なぜ日本の開発者は大量解雇されないのか
MicrosoftがTango Gameworksを閉鎖した今,ほかの国々で見られる多くのレイオフやトレンドから,日本が守られてきた(無縁というわけではない)理由を見てみよう
6月14日,Tango Gameworksの従業員はピザパーティーを開いた。この日はスタジオの最終日。「Ghostwire: Tokyo」や,受賞作「Hi-Fi RUSH」などを手掛けたスタジオの閉鎖というMicrosoftの決断は,ゲーム業界の多くの人を驚かせた。
「Hi-Fi RUSH」は,より多くのプラットフォームにタイトルを提供するというMicrosoftの新たな取り組みの一環として,ほんの数週間前に初めてXbox以外のプラットフォームでリリースされたゲームだ。同社は数十年にわたって日本ゲーム市場への参入に苦労しており,XboxとGame Passの成長地域である日本において,同社が保有する唯一のスタジオがTango Gameworksだったので,この決断は直感に反するものに見えた。
実際,日本の業界だけに注目していれば,業界全体を覆っている危機を忘れたとしても仕方がないだろう。
フロム・ソフトウェアの社長である宮崎英高氏は最近,レイオフの予定はなく,チームを猛烈にサポートすると表明した。KONAMIは2010年代にパチンコの世界へと退避したあと,再びゲーム事業を成長させている。一方でカプコンは,同社が2022年以降に行った数多くの施策のひとつとして,2025年度の新入社員の基本給を28%引き上げた。これは直近のインフレ統計である2.5%をはるかに上回る。
これらすべては,記録的な利益の中で,雇用と開発を増やしながら起こったことだ。
そして,任天堂を忘れてはいけない。岩田 聡氏が社長を務めた3DS時代,人員削減を避けるために賃金を引き下げたが,それ以降に同社は目覚ましい成長を遂げ,より多くの従業員を雇用し,より魅力的な会社にするために基本給を引き上げてきた。同社は98.8%という素晴らしい従業員定着率を誇り,平均勤続年数は業界平均をはるかに上回る14.3年だ。
これは日本のゲーム業界全体のトレンドだ。私は日本の開発者と話すことがあるが,多くの人は国際的な業界の友人に対する懸念を示す一方で,日本国外の企業にはもはや存在しない水準の,自信と雇用の安定を認めている。
しかし,この国が争いからまったく無縁というわけではない。スクウェア・エニックスは先日の株主総会で,未発表のゲームをいくつかキャンセルし,今後のリリースでより幅広いプラットフォームをターゲットにするという戦略変更を認めた。それでも,少なくとも日本では,こうしたキャンセルに伴うレイオフは行われていない。全体として雇用は安定しており,投資も拡大している。国内の大企業(集英社)がインディー領域でパブリッシングに参入したり,NetEaseのような大企業が投資を行い,業界のベテランとして協力したり,さらにはサウジアラビアの投資ファンドがSNKの96%を買収するような国家規模の動きさえあり,ほかでは見られないようなバラ色の絵が描かれている。
違いは何だろうか。どうして日本は,ほかの国々のようなレイオフやトレンドとは無縁に見えるのだろうか?
