【月間総括】大幅値上げで壊滅した海外転売と凋落が明確化したPSブランド

 9月の記事で10月は任天堂について述べると書いたが,9月はソニーグループ関連でニュースが相次いだこともあり,予定を変えて話を進めたい。

 一番大きなトピックは,先月入稿後に発表されたPS5本体の値上げだろう。ただし今回の値上げは,筆者の唱える日本軽視論とは直接関係ないとみている。
 推測だが,値上げ実施にはそれなりに時間が必要である。この7月には対ドルでの円レートは161円にもなっていた。この時期に価格改定を考えたのであれば,PS5の値上げも後述するPS5 Proの約12万円の価格も当然であろう。
 だが西野CEOは日経のインタビューで「これは価格変更である」とコメントしたのだ。
 しかし,並列して値上げの収益を再投資するとも言っているので,ブルームバーグの望月記者も指摘しているように,要領の得ない内容になっている。

 先月の連載では「これは両社(ソニーグループとスクウェア・エニックスHD)とも,計画未達を指して期待を下回ったと言い換えていることからも明らかだろう。日本文化で見られる(補足:日本でよく見られるだけで,日本以外でもある)直接的な表現を避ければ現実にはならないという『文章や声に出すと現実化する』という迷信からはぜひ脱却してほしい」と筆者は述べたのだが,それから10日も経ずしてこのような言い換えが出てしまっている。

 言葉の言い換えは戦時中に,撤退を転進,全滅を玉砕という大本営発表としてよく行われていた。大本営が最後は敗北したという事実を鑑みても,言葉の言い換えに意味があるとは思えない。

 そもそもPlayStationは,一貫して演算能力=グラフィック性能を追求してきた。この点で異論は少ないだろう。しかし4K/120フレーム以上の8K/240フレームのような高精細・高画質を今後同じようにさらに目指すとなると,見ただけで違いが分かるような変化を起こすためのコストは,これまでとは比較にならないほど高額になるだろう。

 巨大かつ高性能なシステムの価格が高いのは当たり前のことならば,この適正な価格への値上げを「価格変更」と言い換えるのはとてもおかしな話なのである。

 日本のユーザーは値上げだと思っているし,インタビューでも別途値上げと言っている。SIE社内でだけ価格変更であって値上げではない,となれば良いのだ。
 つまり西野CEOがこれは価格変更であると言ったのだから,値上げという悪い言葉がまるで消えたことになっているのではないだろうか。
 この主張に異論,反論があるのであれぜひいただきたいものである。

 またPS5は昨年小型化したときも値上げが実施されたが,その時の販売数量はむしろ増えていた。しかし今回の値上げではファミ通の販売数量を見る限り,大きく減っている。

 PS5の週間の販売台数は,GW明け以降の平均2.6万台から1万台強へと急減した。
(下図参照)。


 読者におかれては,PS5は購買可能価格の閾値を超えたために販売が急減したと思われるはずである。だが,今回の値上げの影響は日本ユーザーの購入にはあまり影響を与えていないが,海外転売には大きく影響したと筆者は考えている。

 これは過去2回の値上げがほとんど販売に影響がなかったのに対して,今回は大きく減少しているからである。
 いろいろな取材でもSwitch,PS5が大量に転売されていると聞いていた。
 以前日経に「最低でも10%は海外流出している」と筆者はコメントしており,大部分は海外転売だと現時点では考えている。

 筆者は先月の追記で「インバウンドによる海外流出が許容できなくなったことも今回のPS5値上げの要因である。値上げ後は,規制要因が残る中国向けを除いて,日本市場の実力に見合った数量に近くなると考えている」とコメントした。なので,60%以上の大幅な減少は値上げによる海外転売の喪失分が大半だと見ている。

 となると元々日本ではPS5は売れていなかったわけだ。そして上記のグラフが示す年50万台という規模感覚は,筆者が予測していた通り日本におけるPlayStationブランドの凋落でしかないだろう。Switchは転売を除いても,年平均400万台は売れたと推測されるからだ。

 悲しい気持ちになるのは,PlayStationブランドがここまで凋落したことではないだろうか。批判されたら悲しい気持ちになるのは,毅然と異を唱えておきたいものだ。

 そしてもうひとつ,新たに発表されたPS5 Proについて語っておきたい。
 Xbox Seriesが性能向上モデルを出さなかった一方,SIEはProモデルを投入してきた。
 高性能APUやDLSSに似たSIE独自のアップスケーリング技術PSSRと,とても素晴らしいゲーム機に仕上がっていると言っていいだろう。SIEが主張する通り,PS5 Proは高性能で素晴らしいゲーム機なのであるから高価格は当然であろう。先ほども述べたが,いいものは高いのが当たり前なのである。

 筆者は普段から価格の影響は小さいとしていたので,12万円の価格は性能から見ても妥当だと思う。特にストレージを2TBにしたのは大変評価している。先月も書いたように,ゲーム事業の販売本数不振はストレージの容量不足と増設の困難さが引き起こしていると考えているので,ネットの評価と違って筆者はとても良い決断だったと考えている。

【月間総括】大幅値上げで壊滅した海外転売と凋落が明確化したPSブランド

 また厚みに関しては,当初現行機と同じにしたと評価していた。
だが東京ゲームショウで見た限り底辺部だけが同じなので,おそらく意図したものではないだろう。
 そして筆者が繰り返し指摘したように,PS5はゲーム機に見えない。
 しかもPS5とPS5 Proは1.5倍も価格差があるが,上記の写真を見ても価格差が何からきているか分かる人は少ないと思う。
 Switch OLEDモデルはディスプレイを大型化しただけだが,5000円の値上げの価値があると認識されたので大いに売れた。ネットではPS5 Proは価格性能比で安いとよく言われているようだが,PS5 Proのデザインに1.5倍の差は感じられないのである。

 もうひとつ,おそらくPS5 Proは大量生産が難しいだろう。原価がいくらと言うのは議論のあるところだと思うが,東洋証券では対ドルレート145円で10万円程度だと見ている。これを100万台作ると1000億円もの在庫投資(=資金)が必要なのだ。

 500万台製造するとなると,5000億円もの在庫投資が必要になる。
もう少し安く9万円だとしても4500億円であり,ビジネス上のリスクが非常に大きくなっている。
 筆者は任天堂以外のハードメーカーがゲーム機の売れる要因を特定できていないと考えているので,売れるかどうか事前予測が難しいゲーム機にこの巨額投資は困難だと思っている。

 最後に次世代機(ここではPS6とする)について触れたい。
PS5の問題点を列挙すると,

(1)ゲーム機に見えないこと
(2)性能が高いために冷却機構が巨大化し,コストが増し量産性に問題がある
(3)性能を追いすぎてゲーム開発費が増大し,回収が難しくなった

 を指摘したい。

 このままPS6を目指すとなると,PS5に対して5〜6倍の演算能力,DRAM48GB,ストレージ4TB程度クラスの性能が必要になってしまう。このスペックのマシンを2026〜2028年頃だとして,安価に出せるとは筆者には到底思えない。
 それでもユーザーがPS6に価値があると理解してくれるのであれば,20万円でも構わない。だが,性能で買っているユーザーは少数派で,大部分はデザイン(含む厚さ)やスタイルで買っているようだ。

 以上の点から考えると東洋証券としては,再度小型化を提案したい。
 Switchの後継機は初動から大量投入すると古川社長は言っている。これが事実なら初回にどのくらいの数を出せるかの重要性が明確になるだろう。
 たくさん作れないものは普及しないのである。

 また,開発費の高騰は深刻なレベルだ。
 発売からわずかな期間でサービス終了となった「CONCORD」でも明らかになったが,ライブサービスゲームやAAAを開発するのにもはや300億円は必要になっている。
 PS6の性能を上記の前提にすると,AAAを作るには500億円以上をかけるしかないように思うのだがいかがだろうか?
 結局,PSSRを使って疑似的な性能向上に頼らざるを得なくなるだろう。

 ハード・ソフトの費用増を考えると普及台数をもっと増やすしか解決策はないと思っているので,日本で売れる方策を考えるべきだ,と筆者は繰り返し主張してきた。
 残念ながら悲しい気持ちにしかならないうえに,挙句に筆者は批判ばかりしていてSIEにとって邪魔でしかないようである。かつて久夛良木氏やアンドリュー・ハウス氏がCEOだった頃はビジョンがあったのだが,現体制からはPlayStationは素晴らしいと多くの人が賞賛すれば,現実になると思っているようにしか見えないのである。