【ACADEMY】より効率的にゲームを作るために,AI革命を利用する方法

本来の目的を見失わずに,AIツールを活用する最善の方法を,業界関係者が明らかにする


【ACADEMY】より効率的にゲームを作るために,AI革命を利用する方法

 迫りくる人工知能の存在を,手付かずで放置している業界はなく,ゲーム業界も例外ではない。しかし,ChatGPTやMidjourneyのような生成AIツールの台頭は,AIが少なくとも1980年代から何らかの形で開発に影響を及ぼしてきたという事実を,いくらか曖昧にしている。

 ゲームをより速く,より安く作る方法を扱った新シリーズ「GI Sprint」の一環として,コンサルタント会社AI and GamesのディレクターであるTommy Thompson氏は,AIは「新しい」というのが大方の見方だと,パネルディスカッションで語った。しかし,AIが新たな技術革新であり,雇用を脅かし始めたばかりだという考えは,真実とはほど遠い。

 Thompson氏は,AIをパイプラインに統合する方法について開発者に協力しており,2000年代後半からこの「静かな革命」が業界で起こっているのを見てきた。当時の開発者はワークフローに機械学習を取り入れ始めた。しかし,AIは1950年代に始まったコンピュータサイエンスの分野であり,ゲーム業界は数十年にわたってその恩恵を受けてきた。

 Didimoのテクニカルディレクター,Sean Cooper氏はこう説明する。「80年代から使われてきた自動装置やAIは数え切れないほどあります。そして今,私たちはそのことについて話し始め,心配し始めています。しかし,それは常にそこにありました。それは人々を失業させます。例えば,ゲームをテストするテスターは必要ないとか,(自社の)目標を達成するにはゲームをテストする人数を減らす必要があるとか」

 キャラクター作成を自動化し,ゲーム世界にNPCを住まわせるツールを開発しているCooper氏は,なぜ人々が今これほど心配しているのかわからないと付け加えた。彼の経験では,AIと自動化は常に存在していたからだ。開発者がより効率的になるのは常にそうだったし,作品の質を上げるためにスタッフを雇う資金力がないスタジオにとっては恩恵があった。

 Thompson氏は,洗練されたAIツールの使用は,伝統的にAAA分野の閉ざされた世界で行われてきたと付け加えた。そのため,以前ならこれらのシステムはありふれた日常的なツールとみなされ,広く一般に知られることはなかっただろう。

 AIが世間一般に急速に広まり,その潜在的なメリットとリスクについて,塀の外の人々が目を覚ましたのは今になってのことだ。では,AIが流行しているこの新時代において,ゲーム開発者はどのようにAIを活用し,プロセスを改善し,最終的に低コストでゲームを作れるのだろうか。






最新の流行を追いかけない


 AIブームが起きていることは否定できず,何らかの形でAIを提供すると謳うツールやサービスが爆発的に増えているのは予想通りだ。この「製品化」は,スタジオとしてどのツールが最適なのか,そして生成AIが本当に期待通りのものなのかを判断するのが難しいことを意味する。

 話題性を排除し,本質を見極めるのが賢明だというのがパネリストたちの意見だ。

 「問題なのは,ビデオゲームにおけるAIをめぐる会話が,ゲームに携わっていない人々によって主導され,彼らがしばしばAI製品を売ろうとしていることです」とThompson氏は言う。「それは,プレイヤーコミュニティや一般大衆の会話をゆがめるだけではなく,業界内部でも認識をゆがめています」

 「確かに,多くのスタジオと話していると,こんな経験をします。彼らは,GPTやその他もろもろの売り文句を聞いていて,『うちのゲームでもできますか?』と言うんです。答えは『イエスだけどノー』です」

 著作権の問題を考えると,これらのツールの使用が合法かどうかはまた別の問題だ,と彼は付け加える。

「あなたのために,あなたのゲームを作り上げてくれる『銀の弾丸』はありません。私たちが生きている間に,それが現れたら驚きです」
Lucie Migné氏

 Cooper氏はまた,製品名に「AI」と付け加えるだけで,それがシンプルな自動化であっても,より多くの投資が得られるかもしれないと指摘する。なぜなら,財布の紐を握っている人々は,イノベーションに興奮し,新しいアイデアを大げさに宣伝する傾向があるからだ。それは,開発者が儲け話とみなすかもしれない,AI製品やサービスの急増につながる。これらが本当にAI製品かどうかは,大した問題ではない。

 一方,生成AIは話題をリードしているが,スタジオはこの分野のサービスを採用することで,想定していなかった新たな問題が発生することに気づくかもしれない。とくに,これらのツールを効果的に使用することに関しては,言うまでもなく,あるモデルがどのデータでトレーニングされたのかわからないという,潜在的な法律の落とし穴がある。

 開発者は,偽りの可能性があるツールを追い求めるのではなく,自動化や機械学習のような,試行錯誤を経たツールをワークフローに組み込むべきだ。これは,品質保証に特化したAIと自動化のスタジオ,Mighty Build and TestのシニアプロデューサーであるLucie Migné氏からのアドバイスである。

 「彼らはおそらく,現状のツールは必ずしもその期待に完全に応えていないことに気づくでしょう。Keywords(Mighty Build and Testの親会社)でも,最近そうでした」と彼女は言う。「そして,それを学ぶためのコストは,小さなチームにとっては高いかもしれません」


オープンソースに傾倒する


 AIツールが急激に広まるなか,ゼロから社内でツールを構築するリソースを持たないスタジオは,どうすればそれに一口乗れるのだろうか。開発者(とくにインディーズ)は,手始めにオープンソースの熟したプールを利用したいと思うかもしれない,とCooper氏は言う。

 「インディーゲームを見ると,彼らの予算は少ないです。AIシステム(とくに無料のオープンソースのもの)を導入すれば,彼らの品質レベルは大幅に上がるでしょう。というのも,彼らが採用できない人材が,このようなAIシステムによって補われるからです」と彼は説明する。

 しかし,新しいツールを採用するための基礎固めや,それを適切に使用するためのスタッフのトレーニングを怠ると,予期せぬ結果を招くことになる,とMigné氏は付け加える。オープンソースコミュニティの多くは,金銭の授受がないにもかかわらず,オープンソースの総コストはゼロではないと警告している。例えばIBMは,ランニングコストを考慮する必要があると説明している。オープンソースソフトウェアを維持することは,多くの場合,バグの修正や新機能の追加などに時間を捧げるボランティアを必要とする大変な取り組みだ。

 「世間一般では,生成AIツールは無料で使えると思われていますが,それは間違いであると肝に銘じなければなりません」とMigné氏は言う。「無料で,広くアクセスでき,使いやすいため,制作上のあらゆる問題を解決してくれる万能薬であると,業界内の認識をゆがめてしまうかもしれません。不足している人材,不足しているスキルセット……それは経験を早送りするようなものです」


自動化に最適な作業量を特定する


 ワークフローを自動化する際,何から着手すべきか知るのは難しい,とMighty Build and TestのプロダクションディレクターであるLauren Maslen氏は語る。なぜなら,業界の多くの部分が自動化すべき事柄に見えるからだ。しかし,実際にはうまくいかないかもしれない。

 伝統的にコンテンツを生み出してきた分野であれば,いくつかの候補があると彼女は言い,NPCとキャラクターを強調した。環境,あるいはコーディングやエンジニアリングに重複が多い場合もだ。しかし,彼女の会社では,その多くがQA(品質保証)プロセスに焦点を当てている。

 「どんな規模のゲームでも,テストケースを何度も何度も扱うことになります。あなたは,リグレッション(不具合)の早期発見などを目的として,連鎖的に報告する分散チームで,これらを正確に実行することに依存しています。また,自動化やAIがパズルにうまくはまるような,反復作業がある分野でもあります」

 そしてThompson氏は,ワークフローのどの部分が労働力の無駄になっているのかを早い段階で正確に特定することが重要だと付け加える。「あなたのプロセスの中で,極めて平凡で単調な部分について,立ち止まって考えてみましょう」

 「例えばQAでは,QAテスターはドアに500回,700通りの角度でぶつかり,ドアを通り抜けられないことを確認しなければなりません。それを自動化しましょう」と彼は言う。「しかし,『UVが正しいか,テクスチャがゲーム内で正しく表示されているか,すべてが視覚的に忠実かどうかを確かめるために,数日に一度,品質水準を判定する人が必要だ』という場合は,たしかに画像認識でも可能ですが,人間を使ったほうがはるかに速くできることが多いと思います」


どこまでやればいいのか,どのツールを使えばいいのかを知る


 AIツールの採用や自動化要素の導入に踏み切る際は,適切な目的と適切なツールを見つけること,そして時間とリソースを投資する前に下調べをすることが重要だ。

 「世の中にあるすべてのAIや自動化ツールが同じ用途で役立つわけではありません」とMigné氏は警告する。「BOTをドアにぶつけようとしているなら,そのツールを使って反復的な会議アジェンダを作成することはないでしょう。自動化したい分野を特定し,そこで何が利用できるかを調査し,適切な目的のために適切なツールを使いましょう」

 「あなたのために,あなたのゲームを作り上げてくれる『銀の弾丸』はありません。それはまだ存在しません。私たちが生きている間に,それが現れたら驚きです」

「やみくもに,あるいはただ流行に飛びつくのではなく,この分野全体が,何を自動化するのかについて意図的であるべきだと思います」
Aleena China氏

 ロンドン大学ゴールドスミス校講師のAleena Chia博士は,ゲーム開発者と,彼らのプロセスの自動化について研究している。彼女は,チームのメンバーによって自動化への視点は異なるかもしれないので,最終的には,どこまでやるべきか,そしてあなたが行き過ぎていないかを認識することが重要だと語る。彼女は,個々の木を生成することと,森の環境を作ることを例に挙げる。AIは大局的な思考や構想はできないので,コンテンツ生成のこれらの要素が,機械にアウトソーシングされないように注意しなければならない。

 「やみくもに,あるいはただ流行に飛びつくのではなく,管理職やスタジオ,そしてこの分野全体が,何を自動化するのかについて意図的であるべきだと思います」


ゲームは芸術の一形態であることを忘れないように


 結局のところ,スタジオは自動化やAIツールに傾倒する中で,自分たちの特徴的なスタイルやUSP(独自の強み)を見失ってはならない。

 何を自動化するかを決めるとき,機械がどれだけ効率よくタスクをこなせるかという観点だけで考えるのは罠だ,とChia氏は語る。そうではなく,スタジオは大局的なアプローチをとり,物語デザイナーからアーティスト,プログラマーに至るまで,各分野がどのように自動化を検討するかを考えなければならない。

 これからは,何が自動化されないほどクリエイティブで,何が「肉とじゃがいも(平凡)」なのかでターゲットが変わっていく,とChia氏は続ける。全体として,ゲームの評価方法や消費者が求めるものも,時代や自動化の全体像が進むにつれて,変わっていくだろう。とくに,ゲームが人間的なタッチを提供することを,ゲーマーが重視するならば。

 「今すぐにすべてのピースを配置できるとは思いませんが,さまざまな水準で,ゲームがどうなるかのアイデアを持てるのは確かです」とChia氏は言う。この業界では近い将来,自動化とAIの導入がさらに進むだろう。しかし,それがどこまで進むかはまだわからない。

 「GDCのラウンドテーブルで,あるアーティストが『実は,テクスチャリングはみなさんが想像しているほど単純ではありません。それには,ストーリーを語る側面もたくさんあります』と言いました」と彼女は付け加える。「だから,ドアにぶつかることや,ゲームのテストを自動化できるという合意は得られていますが,クリエイティブなプロセスの細部については,何を自動化すべきで,何を自動化すべきでないという合意が,まだ得られていないと思います」

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