文化の違いが従業員の定着に一役買っているとはいえ,日本の従業員が仕事を続けられるのは慈悲だけによるものとは思えない。従業員保護もまた,雇用の安定につながる大きな要因である。日本の労働法では,レイオフを実施することは非常に難しい。会社が深刻な財政難に陥っており,レイオフによって軽減できるような倒産のリスクがあり,ほかのコスト削減策が実施されたあとでない限り,正社員の解雇はほとんど不可能だ。
契約社員との契約を更新しない,あるいはキャンセルするなど,人員削減の方法がほかにないわけではない。可能ではあるが,雇用が不安定だと判断された場合,世間や未来の従業員に対する会社の評判が悪くなる可能性があるため,一般的には避けたいところだ。
日本の法律は,多くの職務が非正規雇用に分類されることも防いでいる。雇用は全体として,欧米やそのほかの国で見られるよりもはるかに安定し,安全である。
業界アナリストのSerkan Toto氏(日本のゲーム業界に特化したコンサルタント会社,Kantan GamesのCEO)は話す。「昼と夜くらい違いがあります。日本では法律が従業員を守り,アメリカでは法律が会社を守ります。ヨーロッパではその中間です。ヨーロッパは,アメリカほど解雇が簡単ではありませんが,日本のように正社員の仕事を簡単に維持できるというわけでもありません」
では,これほどレイオフが難しいのに,なぜMicrosoftはTango Gameworksをあのように閉鎖できたのだろうか。
「閉鎖という方法で従業員を解雇するのは,同じ人数を解雇して10人が残るのと異なります」とToto氏は説明する。「訴訟になり,裁判で説明しなければならないことは,企業にとって非常に難しいケースです。しかし,会社全体を完全に閉鎖し,スタッフ,オフィス,貸借,備品など,会社のすべてを精算するとなれば,話は別です」
混乱の渦中で,日本が強いもうひとつの要因は,日本が他国の企業が直面する問題の多くから隔離されていることだ。アメリカと中国を除けば,日本は世界最大のモバイルゲーム市場を持っており,「ウマ娘 プリティーダービー」,最近リリースされた「学園アイドルマスター」,「パズル&ドラゴンズ」,「ドラゴンクエストウォーク」などの大作の多くは,日本企業が国内で開発し,パブリッシングしている。そのほかの新作は,グローバルでの成功に頼ることなく,主に国内のプレイヤーをターゲットとし,利益を上げようとしている。
「モバイルゲームは日本で,コンシューマゲームの3倍の規模です」とToto氏は説明する。「日本国外の人はセガや任天堂を思い浮かべますが,日本ではモバイルゲーム会社が市場の70%を占めています。Cygamesは,今はコンシューマゲームも作っていますが,モバイルゲームの巨大企業です。ほかにもグリー,DeNA,アカツキのようなモバイルがメインの会社があります。これらの会社は1500人〜2500人の従業員を抱えていて,誰もそれについて話題にしませんが,彼らは誰も解雇しません」
「スマートフォンでのゲームプレイが台頭してきた10〜12年前のような爆発的な成長はもう見られませんが,ここ5〜6年,日本のモバイルゲームはかなり安定しています。業界全体の収益規模を見ると,PCゲームが大きくなっているものの,それほど大きな変化ではありません」
より安価な国に仕事を外注することも,日本の開発者にとっては非常に難しい。そのようなルートが確立されていないだけではなく,言葉の壁が外国人労働者とのコミュニケーションを難しくし,国内の労働力を保護している。これは,生産年齢人口の減少をめぐる企業間の競争によって,賃金の引き上げを助長する状況にもつながっている。
「日本は島国であり,その言語は国内でのみ話されています。500人の日本人をクビにして,500人のフィリピン人に外注することはできません」とToto氏はまとめる。「日本は高齢化し,同時に人口が減少しているので,人材不足です。バンダイナムコ,任天堂,カプコンのような企業は,富を分け合いたいから給料を高くしているのではなく,ほかに選択肢がないからそうしているのです! さもないと,カプコンで働くソフトウェアエンジニアが,トヨタのAI事業に転職してしまうかもしれません」
「日本国外の人はセガや任天堂を思い浮かべますが,日本ではモバイルゲーム会社が市場の70%を占めています」
それでも,賃金の上昇によって日本でのゲーム開発費が法外に高くなっているわけではなく,ゲームが失敗したり,企業がより大きなリスクを取ったりする余地も生まれている。アメリカなどと比べて物価が安く,平均賃金も低いことが,総予算の削減につながっている。オリックス銀行によると日本の平均年収は458万円(約2万8000ドル)で,IMAGICA GEEQによるとゲームプログラマーの平均年収は523万円(約3万2000ドル)だ。
Warner Bros.が2億ドル以上の大赤字を出した,Rocksteadyの「スーサイド・スクワッド キル・ザ・ジャスティス・リーグ」のようなタイトルと比較すると,賃金などの要因によって,日本では最大のタイトルでさえも,グローバルよりも「30〜40%,もしかしたらそれ以上」安く制作でき,リスクが低いとToto氏は見積もっている。
世界的に業界の士気が低いのには理由がある。ポストコロナ,ポスト成長のショックがレイオフを助長しており,これは会社の規模や名作ゲームをリリースする才能とは関係なく,無限の成長を追求するうえで,安全な仕事などないということを意味する。
記録的な利益を上げている企業でさえ,さらに利益を上げる必要があると判断し,容赦なく人員を削減する。これは,Tango Gameworksの件や,最近のMicrosoftのレイオフに見られる。Microsoftは2023年に885億ドルの営業利益を計上し,増益を達成したのにもかかわらず,Xboxブランドに関わる1900人を含む,全社的なレイオフを実施した。
「誰も,まだそこで働いている人たちのことを考えていません」とToto氏は嘆く。「もし私がUbisoftのアーティストなら,恐怖を感じるでしょう。Ubisoftは,まだハンマーを取り出していない最後の大企業のひとつです。数名を解雇しましたが,総従業員数が2万人を超えているので,これは大海の一滴でしょう。あなたが,レイオフ後に残った社員の1人だとしても,今のゲーム会社では安心できません」
これほど大規模なレイオフは直感に反する。多くの開発者が職を失うと,頭脳の流出によって長年の経験が永久にこの業界から失われ,企業は会社のワークフローやツールにおける世代的なノウハウへのアクセスを失い,新入社員はゼロから学ぶことを余儀なくされる。成長は鈍化しているかもしれないが,成長は続いており,この業界の規模は,映画,TV,音楽の合計よりも大きい。すべての人員削減を防ぐことはできないが,多くの解雇は回避できるのが残酷な現実だ。
つまり,年末の株主の配当を数ドル増やすためだけに,従業員が打撃を受けなければならないということだろう?
Toto氏が説明するように,日本の代替的なアプローチは,企業が業界の活性化に対応するために必要な人材を確保するという点で,長期的なメリットがある。
「もしゲーム業界に新たな好景気がやってくるなら,日本企業はより有利な立場になるでしょう。彼らは才能を保持し,信頼を築いています。欧米のゲーム会社はやりすぎてしまいました。1年後,2年後にゲーム業界が活性化したときに,こうした決断が跳ね返ってくるかもしれません」
「日本人と欧米人の間には,大きな哲学的な違いがあると思います。日本のゲーム会社は,アメリカの会社と比べて,本当に長期的な視点で物事を考えます。アメリカの会社の多くは,基本的にアメリカの資本主義に特徴づけられており,すべてが利益,利益,利益であり,そのラインが下降すると誰もがパニックを起こし始めます」
レイオフの終わりのない流行がようやく収まったとき,多くの開発者はこの業界から永遠に去っているだろう。経験を取り戻すには何年もかかり,その間に再び失業者が続出し,せっかくの成長が水の泡とならないという保証はない。すべてが崩壊する前に,業界はどれだけの緊張に耐えられるのだろうか。そして,たとえ状況が回復したとしても,考え方が変わらなければ,10年後に再び雇用が崩壊することは,可能性の話ではなく,避けられない運命なのかもしれない。
「ActivisionやElectronic ArtsのCEOの脳内から,アメリカの資本主義を取り除けますか? おそらく無理でしょう」と会話終わりにToto氏は考える。「アメリカのシステムと日本のシステムの間には常に戦いがあります。アメリカのシステムは収益性と短期的な思考を重視し,可能な限りすべてを効率化します。一方,日本では考え方が違います」
Microsoftの金で会社としてピザをシェアする最後の機会を得たあと,Tango Gameworksの最後のドアは閉まった。おそらく,何千マイルも離れたどこかのスプレッドシート上では,遠く離れたゲーム会社の,新作ゲームのリリースから数年後を想像することが,ほんの少しだけラインを上昇させるうえで,最も効率的な方法なのだろう。しかし,価値のあるものすべてがグラフに表れるわけではないし,短期的な利益のために四半期の成長率を調整しても,その決定が将来の別の四半期に影響を与えないとは限らない。
「アメリカのシステムと日本のシステムの間には常に戦いがあり,アメリカのシステムは非常に収益性を重視します」
しかし,誰がそんなことを気にするだろうか。ラインは上昇しなければならないし,無限の成長という概念は,達成不可能なものではなく,何としても達成しなければならない合理的な目標とみなされる。そして人々は苦しむ。
日本企業は,アメリカ企業と大きく違うわけではない。多くは株式公開されており,非上場企業であろうと上場企業であろうと,みんなお金が大好きだ。ある意味では,雇用保護が違っていたら,あるいは努力をほかに移すことが難しいという,言葉の壁の恩恵を従業員が受けていなかったら,状況は変わっていたかもしれないと考えずにはいられない。しかし,いずれにせよ,そのアプローチの違いは,1週間後に仕事がないことを心配する必要がないという事実だけでも,日本で仕事をしている人にとって,より良い状況へとつながっている。
おそらく今は,レイオフの終わりが見えない世界で,少なくともまだ職についている人がいるという事実を,慰みにするしかない。
6月14日,Tango Gameworksの従業員はピザパーティーを開いた。この日はスタジオの最終日。「Ghostwire: Tokyo」や,受賞作「Hi-Fi RUSH」などを手掛けたスタジオの閉鎖というMicrosoftの決断は,ゲーム業界の多くの人を驚かせた。
「Hi-Fi RUSH」は,より多くのプラットフォームにタイトルを提供するというMicrosoftの新たな取り組みの一環として,ほんの数週間前に初めてXbox以外のプラットフォームでリリースされたゲームだ。同社は数十年にわたって日本ゲーム市場への参入に苦労しており,XboxとGame Passの成長地域である日本において,同社が保有する唯一のスタジオがTango Gameworksだったので,この決断は直感に反するものに見えた。
日本の業界だけに注目していれば,業界全体を覆っている危機を忘れたとしても仕方がないだろう
昨年来,残念ながら業界全体でレイオフやスタジオ閉鎖は日常茶飯事であり,2024年のレイオフはすでに1万人を超え,2023年に解雇された開発者の数と匹敵している。しかし,この殺伐とした現実における一筋の光明は,皮肉なことに去ったTangoと同じ街にある。その閉鎖は紛れもなく悲劇だが,国境を超えて起こっている業界全体の荒廃から,一見隔離されているように見える日本では,例外的なことなのだ。実際,日本の業界だけに注目していれば,業界全体を覆っている危機を忘れたとしても仕方がないだろう。
フロム・ソフトウェアの社長である宮崎英高氏は最近,レイオフの予定はなく,チームを猛烈にサポートすると表明した。KONAMIは2010年代にパチンコの世界へと退避したあと,再びゲーム事業を成長させている。一方でカプコンは,同社が2022年以降に行った数多くの施策のひとつとして,2025年度の新入社員の基本給を28%引き上げた。これは直近のインフレ統計である2.5%をはるかに上回る。
これらすべては,記録的な利益の中で,雇用と開発を増やしながら起こったことだ。
そして,任天堂を忘れてはいけない。岩田 聡氏が社長を務めた3DS時代,人員削減を避けるために賃金を引き下げたが,それ以降に同社は目覚ましい成長を遂げ,より多くの従業員を雇用し,より魅力的な会社にするために基本給を引き上げてきた。同社は98.8%という素晴らしい従業員定着率を誇り,平均勤続年数は業界平均をはるかに上回る14.3年だ。
これは日本のゲーム業界全体のトレンドだ。私は日本の開発者と話すことがあるが,多くの人は国際的な業界の友人に対する懸念を示す一方で,日本国外の企業にはもはや存在しない水準の,自信と雇用の安定を認めている。
しかし,この国が争いからまったく無縁というわけではない。スクウェア・エニックスは先日の株主総会で,未発表のゲームをいくつかキャンセルし,今後のリリースでより幅広いプラットフォームをターゲットにするという戦略変更を認めた。それでも,少なくとも日本では,こうしたキャンセルに伴うレイオフは行われていない。全体として雇用は安定しており,投資も拡大している。国内の大企業(集英社)がインディー領域でパブリッシングに参入したり,NetEaseのような大企業が投資を行い,業界のベテランとして協力したり,さらにはサウジアラビアの投資ファンドがSNKの96%を買収するような国家規模の動きさえあり,ほかでは見られないようなバラ色の絵が描かれている。
違いは何だろうか。どうして日本は,ほかの国々のようなレイオフやトレンドとは無縁に見えるのだろうか?
文化の違いが従業員の定着に一役買っているとはいえ,日本の従業員が仕事を続けられるのは慈悲だけによるものとは思えない。従業員保護もまた,雇用の安定につながる大きな要因である。日本の労働法では,レイオフを実施することは非常に難しい。会社が深刻な財政難に陥っており,レイオフによって軽減できるような倒産のリスクがあり,ほかのコスト削減策が実施されたあとでない限り,正社員の解雇はほとんど不可能だ。
契約社員との契約を更新しない,あるいはキャンセルするなど,人員削減の方法がほかにないわけではない。可能ではあるが,雇用が不安定だと判断された場合,世間や未来の従業員に対する会社の評判が悪くなる可能性があるため,一般的には避けたいところだ。
日本の法律は,多くの職務が非正規雇用に分類されることも防いでいる。雇用は全体として,欧米やそのほかの国で見られるよりもはるかに安定し,安全である。
業界アナリストのSerkan Toto氏(日本のゲーム業界に特化したコンサルタント会社,Kantan GamesのCEO)は話す。「昼と夜くらい違いがあります。日本では法律が従業員を守り,アメリカでは法律が会社を守ります。ヨーロッパではその中間です。ヨーロッパは,アメリカほど解雇が簡単ではありませんが,日本のように正社員の仕事を簡単に維持できるというわけでもありません」
では,これほどレイオフが難しいのに,なぜMicrosoftはTango Gameworksをあのように閉鎖できたのだろうか。
「閉鎖という方法で従業員を解雇するのは,同じ人数を解雇して10人が残るのと異なります」とToto氏は説明する。「訴訟になり,裁判で説明しなければならないことは,企業にとって非常に難しいケースです。しかし,会社全体を完全に閉鎖し,スタッフ,オフィス,貸借,備品など,会社のすべてを精算するとなれば,話は別です」
混乱の渦中で,日本が強いもうひとつの要因は,日本が他国の企業が直面する問題の多くから隔離されていることだ。アメリカと中国を除けば,日本は世界最大のモバイルゲーム市場を持っており,「ウマ娘 プリティーダービー」,最近リリースされた「学園アイドルマスター」,「パズル&ドラゴンズ」,「ドラゴンクエストウォーク」などの大作の多くは,日本企業が国内で開発し,パブリッシングしている。そのほかの新作は,グローバルでの成功に頼ることなく,主に国内のプレイヤーをターゲットとし,利益を上げようとしている。
「モバイルゲームは日本で,コンシューマゲームの3倍の規模です」とToto氏は説明する。「日本国外の人はセガや任天堂を思い浮かべますが,日本ではモバイルゲーム会社が市場の70%を占めています。Cygamesは,今はコンシューマゲームも作っていますが,モバイルゲームの巨大企業です。ほかにもグリー,DeNA,アカツキのようなモバイルがメインの会社があります。これらの会社は1500人〜2500人の従業員を抱えていて,誰もそれについて話題にしませんが,彼らは誰も解雇しません」
「スマートフォンでのゲームプレイが台頭してきた10〜12年前のような爆発的な成長はもう見られませんが,ここ5〜6年,日本のモバイルゲームはかなり安定しています。業界全体の収益規模を見ると,PCゲームが大きくなっているものの,それほど大きな変化ではありません」
より安価な国に仕事を外注することも,日本の開発者にとっては非常に難しい。そのようなルートが確立されていないだけではなく,言葉の壁が外国人労働者とのコミュニケーションを難しくし,国内の労働力を保護している。これは,生産年齢人口の減少をめぐる企業間の競争によって,賃金の引き上げを助長する状況にもつながっている。
「日本は島国であり,その言語は国内でのみ話されています。500人の日本人をクビにして,500人のフィリピン人に外注することはできません」とToto氏はまとめる。「日本は高齢化し,同時に人口が減少しているので,人材不足です。バンダイナムコ,任天堂,カプコンのような企業は,富を分け合いたいから給料を高くしているのではなく,ほかに選択肢がないからそうしているのです! さもないと,カプコンで働くソフトウェアエンジニアが,トヨタのAI事業に転職してしまうかもしれません」
「日本国外の人はセガや任天堂を思い浮かべますが,日本ではモバイルゲーム会社が市場の70%を占めています」
Serkan Toto氏
それでも,賃金の上昇によって日本でのゲーム開発費が法外に高くなっているわけではなく,ゲームが失敗したり,企業がより大きなリスクを取ったりする余地も生まれている。アメリカなどと比べて物価が安く,平均賃金も低いことが,総予算の削減につながっている。オリックス銀行によると日本の平均年収は458万円(約2万8000ドル)で,IMAGICA GEEQによるとゲームプログラマーの平均年収は523万円(約3万2000ドル)だ。Warner Bros.が2億ドル以上の大赤字を出した,Rocksteadyの「スーサイド・スクワッド キル・ザ・ジャスティス・リーグ」のようなタイトルと比較すると,賃金などの要因によって,日本では最大のタイトルでさえも,グローバルよりも「30〜40%,もしかしたらそれ以上」安く制作でき,リスクが低いとToto氏は見積もっている。
世界的に業界の士気が低いのには理由がある。ポストコロナ,ポスト成長のショックがレイオフを助長しており,これは会社の規模や名作ゲームをリリースする才能とは関係なく,無限の成長を追求するうえで,安全な仕事などないということを意味する。
記録的な利益を上げている企業でさえ,さらに利益を上げる必要があると判断し,容赦なく人員を削減する。これは,Tango Gameworksの件や,最近のMicrosoftのレイオフに見られる。Microsoftは2023年に885億ドルの営業利益を計上し,増益を達成したのにもかかわらず,Xboxブランドに関わる1900人を含む,全社的なレイオフを実施した。
「誰も,まだそこで働いている人たちのことを考えていません」とToto氏は嘆く。「もし私がUbisoftのアーティストなら,恐怖を感じるでしょう。Ubisoftは,まだハンマーを取り出していない最後の大企業のひとつです。数名を解雇しましたが,総従業員数が2万人を超えているので,これは大海の一滴でしょう。あなたが,レイオフ後に残った社員の1人だとしても,今のゲーム会社では安心できません」
これほど大規模なレイオフは直感に反する。多くの開発者が職を失うと,頭脳の流出によって長年の経験が永久にこの業界から失われ,企業は会社のワークフローやツールにおける世代的なノウハウへのアクセスを失い,新入社員はゼロから学ぶことを余儀なくされる。成長は鈍化しているかもしれないが,成長は続いており,この業界の規模は,映画,TV,音楽の合計よりも大きい。すべての人員削減を防ぐことはできないが,多くの解雇は回避できるのが残酷な現実だ。
つまり,年末の株主の配当を数ドル増やすためだけに,従業員が打撃を受けなければならないということだろう?
Toto氏が説明するように,日本の代替的なアプローチは,企業が業界の活性化に対応するために必要な人材を確保するという点で,長期的なメリットがある。
「もしゲーム業界に新たな好景気がやってくるなら,日本企業はより有利な立場になるでしょう。彼らは才能を保持し,信頼を築いています。欧米のゲーム会社はやりすぎてしまいました。1年後,2年後にゲーム業界が活性化したときに,こうした決断が跳ね返ってくるかもしれません」
レイオフの終わりのない流行がようやく収まったとき,多くの開発者はこの業界から永遠に去っているだろう。経験を取り戻すには何年もかかり,その間に再び失業者が続出し,せっかくの成長が水の泡とならないという保証はない。すべてが崩壊する前に,業界はどれだけの緊張に耐えられるのだろうか。そして,たとえ状況が回復したとしても,考え方が変わらなければ,10年後に再び雇用が崩壊することは,可能性の話ではなく,避けられない運命なのかもしれない。
「ActivisionやElectronic ArtsのCEOの脳内から,アメリカの資本主義を取り除けますか? おそらく無理でしょう」と会話終わりにToto氏は考える。「アメリカのシステムと日本のシステムの間には常に戦いがあります。アメリカのシステムは収益性と短期的な思考を重視し,可能な限りすべてを効率化します。一方,日本では考え方が違います」
Microsoftの金で会社としてピザをシェアする最後の機会を得たあと,Tango Gameworksの最後のドアは閉まった。おそらく,何千マイルも離れたどこかのスプレッドシート上では,遠く離れたゲーム会社の,新作ゲームのリリースから数年後を想像することが,ほんの少しだけラインを上昇させるうえで,最も効率的な方法なのだろう。しかし,価値のあるものすべてがグラフに表れるわけではないし,短期的な利益のために四半期の成長率を調整しても,その決定が将来の別の四半期に影響を与えないとは限らない。
「アメリカのシステムと日本のシステムの間には常に戦いがあり,アメリカのシステムは非常に収益性を重視します」
Serkan Toto氏
しかし,誰がそんなことを気にするだろうか。ラインは上昇しなければならないし,無限の成長という概念は,達成不可能なものではなく,何としても達成しなければならない合理的な目標とみなされる。そして人々は苦しむ。日本企業は,アメリカ企業と大きく違うわけではない。多くは株式公開されており,非上場企業であろうと上場企業であろうと,みんなお金が大好きだ。ある意味では,雇用保護が違っていたら,あるいは努力をほかに移すことが難しいという,言葉の壁の恩恵を従業員が受けていなかったら,状況は変わっていたかもしれないと考えずにはいられない。しかし,いずれにせよ,そのアプローチの違いは,1週間後に仕事がないことを心配する必要がないという事実だけでも,日本で仕事をしている人にとって,より良い状況へとつながっている。
おそらく今は,レイオフの終わりが見えない世界で,少なくともまだ職についている人がいるという事実を,慰みにするしかない。
※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら)