PS3とビデオ用のHMD,そしてPS Moveを組み合わせて簡易VRシステムを作ったことにある。吉田氏も,VRで自身の身体が「ゴッド・オブ・ウォー」の主人公・クレイトスとなる体験をし,衝撃を受けて,よりも高性能なPS4であればもっとすごいVRが実現できるのではないかと考え,2011年頃から本格的に取り組んだそうだ。

 この吉田氏の発言を受けて,藤井氏は「開発者が衝撃を受けてから,わずか数年でVRが製品化されている。やはりVRには人を動かす強い力があるんだな,と思います」と感想を述べていた。

 二つめのテーマは,「お互いの製品のスゴイと思うところを教えてください」だった。つまり3名のパネリストが,お互いにそれぞれの製品やサービスを褒め合うことになった。
 吉田氏はOculusについて,まずRift DK1を世に知らしめた功績を称えた。当時,SCE ワールドワイドスタジオでは水面下でPS VRの開発を進めていたが,吉田氏は,Rift DK1の登場により,世界中のクリエイターが「あれもできる,これもできる」と各自のアイデアを駆使してVRコンテンツを作り始めたことが嬉しかったという。

 仮にこうした動きがなければ,あるいはFacebookがOculusを買収したことがニュースになっていなければ,PS VRの開発やマーケティングは順調にいかなかったかもしれないと吉田氏は語っていた。また,東京ゲームショウ2014にてRift DK2とGear VR,そしてPS VRが一斉に出展されたことは,日本におけるVRの認知と盛り上がりに大きく貢献したと語っていた。
 ほかにも吉田氏は,製品版のRiftが軽く作られていることや,スピーカーが標準装備されているため,別途イヤフォンなどを用意しなくとも楽しめることを褒めていた。

 Pao氏はPS VRに関して,デザインの良さとともに,すでに世界中に普及しているPS4をベースとしていることで,どのような表現が可能なのか,プレイヤーからどんな体験を求められているのかを,コンテンツ開発者達がすでに把握できていることを挙げた。Pao氏は,VRはまだまだ黎明期であり,良質なコンテンツを提供するためにはさまざまなチャレンジをしていかなければならないとして,吉田氏と同じく,多くの開発者/関係者が協力して取り組んでいくことの必要性と重要性を説いた。

 池田氏はViveに関して,ルームスケールVRでスムーズにVR空間を歩き回れることを賞賛。
 またViveを注文してから手元に届くまでの過程も非常にスムーズで,Oculusもそういったサービスを当り前に実現できなければならないとした。

 加えて池田氏は,Riftに続きViveやPS VRが発表されなければ,今のVRブームも一過性のもので終わってしまったかもしれないと述べ,今後も一緒に盛り上げていきたいと意気込みを見せた。

 3つめのテーマは,「VR利用のレギュレーションについて」だ。現在のところ,どこの製品であってもVR対応HMDは低年齢者の使用が禁止されている。現在のVR対応HMDは,両眼の輻輳角と焦点距離を現実には発生しない状態で設定する必要があるのだが,人間が両眼で距離感を取ることを学習し終わる前に(6〜7歳と言われている),そのような状態にすることの悪影響が懸念されているためだ。

 吉田氏は,成長期の子どもに対して,3D立体視がどのように影響するのか分かっていない部分があるため,PS VRでは余裕を持って13歳以上を推奨にしていると説明する。その一方で,VRは教育やトレーニングの新たなツールになる可能性があるため,今後研究が進んでいけば制限を緩和したり,ほかの解決策を用意したりしていきたいと語った。
 壇上では両眼に視差を設けず,同じ画像を出した場合でも悪影響はあるのだろうかなどとの議論が行われていた。
 また,OculusやHTCでも,いかにしてリスクを軽減するかという研究を日々行っているとのことだが,現状では同様に13歳以上推奨という形に留まっている。

 4つめのテーマは,Twitterで募集された質問である「触覚の可能性」についてだ。池田氏は,まだ実現には至っていないが,より快適なVR体験を実現するためには触覚は確実に必要となるだろうと見解を述べた。
 また,Pao氏は,最終的には人間が持つあらゆる感覚が必要になるとし,その実現はVRの中でもっとも難しい分野だとは思うが,この先2〜3年で大きく研究が進むのではないかと展望を語った。
 そして吉田氏は,PS Moveなどの手を使うコントローラがあると,VR体験ではよりプレゼンスを感じられるようになると説明。たとえば何かに触ったときにコントローラが振動するだけでも大きな効果があるので,コンテンツの内容に沿って入力装置やフィードバックを追加するような試みがなされていくだろうとした。

 最後のテーマは,「VRでヒトや社会はどのように変わると思いますか?」であった。池田氏は,HMDが眼鏡サイズになり一人1台という状態となれば,VR空間につながって他者とコミュニケーションを図ることは,LINEでフレンドとチャットすることと何ら変わらないようになると語る。そして,そのようにVRとリアルが融合することによって,世界が拡張されるのではないか,その中でいかに使いやすいサービスが提供されていくのではないかと展望を述べた。

 吉田氏は,複数の観測点から撮影した写真の視差情報を解析し,そのデータをもとに地形や建築物などのオブジェクトを3D化するフォトグラメトリィ技術を駆使することで,観光地や名所,あるいは各自の故郷といった世界中のさまざまな場所をVR空間に再現できるといいと語る。
 また,VR空間を利用すれば,リアルでは距離が離れている人であっても,まるで実際に同じ場所にいるような感覚が得られたり,あるいは3D映像と高度なAIを組み合わせ,ある人物をデジタル化しておくことで,その人の死後もまた会って話ができたりするようになると楽しいのではないかと語った。

 Pao氏は,リアルの世界には物理的な制約が存在するが,VR空間では想像力を駆使すれば何でも実現できると話す。またVRの技術をより進展させるため,開発者はもちろんのこと,製品やサービスの消費者としてもぜひ参加してほしいとし,「早く参加するほど,より楽しめる」とまとめた。

 セッションの最後には,藤井氏が,Pao氏の発言を受けて,VRによって物理的な制約が取り払われれば,人々の世の中に対する感覚が変わり,時間と空間を飛び越えられるようになるとコメントし,今回は,そうした大変革の兆しが感じられたのではないかとして,セッションを締めくくった。

Japan VR Summit公式サイト