【月間総括】因果関係で捉えられていないゲーム機が売れる理由と,パルワールドに見る新規IPで大成功することの難しさ
今月はまず年末年始商戦について見ていきたい。
Switchの2023年10月から2024年1月第1週までの日本における売上推移は,概ね前年同期比30%強の減少であった。国内は前回書いた予想通りの展開だったと言えるだろう。Switchはさすがにユーザーにマンネリ感が出ていると考えているので,8年目が目前であり次への展開は避けられないところだと思う(1月26日にブルームバーグと日経新聞で,任天堂が2024年に次世代機を発売するとの報道が相次いだ)。
経営目標がほとんど開示されないソニーグループと違い,任天堂の戦略目標はシンプルで,任天堂IPに接触する人口を増やすとなっている。
接触人口を増やすには,
(1)露出を増やす
(2)ゲーム機の普及台数を増やす
の2つがある。
(2)はSwitchが大成功しているので,ここでは触れない。そして,(1)の露出を増やすは,故岩田氏が発案して2014年からスマートフォンゲームや,任天堂のIPグッズを展開することで認知度を上げることが推し進められていた。
だが現状,スマートフォンゲームに関しては展開がほとんどされなくなっている。これは当時の大方の予想とは反していて,スマートフォンゲームがコンシューマにとって代わるということが起きなかったからだ。
その理由は大別して以下の2つだと考えている。
(1)キャラクターの製作コストは性能向上に伴い指数関数的に増大し,肝心のガチャキャラクターの追加ペースが大幅に鈍化した
(2)新作ゲームは十分にアセットが積み上がった大作ゲームに対抗しなければならない。これは時間が経過するほど,大作ゲームを上回るための開発費が巨額になってしまうことを意味している
スマートフォンゲームはガチャなので収益は青天井に拡大できると一般には思われていた。しかし(1)で書いたように,実は時間経過とともにガチャアイテム/キャラの追加がどんどん難しくなっているのである。その結果,ガチャを引くことが日常化しているパワー系ユーザーのニーズとコンテンツの供給ペースがマッチしなくなっている。
しかも(2)のように,既存のヒット作は十分にアセットが積みあがっているので,時間が経過するほど後発はゲーム内容のボリューム面ではどうしても見劣りしてしまう。スマートフォンゲームの実態は,時間経過とともに,新作で成功することが難しくなるビジネスだったのである。東洋証券がライブサービスゲームに否定的なのもこれが要因である。
任天堂も同様の見方をしているのか,スマートフォンゲームにリソースの投入をほとんどしなくなっている。
任天堂が現在注力しているのは,リアルグッズの展開と映画だろう。この2つはいろいろな面で認知を広げやすい。YouTuberが任天堂のキャラクターグッズを背景に置いていることは珍しくなくなった。マリオの映画は任天堂が宣伝している以上に各種メディアに取り上げられている。露出の増加は,現時点では一定の効果があったといっていいだろう。
岩田氏がどういう想定をしていたかもはや知る由もないが,岩田氏は自分がすべて正しいとは思っていなかったことは確かだろう。いくつかの方策を出して,結果にたどり着こうとしたと考えている。このあたりはSIEとは随分違う。SIEは成功体験からサードのAAAでゲーム機販売が決まっていると思い込んでいて,因果関係が成立しているか,まったく検証していなかったように私は感じている。
もしサードのAAAで販売が決まるのであれば,Switchが成功しているのは不思議である。任天堂ハードは任天堂のAAAで決まると意見も出ようが,それならばWii Uが失敗した理由の説明がつかない。こう書くと今度は,ソフトがでるのが遅かったになるのだが,Switchが発表された当初,「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」,夏に「スプラトゥーン2」,秋に「スーパーマリオ オデッセイ」との発表で,当時の世間的にSwitchはローンチラインナップが少ないと思われていた。
しかし成功した結果,いつのまにかSwitchはソフトが豊富だったにすり替わっているのである。繰り返しになるが,筆者はソフトがハードの勝敗に与える影響は皆無だと考えている。影響があるなら任天堂のハードは当たり外れが大きい傾向があり,PlayStationが逆に変動幅が小さいことの説明がつかない。
特にSwitchとWii Uの差異はおかしい。マリオカート8とマリオカート8 デラックスで販売数に大きな差がありすぎるだろう。ハードの初動が悪かったからになると,それはハードに帰結するのである。ローンチから対策が毎週されるような状況はもはや不可能に近いからである。
そこで,このデータである。この場で良く用いているハード発売後100週のグラフは,初動でダメなものは挽回できてないことを示している。PS3以降,日本でPlayStationは一度もヒットを出せていない。最初の100週の推移は任天堂のゲーム機にたいして大きく劣後している。
この結果を見て,日本にはハイエンドコンシューマ市場がないと嘆いているのであれば,SIEは3000万台も売れる市場で何か施策を打つべきではないのだろうか? 日本市場を軽視していると言われて,悲しい気持ちしかならないのであれば,日本はSIEの高性能で大柄な素晴らしいゲーム機を理解しない役に立たない市場だとレッテルを貼るしかないだろう。
再度開発費の話に戻ろう。
AAAの開発費は数十億円クラスから数百億円になっている。もはや300万本程度では採算を取るのが難しい。にもかかわらず,SIEが発表しているPS5の販売(着荷)台数はPS4と同程度の推移でしかない。パソコンが伸びているという話になるのだが,それを含めても1000万本売るのは簡単なことではなくなっているのだ。
同じ客だけで採算が取れるのであれば,現状維持戦略もいいと思うが,資本市場や開発費の増加は常に市場の拡大を要求しているので,PlayStationビジネスも変わる必要がある。
開発費の問題を数量でしか解決できないことと感じている任天堂は,次世代機でも貪欲に成長を求めるだろう(英国の調査会社は2024年の次世代機用ディスプレイの生産水準を1460万台とコメントしたようである。PS5の初年度が780万台ということは考えると脅威的な数字である)
。東洋証券では次世代機は平凡なスペックだと予想しているが,その一方で何か大胆な戦略をとってくるとも考えている。
任天堂の現金保有高は大幅に増えており,施策を取りやすい位置に現状はある。豊富な現金を使った大胆な施策に期待したい。
ところでこの1月後半に,日本のインディー会社であるポケットペアのパルワールドが,アーリーアクセス開始から5日半で800万本のセールス(1月25日時点)を達成したことが大きな話題となった。
ネットではいろいろその是非が言われているが,ここでは法的な話は取り扱わない。筆者は資本市場での評価を行うのが専門であり,法律の専門家ではないからだ。
ここでは,パルワールドが世界的にヒットした背景と意義を考えたいと思う。筆者は何度か,2030年代に掛けて日本のアニメが世界を席巻することになると予想しており,ソニーグループのアニプレックスに大きなビジネスチャンスがあると述べてきた。そしてある日突然,アニメ調のゲームが売れ始めると予測していたことを述べておきたい。
そのうえで,パルワールドなのだが,見た目がポケットモンスター系のデザインだと一目見ただけで分かる。ゲームシステムはARKなど複数のゲームシステムをまとめてあり,良作のシステムをうまく取り込んでいる。良くマネジメントしたものだと個人的には思う。興味深いのは,ベースとなったARKよりも圧倒的に認知度が高く,遊ばれている点だろう。
5日で700万本というペースを考えると日本だけで受けたとはとても思えず,欧米や中国でも人気だと考えるほうが違和感はない。
となるとゲームシステムは内容なのでユーザーに伝わりにくく,ポケモンっぽいキャラクターは視覚情報なので伝わりやすいと言うことではないだろうか? だからこそネットでは批評が巻き起ったと言えるだろう。
2023年12月27日に開催したインタネット業界セミナー「鬼が笑わない 2024年大予想」でも触れたが,新規IPはゲームシステムとキャラクターデザインに分かれていて,どちらも認知されていないと大ヒットさせるのは大変ではないかという考えを示した。
開発会社のインタビューなどを見ると,パルワールドはゲームシステムもキャラクターも,既存のタイトルを相当研究したようである。その結果,ゲームシステムを真似るだけではユーザーにゲームに興味を持ってもらうことが難しいと考えた,ということなのだろう。ポケットモンスターには30年という蓄積があり,共通イメージが出来上がっている。幅広い年代にポケモンらしさという共通イメージがある点をポケットペア社は狙ったのだろう。つまりゲームをするような人々が,一目見ただけでどんなものか分かるという方向性を追求したという見方である。
筆者はいろいろなメディアから,最近の大手サードに対しての取材を受けることがある。とくに新規IPを出せないことが業績成長につながらないのではないか,と言う点を聞かれる。
メディアの質問としては,斬新なシステムと新しいキャラクターを使った大ヒットを出すべきということなのだろう。
だが,既存のいくつかのゲームシステムにポケモン風キャラを載せたパルワールドが大ヒットしたという事実を考えると,斬新さでは大ヒットは逆に非常に難しい(できないという意味ではない)ように思う。
モンスターハンターもピクミンも,登場時から斬新で新しいキャラクターのゲームだ。だが,ヒットするまでにかなりの労力と時間を要したことを考えると,分からないものを遊んでもらうには相当な労力が必要だとも言える。開発費が急騰している現状を考えると,斬新なゲームというのは,そもそもそぐわないということだ。
その点からすると,スクウェア・エニックスのFOAMSTARSもゲームシステムについてスプラトゥーンやほかののシューターをよく研究していると思う。完全に新規性のあるゲームを多くの人にいきなり理解してもらうのは難しいので,この手法は有効だろう。開発者目線では,斬新なゲームシステム,新しいキャラクターで大成功したいと考えるのは当然だと思うが,ユーザーは開発者が考えるよりずっと保守的で,慎重に行動している。そのユーザーに買ってもらうには視覚情報が重要なわけだ。
そう考えるとフォトリアル一辺倒は,ユーザー側で差異が付かなくなってきている可能性がある。まだフォトリアルは売れ筋ではあるが,グラフィックスで差異をつけるためのコストは巨額になる一方なので,ますます採算が取れなくなるだろう。
パルワールドの大ヒットと付随する騒動を見ていると,新規IP(斬新なゲーム性と新規キャラクター)で大成功しないといけないという考えは果たして正しいのかと思ってしまう。初めからたくさん売りたいのであれば,広く知られているゲームシステムを活用するのは理にかなっている。そして今後もアニメ絵の活用は,世界で売るのために重要性が増すだろう。そのうえで,斬新なゲーム性を目指すならは小さく産んで大きく育てるべきものだ。
Switchの2023年10月から2024年1月第1週までの日本における売上推移は,概ね前年同期比30%強の減少であった。国内は前回書いた予想通りの展開だったと言えるだろう。Switchはさすがにユーザーにマンネリ感が出ていると考えているので,8年目が目前であり次への展開は避けられないところだと思う(1月26日にブルームバーグと日経新聞で,任天堂が2024年に次世代機を発売するとの報道が相次いだ)。
経営目標がほとんど開示されないソニーグループと違い,任天堂の戦略目標はシンプルで,任天堂IPに接触する人口を増やすとなっている。
接触人口を増やすには,
(1)露出を増やす
(2)ゲーム機の普及台数を増やす
の2つがある。
(2)はSwitchが大成功しているので,ここでは触れない。そして,(1)の露出を増やすは,故岩田氏が発案して2014年からスマートフォンゲームや,任天堂のIPグッズを展開することで認知度を上げることが推し進められていた。
だが現状,スマートフォンゲームに関しては展開がほとんどされなくなっている。これは当時の大方の予想とは反していて,スマートフォンゲームがコンシューマにとって代わるということが起きなかったからだ。
その理由は大別して以下の2つだと考えている。
(1)キャラクターの製作コストは性能向上に伴い指数関数的に増大し,肝心のガチャキャラクターの追加ペースが大幅に鈍化した
(2)新作ゲームは十分にアセットが積み上がった大作ゲームに対抗しなければならない。これは時間が経過するほど,大作ゲームを上回るための開発費が巨額になってしまうことを意味している
スマートフォンゲームはガチャなので収益は青天井に拡大できると一般には思われていた。しかし(1)で書いたように,実は時間経過とともにガチャアイテム/キャラの追加がどんどん難しくなっているのである。その結果,ガチャを引くことが日常化しているパワー系ユーザーのニーズとコンテンツの供給ペースがマッチしなくなっている。
しかも(2)のように,既存のヒット作は十分にアセットが積みあがっているので,時間が経過するほど後発はゲーム内容のボリューム面ではどうしても見劣りしてしまう。スマートフォンゲームの実態は,時間経過とともに,新作で成功することが難しくなるビジネスだったのである。東洋証券がライブサービスゲームに否定的なのもこれが要因である。
任天堂も同様の見方をしているのか,スマートフォンゲームにリソースの投入をほとんどしなくなっている。
任天堂が現在注力しているのは,リアルグッズの展開と映画だろう。この2つはいろいろな面で認知を広げやすい。YouTuberが任天堂のキャラクターグッズを背景に置いていることは珍しくなくなった。マリオの映画は任天堂が宣伝している以上に各種メディアに取り上げられている。露出の増加は,現時点では一定の効果があったといっていいだろう。
岩田氏がどういう想定をしていたかもはや知る由もないが,岩田氏は自分がすべて正しいとは思っていなかったことは確かだろう。いくつかの方策を出して,結果にたどり着こうとしたと考えている。このあたりはSIEとは随分違う。SIEは成功体験からサードのAAAでゲーム機販売が決まっていると思い込んでいて,因果関係が成立しているか,まったく検証していなかったように私は感じている。
もしサードのAAAで販売が決まるのであれば,Switchが成功しているのは不思議である。任天堂ハードは任天堂のAAAで決まると意見も出ようが,それならばWii Uが失敗した理由の説明がつかない。こう書くと今度は,ソフトがでるのが遅かったになるのだが,Switchが発表された当初,「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」,夏に「スプラトゥーン2」,秋に「スーパーマリオ オデッセイ」との発表で,当時の世間的にSwitchはローンチラインナップが少ないと思われていた。
しかし成功した結果,いつのまにかSwitchはソフトが豊富だったにすり替わっているのである。繰り返しになるが,筆者はソフトがハードの勝敗に与える影響は皆無だと考えている。影響があるなら任天堂のハードは当たり外れが大きい傾向があり,PlayStationが逆に変動幅が小さいことの説明がつかない。
特にSwitchとWii Uの差異はおかしい。マリオカート8とマリオカート8 デラックスで販売数に大きな差がありすぎるだろう。ハードの初動が悪かったからになると,それはハードに帰結するのである。ローンチから対策が毎週されるような状況はもはや不可能に近いからである。
そこで,このデータである。この場で良く用いているハード発売後100週のグラフは,初動でダメなものは挽回できてないことを示している。PS3以降,日本でPlayStationは一度もヒットを出せていない。最初の100週の推移は任天堂のゲーム機にたいして大きく劣後している。
この結果を見て,日本にはハイエンドコンシューマ市場がないと嘆いているのであれば,SIEは3000万台も売れる市場で何か施策を打つべきではないのだろうか? 日本市場を軽視していると言われて,悲しい気持ちしかならないのであれば,日本はSIEの高性能で大柄な素晴らしいゲーム機を理解しない役に立たない市場だとレッテルを貼るしかないだろう。
再度開発費の話に戻ろう。
AAAの開発費は数十億円クラスから数百億円になっている。もはや300万本程度では採算を取るのが難しい。にもかかわらず,SIEが発表しているPS5の販売(着荷)台数はPS4と同程度の推移でしかない。パソコンが伸びているという話になるのだが,それを含めても1000万本売るのは簡単なことではなくなっているのだ。
同じ客だけで採算が取れるのであれば,現状維持戦略もいいと思うが,資本市場や開発費の増加は常に市場の拡大を要求しているので,PlayStationビジネスも変わる必要がある。
開発費の問題を数量でしか解決できないことと感じている任天堂は,次世代機でも貪欲に成長を求めるだろう(英国の調査会社は2024年の次世代機用ディスプレイの生産水準を1460万台とコメントしたようである。PS5の初年度が780万台ということは考えると脅威的な数字である)
。東洋証券では次世代機は平凡なスペックだと予想しているが,その一方で何か大胆な戦略をとってくるとも考えている。
任天堂の現金保有高は大幅に増えており,施策を取りやすい位置に現状はある。豊富な現金を使った大胆な施策に期待したい。
ところでこの1月後半に,日本のインディー会社であるポケットペアのパルワールドが,アーリーアクセス開始から5日半で800万本のセールス(1月25日時点)を達成したことが大きな話題となった。
ネットではいろいろその是非が言われているが,ここでは法的な話は取り扱わない。筆者は資本市場での評価を行うのが専門であり,法律の専門家ではないからだ。
ここでは,パルワールドが世界的にヒットした背景と意義を考えたいと思う。筆者は何度か,2030年代に掛けて日本のアニメが世界を席巻することになると予想しており,ソニーグループのアニプレックスに大きなビジネスチャンスがあると述べてきた。そしてある日突然,アニメ調のゲームが売れ始めると予測していたことを述べておきたい。
そのうえで,パルワールドなのだが,見た目がポケットモンスター系のデザインだと一目見ただけで分かる。ゲームシステムはARKなど複数のゲームシステムをまとめてあり,良作のシステムをうまく取り込んでいる。良くマネジメントしたものだと個人的には思う。興味深いのは,ベースとなったARKよりも圧倒的に認知度が高く,遊ばれている点だろう。
5日で700万本というペースを考えると日本だけで受けたとはとても思えず,欧米や中国でも人気だと考えるほうが違和感はない。
となるとゲームシステムは内容なのでユーザーに伝わりにくく,ポケモンっぽいキャラクターは視覚情報なので伝わりやすいと言うことではないだろうか? だからこそネットでは批評が巻き起ったと言えるだろう。
2023年12月27日に開催したインタネット業界セミナー「鬼が笑わない 2024年大予想」でも触れたが,新規IPはゲームシステムとキャラクターデザインに分かれていて,どちらも認知されていないと大ヒットさせるのは大変ではないかという考えを示した。
開発会社のインタビューなどを見ると,パルワールドはゲームシステムもキャラクターも,既存のタイトルを相当研究したようである。その結果,ゲームシステムを真似るだけではユーザーにゲームに興味を持ってもらうことが難しいと考えた,ということなのだろう。ポケットモンスターには30年という蓄積があり,共通イメージが出来上がっている。幅広い年代にポケモンらしさという共通イメージがある点をポケットペア社は狙ったのだろう。つまりゲームをするような人々が,一目見ただけでどんなものか分かるという方向性を追求したという見方である。
筆者はいろいろなメディアから,最近の大手サードに対しての取材を受けることがある。とくに新規IPを出せないことが業績成長につながらないのではないか,と言う点を聞かれる。
メディアの質問としては,斬新なシステムと新しいキャラクターを使った大ヒットを出すべきということなのだろう。
だが,既存のいくつかのゲームシステムにポケモン風キャラを載せたパルワールドが大ヒットしたという事実を考えると,斬新さでは大ヒットは逆に非常に難しい(できないという意味ではない)ように思う。
モンスターハンターもピクミンも,登場時から斬新で新しいキャラクターのゲームだ。だが,ヒットするまでにかなりの労力と時間を要したことを考えると,分からないものを遊んでもらうには相当な労力が必要だとも言える。開発費が急騰している現状を考えると,斬新なゲームというのは,そもそもそぐわないということだ。
その点からすると,スクウェア・エニックスのFOAMSTARSもゲームシステムについてスプラトゥーンやほかののシューターをよく研究していると思う。完全に新規性のあるゲームを多くの人にいきなり理解してもらうのは難しいので,この手法は有効だろう。開発者目線では,斬新なゲームシステム,新しいキャラクターで大成功したいと考えるのは当然だと思うが,ユーザーは開発者が考えるよりずっと保守的で,慎重に行動している。そのユーザーに買ってもらうには視覚情報が重要なわけだ。
そう考えるとフォトリアル一辺倒は,ユーザー側で差異が付かなくなってきている可能性がある。まだフォトリアルは売れ筋ではあるが,グラフィックスで差異をつけるためのコストは巨額になる一方なので,ますます採算が取れなくなるだろう。
パルワールドの大ヒットと付随する騒動を見ていると,新規IP(斬新なゲーム性と新規キャラクター)で大成功しないといけないという考えは果たして正しいのかと思ってしまう。初めからたくさん売りたいのであれば,広く知られているゲームシステムを活用するのは理にかなっている。そして今後もアニメ絵の活用は,世界で売るのために重要性が増すだろう。そのうえで,斬新なゲーム性を目指すならは小さく産んで大きく育てるべきものだ。