【月間総括】PSの携帯機から見えるSIEの苦悩と,Switch後継機で始まる非連続の成長
まずは先月の続きとして,ソニーの携帯ゲーム機について触れておきたい。報道では開発段階で発売されるかも不透明とのことだが,筆者は発売されるだろうと考えている。なぜなら,フィル・スペンサー氏がXbox Portableを開発中であると発言したからだ。
つまりMicrosoftが出すならPSの携帯機も出る,と考えているのである。
理由は非常に単純で,ソニーグループ(SIE)の競合相手はMicrosoftだけということになっている可能性が高いからだ。
任天堂はすでに敗れ去った会社として扱っていると強く推測している(SIEは違うというだろうが……)。その根拠もある。前CEOのジム・ライアン氏は事業説明会で,コンソール(据え置き機)市場のシェアについて語っていたが,そこではターゲットシェア50%超と書かれていた。
任天堂はSwitchを据え置き機としており,Switchは1億4600万台も販売(着荷)されている。これを考えるとソニーグループの市場占有率に任天堂が入っていないのは明らかだ。Switchを据え置き市場に含めていたら,50%のシェア獲得とはなっていないだろう。
そして筆者は,ソニーグループが携帯ゲーム機市場はもう消え去った市場だと見なしていると考える。
PS Vitaの存在をなかったことにしたのも,携帯ゲーム機市場はスマートフォンゲームに食われて消失し,意義がなくなったとしたとしか思えない。だからこそPS Vitaの後継機は出なかったと考えるほうが自然ではないだろうか。
任天堂はすでに敗者だというこの考えは,今でもSIEの根幹にあるのだろう。アメリカに本社を移したことも対Microsoft戦略だったと考える。
この正当性を維持するためにも,日本市場はスマートゲームが隆盛なアンチ据え置き市場と見なさないといけないのだ。
SIEもソニーグループもこの点をたびたび否定しているが,筆者には日本を大切にしているようにはまったく見えないのである。
一見しただけでは分からない日本語訳(イマーシブやノーリミットなど)のPS5関連の紹介,リアルタイム視聴しづらい各種プロモーション動画,日本人からすると直感的じゃない×ボタンの仕様変更……もう充分だろう。
これらは上記理由を正当化するために行われている,と考えるほうが妥当だ。
よって任天堂とは関係なく,Microsoftが携帯機を出すからPSも携帯機を出して対抗する,と筆者としては考えている。
問題はPS携帯機をMSの対抗機として出すのが適切なのかどうかである。
10年以上前に携帯ゲーム機はスイートスポットが狭く,先にポジションを取られてしまうと価格か性能で対抗するしかない,とメディアのインタビューに答えたことある。
当時はなぜスウィートスポットが狭いのかは明確には定義できておらず,バッテリーの問題程度の認識でしかなかったが,現時点ではよく分かる。
サイズやデザインに制約が出るからだ。
特にSIEの社是ともいえる,PlayStationは高性能であるというイメージが崩れると厳しいと思い込んでいるので,許容される厚みに大きな制約がある携帯ゲーム機で高性能を実現するのは大変難しい。
2026年か2027年ごろに薄いゲーム機でPS5並みのゲームを動かせるかが成功のポイントになろう。
こう書くと、Switch後継機はPS5並みの絵を出せると予想していたのではないか、と言われると思う。その予測はDLSS(Deep Learning Super Sampling)を前提としている。
現行のPSSR(PlayStation Spectral Super Resolution)はそこまでの能力を有していないと考えているので,SIEの高性能信仰を考慮するとPSSRの能力向上がPS携帯機の成否を決めるだろう。
そして優越感ビジネスから脱却して,マス層に訴求できるかである。
今,ゲーム業界で問題になっているのは開発費の増大だ。これに対応するには,販売価格を上げるか販売本数を増やすかしかない。
そのためにはターゲットをマスに切り替える必要があるのだが,そうすると優越感を与えてくれたことで熱心になったファンを切り捨てることになりかねない。
だが投資家も含めて求められているのは,より大きな成功である。ぜひ,発想の転換を願いたい。
次は任天堂の決算と動向に触れることで,マスに対する施策について深く考えたい。
任天堂の上期業績は減収減益となり,通期業績も売上高,営業利益は下方修正された。
これはSwitchのハード及び,ソフト本数の見通しが引き下げられたためである。
古川社長は5月時点でも,今期目標はやや高い水準を目指したものとの主旨で発言していたので,ある程度は想定されたものだが,それでも通常は厳しい評価になるところである。
しかしその直後,Switchの後継機にSwitchの互換機能があるという発表があったこともあり,任天堂の株価は上昇に転じた。
このほかにも任天堂はミュージアムやアラーモなどの発表を通じて,いろいろな人が任天堂に関心を持ってもらえる努力をしている。
SIEが得意とするモニター内中心のマーケティング施策と違い,モニターを飛び出したIP戦略である。
その結果もあり,故岩田氏が過去に言っていた世代交代時にユーザーの関心が離れてしまう問題(WiiやDSの際に発生した)は,今回起こっていないように見える。
となるとSwitchの後継機は,適切なものを出せば大きなヒットになるはずだ。筆者はその点をデザインとスタイルに求めている。また,下記のグラフから初動でとるべき施策を提言している。
簡単に列挙すると
(1)ゲーム機のように見えること
→行動経済学でも,人間は第一印象の影響を強く受けることが分かっている
(2)薄いこと
→人間は薄いものに強い関心がある(ベゼルレスにしただけでOLEDモデルは液晶モデルからメインストリームを奪った)
(3)デザインは似通っていても,画面の大型化は有効
→iPhoneの実例からしても,iPhone6 Plusは大きく販売が伸びた
(4)初動でたくさんの数を供給すること
→日本では成功ラインは概ね2週間で45万台,アメリカは100万台程度だと推測している
となる。
筆者の質問に対しても,任天堂の古川社長はたくさん作ることを示唆する回答をしたので,(4)はほぼ確実に実践してくるはずだ。
まだ成否はわからないが,成功した場合の初動はPS5の450万台を圧倒的に上回る記録的なスコアになるはずで,今後のゲーム機の初動必要量のラインが変わってしまうかもしれない。
そして初動の高さは任天堂が非連続の成長を始めたことを印象づけるだろう。
これはSIEにとって由々しき事態といえるのではないだろうか。なぜなら,敗れ去ったはずの任天堂に膝を屈する展開になりかねないからだ。よって筆者は,PlayStationの携帯機が出てくるのは数を用意するためでもあると考えている。より小型の機器のほうが数を用意しやすい。しかしそうなると,高性能でスペック自慢はできなくなるので,SIEには頭の痛い話かもしれない。
任天堂は,宮本さんが言っているように「性能競争に巻き込まないでほしい」と考えている。SIEがMSに対抗して携帯機を出すということは,性能競争をやめることになりかねない。それこそ任天堂の思うつぼであろう。
つまりMicrosoftが出すならPSの携帯機も出る,と考えているのである。
理由は非常に単純で,ソニーグループ(SIE)の競合相手はMicrosoftだけということになっている可能性が高いからだ。
任天堂はすでに敗れ去った会社として扱っていると強く推測している(SIEは違うというだろうが……)。その根拠もある。前CEOのジム・ライアン氏は事業説明会で,コンソール(据え置き機)市場のシェアについて語っていたが,そこではターゲットシェア50%超と書かれていた。
任天堂はSwitchを据え置き機としており,Switchは1億4600万台も販売(着荷)されている。これを考えるとソニーグループの市場占有率に任天堂が入っていないのは明らかだ。Switchを据え置き市場に含めていたら,50%のシェア獲得とはなっていないだろう。
そして筆者は,ソニーグループが携帯ゲーム機市場はもう消え去った市場だと見なしていると考える。
PS Vitaの存在をなかったことにしたのも,携帯ゲーム機市場はスマートフォンゲームに食われて消失し,意義がなくなったとしたとしか思えない。だからこそPS Vitaの後継機は出なかったと考えるほうが自然ではないだろうか。
任天堂はすでに敗者だというこの考えは,今でもSIEの根幹にあるのだろう。アメリカに本社を移したことも対Microsoft戦略だったと考える。
この正当性を維持するためにも,日本市場はスマートゲームが隆盛なアンチ据え置き市場と見なさないといけないのだ。
SIEもソニーグループもこの点をたびたび否定しているが,筆者には日本を大切にしているようにはまったく見えないのである。
一見しただけでは分からない日本語訳(イマーシブやノーリミットなど)のPS5関連の紹介,リアルタイム視聴しづらい各種プロモーション動画,日本人からすると直感的じゃない×ボタンの仕様変更……もう充分だろう。
これらは上記理由を正当化するために行われている,と考えるほうが妥当だ。
よって任天堂とは関係なく,Microsoftが携帯機を出すからPSも携帯機を出して対抗する,と筆者としては考えている。
問題はPS携帯機をMSの対抗機として出すのが適切なのかどうかである。
10年以上前に携帯ゲーム機はスイートスポットが狭く,先にポジションを取られてしまうと価格か性能で対抗するしかない,とメディアのインタビューに答えたことある。
当時はなぜスウィートスポットが狭いのかは明確には定義できておらず,バッテリーの問題程度の認識でしかなかったが,現時点ではよく分かる。
サイズやデザインに制約が出るからだ。
特にSIEの社是ともいえる,PlayStationは高性能であるというイメージが崩れると厳しいと思い込んでいるので,許容される厚みに大きな制約がある携帯ゲーム機で高性能を実現するのは大変難しい。
2026年か2027年ごろに薄いゲーム機でPS5並みのゲームを動かせるかが成功のポイントになろう。
こう書くと、Switch後継機はPS5並みの絵を出せると予想していたのではないか、と言われると思う。その予測はDLSS(Deep Learning Super Sampling)を前提としている。
現行のPSSR(PlayStation Spectral Super Resolution)はそこまでの能力を有していないと考えているので,SIEの高性能信仰を考慮するとPSSRの能力向上がPS携帯機の成否を決めるだろう。
そして優越感ビジネスから脱却して,マス層に訴求できるかである。
今,ゲーム業界で問題になっているのは開発費の増大だ。これに対応するには,販売価格を上げるか販売本数を増やすかしかない。
そのためにはターゲットをマスに切り替える必要があるのだが,そうすると優越感を与えてくれたことで熱心になったファンを切り捨てることになりかねない。
だが投資家も含めて求められているのは,より大きな成功である。ぜひ,発想の転換を願いたい。
次は任天堂の決算と動向に触れることで,マスに対する施策について深く考えたい。
任天堂の上期業績は減収減益となり,通期業績も売上高,営業利益は下方修正された。
これはSwitchのハード及び,ソフト本数の見通しが引き下げられたためである。
古川社長は5月時点でも,今期目標はやや高い水準を目指したものとの主旨で発言していたので,ある程度は想定されたものだが,それでも通常は厳しい評価になるところである。
しかしその直後,Switchの後継機にSwitchの互換機能があるという発表があったこともあり,任天堂の株価は上昇に転じた。
このほかにも任天堂はミュージアムやアラーモなどの発表を通じて,いろいろな人が任天堂に関心を持ってもらえる努力をしている。
SIEが得意とするモニター内中心のマーケティング施策と違い,モニターを飛び出したIP戦略である。
その結果もあり,故岩田氏が過去に言っていた世代交代時にユーザーの関心が離れてしまう問題(WiiやDSの際に発生した)は,今回起こっていないように見える。
となるとSwitchの後継機は,適切なものを出せば大きなヒットになるはずだ。筆者はその点をデザインとスタイルに求めている。また,下記のグラフから初動でとるべき施策を提言している。
簡単に列挙すると
(1)ゲーム機のように見えること
→行動経済学でも,人間は第一印象の影響を強く受けることが分かっている
(2)薄いこと
→人間は薄いものに強い関心がある(ベゼルレスにしただけでOLEDモデルは液晶モデルからメインストリームを奪った)
(3)デザインは似通っていても,画面の大型化は有効
→iPhoneの実例からしても,iPhone6 Plusは大きく販売が伸びた
(4)初動でたくさんの数を供給すること
→日本では成功ラインは概ね2週間で45万台,アメリカは100万台程度だと推測している
となる。
筆者の質問に対しても,任天堂の古川社長はたくさん作ることを示唆する回答をしたので,(4)はほぼ確実に実践してくるはずだ。
まだ成否はわからないが,成功した場合の初動はPS5の450万台を圧倒的に上回る記録的なスコアになるはずで,今後のゲーム機の初動必要量のラインが変わってしまうかもしれない。
そして初動の高さは任天堂が非連続の成長を始めたことを印象づけるだろう。
これはSIEにとって由々しき事態といえるのではないだろうか。なぜなら,敗れ去ったはずの任天堂に膝を屈する展開になりかねないからだ。よって筆者は,PlayStationの携帯機が出てくるのは数を用意するためでもあると考えている。より小型の機器のほうが数を用意しやすい。しかしそうなると,高性能でスペック自慢はできなくなるので,SIEには頭の痛い話かもしれない。
任天堂は,宮本さんが言っているように「性能競争に巻き込まないでほしい」と考えている。SIEがMSに対抗して携帯機を出すということは,性能競争をやめることになりかねない。それこそ任天堂の思うつぼであろう。