【ACADEMY】「キャンディークラッシュ」のステージ制作をスピードアップするために,KingはAIをどう使っているか

同社は,プレイテスト用BOTを導入し,ステージの反復を50%高速化した

【ACADEMY】「キャンディークラッシュ」のステージ制作をスピードアップするために,KingはAIをどう使っているか

 Kingにとって,ゲーム開発の改善とスピードアップにおいて,AIがもたらす新たなチャンスは,まったく新しいものではない。

 「キャンディークラッシュ」の制作会社は,スウェーデンを拠点とするAIソフトウェア会社Peltarionを2022年に買収する前から,5年以上にわたって機械学習やAI技術を活用し,研究してきた。

 KingのAI Labsは,Sahar Asadi氏が率いる大きめな部門であり,同社のチームはすでにAIツールを導入し,「キャンディークラッシュ」などのゲームで使用している。実際,これらのツールのひとつは,大ヒットしたモバイルゲームの開発に,すでに大きな影響を与えている。

 「私たちが開発したプレイテスト用BOTは,ステージのリリース前に,デザイナーにプレイヤーのゲーム体験を理解させます」とAsadi氏は説明する。「彼らは,作成したステージが望ましい体験を提供しているかを確認し,そうでなければ戻って改良できます」

 「私たちは,このBOTの上に,調整ソリューションも構築しました。デザイナーが,意図した体験が得られないステージがいくつかあると言い,基準となる体験を示せば,BOTは自動的に改良を加えます。上位の改良案はデザイナーに送られ,彼らはそこから進めていけます」

 「デザイナーにとって楽しいのはステージを作ることです。退屈な部分は,繰り返しステージをプレイし,それがどのようなものかを見て,不満があれば戻って微調整することです。その手作業が退屈なのです。プレイテスト用BOTは,微調整にかかる時間の短縮に役立っています」

「キャンディークラッシュ」のステージ調整は,AIによって大幅にスピードアップしている
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 AIがゲームに使われるのは新しいことではない。何十年もの間,私たちはコンピュータに世界チャンピオンとチェスをさせてきた。しかし,Kingが作ったAIは,人間を打ち負かそうとしているのではなく,人間を再現しようとしているのだ。そのためには,異なるアプローチが必要だった。

 「私たちにとって,プレイテストの重要な要素は,それが人間らしいものだと確認することです。数年前,DeepMindのAlphaGoは,囲碁の名人と対戦し,最強の棋士を倒すことを目標としていました。しかし,私たちはプレイヤーを模倣したいのです。どうすれば,人間らしくなるのでしょうか。例えば,2手目か3手目だとしましょう。(BOTは)ボードを見て,あなたが取り得る行動から,『最良』の選択肢を決定します。そして,この場合の『最良』とは,おそらく人間がとるであろうもののことです」

 この振る舞いは,Kingがプレイヤーについて収集したデータから学習している,とAsadi氏は続ける。

 「私たちは何百万,何千万もの状態と,それに対応する(プレイヤーの)行動を知っています。BOTはこのパターンを学習しています。そのため,新しい状態を見て,最も人間に近い反応を予測できるのです。最高の選択肢ではないかもしれませんが,最も人間的なものです」

 「私たちは大量のデータに対して,プレイテスト用BOTを実行します。ステージの難度と全体的な難度をBOTに推定させます。そして,BOTが人間のようにゲームをプレイしていることを示す,直線的なパターンを見つけます。また,BOTをより人間に近づけるために,プレイヤーの技術や嗜好をどのようにBOTに組み込むかについても,最近継続的に取り組んでいます」

 BOTの影響は大きい。Asadi氏によれば,プレイテスト用BOTによって,手作業によるステージ調整が95%減少し,全体としてステージ調整が50%速くなったという。しかし,BOTは開発スピードがすべてではない。

 「それは,リリースされたステージの品質を保証するのにも大いに役立っています」とAsadi氏は言う。「ステージはプレイ可能か? シャッフルの度合いは? プレイヤーに適度なチャレンジを与えているか? それらが,私たちがこれをやっている要因です」

「働き方は変わり,日々の仕事で必要とされるスキルも変わっていくでしょう」

 従業員にとって当然の懸念は,これがデザイナーにとって,終わりの始まりなのかということだ。もしBOTが,デザイナーが受け入れるほどに,ステージ調整をうまくやれるのなら,そもそもこれらのツールがステージ自体を構築するのはいつになるのだろうか。

 「デザイナーは絶対に必要です」とAsadi氏は断言する。「私たちは,これをデザイナーの副操縦士だと考えています。アシストツールです。プレイテスト用ツールが提供するのは,リリース前のゲームプレイに関する洞察です。BOTが正しい結果を出せば,私たちはその洞察が正しいことを確信します。1日の終わりに,デザイナーは何が楽しいか,彼らがゲームプレイ体験に何を求めているかを知れます。そして,これらの洞察をもとに,そのステージをリリースすべきか,それとももっと反復すべきかを決定できます」

 彼女はこう付け加えた。「何が楽しいのか? いいゲーム体験とは何か? 数学的に説明することはできません。それを構築するために,デザイナーの役割があるのです」

プレイテスト用BOTは,まるで人間のように,「キャンディークラッシュ」のステージをプレイする
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 さらに,これらのツールはデザイナーの意見なしには,そもそも成り立たないとAsadi氏は主張する。

 「この調整システム全体は,デザイナーとの緊密なコミュニケーションのたまものです。彼らのオープンな姿勢と,イノベーションに集中するために退屈な仕事から離れようとする興奮が,このシステムを構築するための主な原動力であり,全員が時間を費やす動機となりました」

 「過去に遡れば,デザイナーは紙と鉛筆を使ってステージデザインをしていました。その後,Photoshopに移行し,現在は新しいUIツールに移行しています。これは,彼らが本当にスキルフルなことに取り組むことを可能にする,もう一つの高度なツールだと私は考えています。そして願わくば,もっとエキサイティングで面白いものを作っていきたいです」

 Asadi氏は,AIがデザイナーに取って代わるとは考えていないのかもしれないが,彼女が言う退屈な仕事は,新入社員がプロセスを理解するために与えられる仕事であることが多い。例えば,ゲーム業界にはテストを通じて,この業界に入った人が数多くいる。

 「働き方は変わるでしょう」と彼女は認める。「日々の仕事で必要とされるスキルも変わっていくでしょう。私たちが構築している新技術や新製品とは何なのか。それにより,全員の役割,とくに私の役割は代わりつつあります」

 「機械学習のおかげで,エンジニアがコーディングしなければならない多くのことが,もう必要なくなりました。今日,私が誰かを面接するときの基準は,2年前に私が誰かを採用したときの基準と異なります。それでも,欠かせない点と,機械学習の理解は,まだそこにあります」

「AIは急速に進歩していますが,ほかの企業にとって,技術的,文化的,そして価値を引き出すという点で,どのように統合するのでしょうか?」

 今後,KingのAI Labsは,プレイヤーと,プレイヤーが異なる時間に何を望んでいるかを,よりよく把握する方法を検討している。

 「例えば,バスの中で5分時間があったら,できるだけ速くプレイ中のステージに戻りたいでしょう」と彼女は説明する。「ソファに座っていて,30分時間があったら,ゲーム内のいろいろなクエストをこなしたいと思うかもしれないです。この文脈を理解し,ゲームプレイからこの喜びを得るために何が必要なのか……それはプレイヤーにとってやりがいのあることかもしれません。私たちの研究の一部は,基礎的なモデルを使用し,機械学習の新たな発展により,どのようにプレイヤーをよりよく表現し,理解し,それをゲームに反映させ,よりよい体験を構築できるかということです」

 AIは急速に発展しており,Kingの現在の研究がゲームに実装されるのは1,2年後かもしれない。しかし,Kingが速く動けるのは,このAI技術への早期投資のおかげである。ほかのスタジオにとって,AIがもたらす直接的なチャンスは,それを最大限に活用する準備ができているかどうかにかかっている。

 「AI開発の状況は非常に速く変化しています」とAsadi氏はまとめる。「イノベーションを起こす新たな機会につながるので,非常にエキサイティングで,私と私のチームは常に気を張っています。その研究をゲームに取り入れる大きなチャンスが生まれます。しかし,大きな要因は,ゲームがこれらの技術を取り入れる準備がどれだけできているかということです。Kingでは,すでに始めていたので,このような機会を得られました。早くから社内調査を実施しており,Peltarionの買収で,専門知識も得られました。私たちはゲームと非常に良い関係を築いており,ゲームをAIソリューションと統合できるようにしています。それが,私たちのスピードアップにつながっています」

 「ほかの企業にとっても,それは検討すべきことです。AIは急速に進歩していますが,技術的,文化的,そして価値を引き出すという点で,どのように統合するのでしょうか? それが重要です。私のチームは,1年か2年でゲームになるようなものに取り組むことが非常に多いです。そして,私たちが話している新しいソリューションが,さらに速くなることを願っています」

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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら