【ACADEMY】レイオフのない人生,あるいはゲーム開発においてそれが避けられないものである理由

ベテランゲームデザイナーで,CEOのJesse Schell氏に話を聞いた。彼は22年間で1人の開発者も解雇していない

【ACADEMY】レイオフのない人生,あるいはゲーム開発においてそれが避けられないものである理由

 見出しとは裏腹に,レイオフは避けられないものではない。

 2002年にSchell Gamesを設立して以来,1人の従業員も解雇していないベテランデザイナー兼作家のJesse Schell氏は,ゲーム業界の周期的な雇用と解雇の慣行は,不信と恐怖を生むだけでなく,時間の経過とともにチームの相互作用を弱くすると考えている。

 ゲームをより安く,より速く,より良いものにするための動画,ポッドキャスト,記事の新シリーズ「GI Sprint」の一環として,Schell氏はひどく不確実な時代に持続可能なビジネスを構築し,維持するための戦略を語っている。






人数ではなく,ビジネスのやり方を変える


 2024年だけでも,120以上のスタジオで1万1000人近い開発者が職を失っているのに,どうやってレイオフを回避しているのかと問われたSchell氏は,「多くの人々がレイオフを余儀なくされるのは,ビジネスの本質の一部として,雇用を危険に晒しているからだと思います」と答えた。

 「(スタジオの幹部は)次のように言います。『いいか,我々はこの金を得て,このゲームを作るんだ。ゲームが成功すれば最高だが,そうでなければ,従業員を解雇しなければならない』と。これが現実です」とSchell氏は言う。

 「私はいつも,それが本当に有害だと感じてきました。私はそれが起こるのを目の当たりにしてきました。誰もが次に何が起こるのかを恐れて生きているんです」

 これは士気を低下させるだけでなく,ビジネスの観点でも良くない。だからこそ,スタジオは利益よりも人材を優先すべきだとSchell氏は考えている。


望ましい職場文化を創造することで,人材を優先する


 長く一緒に働けば働くほど,より良い人材になると確信しているSchell氏は,人材の維持はスキルや経験を保つだけではなく,規模の大小にかかわらず,従業員全体の人間関係を強化することだと強調する。

 「チームの誰かが抜けると,その才能を失うだけでなく,その人と一緒に働いて築き上げた経験もすべて失います」とSchell氏は説明する。「しかし,人々が一緒にいれば,時間とともに強化されます。私たちにとっては,安定性を優先させることが大きな部分を占めています。そのために選んだ方法は,自社IPと雇われ仕事を混在させることです。こうすれば,一方のプロジェクトがうまくいっていない場合,他方に傾注できます」

 「その根底にあるのは,雇用をリスクに晒さないという選択です。私たちは,ゲームを作るときに現金をリスクに晒すことはあっても,雇用をリスクに晒すことはありません。たとえ自社IPの収益がゼロでも,雇用をリスクに晒すことはありません。私たちにはまだ,人を雇い続ける道があります。だから,いろいろな意味で,これは選択なんです」

 それは,誰かがうまくいっていないとき,あるいはチームの相互作用に悪影響を及ぼしているとき,難しい決断を下す用意がSchell氏にないという意味ではない。それは,Schell Gamesが「人々が長期的に勤めたい」職場環境を注意深く育てているということだ。


効率的で機敏な意思決定をする


 Schell Gamesは通常,一度に6〜8本のゲームを制作している。もちろん,従業員を倍に増やせば,その倍になるだろう。Schell氏は人数を増やせば「有意義な『規模の経済』がある」ことをすぐに認めたが,その効率化は「より多くの混乱と伝達ミス」という代償を払うことになるかもしれない。

 「経験豊富な開発者は,プロジェクトを見て,必要になりそうなものを見積もれます。見積もりを正しく行うのは難しく,大変な仕事です。重要なのは,それが難しいという事実を尊重し,大変な仕事であることを尊重することです。そしてベストを尽くすことです」

 「プロジェクトが進むにつれて,それが想定していたものではないことに気づくでしょう」と彼は付け加える。「このゲームには12ステージ必要だと思っていたけれど,必要なのは8ステージだった。敵が10体必要だと思っていたけれど,実際には25体必要だった。プロジェクトは変化します。これがアジャイル開発が重要な理由です。アジャイル開発とは,スケジュールを再評価し,『何が変わったか? 前回のスプリントで,長期的な計画に影響することを学んだか?』と問うシステムです」

 「見積もりや計画を立て,時間通りに予算内でクオリティの高いものを完成させるのは,本当に芸術的なことです。それを尊重し,それに集中させなければなりません」


外部委託は短期的にはコストを削減できるが,リスクもある


 Schell氏は,スタジオがコアコストを抑えるためにフリーランスのスタッフと契約したり,外注したりすることを理解しているが,彼のやり方は違う。

「私たちは,ゲームを作るときに現金をリスクに晒すことはあっても,雇用をリスクに晒すことはありません」

 「あなたはその人たちを知りません。あなたは彼らと関係性を築いていません」とSchell氏は言う。「それが最もうまくいくのは,仕事が非常に単純な場合です。しかし,もしあなたが新しいゲームプレイを生み出すような革新的な空間で生きているのであれば,コミュニケーションがとても重要なので,契約社員と仕事をするのは大変なことです。人間同士の信頼関係を築くには時間がかかります」

 「何年かに一度,ハリウッドの大物がやってきて,こう言うんです。『君たちは,自分が何をしているのか分かっていない。ハリウッド流のやり方を教えてやろう。それはとても効率的だ』と。そして,彼らは飛び込んできて,それをやろうとし始めますが,1年か2年経つと,出ていってしまいます。彼らはただ,影の中に消えていくのみです。ゲームはもっと難しいんです」


レイオフに変わる選択肢


 Schell Gamesは苦境に立たされ,スタジオが「危機に瀕した」時期もあった。

 「投資を受けたことはありません」とSchell氏は言う。「私たちはブートストラップ(自助)のスタジオです。最初はゲーム制作を依頼され,納品して報酬を得るという,雇われ仕事からスタートしました。もちろん,収支が合うように,あるいは利益が出るように管理しなければなりませんでした。かなり長い間,そうしてきました」

 これらの業務委託契約によって得られた利益をもとに,Schell Gamesは自社のIPを開発するために人材に再投資した。Schell氏の自己評価によれば「それらは必ずしも収益性の高いゲームではなかった」が,それでもよかった。「私たちは進み続けました」

「レイオフは雪崩のようなものです。もし会社がレイオフをしなければならないのなら,皆がやっているときに行うのが賢明です。『私たちのせいじゃない。それが今の経済なんだ』と。」

 「今のところ,50%が自社IP,50%が雇われ仕事という状況で,とてもうまくいっています」と彼は付け加える。「すべてが順調です。しかし,2012年の不況は本当に恐ろしいものでした。プロジェクトの中止が相次ぎ,私たちは新しいプロジェクトを得るのに苦労しました。ただひたすら,仕事を得るために奔走していました」

 「そのため,しばらく昇給をやらなかった時期もありました。慎重になる必要があったんです。不景気だったころに,それを理由に辞めた人がいたのを覚えています。彼は退職し,大きなゲームスタジオで働きました……そして1年後,彼は解雇されたんです」

 「減量経営はその一部です」と彼は説明する。「その一環として,ボーナスを減らしたり,昇給を減らしたり,その他の支出を減らしたりしなければならないこともあります。ピンチのときに対処する方法はたくさんありますが,先手を打っておきたいのです。私たちはこの1年も減量経営をしました。なぜならその行く末が見えたからです。そして,私たちは厳しい状況にありました。大きなプロジェクトが決まっていたので,ほかのプロジェクトは断っていたんです。私たちは約半年間,この契約を得るために努力してきました。しかし,一夜にしてサッと消えました。ただ……消えたんです」

 「ただ,それを管理し,思慮深く,注意深くなければなりません。ビジネスですから。そこに保証はないので,何を優先するかという話になります。安定を優先すれば,かなり安定した状態を保てます。しかし,それには多くの時間をかけ,考え,注意を払わなければなりません」


リスク軽減について正直で現実的であれ


 ゲーム業界だけでなく,ハイテク業界全般でこの2年間にこれほど多くのレイオフが発生した理由は,パンデミックからの回復にあるとSchell氏は業界の動向を振り返る。

 「パンデミックに突入し,突然,誰もが自宅で仕事をするようになりました」と彼は言う。「誰もがどこにいても仕事ができる状況です。そして突然,『大量離職』が起こり,あちこちで人が辞め始めました。その結果,誰もがそれに対抗しようとし始めました。給与は大幅に上昇し,企業は決死の覚悟で恐る恐る雇用を始めました」

 「レイオフは雪崩のようなものです」と彼は付け加える。「もし会社がレイオフをしなければならないのなら,皆がやっているときに行うのが賢明です。『私たちのせいじゃない。それが今の経済なんだ』と。やるなら今やるべきです。そうすれば,自分たちが何か間違っているように思われず,普通のことだと見られるでしょう。だから今,私たちはそれを経験しているのです。願わくば,すべてがすぐに正常化してほしいです」

 Schell氏によると,このような「ブームと破裂」の精神性は,エンターテインメント分野だけでなく,ハイテク分野でも珍しいことではないという。しかし結局のところ,レイオフは多くの場合,リスクを適切に軽減し,あらゆる展開を率直に考慮することを,管理職が怠った結果だと彼は考えている。

「(レイオフを最小限に抑えるように)優先順位を気にすれば,うまくいくでしょう」

 「最悪のケースを考えることはできますし,考えなければなりません。リスク軽減について考えなければならないのです。もし,取引がうまくいかなかったら? それはチェスのゲームのようなものです。世の中には,意図的にあなたを不利な状況に追い込み,あなたを追い詰め,あなたからより良い取引を引き出すために,その手足を切り落とそうとする組織が存在します。私は,パブリッシャと契約を結ぶ際に,多くのスタジオがそうなるのを見てきました」

 だからこそ,スタジオの責任者は常にバックアッププランを持ち,人材を優先すべきだとSchell氏は言う。

 「スタジオが成長しているとき,(Insomniac Games CEOの)Ted Price氏から素晴らしいアドバイスをもらったことがあります。私たちは40人を超えていました。そして,こう相談しました。『Ted,私たちの従来の管理方法は間違いです。これまでとは違うやり方をしなければなりません。マネジメントのレイヤーを増やさなければなりません。でも,それが正しいことなのか分からないんです』」

 「彼は言いました。『あなたにとって物事はうまくいくでしょう。あなたはこれらの問題を気にしています。あなたはこれらの問題を考えています。あなたはそれらに時間と関心を与えています。そうすれば,つまりそのことを考え,気にかけ,価値を見出し,優先順位をつければ,必ず解決できます。一方で“まぁ,今はゲームを作ろう。そんなことは考えなくていい。うまくいくことを祈ろう”と言っている人たちは,問題を起こします』」

 「これが私の主なアドバイスです。(レイオフを最小限に抑えるように)優先順位を気にすれば,うまくいくでしょう」

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