【ACADEMY】ニューロダイバーシティへのナビゲート:ゲーム業界について知っておくべきこと

パネルディスカッションでは,神経多様性のある人(発達障害者)がゲームのキャリアで成功を収める方法や,雇用主が提供すべきサポートについて議論された

【ACADEMY】ニューロダイバーシティへのナビゲート:ゲーム業界について知っておくべきこと

※この記事は,ゲーム業界での生活についての見識や,ゲーム業界に入るためのアドバイスを学生に提供する企画「Get into Games」の一環です。

 目に見えない障害を持つ人がいるからといって,支援のニーズまでもが目に見えないわけではない。現役世代の4人に1人が障害を抱えており,雇用主が障害者を差別することが違法とされてから久しいにもかかわらず,差別や解雇,あるいはその両方への恐れにより,自分の障害を雇用主に公言している人は,労働者のごく一部にすぎない。

 自閉症(ASDを含む),ADHD,失読症や統合運動障害のような学習障害など,神経多様性のある人(発達障害者)を含めて,障害者の参加を拡大し,定着させるために,職場はますます良くなってきている。しかし,ニューロダイバーシティ(『定型』または『非定型』の脳という二元的な概念から脱却し,人間の認知はすべて正常であり,異なるだけという概念を受け入れることを目指す用語)への支援は,ゲーム業界では良く言えば発展途上であり,悪く言えば不足していると感じられるかもしれない。

 EGX 2023の講演中,The Neurodivergent Game Dev Collectiveのメンバーは,ゲーム開発コミュニティからの切実な質問に答えるQ&Aセッションを開催し,発達障害者としてゲーム業界での経験について語った。

 パネルディスカッションでは,NeonhiveのインフルエンサーエグゼクティブであるGeorgie Christoforou氏,DragonCog InteractiveのスタジオディレクターであるCameron Keywood氏,UKIEの平等性・多様性・包括性コーディネーターであるDom Shaw氏らが,新人開発者に対して,発達障害者がイギリスのゲーム業界に就職する方法だけでなく,そこで成功を収める方法についても語った。





発達障害を面接で明かすべきか


 これに万能の正解はない。自分が発達障害者であることを面接官に伝えてもいいと感じるかどうかは,本人だけが決められる。その会社が障害者をどのように受け入れ,支援しているかについての素晴らしい情報をたくさん読んでいれば,伝えるのが正しいと感じることもあるだろう。反対に,あまり気が進まない場合もあるだろう。どちらの選択肢でもいい。

 そのためゲーム開発会社やスタジオは,WebサイトやSNSを通じて,発達障害のある同僚を含むすべての障害者従業員へのサポートを明確かつ定期的に強化することが不可欠だ。率直に,そしてもちろん正直に話すことで,社会的弱者のグループの応募を促すだけではなく,あらゆる有望な候補者に対して,入社後に期待できること,できないことを明確にできる。

 「その企業についてのリサーチと,最初の10分間の居心地の良さにもよります」とShaw氏は語った。「例えば,ニューロダイバーシティを支持するような声明やコンテンツが(Webサイトで)見つからなかった場合,私はそれを正直に共有することに少し不安を感じます。私はいつも,まず調査をするように言っています」

Dom Shaw氏(UKIE)
 Shaw氏は,発達障害のある候補者が自分のニーズを開示することに前向きであるならば,両者の期待を管理するために,前もって人事チームに連絡することを推奨すべきだと提案した。

 「あなたに自信があるなら,いつでも雇用主にメールを送れます。例えば,ADHDの人なら『私は集中力が欠けてしまいます。面接の過程で,これに合理的な調整をしてもらえますか?』と伝えます。そして『はい。それに配慮して,あなたができるようにします』という包括的な返答が来たら,それは良い兆候です」

 しかし,情報開示は誰にでも適しているわけではない。Shaw氏は,まず仕事を確保し,契約書にサインするまでは,この種の情報を隠したほうが自信につながる場合があることを認めた。

 Christoforou氏はNeonhiveでの勤務中に,雇用主が「理解し,耳を傾け,特別なニーズに配慮」してくれたおかげで「成功した」と語った。

 「実際に面倒を見てもらえて,仕事を8か月以上続けられたのは初めてです」と彼女は語った。「だから,もしあなたが仕事を選べるのであれば,あなたのことを気遣ってくれる雇用主を探す価値は大いにあります」


発達障害者はゲーム業界で成功できるか


 もちろん,発達障害者はゲーム業界で成功できる! 大学卒業後にDragonCog Interactiveを設立したKeywood氏は,発達障害者がゲーム業界のほとんどの仕事で成功できない理由が「分からない」と述べ,パネリスト全員が同意した。

 「私たちは貴重な財産です」とChristoforou氏は語った。「多くの人は,発達障害者がチームの中でどれほど貴重な存在になり得るか,気づいていないと思います。同僚の誰もが,私がやっている仕事を,私ほど速くできません。私たちは貴重な存在であり,今のチームにとってかけがえのない存在です」

 「誰もが自分の中に魔法を持っています」とShaw氏が付け加えた。「社会にはネガティブなことがたくさんあります。そして『平均的』とされているものの上に余分なものが重なると,消耗につながります」

 「だから,自分の特別な興味や情熱,自分を幸せにしてくれるものを大切にしましょう。本当に自分を高揚させ,力を与えてくれる(専門家や職場の)サポートネットワークを見つけましょう。そうすればチャンスは広がり,発展し,やがて自分自身でチャンスを切り開けるようになります」


発達障害者は自分のスタジオを持てるか


 Keywood氏は新卒で会社を設立した。一方で,人脈作りは特に駆け出しの頃やキャリアの浅いうちは難しいこともあると認め,「自分から外に出て人に会う」ことが重要だとした。

 DragonCogの設立から1年が経った今,「当時,自分のスタジオを設立すると言ったのは,冗談半分でした」と彼は語る。「でも私はそれを調べて,そこから出発したんです」

 同じことをやろうとしている人たちに向けたKeywood氏のアドバイスは? Limit Breakのようなメンターシッププログラムに参加することだ。

 Christoforou氏も同意した。「今の業界には,あらゆる種類の社会的弱者に向けたプログラムがたくさんあります。私はLimit Breakに2年間参加していますが,そこではメンターから多くの貴重な情報を得られます。ゲームのキャリアに本当に興味がある人には,ぜひお勧めしたいです」


発達障害者は人脈作りの難しさをどのように乗り切ればいいか


 Christoforou氏は,誰もが人脈作りに不安を抱いていることを認め,自身も「特別な快適さを感じたことはない」と認めた。

Georgie Christoforou氏(Neonhive)
【ACADEMY】ニューロダイバーシティへのナビゲート:ゲーム業界について知っておくべきこと
 人脈作りをさらに理解するために,Shaw氏は「Grand Theft Auto: San Andreas」や「The Sims」の関係値バーのような評判システムのあるゲームを思い浮かべるようオーディエンスに提案した。あるギャングのもとで働けば働くほど,あるいはあるシムと一緒に過ごせば過ごすほど,あなたを好きになるといった具合だ。ギャングを開発者に置き換えてみよう。それが人脈作りのすべてだ。

 最初は難しいと感じても心配ない。多くの人がそうだし,発達障害者ならばなおさらだ。

 「私は人脈作りを理解しないと思います。これからもずっと」とChristoforou氏は認めた。「たぶん自閉症のようなものです。それでもいいんです」

 だからこそ,Christoforou氏のNeurodivergent Game Devs Collectiveのような組織は貴重なのだ。そこではあなたを理解し,あなたと同じ困難に直面,あるいは克服してきたほかのゲーム開発者と出会い,つながりを築ける。


不公平な偏見や現在の業界の不確実性から,発達障害者はどう身を守ればいいか


 不公平な偏見から保護されたいのなら,発達障害者は労働組合への加入を検討すべきだという点で,パネリスト全員の意見が一致した。

 「非常に,非常に不安定な時期なので,この業界に就職したら組合に加入してください」とChristoforou氏は語った。「自分の身は自分で守ってください。あなたにとってどんなに素晴らしいスタジオでも,何が起こるかわかりません」

 「最も重要なのは,自分の身は自分で守るということです。ここ2,3か月の業界はそれを如実に示しており,本当に重要なことだと思います」

 とはいえ仕事を確保し,それを続けていくために,設備や標準的なポリシーの変更(よく合理的調整と呼ばれる)が必要かもしれないと思ったときには,追加のサポートを求めることを恐れてはならない。

 「合理的調整について話すのは,特にそれが初めての仕事であれば,本当に難しいです」とChristoforou氏は続けた。「それを体験したことがないのに,どうやってそれを知るのでしょう。もし雇用主があなたと一緒に考えて,あなたのニーズに合わせようとしないのなら,問題ありです」

 「ほとんどの管理職は,実際に包括的であろうとします」とShaw氏は付け加えた。「しかし,そうでない人事チームもあり,その場合はリーダーシップの鎖が役に立ちます」


発達障害のある従業員を,企業はどのようにサポートすべきか


 パネリストたちは,法的に要求される合理的調整のほかにも,スタジオが発達障害のある従業員の受け入れを改善する方法をいくつか紹介した。

  • 全従業員を対象とした神経多様性の認識トレーニング(Rockstarが導入)
  • 発達障害のある同僚がストレスを感じたときに利用できる,感覚にやさしい部屋
  • 週4日労働(Activisionが導入)
  • ハイブリッド・リモートワーク
  • 従業員と話し合う。思い込みやステレオタイプに基づいて方針を決めない
  • 発達障害のある同僚が,定型発達の同僚と同じく,公平に扱われるようにする
  • ゲームに登場するキャラクターを,ニューロダイバーシティに配慮したものにする

 「リモートワークは議論の対象ではないと思います」とChristoforou氏は語った。「スタジオが提供すべきものです。特に,大きなスタジオは」

 「皆をオフィスへと強制的に戻すために,多くのスタジオが従業員を解雇しました。神経多様性のある才能をどれだけ失ったのか考えてみてください」

 Shaw氏は業界の内外を問わず,前の会社で体験した問題について広く語り,発達障害者が就職する前に権利を知ることの重要性を強調した。

 「リモートワークが快適で,自宅でもワークライフバランスを保てるなら,多くの逆境を乗り越えられます」と彼は説明する。「とても単純なことに思えますが,自分だけのスペースがあり,『ひと休みしたい』とか『昼寝をしたい』と自分自身に言えることは,仕事をするうえで本当に力になります」

Cameron Keywood氏(Dragoncog)
【ACADEMY】ニューロダイバーシティへのナビゲート:ゲーム業界について知っておくべきこと
 「生産性が高まるだけでなく,自分自身をもう少し大切にできます。オフィスで仕事をしたい人に,するなと言っているわけではありません。違いは,会社がオフィスでの仕事を強制しているかどうかです。それは私にとって,ちょっとした赤信号です」

 Shaw氏は次に,「オールデジタル」の職場であるLovewishについて語った。Lovewishでは,すべての同僚がオンラインでリモートワークできるだけでなく,従業員が「オンラインウォータークーラー」を通じ,発達障害者が苦手としがちな,お喋りや人脈作りをするための時間とバーチャルスペースが用意されている。

 しかし,こうした取り組みはインディーズ特有のものではない。発達障害のある従業員をサポートするために多大な努力を払い,神経多様性に関わる取り組みの担当者も備えている企業として,Shaw氏はUbisoft UKを例示した。

 「このようなことに熱くなっているのは,ここにいる全員に幸せになってほしいからです」とShaw氏は語った。

 「それが,神経多様性のある人たちの特別なところです。あなたの中にはいつも特別なものがあります。あなたはただ回復力を高め,ほほえみ続け,観察し続けなければなりません。そして,サポートに寄り掛かることを忘れないでください。彼らはあなたがなろうと決意した偉大な才能を開花させるための手助けをしてくれるからです。たとえまだ,あなたがそれを知らないとしても」

※Neurodivergent Game Devs Collectiveについて:linktr.ee/thengdc
※この記事は,特集企画「Get into Games」の一部です。そのほかの講演やパネルディスカッションはこちら,求職者に最適なACADEMYガイドの選りすぐりはこちら(いずれも英文)。


GamesIndustry.biz ACADEMY関連翻訳記事一覧

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら