alive 2024開催。新ツールnizima ACTION!!ほかLive2Dの最新情報が満載
2024年12月13日,東京・秋葉原UDXにおいて「alive 2024」が開催された。毎年開催されている「Live2D」の祭典である。
基調講演自体は録画の上映という形で行われたが,これは全世界に同時配信するための措置となる。Live2Dはもはや日本だけのものではなく,海外ユーザーの比率のほうが多くなっているという実情を踏まえてのものだ。
基調講演ではLive2Dの各部門の最新情報が紹介された。最初はCEOである中城哲也氏から新プロダクトの「nizima ACTION!!」とLive2Dの現状が紹介された。nizima ACTION!!については後段でまとめて紹介するとして,同社の状況をみていこう。
Cubism Editorの月間アクティブユーザー数は約10万人に達し,ユーザーコンテンツマーケットnizimaの登録者数も13万人と成長をみせている。北米を中心に海外比率が高くなっているのは昨年と変わらないが,今回は少し詳しい地域別の購入者割合が示された。
ゲームで使われるCubism SDKの登録も400タイトルを超え,同社では使用作品のデータベースの公開を始めている。これは単に使われているタイトルを並べたものではなく,ゲームのどこに使われているのかなども示しているものだ。
利用の拡大に向けて,新たに著作物シンプルライセンスプランというものが新設された。商用であっても一時的な製品プロモーションなどに使う場合はライセンス料を免除するというものだ。すでにシャープの展示会用で,テレビでのAI Partner機能のデモなどで使われているという。ちなみに,AI PartnerはAIアバターチャットシステムで,会話や買い物,一緒にテレビを見て盛り上がるようなこともできるらしい。
教育機関に無償提供する支援プログラムLEAPも堅調で,447校,3万9000人が利用している。そのほか,学生が作成した作品のプロモーションを支援するLEAP共同ブランディングも進められており,これは広告費用の70%をLive2Dが負担してくれるというものだ。そのほか,オンライン講座のLive2D JUKUをはじめ,各種オンライン研修やセミナーで利用者の拡大を目指している。
主力製品となるLive2D Cubismでは,Cubismグループリーダー佐藤健一氏からver.5.2に搭載される新機能が紹介された。
パラメータコントローラは,コントローラで手足などのパーツを直接動かすことにより,付随する部分のパラメータをまとめて設定できるというものだ。ゲーム業界の人には,IK(Inverse Kinematics)やコンストレイント(Constraints)といったほうが分かりやすいかもしれないが,Live2Dでは一般人向けにそういった用語を使わずに機能を紹介しているという。
とにかく,映像制作用のCubism Mの機能として昨年紹介されていたものが,IKとなって一般版のCubismにもやってくるわけだ。
シーソーの上で手をつないだ男女が動くデモは,フルボディIKの可能性を感じさせるものだった。このデモでは,男の子と女の子とシーソーの3つのオブジェクトが,ターゲット追従により連動して動く仕組みが実装されている。ただし,現状のSDKでは単体のトラック(モデル)しか書き出せないため,SDK上で動かす場合は,キーフレームをベイクして書き出す必要がある。その結果,モデル間の連携(ターゲット追従)が失われ,それぞれが独立した動きになってしまう。
これは,従来のCubism Editorが単体のオブジェクトを扱うものであって,複数のオブジェクトには対応していないためだ。現状,単体でのIKだけでもこれまでの要素と整合性を保ちながら実装でき,かなりの恩恵をもたらすものとなっているが,今後はSDK上でもモデル同士を連動して動作できるように進めていく予定だという。
今後登場する複数のオブジェクト間のIKを設定するものが別のエディタになるのか,Cubism Editorの拡張になるのか,SDK専用のものになるのかは不明だが,明るい未来が見えているのは間違いない。
スライドの右側のデモは,動く魔法陣に乗った女の子がサーフィンよろしくバランスを取り,指定されたターゲットに視線を向けて魔法を放つというものである。魔法陣の特定の場所に足を固定してあるので,しっかり接地したまま動き回る。
従来のフォワードキネマティクスの関節角度と位置の制御で足をフィットさせるように動かすというのは,理論上不可能ではないとはいうものの,おそらくこれを使うような人だと1枚1枚動画を描いたほうが早いんじゃないかというくらいの難作業となっただろう。
そのほか,フォームの左右反転ができるようになったり(上下反転も可能),ループモーションの作成が簡単になるような機能が加えられるなど,使いやすさが向上している。ループモーションくらい,これまでもできただろと思う人もいるかもしれないが,開始位置から終了位置への動きの補間が基本なので,終了位置を開始位置と同じにして動きをつなげると開始位置が2つ重なってしまう。なので,これまでは1フレーム分短くしたものをつなぐみたいな操作が必要だったのだが,今後はそういったことをしなくても滑らかにつながるようになるという,ちょっとした改良だ。
なお,Cubism 5.2は12月17日β版が公開された。
さらにその次のバージョンとなるCubism 5.3で追加予定の機能も紹介された。
まず,まとめて描画する機能である。スライドでは半透明の例が示されていたが,アートメッシュ単位で半透明にすると,帽子の下の頭が透けて見えてしまったり,画像としては破綻したものになってしまう。これらをまとめて描画したうえで半透明をかけると自然に仕上がるというものだ。半透明だけでなく,いろいろな機能に影響してくる機能である。
ブレンド方式が追加され,イラスト作成ツールで使用できるオーバーレイやスクリーンなどといったものがLive2Dでも利用できるようになる。表現の幅は大きく広がりそうだ。
SDK対応なのでゲームでリアルタイムに処理することも可能だ。ただ,それなりに重い処理にはなりそうなので,ローエンドのモバイル端末などでは厳しいだろう。処理能力に余裕のあるPCやゲーム機,ハイエンドモバイル端末などが対象となるのだろう。
合成方式も多彩になる。デモを見るだけだとCSGとかブーリアン演算とかのように図形でのクリッピングを行うもののように思えるのだが,Atopとかdisjoint overとかconjoint overとかのモードも見えるので,もっと多彩な合成が可能になる模様だ。
なお,図形でのクリッピングの部分だけでも,エッジを滑らかにして合成するなど有用な機能である。
元のオブジェクトを任意の場所で再描画できるようになる。言葉にすると分かりにくいが,髪の下に目が隠れるような場合でも,目が半透明に透けて見えるみたいな表現が多用されることはご存じだろう。透けて見える目を表現するためには,目の部分を複製するなどの煩雑な処理が必要だった。分かりやすく言えば,それを複製なしで行えるような機能だ。
こういった,ちょっと便利で表現を豊かにしてくれる機能が5.3では追加予定となっている。これらはすべてSDK対応であり,複合してより複雑なこともできるようになるなど,Live2Dの表現力をさらに高めてくれるものとなりそうだ。Cubism 5.3は2025年春にα版が登場するようだ。
映画/映像プロジェクトでは,企画制作事業部の石川源次郎氏から現状と今後の予定などが紹介された。
本格化する映像制作用に実験的な機能を含む,社内ツールとして作成されていたCubism Mは,一般版のCubismに機能を移植し,最終的には一般版のCubismに一本化される予定だという。CubismMで実装されたIKをはじめとする研究成果は,5.2および5.3で順次ブラッシュアップされながら移植が進められており,今後のバージョンでも継続的に取り込まれていく。
Live2Dの制作チームであるCreative Studioは商業アニメーション制作にも乗り出しており,昨年の時点から9作品に関わっているという。その中でも,Live2D主体で作られている作品が,殿と犬である。2分ほどのショートアニメーションだが,同じ動画で4人の声優を使って4回放送しているという番組だ。犬が寝返りを打ったり,Live2Dとしてはかなり頑張った表現が見受けられる。
石川氏からは,本格商業作品制作のさらなる予定も示唆された。作品名などは明かされていないが,これまでにない規模と表現を追求するものとなるらしい。
こうして映像制作での実績を上げつつ,ノウハウを蓄積し,制作スタッフを拡充,同時に制作ツールの進化を促していくというのが,映像チームの方針だ。そしてその先ではLive2Dによる独自の映画制作実現に向けて商業アニメーション制作に注力していくようだ。
nizima Webサービスの動向に関しては,上島駿介氏から説明が行われた。
ユーザーの制作した2D作品をやり取りするプラットフォームとしてnizimaは2018年10月に誕生した。今年で6周年を迎え,ユーザー数やコンテンツ量などを大きく拡充している。扱われる作品の多くはLive2Dによるもので,このご時世だからか,その大半はVTuber関連のものとなっている。サイト利用者は18〜24歳の層が最も多いという,若年層主体であることも特徴の1つといえるだろう。
購入者向けの施策としては,昨年発表された納入実績の明示などのほか,Live2Dモデルが主体ということで,コンテンツを一覧する際のサムネイルを動くものにしたり,VTuber系のキャラクターモデルであれば,PCやスマホでカメラを使ったフェイシャルキャプチャを行うことで,3分間のお試し利用ができるといった使い勝手の改善が行われている。さらに決済手段も拡大し,クレジットカードの分割払いや,あと払い系のサービスが利用可能になっている。
出品者向けの施策としては,大きな休みの時期に宣伝を支援するようなキャンペーンを行い,nizimaに出品するだけでGoogle広告に掲載されるサービスを提供するなど,販売活動の支援に力を入れている。
また,同社が開発しているVTuber向けのフェイストラッキングアプリnizima LIVEに関しては,公式キャラクターの虹丸イブさんが紹介した。
nizima LIVEは,Live2DモデルとスマホやPCのカメラを使って手軽にVTuber風のアバター操作ができるツールで,単体での配信機能はないが,OBS Studioなどと組み合わせることで手軽にVTuberデビューができるというものだ。現在,Windows版,Mac版,iPhone版が公開されている。公開後何度かのアップデートを経て,10月末に複数の機能追加を行ったver.2.0が発表された。
ver.2.0では,ソニー製のトラッカーmocopiを手足に装着することで,フルボディトラッキングに対応している。さらに,いらすとやのLive2Dモデルが公開されて利用できるようになった。配信以外でも,いらすとやの素材が動くなら用途はいろいろあるだろう。キラキラした美少女アバターだけでは利用しづらいという人も,さまざまな用途で使える動画作成ができるようになる(みふねたかし氏はVTuber用途での使用を禁止しているが,nizima LIVEを使用した場合については特別に許可が出ている)。
そのほか,Live2Dモデルの作成時にもCubismと連動してモデルを動かせるほか,プラグインスクリプト機能が実装され,ユーザーが機能拡張を行うこともできるようになった。また,nizima LIVE上からnizimaでモデルを探すような機能が追加されたほか,各種キャンペーンで利用拡大を図っているという。
今後は,トラッキング精度の向上や多言語対応,エフェクトの拡充などが予定されている。
新製品のnizima ACTION!!については,CEOの中城氏から解説が行われた。
nizima ACTION!!は,オンラインの映像編集ツールで一般的な各種動画素材のほか,Live2Dモデルを直接扱えることを特徴としている。Live2Dモデルを使って手軽に映像作品を制作するには最適なツールと言えるだろう。
さまざまなモデルに用意されたモーションを適用していく形になるようで,Cubism Editorのように動きをデザインしていくことはできないが,その分,1クリックで表情やモーションを指定できるなど,誰でも手軽に扱えるものになっている。
基本機能の詳細まではよく分からないが,一通りの動画編集機能は揃っているだろう。
テキストは縦書きも可能で,オンラインなのでフォントもサーバー側に適当なものは揃えられているはずだ。また,タイトルロゴが作れそうなテキストデコレーション機能も付いている。各種エフェクトやトランシジョン,Live2D限定だろうがワンタッチアニメーション機能なんてものもあるという。
Live2Dを生かしたものとしては,パターン柄作成機能やアクションフレーム機能がある。これは,Live2Dデータを動画内でさまざまな形で張り付けて表示する機能だ。アクションフレームはかなり高度な機能であり,単純なようでもVTuberの背景にアニメーションパターンをしくなんてことも,ほかではそう簡単にはできないかもしれない。
また,当然ながらnizima LIVEと連携して,フェイシャルキャプチャやフルボディのモーションキャプチャ(要mocopi)でVTuberのようなアバターを直接動かして動画素材を作ることも可能だ。nizima LIVE同様いらすとやのモデルを使うこともできる。表情や前身の動きに対応したモデルであれば,nizima LIVEでリアルタイムに操作可能だ。アバター以外のモデルの使い勝手を考えると,nizima ACTION!!のほうがいらすとやモデルの操作に向いているかもしれない。
いらすとやモデルを見ても分かるように,後発のツールとしてnizima ACTION!!が重視したのが素材であるという。標準で使えるLive2Dモデルが(おそらく多数)用意されるほか,写真やイラストなどのストック素材サイト123RFや音源サイトDOVA-SYNDROMEとの提携などですぐに使える素材が揃っている。
nizima ACTION!!の継続的な開発のため,将来的には一部課金化も考えているそうではあるが,当面は無料である。そして年内にオープンα版(オープンならαじゃないだろって話もあるが),2025年前半にβ版が提供される予定だ。
最後にキューブ先輩からLive2D JUKUの状況が報告された。
Live2D JUKUはLive2Dのプロになるためのオンライン講座だ。毎月動画講座が発表されているほか,高頻度で生配信も行っており,有益な情報を提供している。
反響の大きかった講座として,Cubism 5.1のモデルテンプレートなどを駆使して,1日でVTuberモデルを作ろうというものや,ヘドバンができるくらい頭の前後の可動域を増やそうというものが紹介された。可動域の拡大はさまざまな方法で試みられているが,頭を激しく振るデモ動画はかなりインパクトが大きい。
今年は月額990円のマスターコースのほかに,月額290円のイラストコースが新設されており,Live2Dで扱いやすい原画イラストの描き方などを学べるようになっている。
そんなLive2D JUKUのJUKUメン数(塾生数)は順調に伸びており,講座数は40本,生配信は440本,ゲストクリエイターは46人に達するなど,規模を拡大している。会員限定のDiscordサーバーも盛況だ。オンラインでの活動以外に,企業や教育機関向けのセミナーやワークショップも開催しており,変わったところでは「田村淳の大人の小学校」でも取り上げられたことがあるとのことだ。
そのほか,JUKUの活動の一環でオリジナルMVを制作中であり,将来的には,そこで使われた素材なども公開される予定だという。今回画像の一部が公開されている。完成が楽しみだ。
最後に中城氏から,今年は同社の19期めになるが,19年間の半分くらいは赤字だったこと,この5年くらいは連続で利益が出てようやく安定して成長を続けていることなどが明かされた。そのうえで,ツールの収益とレベニューシェアでなんとか活動が続けられたことに感謝を示していた。VTuberをはじめとした個人での配信需要などで,Live2Dの需要は安定しつつある。20年めに向かう同社の活躍に期待したい。
基調講演自体は録画の上映という形で行われたが,これは全世界に同時配信するための措置となる。Live2Dはもはや日本だけのものではなく,海外ユーザーの比率のほうが多くなっているという実情を踏まえてのものだ。
基調講演ではLive2Dの各部門の最新情報が紹介された。最初はCEOである中城哲也氏から新プロダクトの「nizima ACTION!!」とLive2Dの現状が紹介された。nizima ACTION!!については後段でまとめて紹介するとして,同社の状況をみていこう。
Cubism Editorの月間アクティブユーザー数は約10万人に達し,ユーザーコンテンツマーケットnizimaの登録者数も13万人と成長をみせている。北米を中心に海外比率が高くなっているのは昨年と変わらないが,今回は少し詳しい地域別の購入者割合が示された。
ゲームで使われるCubism SDKの登録も400タイトルを超え,同社では使用作品のデータベースの公開を始めている。これは単に使われているタイトルを並べたものではなく,ゲームのどこに使われているのかなども示しているものだ。
「Live2D」公式サイト
利用の拡大に向けて,新たに著作物シンプルライセンスプランというものが新設された。商用であっても一時的な製品プロモーションなどに使う場合はライセンス料を免除するというものだ。すでにシャープの展示会用で,テレビでのAI Partner機能のデモなどで使われているという。ちなみに,AI PartnerはAIアバターチャットシステムで,会話や買い物,一緒にテレビを見て盛り上がるようなこともできるらしい。
教育機関に無償提供する支援プログラムLEAPも堅調で,447校,3万9000人が利用している。そのほか,学生が作成した作品のプロモーションを支援するLEAP共同ブランディングも進められており,これは広告費用の70%をLive2Dが負担してくれるというものだ。そのほか,オンライン講座のLive2D JUKUをはじめ,各種オンライン研修やセミナーで利用者の拡大を目指している。
主力製品となるLive2D Cubismでは,Cubismグループリーダー佐藤健一氏からver.5.2に搭載される新機能が紹介された。
パラメータコントローラは,コントローラで手足などのパーツを直接動かすことにより,付随する部分のパラメータをまとめて設定できるというものだ。ゲーム業界の人には,IK(Inverse Kinematics)やコンストレイント(Constraints)といったほうが分かりやすいかもしれないが,Live2Dでは一般人向けにそういった用語を使わずに機能を紹介しているという。
とにかく,映像制作用のCubism Mの機能として昨年紹介されていたものが,IKとなって一般版のCubismにもやってくるわけだ。
シーソーの上で手をつないだ男女が動くデモは,フルボディIKの可能性を感じさせるものだった。このデモでは,男の子と女の子とシーソーの3つのオブジェクトが,ターゲット追従により連動して動く仕組みが実装されている。ただし,現状のSDKでは単体のトラック(モデル)しか書き出せないため,SDK上で動かす場合は,キーフレームをベイクして書き出す必要がある。その結果,モデル間の連携(ターゲット追従)が失われ,それぞれが独立した動きになってしまう。
これは,従来のCubism Editorが単体のオブジェクトを扱うものであって,複数のオブジェクトには対応していないためだ。現状,単体でのIKだけでもこれまでの要素と整合性を保ちながら実装でき,かなりの恩恵をもたらすものとなっているが,今後はSDK上でもモデル同士を連動して動作できるように進めていく予定だという。
今後登場する複数のオブジェクト間のIKを設定するものが別のエディタになるのか,Cubism Editorの拡張になるのか,SDK専用のものになるのかは不明だが,明るい未来が見えているのは間違いない。
スライドの右側のデモは,動く魔法陣に乗った女の子がサーフィンよろしくバランスを取り,指定されたターゲットに視線を向けて魔法を放つというものである。魔法陣の特定の場所に足を固定してあるので,しっかり接地したまま動き回る。
従来のフォワードキネマティクスの関節角度と位置の制御で足をフィットさせるように動かすというのは,理論上不可能ではないとはいうものの,おそらくこれを使うような人だと1枚1枚動画を描いたほうが早いんじゃないかというくらいの難作業となっただろう。
そのほか,フォームの左右反転ができるようになったり(上下反転も可能),ループモーションの作成が簡単になるような機能が加えられるなど,使いやすさが向上している。ループモーションくらい,これまでもできただろと思う人もいるかもしれないが,開始位置から終了位置への動きの補間が基本なので,終了位置を開始位置と同じにして動きをつなげると開始位置が2つ重なってしまう。なので,これまでは1フレーム分短くしたものをつなぐみたいな操作が必要だったのだが,今後はそういったことをしなくても滑らかにつながるようになるという,ちょっとした改良だ。
なお,Cubism 5.2は12月17日β版が公開された。
さらにその次のバージョンとなるCubism 5.3で追加予定の機能も紹介された。
まず,まとめて描画する機能である。スライドでは半透明の例が示されていたが,アートメッシュ単位で半透明にすると,帽子の下の頭が透けて見えてしまったり,画像としては破綻したものになってしまう。これらをまとめて描画したうえで半透明をかけると自然に仕上がるというものだ。半透明だけでなく,いろいろな機能に影響してくる機能である。
ブレンド方式が追加され,イラスト作成ツールで使用できるオーバーレイやスクリーンなどといったものがLive2Dでも利用できるようになる。表現の幅は大きく広がりそうだ。
SDK対応なのでゲームでリアルタイムに処理することも可能だ。ただ,それなりに重い処理にはなりそうなので,ローエンドのモバイル端末などでは厳しいだろう。処理能力に余裕のあるPCやゲーム機,ハイエンドモバイル端末などが対象となるのだろう。
合成方式も多彩になる。デモを見るだけだとCSGとかブーリアン演算とかのように図形でのクリッピングを行うもののように思えるのだが,Atopとかdisjoint overとかconjoint overとかのモードも見えるので,もっと多彩な合成が可能になる模様だ。
なお,図形でのクリッピングの部分だけでも,エッジを滑らかにして合成するなど有用な機能である。
元のオブジェクトを任意の場所で再描画できるようになる。言葉にすると分かりにくいが,髪の下に目が隠れるような場合でも,目が半透明に透けて見えるみたいな表現が多用されることはご存じだろう。透けて見える目を表現するためには,目の部分を複製するなどの煩雑な処理が必要だった。分かりやすく言えば,それを複製なしで行えるような機能だ。
こういった,ちょっと便利で表現を豊かにしてくれる機能が5.3では追加予定となっている。これらはすべてSDK対応であり,複合してより複雑なこともできるようになるなど,Live2Dの表現力をさらに高めてくれるものとなりそうだ。Cubism 5.3は2025年春にα版が登場するようだ。
映画/映像プロジェクトでは,企画制作事業部の石川源次郎氏から現状と今後の予定などが紹介された。
本格化する映像制作用に実験的な機能を含む,社内ツールとして作成されていたCubism Mは,一般版のCubismに機能を移植し,最終的には一般版のCubismに一本化される予定だという。CubismMで実装されたIKをはじめとする研究成果は,5.2および5.3で順次ブラッシュアップされながら移植が進められており,今後のバージョンでも継続的に取り込まれていく。
Live2Dの制作チームであるCreative Studioは商業アニメーション制作にも乗り出しており,昨年の時点から9作品に関わっているという。その中でも,Live2D主体で作られている作品が,殿と犬である。2分ほどのショートアニメーションだが,同じ動画で4人の声優を使って4回放送しているという番組だ。犬が寝返りを打ったり,Live2Dとしてはかなり頑張った表現が見受けられる。
石川氏からは,本格商業作品制作のさらなる予定も示唆された。作品名などは明かされていないが,これまでにない規模と表現を追求するものとなるらしい。
こうして映像制作での実績を上げつつ,ノウハウを蓄積し,制作スタッフを拡充,同時に制作ツールの進化を促していくというのが,映像チームの方針だ。そしてその先ではLive2Dによる独自の映画制作実現に向けて商業アニメーション制作に注力していくようだ。
nizima Webサービスの動向に関しては,上島駿介氏から説明が行われた。
ユーザーの制作した2D作品をやり取りするプラットフォームとしてnizimaは2018年10月に誕生した。今年で6周年を迎え,ユーザー数やコンテンツ量などを大きく拡充している。扱われる作品の多くはLive2Dによるもので,このご時世だからか,その大半はVTuber関連のものとなっている。サイト利用者は18〜24歳の層が最も多いという,若年層主体であることも特徴の1つといえるだろう。
購入者向けの施策としては,昨年発表された納入実績の明示などのほか,Live2Dモデルが主体ということで,コンテンツを一覧する際のサムネイルを動くものにしたり,VTuber系のキャラクターモデルであれば,PCやスマホでカメラを使ったフェイシャルキャプチャを行うことで,3分間のお試し利用ができるといった使い勝手の改善が行われている。さらに決済手段も拡大し,クレジットカードの分割払いや,あと払い系のサービスが利用可能になっている。
出品者向けの施策としては,大きな休みの時期に宣伝を支援するようなキャンペーンを行い,nizimaに出品するだけでGoogle広告に掲載されるサービスを提供するなど,販売活動の支援に力を入れている。
また,同社が開発しているVTuber向けのフェイストラッキングアプリnizima LIVEに関しては,公式キャラクターの虹丸イブさんが紹介した。
nizima LIVEは,Live2DモデルとスマホやPCのカメラを使って手軽にVTuber風のアバター操作ができるツールで,単体での配信機能はないが,OBS Studioなどと組み合わせることで手軽にVTuberデビューができるというものだ。現在,Windows版,Mac版,iPhone版が公開されている。公開後何度かのアップデートを経て,10月末に複数の機能追加を行ったver.2.0が発表された。
ver.2.0では,ソニー製のトラッカーmocopiを手足に装着することで,フルボディトラッキングに対応している。さらに,いらすとやのLive2Dモデルが公開されて利用できるようになった。配信以外でも,いらすとやの素材が動くなら用途はいろいろあるだろう。キラキラした美少女アバターだけでは利用しづらいという人も,さまざまな用途で使える動画作成ができるようになる(みふねたかし氏はVTuber用途での使用を禁止しているが,nizima LIVEを使用した場合については特別に許可が出ている)。
そのほか,Live2Dモデルの作成時にもCubismと連動してモデルを動かせるほか,プラグインスクリプト機能が実装され,ユーザーが機能拡張を行うこともできるようになった。また,nizima LIVE上からnizimaでモデルを探すような機能が追加されたほか,各種キャンペーンで利用拡大を図っているという。
今後は,トラッキング精度の向上や多言語対応,エフェクトの拡充などが予定されている。
新製品のnizima ACTION!!については,CEOの中城氏から解説が行われた。
nizima ACTION!!は,オンラインの映像編集ツールで一般的な各種動画素材のほか,Live2Dモデルを直接扱えることを特徴としている。Live2Dモデルを使って手軽に映像作品を制作するには最適なツールと言えるだろう。
さまざまなモデルに用意されたモーションを適用していく形になるようで,Cubism Editorのように動きをデザインしていくことはできないが,その分,1クリックで表情やモーションを指定できるなど,誰でも手軽に扱えるものになっている。
基本機能の詳細まではよく分からないが,一通りの動画編集機能は揃っているだろう。
テキストは縦書きも可能で,オンラインなのでフォントもサーバー側に適当なものは揃えられているはずだ。また,タイトルロゴが作れそうなテキストデコレーション機能も付いている。各種エフェクトやトランシジョン,Live2D限定だろうがワンタッチアニメーション機能なんてものもあるという。
Live2Dを生かしたものとしては,パターン柄作成機能やアクションフレーム機能がある。これは,Live2Dデータを動画内でさまざまな形で張り付けて表示する機能だ。アクションフレームはかなり高度な機能であり,単純なようでもVTuberの背景にアニメーションパターンをしくなんてことも,ほかではそう簡単にはできないかもしれない。
また,当然ながらnizima LIVEと連携して,フェイシャルキャプチャやフルボディのモーションキャプチャ(要mocopi)でVTuberのようなアバターを直接動かして動画素材を作ることも可能だ。nizima LIVE同様いらすとやのモデルを使うこともできる。表情や前身の動きに対応したモデルであれば,nizima LIVEでリアルタイムに操作可能だ。アバター以外のモデルの使い勝手を考えると,nizima ACTION!!のほうがいらすとやモデルの操作に向いているかもしれない。
いらすとやモデルを見ても分かるように,後発のツールとしてnizima ACTION!!が重視したのが素材であるという。標準で使えるLive2Dモデルが(おそらく多数)用意されるほか,写真やイラストなどのストック素材サイト123RFや音源サイトDOVA-SYNDROMEとの提携などですぐに使える素材が揃っている。
nizima ACTION!!の継続的な開発のため,将来的には一部課金化も考えているそうではあるが,当面は無料である。そして年内にオープンα版(オープンならαじゃないだろって話もあるが),2025年前半にβ版が提供される予定だ。
最後にキューブ先輩からLive2D JUKUの状況が報告された。
Live2D JUKUはLive2Dのプロになるためのオンライン講座だ。毎月動画講座が発表されているほか,高頻度で生配信も行っており,有益な情報を提供している。
反響の大きかった講座として,Cubism 5.1のモデルテンプレートなどを駆使して,1日でVTuberモデルを作ろうというものや,ヘドバンができるくらい頭の前後の可動域を増やそうというものが紹介された。可動域の拡大はさまざまな方法で試みられているが,頭を激しく振るデモ動画はかなりインパクトが大きい。
今年は月額990円のマスターコースのほかに,月額290円のイラストコースが新設されており,Live2Dで扱いやすい原画イラストの描き方などを学べるようになっている。
そんなLive2D JUKUのJUKUメン数(塾生数)は順調に伸びており,講座数は40本,生配信は440本,ゲストクリエイターは46人に達するなど,規模を拡大している。会員限定のDiscordサーバーも盛況だ。オンラインでの活動以外に,企業や教育機関向けのセミナーやワークショップも開催しており,変わったところでは「田村淳の大人の小学校」でも取り上げられたことがあるとのことだ。
そのほか,JUKUの活動の一環でオリジナルMVを制作中であり,将来的には,そこで使われた素材なども公開される予定だという。今回画像の一部が公開されている。完成が楽しみだ。
最後に中城氏から,今年は同社の19期めになるが,19年間の半分くらいは赤字だったこと,この5年くらいは連続で利益が出てようやく安定して成長を続けていることなどが明かされた。そのうえで,ツールの収益とレベニューシェアでなんとか活動が続けられたことに感謝を示していた。VTuberをはじめとした個人での配信需要などで,Live2Dの需要は安定しつつある。20年めに向かう同社の活躍に期待したい。