【ACADEMY】週4日労働の法的展望を探る

WigginのEllie Sergeant氏とSeth Roe氏は,ますます人気の高まっているこのスケジュールへとビジネスを移行する前に,雇用主が考慮しなければならない点について論じている

【ACADEMY】週4日労働の法的展望を探る

 1920年代,ヘンリー・フォードは週6日労働という常識を覆し,労働者の給与を下げることなく,現在のスタンダードである「9時から5時まで」の週5日労働を確立した。フォードが労働日数の流行を作ってから約100年が経ち,リモートワークや効率的なテクノロジーが普及した今,「なぜ我々も先駆者になれないのか」と考える雇用主もいるかもしれない。

 週4日労働の登場だ。パンデミック以降,週4日労働の推進運動は勢いを増している。週4日労働の導入が,労働者の定着率,人材獲得,生産性,士気を向上させるという研究結果もあり,競争の激しいゲーム業界では,これらすべてが重要なセールスポイントであることは明らかだ。

 しかし,ゲーム業界のデベロッパやパブリッシャが我先にと週4日労働を始める前に,いったん立ち止まって,週4日労働に移行することの法的影響について考えることには価値があるだろう。

 この記事では,雇用主が標準労働日数の変更を実施する前に考慮すべき法的事項について,給与と労働時間,雇用契約と取り決め,休暇取得への影響,ベストな方法などを含めて(これらだけではない)紹介しよう。


1. 給与と労働時間


 何よりもまず,雇用主は週4日労働の導入が非常勤にどのような影響を与えるのかを考慮する必要がある。多くの地域(英国を含む)で,非常勤は常勤の比較対象者よりも不利な待遇とならないように守られている。

Ellie Sergeant氏(Wiggin)
【ACADEMY】週4日労働の法的展望を探る
 これと週4日労働がどう関係するのか? 非常勤が常勤よりも不利な待遇とならないようにするため,雇用主が週4日労働に切り替えた場合,週4日労働の非常勤は常勤ということになり,常勤と同等の給与を受け取ることになるのだ。

 同様に,週4日未満しか働かない非常勤は,常勤に相当する新たな週4日労働に基づいて給与を日割り計算する必要がある。これは理論的には簡単なことのように聞こえるが,雇用主が日割り計算や給与の修正を適切に行わなかった場合,非常勤と常勤の待遇差によって職場に緊張が生じる恐れがあり,平等法の観点から法的請求を受けるリスクもある。

 加えて,多くのゲーム会社は雇用代行サービスを通じた取り決めやフリーランス/契約社員をベースに労働者を雇用している。こうした雇用形態は,週4日労働への移行をさらに複雑にする可能性があり,企業は慎重に事前検討しなければならない。また,従業員や契約社員が実際に働く日についても考える必要がある。現実的に言えば,変化が一夜にして起こるものではないことを誰もが知っており,週4日労働の初期導入者は,顧客や取引先がまだ週5日働いている世界で事業を行うことになる。したがって企業は週4日労働への変更を,自社と利害関係者のために機能させる方法を見つけ出す必要がある。

 すべての従業員と契約社員が毎週同じ日に休みを取るのか? 一部の従業員は休日にも待機することになるのか? また,ローンチ前の締切に向けた最後のクランチ(修羅場)や,残業規定があるデベロッパやパブリッシャにとって,実際に週4日労働はどのように機能するのか?


2. 雇用契約と取り決め


 ある賢者は,単独行動は危険だと言った。だから,週4日労働の旅に出る前に,従業員を説得することが重要なのだ。

 勤務日の変更は雇用条件の大幅な変更に相当し,雇用契約を変更するためには,雇用主と被雇用者の協議と合意が求められる。勤務日の変更によっていくつかの条項が影響を受ける可能性があるので,このような変更を実施する際には注意が必要だ。例えば,特に昨今のような経済的に厳しい時期には,従業員が非就業日にフリーランスになる誘惑に駆られるかもしれないので,雇用契約に他人のために働くことに関する確固とした制限が含まれていることを,雇用主は確認する必要がある。

 包括的で公正なプロセスに従わない場合,契約条件の不一致や目的に合わない雇用契約,最悪の場合は法定紛争の可能性もある。

 スタッフの人数にもよるが,これはかなり大きな作業となる。スタッフの数が増えれば,後々の修正が難しくなるような問題が発生するリスクも高まる。したがって,このような変更にはきちんとした計画を立て,取り掛かる前に戦略を練ることが極めて重要だ。雇用主はまた,自社のポリシーやスタッフハンドブックをもう1度見直し,週4日労働への移行によって影響を受けるものがないか確認しなければならない。


3. 休暇取得への影響


 休暇の取得に関する法律は決して単純ではないため,労働日数の変更に伴う影響をかなり慎重に検討しなければならない。このような変更を正しく実施しなかった場合,賃金の不法控除や退職強要などの法的請求に発展する可能性があるため,英国企業にとっては特に重要だ。

 理論的には,雇用主が週4日労働に変更しても,標準的な週37.5時間から40時間労働を維持する場合,従業員の休む権利は変わらない。しかし,従業員の労働時間が35時間を下回る場合,現行法において雇用主は休暇を減らす可能性がある。

 例えば雇用主が法定最低休暇(年間28日)を提供している場合,これを年間22.5日(バンクホリデーを含む)に減らす余地があるかもしれない。ほとんどのゲーム会社が法定最低日数以上の休暇を提供しているので,全体的なパッケージを作成する際には考慮すべきポイントがありそうだ。

 雇用主はバンクホリデーをどうするかも決めなければならない。例えば,バンクホリデーが勤務日と重なった場合,雇用主は従業員にこの日を休ませて週3日労働とするか,別の日に休ませるかを選択できる。祝祭日の大半が月曜日なので,(セクション1で述べたように)必要な労働日数との関連で慎重に検討する必要がある。


4. 構造


 週4日労働を導入する際にどのようなモデルを採用すべきかは,当初から取り組む価値のある重要な問題だ。朝9時から夕方5時までを週4日,減給で働く従業員や,1日10時間を週4日,同一賃金で働く従業員(圧縮労働型)など,さまざまな選択肢がある。

Seth Roe氏(Wiggin)
【ACADEMY】週4日労働の法的展望を探る
 あるいは,雇用主は標準的な週4日労働モデルを選択することもでき,その場合,従業員は1日の労働時間を変えずに同じ賃金を受け取ることになるが,仕事量は変わらないため,より効率的に働かなければならなくなる。この選択肢は,多くの場合週4日労働への移行を意味することが多いが,(おそらく当然のことながら)いくつかの企業では眉をひそめる結果となった。

 雇用主がどのようなアプローチを選ぶにせよ,これには「買う前に試せ」という古い格言が当てはまる。すべての企業で機能するわけではないので,長期的な週4日労働へと実際に取り組む前に,まず純粋なトライアル(お試し)として何らかの変更を実施することは,ほとんどの雇用主(すべてではない)にとって価値がある。

 トライアルは慎重に実施し,従業員と効果的かつ明確にコミュニケーションをとる必要がある。週4日労働が実行可能とみなされる条件として「SMARTの法則」に基づいた目標を設定することで,週4日労働が自社にはふさわしくないと雇用主が判断した場合に,従業員の希望を打ち砕くことを避けられる。


重要なポイント


 週4日労働を導入する前に,企業が留意すべき重要な法的事項がいくつかある。

  • 労働者の構成や契約における条件の違いが,移行によってどのような影響を受けるかを理解する
  • 週4日労働をどのように運用し,どのように変更を実施するかについて,地域ごとの法的規制や考慮事項を念頭に置きながら明確な計画を立てる
  • 変更によってどのような負債が発生する可能性があるか,またその負債をどのように軽減するのが最善かを検討する
  • 雇用契約,請負契約,雇用代行サービスとの契約を見直し,どの条項を修正する必要があるかを特定する
  • 従業員の休暇取得状況を確認し,(バンクホリデーの影響を考慮した)日割り計算を行う
  • トライアルの実施方法と,スタッフへの周知方法を検討する


最後に


 2024年に週4日労働が当たり前になるとは限らないが,ゲーム業界(およびそれ以外)では,すでにいくつかの企業が週4日労働に切り替えている。実際に雇用主の3分の1が,今後10年以内にほとんどの労働者が週4日労働を実現できると予想しているようだ。

週4日労働がすべての企業で機能するわけではないので,まずトライアル(お試し)として変更を実施することは価値がある

 週5日労働の起源が示した手本が何であれ,フォードの週5日労働のモデルが米国の法律に採用されるまでに約14年かかったことを考えれば,10年という期間は妥当なところだろう。もちろん,変化はもっと早く訪れるかもしれない。忘れてはならないのは,週4日労働は2019年に労働党の選挙マニフェストの一部であり,世論調査がどうであれ,政権交代の可能性は明確にあるということだ(ただし,近年の労働党はこの政策を押し出していない)。

 総括すると,週4日労働に向けた万能のアプローチがあるわけではなく,一部の雇用主にとってうまくいっても,すべての雇用主にとってうまくいくとは限らない。人材の獲得と定着にはスタジオの存亡がかかっており,いまだクランチの影が払拭されていないこの業界において,週4日労働の魅力は明らかだ。

 しかしゲーム会社は,週4日労働が自社にとって実行可能な選択肢であるかどうか,じっくりと考える必要がある。いったん雇用主が週4日労働への道を歩むと約束したら,後戻りは難しいかもしれない。一歩を踏み出すのであれば,その変更が適切に実施され,事業が不必要な雇用リスクに晒されないようにすることは明らかに不可欠だ。

GamesIndustry.biz ACADEMY関連翻訳記事一覧

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら