【月間総括】PS4並みで満足することになったPS5と期待が高まり過ぎている任天堂

 今月は予告通り,ソニーグループの決算と事業説明会について述べたい。ソニーの通期決算を述べても2023年度第4四半期の凄さは分かりにくいと思うので,早速以下の四半期決算のグラフを見ていただきたい。


 第4四半期の営業利益が非常に高い伸びを達成しており,クリスマス商戦期を上回った(利益率も前年度の3.6%から9.6%に跳ね上がっている)。通常,第4四半期期(1〜3月)は閑散期であり第3四半期が上回ることはないが,前年同期比2.7倍という高い成長を達成した。この大きな要因はライブサービスゲーム「Helldivers 2」のヒットである。筆者も驚きだが,やはりライブサービスゲームは当たると大きい。

 四半期で500億円以上の利益貢献はあったと推測しているので,資本を投下したくなったのも頷ける。こんなに儲かると思うならジム・ライアン氏が傾倒してしまったのも無理はない話だ。

 その結果ソニーグループの業績は計画を上回って着地したわけだが,興味深いことに第4四半期のゲーム事業が突出した業績になったことは,ほとんど触れられていないのである。
 この背景にはPlayStation 5の販売不振がある。第4四半期のPS5はPS4の同時期よりも健闘したが,結局PS4を上回ることが出来なかった。
 下のグラフはいつも掲載している四半期推移だが,PS4に対して60万台まで迫っている。これだけ見ると確かにPS5はPS4並みに推移している。


 十時社長の「言うほど悪くない」という主張も正しいように見えるし,筆者の「PS4を下回るという予想も間違いになる可能性が高まっているのでは?」と思われるはずである。そこでもう2つグラフを用意したので,こちらも一緒にみてほしい。


 これを見ると一目瞭然なのだが,今期の事業計画として出しているPS5の1800万台(2月段階では微減との説明だったが15%近い減少を微減とはとても言えないだろう)という台数は,PS4の同時期を下回っている。累計で見るとより鮮明であり,5年目が終わる2025年3月末の予想累計台数は,PS4を下回っている。つまりソニーグループは,もうPS4を超えることはないと宣言しているのだ。十時氏がSIEの会長に就任してからいろいろ見て回ったと話していたので,SIEの現状を見てPS5での挽回は不可能と判断したのだろう。

 筆者はPS5発売前から巨大化したシステムに対して警告していたし,ストレージコストについても言及していた。だが,「悲しい気持ちにしかならない」と西野CEOに言われてしまった。2500万台の計画は大幅未達に終わり,シングルクライアントゲームはコロナ禍を超えられず,あろうことかPCで出たゲームに収益を支えられるから問題ないと言い出す姿を見て,同社を長く見てきた筆者のほうが悲しい気持ちになってしまった。

 PS5はPS4以上の成果を期待されていたし,ハイエンドのXbox Series X|SとPS5の合計台数は大きく前世代を上回ると考えられていた。しかし,Xbox Series X|Sは大失敗に終わったXbox Oneをさらに下回っていると見られ,ハイエンドのコンソール市場は,PS5から見るとXboxのシェアを奪って,現時点でなんとか前世代に近いところに来たというのが実態だと東洋証券では考えている。

 前回も書いたが,利益が出ているからPS4以下で良いというレベルまで戦略目標は後退してしまっているのだ。こうなるとゲーム事業のハードは一体なんのために行っているのか分からない,というのが事業説明会のプレゼンを聞いた正直な感想である。

 PS6で挽回を期すということになるのだろうが,それまではハードのプレゼンスが下がるのは避けられないだろう。その間にライブサービスで成功例が出ると,ますますハードは軽んじられるリスクがある。定義はしっかりしてほしいと思う。

 そうなると辛いのはサードパーティだ。2024年3月期の日本のサードパーティは大幅減益の会社が多く,超大型のタイトルを投入したスクウェア・エニックスHDとコーエーテクモHDは非常に残念な結果に終わった。共通しているのは,SIEから支援を受けながら3年目(年度ベース)で販売がピークになるPS5に独占タイトルを供給し,販売を伸ばすという計画があったことだ。

 しかし前述の通り,ストレージは古いライブサービスゲームに占有されているPS5ではPS4を上回ることが出来ず,シングルプレイのゲームは販売不振である。PS4タイトルが減少し,PS5が主流になっているが合算値は改善していないことからも明らかだ。

 現状の危機は明らかにSIEの経営戦略のミスであるが,サードパーティはそのミスに乗ってしまったので現在の業績悪化につながっている。
 プラットフォーマーとしての責務を果たせなくなったSIEにサードパーティが今後注力するのは難しくなるだろう。そうなるとマルチプラットフォーム戦略となるが,それはソフトのために嫌々ハードを買っているという故山内溥氏の言説の否定でしかない。自社のコンテンツがハードの販売に影響がないなら,もはやプラットフォーマーからの支援はあてに出来ない。サードパーティの経営者の判断と資質がより試されることになろう。

 最後に,気になることがあるので触れておきたい。それは任天堂に対する期待が大いに高まっていて,任天堂自身がコントロールできない状態になっていると感じる点である。

 期待に関しては,6月18日にNintendo Directが行われた。その際の現象を挙げると

(1)宮本 茂氏がX(旧Twitter)でスーパーマリオブラザーズ映画の次回作について日本の公開日を追加発表しただけで株価は3%以上上昇した。
(2)Nintendo Directの同時接続が200万に達したとされる(日本の同接としては過去最高)
(3)SNSでの高評価が多いこと


である。

 以前も触れたように,故岩田氏は褒められる状況は良くないと語っていたと聞いている。実際の事象としても,発売前は褒めちぎられたPS5は上記でも触れたように販売不振だ。
 Switchの後継機も褒めちぎられた状況になると大変危ういと感じているのだが,今のこの状況は岩田氏が任天堂に関心を持ってもらえるように行った施策の成果ともいえるだろう。だがその目的をもう達成したのであれば,後のことを考えなければならない。

 現状の広報/マーケティングはひたすら関心を高める方向でしか施策を打ってない。
 まだ足りないと言うのかもしれないが,任天堂に対する期待の声はすでに大きくなっており,日経新聞がSwitchの次世代機が2025年3月にも発売へと記事がXにポストされると,コミュニティーノートが付くほどになっているのである。

 それならば,任天堂の広報は期待値が高い人たち向けの施策を始めるべきだ。ユーザーに不確かな情報を信じないようにというのであれば,広報自ら俊敏かつ正確な情報提供を行わないと勝手な期待がますます高まってしまうだろう。広報/マーケティングの責任と適切さが一層求められている局面に入ったと思うのである。