【ACADEMY】ゲームプロデューサー入門

Media MoleculeのSteven Taarland氏が,プロデューサーの役割や,優先順位の設定が必要な理由,信頼関係,そして「曖昧さを受け入れることへの慣れ」について説明してくれた。

【ACADEMY】ゲームプロデューサー入門

※この記事は,ゲーム業界での生活についての見識や,ゲーム業界に入るためのアドバイスを学生に提供する企画「Get into Games」の一環です。

 ゲーム開発における役割の多くは,「アーティスト」「作曲家」「プログラマー」のように名前の通りでそれほど難しくはないが,より重要な役割のひとつ「プロデューサー」を定義するのは難しい。

 プロデューサーの職務はスタジオによって変わるだけでなく,プロデューサーごとに異なっている。

 EGX 2023の講演で,Media MoleculeのシニアプロデューサーであるSteven Taarland氏(IGDA財団のプログラムディレクターで,クィアフレンドリーなゲームジャム「Rainbow Game Jam」の創設者でもある)は,ほとんどのプロデューサーの役割に共通する6つの核を示した。

  1. 優先順位を明確にして理解し,緊急性の高い仕事から確実に取り組む
  2. チームとの信頼関係を築き,透明性を保ちながらフィードバックを受け入れ,約束を果たす
  3. プロジェクトの各段階において,プロセスを継続的に反復する
  4. 曖昧さを受け入れることに慣れる
  5. 可能な限りリスクを減らす一方で,イノベーションを起こすには,その過程で多少のリスクを冒す必要があることも忘れない
  6. 失敗は,すべての人にとって学ぶ機会であると認識する

 この記事では,キャリアパスとしてゲームプロデューサーを考えている人のために,Taarland氏がその仕事内容を探っていく。講演の全容は以下の動画でも確認できる。





ゲームプロデューサーとは


 プロデューサーは一般的に,ビデオゲームなどのプロジェクト開発を監督することに重点を置いている。

 「開発チームの管理には,ステークホルダー(利害関係者)やパブリッシャ,外部チーム,予算の調整も含まれます」とTaarland氏は説明する。「スタジオやプロジェクトによって異なるかもしれませんし,プロジェクトの段階によっても必要なスキル,ワークフロー,プロセスは違います。常に変化し続ける多様なスキルが要求されるため,膨大なタスクを同時にこなしているように感じ,多くの人手が必要だと思うこともあります」

 しかし,最終的には「ハイクオリティなゲームを,予算内で,ハッピーで生産的なチームとともに提供する」ことが制作の目標である。

 プロデューサーは設定されたパラメータの範囲内でチームが製品を提供できるように,ツールとデータを駆使して「可能な限り最善の決断」を下し,道中で発生しそうな障害(既知と未知の両方)も取り除く。

 それが大変に聞こえるならば,そうなのだろう。また,バランスをとることが難しい仕事でもあり,期限までにゲームを提供するには妥協が求められる。そうでなければ,日程や納期がずれ込んだり,スタジオがバグだらけのゲームをリリースしたり,チームがクランチ(修羅場)に追い込まれたりする。


ゲームプロデューサーは何をしているのか


 スキルに対して明確な期待があり,業界全体で一般的に一貫しているアートやプログラミングのような分野とは違い,プロデューサーの役割や目標は所属する会社によって異なる。

 「プロデューサーの日常的なスキル要件や責任は,スタジオによって大きく異なります」とTaarland氏は説明する。「まさに標準化されていない仕事であり,多くの場合で複数の役割をこなすことになります」

 スタジオによって変わるものはそれだけではなく,プロデューサーに与えられる肩書きですら,業界内で違うことがある。例えば,開発マネージャーと呼ばれるプロデューサーもいる。それが上級職であることを理解し,その仕事がどの程度の監督責任を持つのかを知るため,職務説明を常にしっかりと読むのが最良だ。

 エントリーレベルの仕事を探している人に,Taarland氏はジュニア/アソシエイトプロデューサーの職務を勧める。また経験豊富な開発者には,シニアリードやプリンシパルプロデューサー,そしてエグゼクティブプロデューサーやプロダクションディレクターのような肩書きを探すことを提案している。3つの層の定義は,以下の通りだ。

  • ジュニアプロデューサー:日々の焦点は,チームをサポートし,タスクの遂行を支え,「全力疾走の繰り返し」で仕事を終わらせることだ。
  • アソシエイト(中級)プロデューサー:プロジェクトの先を見据えるようになり,日々の仕事にはあまり目を向けなくなる。焦点は,より大きなチームをサポートし,期限までに確実に仕事を間に合わせ,特定された障害を取り除くことだ。
  • シニアプロデューサー/ディレクター:上級職は,プロジェクトのさらに先を見通し,開発ロードマップ全体をよく監督し,スタジオ内の大規模チームや複数チームの責任者,あるいは複数のプロジェクトの責任者になることもある。

Steven Taarland氏(Media Molecule)
【ACADEMY】ゲームプロデューサー入門
 「スタジオによっては,美術,技術,シナリオデザイン,そのほかのあらゆる分野のプロデューサーなど,専門的な制作ツールを持っている場合もあります」とTaarland氏は補足した。「このような役割は,巨大なチームを擁する大規模スタジオにありがちで,プロデューサーは一緒に仕事をするチームについて,より深く専門的な知識を持っています」

 「あるいは私のキャリアのように,もう少し一般的なプロデューサーの役割を果たし,複数の分野にまたがるチームと仕事をし,ある特定の分野における深い知識ではなく,より幅広い知識を持つこともできます」

 「外から見ると,JIRAチケットの更新をチームに依頼しながら,会議に出席し続けることがプロデューサーの仕事かもしれませんね」と同氏は笑った。「けれども実際の日常業務は,常にプロジェクトの前進を支援するもので,チームや部署間で協力するための橋渡し,リスクの特定と軽減,リードやステークホルダーとの協力によるプロジェクト開発計画の設定,開発の予測と報告,マイルストーンの確実な達成などです」


プロデューサーの難しさ


 プロデューサーは紙の上では簡単に思えるかもしれないが,ほかのゲーム開発技術と同様に訓練が求められ,プロジェクトを軌道に乗せることを難しくし,集中を妨げてくる罠や落とし穴がたくさんあることをTaarland氏は強調する。特にリスクを避ける傾向のある人はなおさらだ。

リスク軽減


 プロデューサーの決断は十分な情報に基づいたものであるべきだが,情報が揃っていないのに決断を下さなければならないこともあるとTaarland氏は指摘する。

 「ここでのリスクは,これからのシナリオの展開をまったく予測できないことです」と同氏は続ける。「このような場合は,さらなるデータが届き,チームが方向転換する必要が生じたときのために,プランBを用意しておくことがベストとなります」

 「作業は失われるかもしれませんが,あなたやあなたのチームに学ぶ機会を与えることにもなります。まったく挑戦しないよりは,早く失敗したほうがいいです」

 プロデューサーがリスクを避ける理由はいくつかある。

  • 決断を下すのに十分な定量的データが手元になかったり,又聞きや限られた情報に頼っていたりする
  • 双方に大きなリスクがあるかもしれないし,結果としてどうなるかも予見できない
  • 多忙,あるいは進むべき道に合意してくれないステークホルダーによる,外部からの検証を待っている
  • 他人の許可なしでの決断に必要な自律性の欠落

 「プロデューサーにとってリスク軽減がいかに重要か,いくら強調してもしきれません」とTaarland氏は言う。「しかし,私たちはクリエイティブな人々と革新的な業界で働いています。そして,ビデオゲームには多くの未知とチャンスがあります。プロデューサーにとって重要なスキルは,曖昧さや先行きが分からないものに慣れることです」

 「曖昧さに慣れ,開発でリスクを取るべき場所を知るには,途方もなく長い時間がかかります。しかし,これをもっと楽にする方法があります」

優先順位の設定


 Taarland氏は,プロデューサーにはほかのゲーム開発技術と同様に訓練が求められ,プロジェクトを軌道に乗せることを難しくし,集中を妨げてくる罠や落とし穴がたくさんあることを強調する。

「プロデューサーの日常業務は,常にプロジェクトの前進を支援するものです」

 「正直に言うと,私はキャリアの中で何度かこのような落とし穴にはまったことがあります」と同氏は認める。「また,プロジェクトが配られたカードに対処しなければならないような状況のこともあります。あなたは落とし穴から抜け出せないこともあるでしょう。だからといって,あなたが悪いプロデューサーということではありません。けれども,これらを本当に重要なことだと認識し,そこから抜け出すための解決策を見つけられれば,さらに良いです」

 では,プロデューサーにとって最大の問題のひとつは? 自分自身のものであれ,チーム全体のものであれ,時間管理だ。

 Taarland氏は日常的に優先順位を検討し,見直すことが核心にあると示唆した。驚くほど生産的だと感じることは「とても簡単」かもしれないが,優先順位をつけた仕事でない限り「日々のタスクや問題の細部に吸い込まれ」,ひいては制作プロセスにボトルネックを生み出すことになりかねない。

 このようなことを日常的に行っていると,チームはあなたやあなたのプロセス,優先順位に不信感を抱くようになり,潜在的な問題をあなたに相談してこなくなるため,今後の問題を予測することが難しくなる。


優先順位の設定:なぜ重要なのか,どうすればいいのか


 当然のことかもしれないが,Taarland氏はプロデューサーが自分の仕事とチームの仕事の両方を評価し,優先順位を設定することに重点を置いている。

 同氏は,タスクの作成,優先順位づけ,委任,破棄を,あらゆる種類の管理者が簡単に行えるツール「アイゼンハワーマトリクス」を例示した。

 緊急度と重要度によってタスクに優先順位をつけると,4つの結果が得られる。

  • 緊急で重要
  • 緊急ではないが重要
  • 緊急だが重要ではない
  • 緊急でも重要でもない

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 「緊急の仕事とは,メール,電話,チャット,ニュース,最新情報など,すぐに対応する必要があると感じるものです」とTaarland氏は説明する。「重要な仕事とは,製品やチームが長期的に実現すべき目標や価値に貢献するものです。このプロセスを使うことで,仕事に取り組む順番を簡単に決められます」

 「緊急かつ重要な仕事は,明らかに優先順位が高いです。緊急ではないが重要な仕事は,後日に回せます。緊急だが重要ではない仕事は,それをする能力を持ったチームの誰かに任せられます。最後に,緊急でも重要でもない仕事は捨ててしまいましょう。プロジェクトに何の貢献もしないので必要ありません」

 しかし,自分にとって重要ではないことでも,ほかの誰かにとっては重要だということを忘れてはならない。大きなチームやステークホルダーと仕事をする際は,定期的かつ透明性のあるコミュニケーションにより,すべての関係者が明確で一致した期待を持てるようにすることが不可欠だ。


信頼関係:なぜそれが必要なのか。効果的なプロセスで構築する方法とは


 Taarland氏は,信頼関係とは「チームが効果的に協力するための基盤」であると述べ,チームと信頼関係を構築する方法はたくさんあると付け加えた。

 「結局のところ,すべては透明性があること,耳を傾けていること,そして必要なときに必要な情報を共有していることに帰結します」

 しかし,それだけではないとTaarland氏は語気を強める。あなたの仕事に対するフィードバックを周囲に求め,それを有意義に振り返る時間を作り,必要があればそれに基づいて行動すると知らせることでも信頼関係を構築できる。

「曖昧さに慣れ,開発でリスクを取るべき場所を知るには,途方もなく長い時間がかかります」

 「ときには,与えられたフィードバックに基づいて行動する時間がないこともあります」と同氏は認めた。「チームやステークホルダーとのコミュニケーションを,明確かつ簡潔にすることが重要です。チームとともに期待値を設定することで,目標とその達成時期を周知できます」

 「全員が自分の仕事について足並みを揃えていることを知れば,あなたはチームを信頼して仕事を任せられます。そしてチームは,あなたが彼らをサポートするためにそこにいることを信じます」

 この一部はプロデューサーが使用するプロセスについてだ。確かに,新しいものには抵抗があるかもしれないし,「壊れていないのに,なぜ直すのか」と思うかもしれない。だが,メンバー全員が理解できる透明性のあるプロセスがなければ,チームは最適な方法で働けなくなるとTaarland氏は考えている。

 単に十分なプロセスを持つということではなく,適切なタイミングで適切なプロセスを持つことが重要なのだ。Taarland氏は,技術リード全員の承認と品質保証時間を要求する複雑なマルチステップワークフローは,コンセプト開発中には必ずしも必要ではないことを例示して説明した。しかし,実稼働している製品を扱い,何百万人ものプレイヤーにパッチを提供する場合はどうだろうか。そうなると,テストは不可欠だ。

 「プロセスを使い始め,評価し,うまくいくものとそうでないものを見極め,そうでないものは取り除きましょう。反復して,前進し続けることが重要です。物事が常に改善されている限り,チームはそのほうが良いと感じ,プロセスの中で働くことを楽しむようになります。プロセスと制作は絶妙なバランスで成り立っています」

 「チームやステークホルダーとの間で,プロセスの複雑さの適切なバランスをとることが本当に重要です。常に,プロジェクトの優れたビジョンを維持し,安定性と品質を維持するために必要なデータを収集できるようにしてください。また,チームがプロセスを理解することも重要です。プロセスは何か,その根拠は何か。ユーザーストーリーの完璧なバックログができても,チームがチケットを更新しなければ意味がありません。プロデューサーとしてのあなたと,あなたのプロセスの両方に対する理解と信頼が本当に重要なのです」


どうすればプロデューサーになれるか


 あなたはリーダーシップとコミュニケーションに長けているだろうか。あるいは有能なリスクアナリストだったり,紛争解決の経験者だったりするだろうか。Taarland氏によると,これらのスキルはすべてゲーム制作において価値があり,伝統的なルートをたどるだけでなく,ゲーム業界とはかけ離れたところでスキルを身につけた高名なプロデューサーもいるそうだ。また,プログラミング,デザイン,品質保証,コミュニティマネージャーなど補完的な分野からゲーム制作のキャリアを始めた人もいる。

 Taarland氏は,ゲームに特化した学位コースだけでなく,一般的なビジネスやマネジメント,プロジェクトマネジメントのコースでも,「制作現場で通用する基本的なスキルを身につけることができる」と提案した。

 「異なる分野の経歴を持つプロデューサーが,その知識を自分の職務に活用している姿を見るのが本当に好きです」と同氏は説明する。「それは,あなたのチームで信頼関係を構築するのに役立ちます」

 「プロデューサーとしてのキャリアの初期に,プログラミングのバックグラウンドが大きな強みになったことは間違いないです。チームが私に説明してくれた複雑なシステムやリスクを,技術に疎いクライアントやステークホルダーが理解できるように翻訳することに役立ちました」

 「本来,プロデューサーはリーダーシップを発揮する仕事です。そして,高いコミュニケーション能力を持ち,理路整然とした仕事ができ,問題解決を楽しめる人は優れたプロデューサーになれます。ゲーム開発の細かいディテールは,その過程で学べるでしょう」 

※この記事は,特集企画「Get into Games」の一部です。そのほかの講演やパネルディスカッションはこちら,求職者に最適なACADEMYガイドの選りすぐりはこちら(いずれも英文)。

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