【ACADEMY】レトロに作り直す:ゲームのデメイクがパブリッシャにもたらすもの
ファンによるデメイク(レトロにリメイクすること)は,itch.ioのようなプラットフォームで人気のジャンルだ。彼らは愛されるIPのエッセンスを抽出し,古いプラットフォームの制限と融合させ,まったく新しいものを作り上げる。
IPと古いゲーム機の両方に造形が深い人でなければできないことを考えると,これらのデメイクはファンやオリジナルタイトルの公式開発者からのラブレターといえる。
だが,ラブレターの中には受け取る側が望まないものもある。2024年1月下旬,「Bloodborne」のPSXデメイクを手掛けた開発者のLilith Walther氏は,IPホルダーであるソニーからの“連絡”を受けたことに対応して,「Bloodborne」の名称を使わないことを発表した。これは,たとえデメイクがオマージュであったとしても,タイトルの権利はオリジナルの所有者にあることを思い出させるものだった。
その一方で,ほかのIPホルダー(デベロッパとパブリッシャの両方)は,より寛大な見解を示している。中には自社ゲームのデメイクを依頼するケースさえあり,ファンコミュニティに何かを提供することで,パブリッシャに利益をもたらせると思われている。
「Furi」の開発チームであるGame Bakersは最近,ファン開発者のSylph氏に2016年のデュアルスティックアクションゲームのデメイクを依頼した。Steamでは無料だが,チームはほかのプラットフォームに有料バージョンを展開しており,デメイク版の販売によって消費者から直接収益を得られることを認識している。
しかし,同社のクリエイティブディレクターであるEmeric Thoa氏は,オリジナルIPの延命などの,デメイク版を制作する直接的なメリットはあまりないと説明する。
「最大の理由は『Furi』ファンのためにクールなものを作りたかったことです。正直なところ,私は無料コンテンツが好きではないのですが,これはファンへの贈り物であり,人々に『Furi』について,そしてオリジナル版のゲームが好きな理由について再び語ってもらうためのものでした。小さなサイドプロジェクトが,メインの巨大プロジェクトの息抜きになるのと似ています」
ブランドマーケティング
ある意味でデメイクは,パブリッシャがIPの知名度を高めるために再投資する,ブランドマーケティングの一形態として機能する。それは,E3 2019におけるDevolver Digitalのプレゼンテーションで発表された,公式ライセンスのもとで人気タイトルのデメイク版がセットになった「Devolver Bootleg」の場合も同様だった。
Cullen Dwyer氏はDoinksoftの共同設立者であり,Devolverとともにこのセットを手掛けた開発者だ。彼はこう語る。「これは,ほとんどマーケティング的な視点で人目を引くために企画され,Big Fancy Press Conferenceで少しだけ発表がありました。私たちは,このパックの制作に必要な費用をDevolverに伝え,販売で利益が出るかどうかは気にしませんでした」
「このような形で商業的なゲームに取り組むのは,かなり自由な気分でした。できるだけ楽しみながら制作すること,ジョークを思いつくこと,素晴らしいIPに関わっていることを意識しました。(Devolverは)それが大金を生むかどうかや,IPを強化するかどうかを,あまり気にしていないようでした。彼らはただ,それが本当に面白いアイデアで,ファンが気に入るだろうと思っただけなのでしょう」
Devolverのような知名度と独自性を持ったパブリッシャは数少ない。しかし,ファンへの“贈り物”としてのデメイクは,それを依頼することを選んだパブリッシャにとって,コミュニティの発展における重要な役割を果たせるのだ。
実際,公式デメイクの目新しさが明確なセールスポイントとして使われることもある。「Farming Simulator 2019」が最初にリリースされたとき,パブリッシャのGiants Softwareはスペシャルエディションの一部として,コモドール64形式のデメイク版を同梱した。この場合の限定版は,親IPの全体的なマーケティングと収益創出戦略の一部となった(エイプリルフールのジョークから始まり,ゲームを収録した本物のカートリッジが500個用意された)。
コミュニティとエンゲージメント
収益やマーケティングだけでなく,デメイクはデベロッパやパブリッシャにほかの“ソフト”な利益をもたらす。Thoa氏によると,「Furi」のデメイク版を制作することで,チームはオリジナル版の核となる魅力を特定し,それをどこまで合理化できるのかを確認できたという。
「デザイナーとして,私は何かを単純化して,その良さの核心を保つという作業を好んでいて,デメイクはいい練習になります。プレイヤーが愛しているものは,フルパッケージの機能ではなく,ほとんどがいくつかの一貫した優れたアイデアであると示すのは素晴らしいことです」
ある意味,デメイクを依頼するパブリッシャの考えは,ファンが制作の道を選ぶ理由と一致している。Deafonics Studio(ハンドルネーム:Ruby)は,2005年に発売されたポイント&クリックゲーム「アナザーコード 2つの記憶」の初代ゲームボーイ風デメイクで知られる趣味の開発者だ。
「オリジナル版が好きじゃないからデメイクをしているわけではないんです。私たちがオマージュを捧げ,愛情を示すことで,人々がオリジナル版をプレイすることをうながし,企業あるいは(元)社員に何十年経っても,彼らが評価されていると示せるのです」
Dwyer氏も,デメイクはIPだけでなく,それ以前の開発者やパブリッシャへのオマージュだと強調する。
「デメイクは,元となったゲームだけでなく,オリジナル版の誕生に至るまでのゲーム業界の歴史をも祝福する素晴らしい方法です。今の私たちのゲーム制作理論が,ほかの人々が築いてきた土台の上に成り立っていることを認識して,身の引き締まる思いがします」
「ロックオンターゲティングから3Dレンダリング,ジャンプのような地味なアクションに至るまで,私たちはバーチャル空間でのプレイを表現する言語を文化的に作り上げてきました」
デメイクは,オリジナル版の誕生に至るまでのゲーム業界の歴史をも祝福します。今の私たちのゲーム制作理論が,ほかの人々が築いてきた土台の上に成り立っていることを認識して,身の引き締まる思いがします
また,公式ライセンスを受けたデメイク版は,過ぎ去ったゲーム時代に対するファンのノスタルジーに訴えかけるものでもある。カプコンが「ロックマン9」や「ロックマン10」で初代「ロックマン」シリーズを懐かしみ,ファミコンの名作やスーファミ風に作られた「ブラッドステインド」のファンをも楽しませたように,公式デメイクはノスタルジーに浸りたいゲーマーにオリジナル版の魅力を伝える。場合によっては,開発者たちが独自のアイデアで,オマージュを捧げたゲームのジャンルに貢献することもある。任天堂のプラットフォームファイターシリーズ(スマブラ)をゲームボーイ風にデメイクした「Super Smash Land」の開発者であるDan Fornace氏は,のちに同じプラットフォームファイタージャンルの「Rivals of Aether」を制作する。結果として,デメイクやファンによる類似ゲームは,ジャンル全体の人気を高め,オリジナルIPの将来の作品の成功につながるのだ。
公式デメイクは,オリジナルIPの保有者に直接的・間接的な利益をもたらす。商品として直接販売されるにせよ,コレクターズエディションの一部として同梱されるにせよ,開発費を回収できるかもしれない。マーケティング活動としては,パブリッシャ全体の知名度を上げられる。
また,費用対効果はあまり明確ではないが,IPの延長として,シリーズに対するゲーマーの関心を高めたり,ジャンル全体に新たなプレイヤー層を取り込んだりすることもある。きっかけが何であれ,デメイクはファンや開発者が愛するゲームやシリーズを称えるものだ。
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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら)