【ACADEMY】ゲームをより速く,より安く作るためのShawn Layden氏のアドバイス

GI Sprintの一環として,PlayStation(SIE) Worldwide Studiosの元責任者が,ゲームのコストを下げる方法について語った

【ACADEMY】ゲームをより速く,より安く作るためのShawn Layden氏のアドバイス

 Shawn Layden氏がゲーム開発費の高騰に警鐘を鳴らし始めたのは2020年のことだった。

 Gamelab Liveの中で,Layden氏は,現在のAAAゲーム開発費の高騰は持続不可能になりつつあり,PS5とXbox Series Xの世代(同年後半に予定)に移行したとき,業界は成長に苦労するかもしれないと述べた。

 あれから4年が経った今,動画,ポッドキャスト,記事で構成される新シリーズ「GI Sprint」の一環として,ゲーム開発費の削減をテーマにLayden氏を取材した。

 「悲しいことに,私が正しかったと思っても,私の心は明るくないです」とLayden氏は語った。「それは大それた予測ではありませんでした。25年以上にわたってゲームのトレンドラインを見ていましたが,数字は一方向にしか進みません。ゲームは安くならず,短くならず,より複雑になり,より高くなります」

 「ホームランを狙った大作は,1億5000万ドルから2億5000万ドル規模であり,ゲーム開発のビジネスモデルや,それを担当するパブリッシャにとって大きな負担となります。そして,それが市場の縮小につながっているのです」



ゲームを短くする


 開発者が自問すべきことのひとつは,「大きいことは本当にいいことなのか」ということだ。

 「私たちは,ゲーマーの32%しか実際にゲームを終えていない世界に生きています。つまり,私たちは68%の人が見ていないたくさんのゲームを作っているのです」とLayden氏は説明する。「では,ほとんどの人が最後まで見る可能性のないゲームを,作り続けるべきなのでしょうか」

 「最後まで作るにはコストがかかります。あなたは,それを引き締められます。より短いスケジュールでゲームを制作すれば,コストを削減できます。次の作品まで4〜5年待てと常に言うよりも,より早く市場に投入し,より早く顧客を喜ばせられます。私たちは,私たち自身と,私たちのゲームをどのようにファンに見せるかを,見直さなければいけません」

「私たちは,ゲーマーの32%しか実際にゲームを終えていない世界に生きています。つまり,私たちは68%の人が見ていないたくさんのゲームを作っているのです」

 Layden氏は,長さは必ずしもかつてのような絶対的なものではないと考えている。

 「ゲームの黎明期には,それはとても大きな問題でした。PlayStationの1,2,3世代では,長さはトップレビューのようなものだったのです。私たちは,お金を払ってどれだけゲームをプレイできるかでゲームを判断し続けました。平均的なゲーマーが10代後半から20代前半だった時代には,それが妥当な指標だったのかもしれません。彼らは時間があり,お金がないので,巨大なRPGをクリアするために,あれほど長い時間座っていなければならないのは合理的です。ゲーマーの平均年齢が30代前半に近づいている今,彼らはお金に余裕があり,時間に余裕がないのだと思います。『レッド・デッド・リデンプション2』に腰を据えて取り組むには,自由な時間を確保しなければなりません」

 「顧客が何を求めているのかを理解する必要があります。彼らはインパクトがあり,楽しみの大きいゲームを求めていて,青い石を見つけて赤いトロールのところに持っていくとドアを開けてもらえるような,ゲームの大部分を占めるクエストは必要ないのかもしれません。それは,時間を燃やすようなもので,『グラインド(単調な仕事)』と呼ばれるだけの理由があります」


フォトリアルを追い求めるのはやめよう


 レイトレーシングのような分野には多額の投資が行われているが,プレイヤーの大多数が気づいていないようなビジュアルの改善に,時間と労力とお金を使いすぎてはいないだろうか。

 「私たちは,ゲームのビジュアル品質,グラフィックス品質,解像度,多くのゲームが追い求めているようなフォトリアル風の表現について,多くのものを作り上げてきました」とLayden氏は言う。「私たちのファンはそれを崇高な旅だと思い,PlayStationのグラフィックスにおける800ポリゴンのララ・クロフトと,目を細めれば人間のように見えるララ・クロフトの違いを目の当たりにしました。そして今,高度に写実的なモデルにたどり着きました。しかし,それはゲームプレイを改善しましたか? ストーリーを改善しましたか?」

 「『不気味の谷』を越えることはできないと思います。それは常に5歩先にあります。なので,それを追い求めるのではなく,エキサイティングなゲームデザインに戻りましょう。私はいいアニメが好きです。高度に写実的なアニメキャラクターを愛しています。それらは,異なる種類のストーリーを語れるので,エキサイティングです」

「犬にしか聞こえない音のような,グラフィックスの違いの領域にいるのです」

 Layden氏によれば,画面上に表れている改善点は,ほとんどのプレイヤーには気づかれないところまで来ているという。

 「コンソール戦争は,ミサイル競争から始まりました。それぞれが技術の最先端を押し進めようとしたのです。人々はテラフロップス(コンピュータの処理速度をあらわす単位)の意味をよく理解しないまま,いつもそれについて話していました。そこには,人々が持ち寄った,さまざまな種類の指標があったのです」と彼は語る。

 「しかし,現代では高度なレイトレーシングが可能になり,ほとんどのプラットフォームで60fps,いくつかは120fpsを実現できるようになりました。私たちは今,宇宙の果てにいるのだと思います。犬にしか聞こえない音のような違いの領域にいるのです。そして,そこに重点を置くべきではなくなったのかもしれません。だから,誰かが時間とお金を使いたくなるような,愉快で,面白くて,インタラクティブ(双方向的)で,お金に見合った価値を得られるように彼らを楽しませ,生活費かそれ以上の賃金を,制作者たちに払い続けることができるようなものに戻りましょう」

 しかし,ゲーマーはグラフィックスを重視しない短いゲームで,本当に満足するのだろうか。

 「まぁ,言ってはいけない部分は言えませんが(笑)。繰り返しになりますが,ゲームを単に,ある種の視覚的な鋭さを備えた時間ベースの活動の集合体としてみるのはやめましょう。これがルールで,これがキャラクターで……といった楽しい活動を作りましょう。そして,フレームレートが常に60を維持しているかどうかだけで,ゲームを分析するのをやめましょう。映画にそのような方法を使わないでしょう」


マシンにもっと仕事をさせよう


「No Man’s Sky」は小さなチームが作り上げた大きなゲームであり,それは技術によって達成された
【ACADEMY】ゲームをより速く,より安く作るためのShawn Layden氏のアドバイス

 AIについて,Layden氏は開発プロセスを自動化できるツールを,プログラマーが作り始める必要があると考えている。

 「ゲームの作り方は,40年前から基本的に変わっていません」と彼は言う。「ゲームがより複雑になったり,より大変な仕事が増えたり,より多くのアート素材が必要になったりすると……通常,私たちはそこに人を投入します。あるいは,マレーシアや東欧で何人かを雇い,その人たちを投入します。労働は常に,仕事量とゲーム領域の拡大に対する既定の対応でした。インタラクティブエンタテインメント業界で働く人々は,確かにコーディングやプログラミングの面では,コンピュータサイエンスの分野で最も賢い頭脳の持ち主です。そして私たちは,マシンにもっと仕事をさせる必要があります」

 「私たちは,テクノロジーの大変な仕事からもっと解放されるために,ツールセットと,それを支援するエンジンを構築する必要があります。私は,Hello Gamesの『No Man's Sky』で起きたことを見ています。究極的に無限の広がりを持ったゲームが,基本的に10人未満で作られています。彼らは,繰り返しの制作を可能にするパイプラインやツールセットの構築に多くの時間を費やし,プロシージャルな作業のほとんどをマシンに任せました。私たちは,このようなことをもっとゲームに取り入れる必要があります」

「私たちは,マシンにもっと仕事をさせる必要があります」

 AIツールの一部はその助けになるだろうが,Layden氏はAIが我々のためにゲームを作ってくれるとは考えていない。

 「AIはアシスト技術になります」と彼は言う。「もちろん,2030年までに50%のゲームがAIによって書かれるようになると,どこかの大規模なビジネスコンサルティンググループが主張していますが……そんなことは起こりません。AIは後方という一方向しか見ていません。それは前方を見ているように見せかけていますが,実際にはそうではなく,後方の焼き直しを見せているだけです。AIは熱心なインターン生のようなもので,『9ページ書いてくれ』と言えば『分かりました』と書いてくれます。しかし,事実確認は必要です。AIは幻覚を見て,レールから外れます」

 「それは,たくさんの知識をスペースに取り込み,4つの段落に要約するための素晴らしいツールです。それは本当に優れていて,もっと原案の仕事をすると思います。世に出回っている動画AIキットの中には,シーンをかなり素早く試作して,面白そうかどうかのアイデアを得られるものもあります。そのため,アイデア出しの段階では,スピードアップに役立ちます。しかし,すぐにゲームを書くようになるとは思えません」


自制心を持ち,愛するものを殺す


 最後にLayden氏は,締切に厳しくすべきで,スポーツゲームの作り方から学ぶことがあると語った。

 「私たちがスタジオで目にすることのひとつは,彼らが考えやアイデアや願望を持ち続けることであり,あなたは自分がしていることは何なのかを常に問い続けなければなりません」と彼は言う。「コンセプトの実証をスピードアップし,技術の実証をスピードアップしましょう。そうすれば,『それはダメだ』と厳しい判断を下せます。長期間にわたって,うまく機能させようと努力し続ける人たち……彼らは,あと少しやればそこに到達できると考えていますが,あなたのゲームの残りの部分は,そのメカニズムが確立されるのを待っているだけで,ペースが遅くなってしまうことがあります。何を作りたいのか,どうやって作るのか,自制心のある考えを持たなければなりません。締め切りを厳守することです。α版でもβ版でも,目標がずさんであってはなりません」

「何を作りたいのか,どうやって作るのか,自制心のある考えを持たなければなりません。締め切りを厳守することです。α版でもβ版でも,目標がずさんであってはなりません」

 「正しくやっているチームを見てください。毎年スポーツゲームを作っているチームには,目を見張るものがあります。彼らは毎年9か月で新作を作ります。私の古巣であるSan Diego Studioの「MLB The Show」制作チームの話をすると……メジャーリーグは開幕日が変わりません。毎年4月1日です。あなたはこう言うでしょう。『まぁ,彼らは自分たちが何をしているか分かっています。同じ32チーム,同じスタジアム,同じ選手で,それを移動させればいいだけです』ってね。ええ,彼らは毎年の変数を特定し,追加できるものをリストアップしています。選手を移動させたり,スタジアムを更新したり,新しいフェイススキャンを入手したり,いくつかの新しいものを追加したりというメンテナンスをすべてやってくれます。しかし,そこには『これで,機能ロック。完成』となる日があります」

 「人々がインスパイアされ,新しいアイデアを思いつき,宇宙の問題を解決したかのような瞬間が訪れるような,時間を持てるようにしたいでしょう。しかし,生産管理には強い手が欠かせません。『その機能は素晴らしいですが,入れるタイミングを逃しました。それを入れたら,ほかのすべてのことが壊れてしまいます。なので,私たちが戻ってくるときを,待っていてください』」

 結局のところ,3年以内にゲーム作りに戻れるなら,アイデアや機能を取りやめるという考えも受け入れやすくなる。

 「5〜6年かかるのではなく,2〜3年でゲームを回せるなら,アイデアを脇に置くのは簡単です。なぜなら,『2年後にまたやろう』と思えるからです。現在の体制では,今このアイデアを取り込まなければ,取り込むチャンスはないかもしれません」

GamesIndustry.biz ACADEMY関連翻訳記事一覧

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら