【ACADEMY】ゲーム開発のスピードアップというIO Interactiveのミッション

「ヒットマン」の開発者が,自社の技術で運営することのメリットと,「より安く,より速く,より良い」ゲーム制作について語る

【ACADEMY】ゲーム開発のスピードアップというIO Interactiveのミッション

 Ulas Karademir氏が過去にIO Interactiveで働いていたとき,そこはスクウェア・エニックスの傘下で,「ヒットマン」を手掛けるデンマークのゲーム開発会社だった。

 彼は2014年に退社し,Unityで数々の上級職を務めたあと,Crytekの共同創業者であるCevat Yerli氏のもとで分散開発用エンジン「RealityOS」の開発に携わった。

 現在,彼は最高技術責任者としてIOに戻ったが,そこはまったく異なる会社になっていた。今では独立し,マルメ,バルセロナ,イスタンブール,ブライトン,コペンハーゲンにスタジオを構え,「ヒットマン」はもちろん,ファンタジーゲームやジェームズ・ボンドのゲームなど,多くのプロジェクトに取り組んでいる。

 しかし,会社と同様にKarademir氏も変化した。彼は最後にスタジオにいたときから10年間,多くのことを学んできた。そして今,チームがより効率的になるよう,開発者の技術を見直す仕事を担当している。

 「私が取り組んでいるのは,主に制作関連のことです」と彼は言う。「開発運用を中心に,インフラの一部を変更し,ソフトウェア開発能力を近代化しようとしています。これが現在の私の関心事です。また,制作をより安く,より速く,より良くするためのツールにも注目しています」

 「より安く,より速く,より良く」は,GamesIndustry.bizの新シリーズ「GI Sprint」のキャッチフレーズでもある。Karademir氏にとって,その多くは,素早く反復し,テストし,再びトライできることだ。

 「どの開発現場を見ても,私たちは過去20年間使ってきた非常に古典的なパイプラインを持っています」と彼は説明する。「私たちはデジタルコンテンツの作成ツールを持ち,エンジンにエクスポートし,合成編集を行って,プラットフォーム向けにビルドします。反復の速度は作業内容によって大きく異なるので,このパイプラインには時間がかかります。そのため私は,どうすればより速くコンテンツを完成させられるか,どうすれば制作中により速く反復し,フィードバックを得られるかを考えています」

 「ゲームで,あなたはただ楽しさを作り出そうとしています。そして,楽しさは測定不能です。ジョークを言うようなもので,人々が笑うかどうかは分かりません。最善の方法は,より速く反復し,テストし,実現することです。反復のスピードは本当に,本当に速くなければなりません」

「楽しさは測定不能です。ジョークを言うようなもので,人々が笑うかどうかは分かりません。最善の方法は,より速く反復し,テストし,実現することです」

 その大部分は,プロセスの一部をスピードアップし,自動化できるツールを作ることだ。

 「以前はドライバーを持っていて,今はドリルマシンを持っているようなものだと思ってください」と彼は説明する。「もしあなたが大工なら,自分の技術のために,信頼できて耐久性のある本当に良い道具を買います。しかし趣味であれば,そうはしないでしょう。ツールの観点から言えば,同じことを何度も繰り返すようになれば,より良いクオリティを得るためにツールに投資するようになります。必ずしも安くはありませんが,制作パイプラインに特化することで,より速くなります」

 「IOはこれを25年間続けてきました。ここには多くの学びがあります。制作を効率化するのは,過去と失敗からどれだけ学ぶかです」

 彼はこう付け加えた。「反復のスピードは,反復の質に勝ります」

 Karademir氏は,ゲーム開発のすべてを自動化するというアイデアは非現実的だと語る。なぜなら,ツールを使う人々と交流することなしに,何が必要で,何を改善すべきなのかを把握できるはずがないからだ。

 「自動化にはふたつの道があります。ひとつは,人間の代わりになるツールを作ること。もうひとつは,人間がより速く,より簡単に仕事をするためのツールを作ることです」

 「前者の道を進み,人間を自動化しようとすれば,テストが必要なシステムを構築することになります。しかし,人間との交流がないため,ツールを使う人々から学ぶことができず,困難が予想されます。あまり良い結果にはなりません。もしあなたが,ただ人間を取り除いて,すべてを自動化しようとしているのなら,世界が変わり,要求が変わり,新しいものが入ってきたら……,今度はあなたが知らない別の何かを自動化しなければなりません。そして,自動化のための自動化というサイクルに陥り,状況が変わればシステムを再構築する必要があります」

 「後者の道では,人々が使えるツールを作ります。あなたは,レベルデザイナー,環境アーティスト,アニメーターと常に交流し,何が足りないか,彼らのために何を作れるかを常に知れます。また,企業内のエンジンチームとして,製品マインドを持つ必要があります。同僚を,お金を払う顧客のように扱わなければなりません。いったんこのような関係ができれば,重要で,影響力のあるツールを作るのはとても簡単です」

IOは独自の技術とエンジンによって,「ヒットマン」を含む自社ゲームのニーズへと完全に集中できる
【ACADEMY】ゲーム開発のスピードアップというIO Interactiveのミッション

 IO Interactiveが持つアドバンテージはGlacierというエンジンであり,これはKarademir氏がIOでの最初の勤務中に開発に携わったものだ。会社は,個々のニーズに特化したエンジンとツールの構築に専念できる。

 「自社技術を使うことには,多くの利点があります」と彼は説明する。「素早い決断ができます。技術の方向性を変えられます。ユーザーから開発者へのフィードバックサイクルは非常にタイトです」

 「UnityとUnrealの最大の特徴は,常に成長しようとしていることです。そして成長のために,より多くのユーザー属性を増やしたいので,常に新しい機能を追加します。その結果,エンジンは機能面で汚染されることになります。画面上部のバーを開くと,多くの機能が表示され,多くの使用例があります。そして今,彼らは産業界のデジタル化にも対応し,それをサポートしなければなりません。つまり,突然このような大きなコードとなり,誰かはそのうち30%か40%しか使っていないかもしれませんが,あなたはそれが安定していてクラッシュしないことを確認する必要があります」

 「私たちにとって,それはゲームエンジンです。私たちはゲームを作っているだけです。だから,そこに焦点を絞り,制作にインパクトを与える素晴らしいツールを作れるのです。また,どれだけ時間を節約できるかという観点で,それを素早く評価することもできます。データを重視したテクノロジーへのアプローチと,それに重なるユーザーとの交流が,優れたツールを作る方法です」

 もちろん,独自の技術やツールを構築するには時間とお金がかかる。IO Interactiveはこれを何十年も続けてきたが,Karademir氏は,まだ歴史の浅いスタジオにこれを勧めるつもりはない。

 「最初からはお勧めしません」と彼は言う。「トレンドを追いかけ,ほかのゲームのようなメカニクスを持つゲームはたくさんあります。そして,彼らが独自の技術を作らなければいけない理由は見当たりません」

 「独自の技術を作るべきタイミングは,何かユニークなことをやろうとしているときです。これまでにない,革新的な,新しいゲームプレイがある場合です」

 「クラウドシステムをはじめ,IOは多くの素晴らしいことを成し遂げてきました。こういったことをサポートできるエンジンはありませんが,私たちはすでにそれを持っています。『ヒットマン』は非常に複雑なゲームです。従来のゲームでは,大きな銃を持っていると追いかけてきて,小さな銃を持っていると逃げてしまうNPCがいるかもしれません。『ヒットマン』はそういうゲームではありません。変装やレベル設定など,非常に複雑なAIを持ち,ゲームプレイのループに90分かかることもあります。ゲームの場合,ボタンを押せば何かが起こるのが普通ですが,『ヒットマン』の場合は,潜入し,コスチュームを変え,準備し,人々の話を聞き,AIとその行動を学ぶ……とかなり複雑です。こういった斬新で高度なゲームを作るには,特別なものが求められます」

 スタジオによっては,UnityやUnrealのような既存のテクノロジーを使い,その上に構築するのが理にかなっているかもしれない。しかし,そのアプローチには欠点がある。

 「よくあるのは,UnityやUnrealのエンジンを使ってプラグインを作り,その上に構築するというものです。エディターやエンジンに多くの変更を加えます。しかし,それはつまり,古いバージョンのエンジンで制作することを意味します。私たちに古いバージョンはありません。エンジンはひとつです。2.0のリリースはありませんし,ニーズに基づいて毎日エンジンを更新しているだけです」

「私は手直しを減らそうとしています。新しい仕事は活力になります。それは楽しいです。しかし,何かをやり直したり,バグを直したりするのは,つまらないです」

 より迅速な反復の必要性に関する話に戻ると,これは単に開発コストを下げるためではなく,ライブサービスゲームの増加に対応するためでもある。ライブゲームを作るのなら,ユーザー中心で,かつ反応的でなければならない。これは,エンジニアリングチームの考え方を根本から変えるものだ。

 「私たちは,よりプラットフォームエンジニアリング,開発運用を意識しなければなりません」と彼は説明する。「だから,AIツールのような新しいツールに順応して,反復作業を自動化する必要があります。私は,例えば,AIをテストに導入するような仕事をしたいです。常に変化しているので,ゲーム開発会社でテストをするのは煩わしいです。それは,SaaS企業には100%必要なことであり,ライブサービスに軸足を移している今,エンジニアリング側でもSaaSのマインドセットで仕事をする方法を学ばなければなりません」

 実際,Karademir氏は,開発から不必要な反復作業を取り除けるという点で,AIには明らかにチャンスがあると締めくくっている。

 「研究分析,コード分析,自動化テスト……AIで実現できることはたくさんあります」と彼は語る。「そして,その周辺には多くのスタートアップ企業があります。非常に興味深い分野です」

 「全体的に,私は手直しを減らそうとしています。新しい仕事は活力になります。新しいことをするのは楽しいです。しかし,何かをやり直したり,バグを直したりするのは,手直しであり,つまらないです。私たちが何かを誤解していたり,正しい管理がされていなかったり,能力が足りなかったりするために起こることです。しかし,一度学んでしまえば何が起こるか理解でき,それは自動化が可能です。AIはこの分野で大いに活用できるのです」

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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら