Marcin Iwinski氏がCD Projektの「GOG Galaxy」に見る，SteamとUWPが共存する世界の明るい未来。

　「The Witcher 3」を小売店で買った多くの人々は，箱の中にあるモノを見つけたはずだ。この規模のRPGを制作し，リリースするというのは大変な労苦だが，CD Projektは自ら進んでさらなる苦行に挑んだのだ。すなわち，同社のオンラインストアにとって最大の革命となるGOG Galaxyの同日公開である。数百万人が「The Witcher 3」のパッケージ版を購入したが，その全員が登録の案内を受け取ったことになる。

　初めの一歩はうまくいった。2週間のうちに「The Witcher 3」の売り上げは400万本を記録し，GOG Galaxyの登録者数も70万人近くに達した。4週間後には600万本を超え，その後の伸びも驚異的なペースだ。CD ProjektのCEOであるMarcin Iwinski氏は，同社にとって過去最大の売れ行きとなったこのゲームが，GOG Galaxyという新しいプラットフォームの利用者数の獲得において「大きなメリット」となっており，GOG Galaxyに関しても「The Witcher 3」と同じように強気な目標を掲げているという。

　「自社開発したゲームがあるということは素晴らしいことです。それによってさまざまなものの効果を計ることができるのです。すでにGOG Galaxy経由のインストール数は数百万件に及びます」とIwinski氏は明かした。「簡単そうに聞こえますが，実際にやってみるとそう簡単ではありません。当日になって数十万人が一斉に『今すぐ遊びたい』と言い出して初めて，うまくいくかどうかがわかるからです」

「私たちは，あらゆる角度から微調整と仕上げを行っています。それがGOG Galaxyを特別なものにしているのです」

　Iwinski氏の表情は，GOG Galaxyの立ち上げがうまくいったことを物語っていた。幅広い機能により，CD Projektはこれまで扱えなかったようなゲームもこのプラットフォームに追加できる。
　しかし「ゲームの機能の一部は，パブリッシャにもユーザーにも提供できませんでした」と，彼は振り返った。「一部のゲームは起動できなかったのです。いわゆる技術依存の問題があり，そのギャップを埋める必要がありました。これまでのGOG.comは，基本的にはただのWebページでした。私たちは，その技術的な限界をギリギリまで押し広げています。完成形はもう目前です」

　GOG Galaxyは，この新しい機能により，PC市場そのものと見なしても差し支えないほど普及率の高いとされているSteamとの親和性を高めることもできた。実のところ，SteamをPC市場そのものと見なせない理由があるとすれば，それはGOG.com（2008年の設立当時はGood Old Gamesの名で知られていた）の存在だ。設立当初から，CD ProjektのマーケットプレイスのDRMに対する頑なな態度は知られている。GOG Galaxyは，明らかにより多くのオーディエンスを対象とする動きだが，Iwinski氏はプラットフォームが成長しても，このような独自の価値を保持することには価値があると強調する。

　「世界は，DRMフリーであることを重視する人々が暮らす世界と，DRMの存在を気にしない，むしろ気付いていないかもしれない人々の世界の２つに分かれます。後者は，シームレスで自動更新される常にオンラインの体験を求めています。どんな機能を使えるか，ということをより重視する人々です。この利点は何でしょう？　ゲームが動かなければすぐに払い戻しを受けられるのでしょうか？　私たちは両方の世界に合わせる必要があると考えています」

Marcin Iwinski CEO

　一部のパブリッシャにとっては，CD ProjektがDRMを好まないことがGOGプラットフォームと提携するうえで「交渉の妨げ」になっている。Iwinski氏によれば，時が経つにつれて抵抗は弱まっているという。「かつては，あらゆる部分で妨げになっていましたが，今では品切れのものに関してはOKとなっています」しかし，コンテンツの不足で問題が明らかになることはない。現在GOG Galaxyで利用可能なゲームは，新旧のタイトルを合わせて1500本あり，価格帯は多岐にわたる。Iwinski氏は，既存のデジタルマーケットプレイスに対して，GOG Galaxyをより洗練された代替市場とすることができる，効果測定に基づくアプローチが進むべき道ではないかと考えている。

　「私たちは，何でも揃っているApp Storeではありません」と彼は言う。「扱うゲームは，あらかじめ私たちが選んだものです。足りないものがあれば，コミュニティのウィッシュリストを参考にします。最終的には，自社のものも他社開発のものも含め，最高のゲームをすべて取り扱いたいのです」

　Steamに関する多くの意見に対するValveの反応は，Greenlight，個別ストアフロント，早期アクセスなどのコンセプトを通じてユーザーにより多くを与えるものだった。GOG Galaxyの「開発中ゲーム」セクションには，早期アクセスと同様の機能があるが，CD Projektは説明文で「本当に応援できるゲームのみを厳選しました」と強調し，「増えすぎないようにしています」としている。Steamの早期アクセスで失望を味わったプレイヤーの話はいくらでも出てくるし，毎月Steamで発売される新作ゲームの多さについての苦情も多い。CD Projektは，ある意味，そのような無視できない問題に対する答えとしてGOG Galaxyを定義しようとしているのだ。

　「まずは正直に，Steamの業績を称えましょう」と，Iwinski氏は語る。「Valveが思いついた早期アクセスという仕組みは素晴らしいものでした。今でもそうです。ただ，私たちはゲーム業界では後発企業ですから，改善できるところがあるなら改善すべきではないでしょうか。私たちは計画と実行を同時に行っているので，私たちにとって改善可能な点を分析するのは比較的に簡単なことです。まったく新しいコンセプトを生み出すときに，どの部分がどうなるかを初めから見通すのは難しいことです」

「もはや，どこが一番いい場所を作り出せるかを競っているのではありません。ゲーマーにとって有益なのはどこか。それが，私たちの目指すものです」

　「それもまたGOG Galaxyの一部です。私たちは，あらゆる角度から微調整と仕上げを行っています。それがGOG Galaxyを特別なものにしているのです。それが私たちの計画の肝です。有名なことわざを『The Witcher』の都市名でもじるなら，Novigradは1日にしてならず，です」

　しかし，先ごろEpic GamesのTim Sweeney氏は，MicrosoftのUniversal Windows Platformに関して，多くの人に読まれた記事の中でCD ProjektとGOGを名指ししつつ，オンラインプラットフォーム全般の将来性について疑念を投げかけた。Novigradは1日で完成するものではないかもしれないが，Sweeney氏が表現するところの「独占」により，CD Projektが自社の戦略を実行に移すのに十分なだけの時間が残されていないかもしれないというのである。Iwinski氏は，この記事を読んだことを認め，Sweeney氏の論点に理解を示しながらも，それは昔のMicrosoftのイメージに根差した議論であり，現在のMicrosoftなら状況が異なると考えている。

　「現在のMicrosoftと10年前のMicrosoftを比べれば，かなり異なる企業になっています」と，Iwinski氏はMicrosoftにとって手痛い一歩となったXbox Oneに関連する戦略的転換を指摘した。「昔はすべてに鍵をかけて，何もかもコントロールしようとするのがMicrosoftらしさでした。けれども，Satya Nadella氏は『すべてのアプリをすべてのシステムに』と言っています。そこを考慮すべきだと思います。私見ですが，もし彼らがSweeney氏の言うように行動すれば，本当に厳しい結果が待ち受けているでしょう」

　「ですから，Microsoftが停滞することなく，彼らが口にするオープンな世界が有言実行できるのかを見守りましょう。私は，彼らの進むべき道はそこしかないと思っています。クロスプレイについての発表ももちろんいいことです。他のネットワークとのクロスプレイなんて，10年前のMicrosoftなら考えられないことでした。絶対に」

　「ソニーも急速に業績を回復していて『私たち側には何の問題もありません』と言っています。それは素晴らしいことです。もはや，どこが一番いいプラットフォームを作り出せるかを競っているのではありません。ゲーマーにとって有益なのはどこか。それが，私たちの目指すものです。開かれた環境と，誰が最高のオファーを提供できるかの競争が焦点になります」