【ACADEMY】マイノリティの障壁を減らす

より多くの人々の参入を助けるために企業ができることを,社会的弱者としての背景を持つゲーム業界人が,実体験からアドバイスする

【ACADEMY】マイノリティの障壁を減らす

※この記事は,ゲーム業界での生活についての見識や,ゲーム業界に入るためのアドバイスを学生に提供する企画「Get into Games」の一環です。

 過去10年間で,ゲームの多様性と表現は大幅に改善されたが,ゲーム業界で働く少数派グループのためにやるべきことは,まだたくさんある。

 2022年の第1回英国ゲーム業界国勢調査には,3200人以上の労働者が回答したが,依然として若年層の白人男性が中心となっている。とはいえ,従業員の24%がLGBTQ+であり,23%がニューロダイバーシティであることは,国内平均を上回っている。

 EGX 2023で行われたGamesIndustry.biz ACADEMYのパネルディスカッションで,さまざまな社会的弱者としての背景を持つメンバーによって示されたように,業界に入る経路は実にさまざまだ。ある個人の背景は,ほかの誰かとは異なるユニークなものかもしれないし,ある分野では(シス白人男性であるなど)特権を持っている人も,目に見えにくい障壁(ニューロダイバース,障害,労働者階級出身など)を持っているかもしれないので,必ずしも一筋縄ではいかない。

 より多様で,包括的で,利用しやすい労働力を生み出すだけでなく,その状態を確実に維持したいのであれば,企業が考慮すべき,さまざまな生活体験の間にはいくつかの共通点を見いだせる。

 本記事では,パネルディスカッションにおけるベストアドバイスを紹介している。セッションの完全な内容は,以下の動画で確認できる。



社会的弱者が自らを助けるには


 社会的地位の低いグループが直面する障壁の中には,根強く内面化されたものもある。例えば,労働者階級の出身者は向上心がないように見えたり,移民の家庭では成功しなければならないというプレッシャーがあり,ゲーム業界を安定した真剣なキャリアではないと認識していたりする。

 雇用主は,真に多様で包括的な労働力を築き,維持するための配慮を怠らないようにすべきだが,障壁の中には個人が自ら克服しなければならないものもある。

 パネリストたちは具体的なアドバイスをしてくれた。

自分に合った職場を見つける


 Arrogant PixelのディレクターであるJay Shin氏は,ゲーム業界での仕事に就きたい人は,職場や管理職の良し悪しを知るために,どんな仕事でも,特にゲーム以外の仕事で,まず経験を積むべきだとアドバイスした。

 「学校では経験できないので,始めてみるしかありません。その経験を通じて『あんなところでは働きたくない』と思うようになります。そして,そのビジョンが見えてくれば,自分に向いてないかもしれない場所や,本当に合わない場所を見極められるので,機会を断るのが簡単になります」

社会的弱者を支援する


 Lost in Cultのマーケティングディレクターであり,新作ゲームパブリッシングレーベルの代表でもあるRyan Brown氏は,クィアであり労働者階級出身だが,ほかの部分では障壁が少ないことを自覚している。そのため,出世街道を進むときは自分の障壁だけを意識するのではなく,後ろから引っ張られないように注意することが重要だと考えている。

 「『私の闘ってきたことを見て』と言うのは簡単ですが,私はシス白人男性なので,障壁のない部分もあります」と彼は語る。「だから,ほかの障壁が何なのかを知っておく必要があります。多くの人々のように,特権のある分野と,ない分野があるのです」

 フリーランスのゲームアクセシビリティ&インクルージョンコンサルタントであるHarriet Frayling氏は,権力のある人々に対して,その特権を利用して,知り合いの社会的弱者に機会を与えることを勧めた。縁故採用が業界で一般的なのであれば,それを積極的に利用してはどうだろうか。

 「メンター制度を導入する理由は,私のような人間にも,そうでない人間にも,それが素晴らしい方法だからです」と彼女は語った。

自分を卑下しない


 自分らしさを損なうようなやり方で適合しなければならないと感じるなら,その職場はいずれにせよ,あなたがいたいと思うような環境ではないというサインだろう。

 「私はある上司(とても悪い上司)にこう言われたことがあります。『私はあなたを上級職に推薦したいですが,あなたは自分の見せ方を変える必要があります。なぜなら皆があなたの言うことを真剣に受け止めるとは思えないからです』」とセガやUbisoftのような大企業で品質管理を長年務めてきた,コンテンツクリエイターでデジタルイラストレーターのShaz Shanghari氏は語った。

「有色人種はオフィスの部屋で,場合によっては突然,自分の人種全体の代弁者になることを覚悟しなければなりません」
Shaz Shanghari氏(コンテンツクリエイター)

 「そのことは5年間も尾を引いて,価値観をリセットするのに時間がかかりました。人々はただ,あなたのために配慮する必要があるのです」

 より実践的なステップとしては,ゲームサイト「Startmenu」の編集長であるLex Luddy氏は,この業界に入った後,性別の移行を始めた。メールアドレスに自分の名前を使っていて,その名前を変更するのなら,思い切って新しいメールアドレスを使い始めよう。

 「1つのメールに縛られて,毎日そのメールを見るのは嫌なので,すべてを転送しましょう。毎日見なければならないことは,とても小さい迷惑なことです」


ゲーム会社が職場をより多様で,包括的で,利用しやすいものにする方法


 とはいえ,雇用主は職場をより多様で,包括的で,利用しやすいものにする義務がある。なぜなら,これは未来の従業員が望むような居心地の良い環境の一因だと考えられるべきだからだ。以下は,パネリストが提案した,社会的弱者をより歓迎したい企業が取るべきステップの一部である。

経験だけでなく,転用できるスキルも考慮する


 ゲーム業界でエントリーレベルのポジションに就くための最大の障壁のひとつは,募集要項で経験年数や資格の有無を問われることがあまりにも多いことだ。

 ゲームメディアで仕事を見つけようとする多くの人が,職務内容にはフリーランサーとの協力や指導も含まれるために,必要な経験が不足していると言われることを,Luddy氏はよく耳にする。

 「私は5年もやっているにもかかわらず,経験が足りないと言われました」と同氏は語る。

左から,Jay Shin氏(Arrogant Pixel),Dan Ahern氏(Radical Forge),Shaz Shanghari氏(コンテンツクリエイター)
【ACADEMY】マイノリティの障壁を減らす

 経験不足を問われることは,これから仕事を始める人なら誰もが経験する障壁だが,低所得者層出身で,無料または低賃金のインターンシップに1年も費やす余裕がなかったり,高等教育で負った借金を返済できなかったりする場合は,かなり大きな障壁となる。アイルランドを拠点とするLuddy氏は,多くのメディアがダブリンに集まっていて,そこが非常に物価の高い場所であること,ほかの世界中のメディア職と同様に,リモートワークが選択肢にないことを指摘した。

 「突然,給料の高い仕事に就くために,長く頑張れる余裕がある人は,すでにサポートを受けている人か,ダブリンに住んでいる人だけです。ゲーム業界も同じです」とLuddy氏は付け加えた。

 Brown氏はこう語った。「経営陣や採用担当者は,転用可能なスキルを見極める必要があると思います。たとえサブウェイや,ゲームとはまったく関係のない,小売業のような仕事をしていたとしても,そのような点を見て,あなたが求めているものと一致しているかどうかを確認するのです。その経験がどのようなものか,ふさわしい人物の転用可能なスキルを見るようにすることで,より多様な人材をゲーム業界に取り込めます」

思い込みではなく,配慮する


 企業は,採用プロセスがアクセスしやすく包括的であることを保証するための強固なプロセスを持つべきであり,候補者が合理的配慮を要求した場合は,それを遵守する必要がある。

 「最近,Rocksteadyの面接を受けたのですが,それは純粋に,私がこれまで経験した中で最も包括的な採用プロセスのひとつでした」とFrayling氏は言う。「面接のときに合理的配慮を求めたら,それを実行してくれただけでなく,それが機能しているかどうかも確認してくれました。そこには『ああ,聞いてなかった』という,私が悪いように思わされる言い訳はありませんでした」

「私は5年もやっているにもかかわらず,経験が足りないと言われました」
Lex Luddy氏(Startmenu)

 これが採用プロセスにおける配慮だけでなく,その人が職務に就いてからも変わらないなら,その会社が本当に多様性のある文化を育んでいるということだ。一般的には,特に非白人の背景を持つ場合,それは外見的な問題だろう。

 「有色人種はいくつかの役職で,オフィスの部屋にいる唯一の人として,場合によっては突然,自分の人種全体の代弁者になることを覚悟しなければなりません」とShanghari氏は語る。「そこには,人々がどう話しかければいいのか分からないという暗黙の障壁がありますが,私はあなたと同じものが好きで,本も読むので,怖がらないでください!」

 Shin氏はまた,より強力なチームを作るためには,多様な性格の人を採用することも同様に重要であり,性格タイプや人生経験において正反対の人を探す場合もあると強調した。

 「私はイエスばかり言う人で,エネルギーに満ち溢れていて,1度に100万ものことをやりたがります。しかし,私のCOOは最も尊敬に値する方法でノーと言う人であり,抑制する人であり,私が尊敬し適応する人なのです」と彼女は説明した。「最悪なのは,人為的な調和がある職場で働くことだと思います。そこでは,人々はお互いにどのように接するかを政治的に考え,成果ではなく,特定の結果を得るために信憑性のないことを言います。私はそれが大嫌いです」

 「私が好きなのは,特定のピンクの色合いについてクレイジーな議論を交わしながらも,1日の終わりにはお互いに友人として付き合えることです。健全な対立が好きなのは,こういったアイデアについてコンセンサスを形成しなければならないからで,チームの多様性がそれを可能にしてくれます」

支援を通じて,社会的弱者を引き留める


 従業員の多様性は表層レベルでは健全に見えるかもしれないが,上級職になるとその割合は顕著に低くなり,定着率の問題が浮き彫りになる。これは必ずしも有害な職場環境の結果ではないかもしれないが,目に見えて割合の低いグループの人々,特に女性や非白人は,ソーシャルメディア上でハラスメントの対象になりやすい。

 ジャーナリスト,コンテンツクリエイター,コミュニティマネージャーなど,人前に出る仕事にはぶ厚い面の皮が必要だが,雇用主はそれが社会的弱者にとって,しばしば厳しくなることを理解する必要がある。

左から,Harriet Frayling氏(フリーランス),Ryan Brown氏(Lost in Cult),Lex Luddy氏(Startmenu)
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 Luddy氏は,ゲームメディアに出始めた頃はまだ男性的な表現をしていたので,ある意味ラッキーだったと説明する。「その後,私がより女性的な服装をすることになり,she/theyの代名詞を使って番組に出演するようになると,人々はすでに私を好きになっていたので,喜んでそれに付き合ってくれました」

 しかし,オンラインハラスメントでなくとも,生活費やセーフティネットの欠如など,前述したようなほかの要因によって不利なマイノリティは,結局のところ消耗につながる外的プレッシャーを抱え,昇進はおろか,仕事にとどまることもできないのだ。

 「多様な人材を雇用するのであれば,彼らがそこにとどまることができるようにサポートすることです」とLuddy氏は締めくくった。「この業界で働き続けるうえで,ほかの人よりも多くの支援が必要な人もいます。それは彼らが努力していないからではなく,ほかの人たちよりも対処しなければならないことが多いからです」

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