【ACADEMY】ゲーム会社で偉大なリーダーになる方法―バナナにならずに
大いなる力には,大いなる責任が伴う。これはスパイダーマンのベンおじさんの哲学であるだけではなく,今年初めにNo Brakes Gamesのスタジオ責任者Sitara Shefta氏が,Develop Brightonで行った講演のテーマでもあった。
「ヒューマン フォール フラット」の開発リーダーである彼女は,26人のチームとリトアニアの姉妹スタジオを率いた5年間の経験をもとに,有能な管理職になるための重要な優先事項と,最善の方法について語った。
「私が思うに,最悪なことのひとつは,ひらめきを楽しむことができない,あるいはイノベーションが制限されている場所で働くことです」とShefta氏は言う。「そのような職場は,人々が活躍する機会を与えてくれないと思います。私は,対面でもバーチャルでも,人々が出社するのを楽しいと感じ,やる気と意欲を持って仕事に取り組めるような環境を作りたいと思いました」
- 価値観の設定(チームと理想のリーダー,両方に対する期待の定義)
- 多様なチームを雇用する(「良いアイデアはどこからでも生まれる」とShefta氏は強調した)
- 人材が最優先であることを確認する(人材確保の可能性を高める最善の方法だ)
彼女はこう付け加えた。「優秀な人材を雇い,それで十分だと考えていると,必然的にスタッフを失うことになります。リテンションはチームとビジネスを成功させる鍵であり,スタジオやチームの文化を反映するものです。あなたのリーダーとしての姿勢も反映されるので,従業員は席に座っているだけのクズだという考え方にシフトするような間違いを犯さないでください。最高の人材を失うことになります」
講演では,チームをサポートする最善の方法,クランチ(修羅場)を避ける方法(それが不可欠な理由も),物事がうまくいかなくなったときの対処法,そして彼女の言葉をそのまま借りれば「バナナ※にならずにリーダーの重圧を乗り切る方法」などについてアドバイスがあった。
※編注:バナナになる(go bananas)は「気が狂う」ことを意味するスラング
目次
チームの信頼と尊敬を得るには
リーダーにとって最も強力なツールのひとつは,チームとの信頼関係だ。それを築くために,リーダーはチームの信頼と尊敬を得なければならない。
「肩書きや地位は,あなたにその権利を決して与えません」とShefta氏は強調した。
Shefta氏はさらに,スタジオのリーダーが一緒に働く人たちから信頼と尊敬を得るためのいくつかの方法を提案した。
共感とともに導く
スタッフの仕事量や状況を考慮することは不可欠だ。Shefta氏は共感とともに導くことは,すべてに同意することではないと強調した。それは,オープンマインドで耳を傾け,チームメンバーの立場になって考えることだという。自分が彼らの意見を聞いていると分かるように,彼らの背景を踏まえたうえでフィードバックや決断によって導こう。
「肩書きは,(信頼と尊敬を)あなたに決して与えません」
「これにより,信頼と透明性のある関係を築けるのです」と彼女は説明する。「チームはあなたに気軽に相談できるようになり,その結果,あなたはより良いリーダーになれます」「リーダーとして成功するためには,チームの上に立つのではなく,チームの中心にいなければなりません。そこに構造や上下関係がないとは言いませんが,遠くからチームに指示を出したり,説明をゼロにしたりすべきではありません。また,これは予測不可能なことをやって,混乱させないことも意味します」
可能な限りチームと一緒に座る
リーダーは,チームから切り離されるのではなく,チームの中にいるのが理想である。自分の部屋に閉じこもっているよりも,即座のアクセスがしやすくなるし,皆が職場で交わしている会話に参加できる(少なくとも意識できる)。
さらに重要なのは,誰かが何か問題を抱えている場合,それが作業中のことであれ,ほかのチームメンバーとのことであれ,気づきやすくなるということだ。必要であれば会話を誘導し,意見の相違を解決する手助けができる。
「チームをさらに知ることができ,チームもあなたをよく知れるので,人間関係を構築できます」とShefta氏は付け加えた。
チーム全員と関わる
とくに小規模なスタジオでは,チームの各メンバーと関わることが重要となるが,Shefta氏はそれが常にすべての人と話すことを意味するわけでは無いと強調した。
対面でもSlack経由でも,チームの会話に参加することは,その人が年下だから,あるいは違う分野の人だからといって,自分から距離を置くことを意味しない。リモートスタジオの場合,これは物理的に一緒にいなくても,チームと同席する効果的な方法となる。
チームに最新情報を提供する
リーダーとしての立場から,現在のプロジェクトやビジネス全体に関する最新情報を提供することは,チームの各パートからの理解を促進することにつながる。
「従業員は席に座っているだけのクズだと勘違いしてはいけません。最高の人材を失うことになります」
「人々はたやすく,自分の小さな泡の中で働き始め,サイロ化してしまいます」とShefta氏は言う。「自分たちに影響することが,ほかに起こっていることに気づかないかもしれません。人々が孤立していると感じ始めたり,関与していないと感じ始めたりすると,自分が評価されていないと思うようになります。そこで,あなたがチームの中心的存在であることが,再び重要になるのです」No Brakes Gamesでは,新しいマイルストーンに備えるため,2〜3か月に1度,スタジオ全体で30分程度のミーティングを開き,ゲームの状況を順次説明するとともに,最新の人事情報を伝えている。
恐れを取り除く
ほとんどの人は,何かに取り組んでいても,皆と共有する準備ができていない瞬間があるだろう。Shefta氏は,それをごく普通の恐怖だと言う。
これを避けるために,No Brakes Gamesでは「リーダーやステークホルダーの失望を恐れるような,大きくて怖い会議」は避け,その代わりに仕事についてオープンなディスカッションを行い,何がうまくいっているのか,どこで苦労しているのか,どんなサポートが必要なのかを,全員が話す機会を設けている。
Shefta氏は,ここでのリーダーの役割は解決策を提供することではなく,チーム自身が解決策を考えるのに役立つ質問やフィードバックを提供することだと言う。「私が彼らを雇ったのは,彼らが私よりも賢いからです。解決策を見つけるために彼らを信頼することは,彼らに価値を感じさせ,私が彼らを尊重していることを示すことになります。あなたは,指1本ですべての方向性を変えてしまうような暴君ではなく,方向性を変える決断をしたときに納得できるように,あらゆる背景を踏まえて,正直で透明性のあるフィードバックを与えるガイドなのです」
「チームに対して,ストレートにはっきりと伝えつつも,嫌なやつにはならないように」
ポジティブなスタジオ文化の形成と維持
優れたリーダーは,スタジオ内の文化を向上させるために何ができるかを常に考えていなければならない。Shefta氏は,前向きなスタジオ文化を維持するために,重要だと感じた教訓をいくつか話してくれた。
第一に,どんなスタジオにも上下関係はあるが,誰かの地位によって,リーダーがほかのチームからアクセスできなくなるようなことがあってはならない。
また,チームメンバーには自分が取り組んでいることについて,他分野のメンバーと話すことを勧めるべきだ。そうすることで,チーム全体の絆が深まり,より広いプロジェクトで何が起きているかを理解できる。
「リーダーとして成功するためには,チームの上に立つのではなく,チームの中心にいなければなりません」
No Brakes Gamesでは,ときおり匿名のアンケートを通じてフィードバックを求め,改善策を提案してもらうことがある。これは,あなたが見落としている問題を認識するために重要となるかもしれない。「例えば,ある時リモートスタッフの何人かが,現場にいるスタッフから切り離されていると感じ始めていることに気づきました」とShefta氏は振り返る。「そこで,バーチャルなコーヒーブレイクやキャッチアップミーティングのようなものを導入し,各自が取り組んでいることを共有したり,アイデアを出し合ったりできるようにしました」
「節目のレビューの際には,カップケーキを送るようにしていて,オフィスにいなくても皆が同じお祝いに参加できます。些細なことだと思われるかもしれませんが,小さな思いやりが大きな力になることもあります」
リーダーはクランチ(修羅場)にどう取り組むべきか
Shefta氏は,以前のスタジオでの自身の経験を踏まえて,「クランチなくしてリーダーシップは語れない」と述べ,クランチは常に,悪いマネジメント,悪いカルチャー,あるいはその両方の結果であると付け加えた。それはスタジオにネガティブな雰囲気を作り出し,チーム全員が団結すべきときに,チームメンバー間の「私たちvs彼ら」という考え方にエスカレートさせる。
「責任あるリーダーなら,チームをそのような(敵対的な)態度から遠ざけるものです。彼らを疲弊させることは,ゲームのクオリティに影響し,ひいてはビジネスにも影響します」
Shefta氏は管理職に対して,クランチを防止,あるいは抑える方法について,次のようなアドバイスをした。
- 時間をかけて品質を重視するマイルストーンの期限を設定する
- 誰かが圧倒されていると感じているのは,どんなときか見極める。過度な仕事を任されたり,ストレスを感じたりしている場合は,プレッシャーや仕事の範囲を減らす方法を見つけるために,その人と話し合う
- 数か月後,数年後のことなど知るよしもない非現実的な目標を設定しないこと。ロードマップを持ち,それを常にアップデートし,より小さな,段階的なステップで先のことに集中する
- 主要なリスクを特定し,それを軽減するための戦略を講じるために,定期的な特集と中間レビューを実施する
- 自分を酷使しないこと。手本となることを忘れずに
うまくいかないときの対処法
ミスをすることは避けられない。重要なのは,リーダーがそれに対してどう行動するかだ。Shefta氏は,言い訳をしたり,誰かのせいにしたりすることは,「リーダーシップの最低の見本であり,チームに失望感を与えてしまう」と指摘する。
ミスを認めることで,チームから尊敬され,チームがミスをしても大丈夫だということを示せる。Shefta氏はまた,リーダーに対して,自分のミスについて思い悩まないことを勧めた。「ときには間違えることもあると受け入れ,ほかの人に与えるのと同じように自分にも休みを与えましょう」
チームの誰かがミスを犯した場合
もしミスがチームのメンバーによって引き起こされたものであれば,それを修正するのは必ずしもあなたの責任ではない。とくにShefta氏は,あなたにとって解決策が明らかな場合,代わりにやりたくなることがあると認識している。
「チームに対して,ストレートにはっきりと伝えつつも,嫌なやつにはならないように」
「(自分で直したほうが)簡単かもしれませんし,早いかもしれません。でも,そんなことをしても,人々が学んだり,上達したりすることはありません。自分で始末をつけたり,代わりの誰かに委ねたりしないように。私たちは人々に責任を負わせなければならず,その一環として自分の仕事を片付けるということを忘れないでください」Shefta氏は,このような状況で次のようなアプローチを提案した。
- 明確な例を挙げて,チームメンバーに問題を説明する
- 実行可能な改善ステップを提案する。または,どのように修正するかを説明する
- 改善点を見直すための相互のスケジュールについて合意する
チーム内の誰かが持続的な問題を引き起こしている場合
誰かが一貫して成績が悪かったり,チームのほかのメンバーにとって深刻な問題を引き起こしたりしている場合,その人を排除するのはリーダーの責任だ。
「誰かを解雇することは,私の仕事の中で最悪の部分であり,本当にそれを嫌っています。しかし,人々を第一に考えることは,厳しい決断を下すことでもあり,その障害がたまたま別の人に影響している場合もあります」と彼女は言い,Develop BrightonでCode Covenの共同CEOであるCinzia Musio氏から語られたアドバイスを繰り返した。「それに対処するのは経営陣の責任です。さもないと,ほかのチームメンバーに不利益を与えることになります」
「私は,常にこれを最後の選択肢として使うようにしていて,ほかのステップを最初に実施します。しかし,長引かせることも許されません。もし彼らが失敗したら,その決断の責任はあなたにあります。責任あるリーダーは,厳しい決断を下し,混乱や敵意を取り除くために素早く行動すべきです」
バナナにならずにリーダーの重圧を乗り切る方法
リーダーであることは,多くのプレッシャーや激しい状況に対処することを意味し,それはあなたにとって負担となる。自分自身の健康のためにも,チーム全体のためにも,プレッシャーを軽減する手段を講じる必要がある。Shefta氏は,リーダーとしての自分を支えるために実践している戦略をいくつか紹介してくれた。
問題をタスクとして捉える
問題を提示されたら,それを別のタスクとして捉えよう。解決策を見つけ,それをチームに提示するべきだ。解決策を知らない場合は,正直に話して必ず見つけると安心させ,彼らの意見も求めること。
「チームもまた,あなたをサポートするためにそこにいることを忘れないでください。その考え方が,どんなプレッシャーも和らげてくれるはずです」とShefta氏は言う。
「リーダーシップを発揮することは,何でも自分でやるということではありません。人々をまとめ,共通の目標に向かって導くことを意味します」
冷静さを保とう
ある日,誰かに殴られたり,物議をかもすようなことを言われたりしても,頭ごなしに反応しないようにしよう。
「その時に建設的なことや冷静なことが言えないのであれば,相手の言ったことを認めて,それ以上何も言わず,あとでおしゃべりすることにしましょう」とShefta氏は語る。そして「あとで」というのは,たとえ一夜が明けることになったとしても,冷製で論理的な態度に自分を戻すことができるときでなければならない。
「あなたはまだ人間なので,毎回うまくいくとは限りませんが,うまくいかないかもしれないと感じたときは,忍耐強く物事を考え抜いたほうがいいのです」
チームを信じる
Shefta氏が語ったように,チームに自分の仕事に対する責任を持たせ,自主性と改善の機会を与えることが最善だ。そのためには,彼らを信頼することも重要となる。常に彼らの肩越しに見たり,仕事の邪魔をしたりしてはいけない。
「リーダーとして,私たちはチームとゲームの開発を推進しますが,決してマイクロマネジメントをしてはいけません」とShefta氏は説明する。「それを始めた瞬間,あなたは口うるさくなり,混乱させ,最終的には信頼の欠如を示すことになります。チームから説明責任や自主性を奪うことになり,モチベーションが失われます」
「マイクロマネジメントの必要性を感じたら,その理由を考えてみましょう。チームメンバーの1人を信頼できないと感じるのは,そのパフォーマンスに懸念があるからでしょうか? それならば,根本的な問題に取り組むべきです」
彼女はこう付け加えた。「リーダーシップを発揮することは,何でも自分でやるということではありません。人々をまとめ,共通の目標に向かって導くことを意味します。一緒に困難に立ち向かう文化であるべきです」
「責任あるリーダーなら,チームを敵対的な(私たちvs彼らのような)態度から遠ざけるものです。彼らを疲弊させることは,ゲームのクオリティに影響し,ひいてはビジネスにも影響します」
少数の重要な味方と強い協力関係を築く
リーダーは決して孤立してはならない。だから,困難な状況に陥ったときに打ち明けられる人を特定することが極めて重要だ。それが社内のチームメンバーであれ,パブリッシャなどの社外パートナーであれ。
「守秘義務や,その情報がほかの人にストレスを与えるかもしれないという敏感さ,人の気をそらしたくない,あるいは単に知ることが負担になるかもしれないという理由など,さまざまな理由からチーム全員に相談すべきではないこともあります。しかし,そのルールの例外となりうる人物,ライアン・レイノルズにとってのヒュー・ジャックマン,デッドプールにとってのウルヴァリンを見つけるべきです」
より多くの構造を提供することで,自分自身を整理し,律する
予期せぬ事態が発生し,優先順位をつけなければならない日は避けられない。リーダーには柔軟性が必要不可欠であり,これは予期せぬ事態にも対応できるように,自分自身を組織化することを意味する。
「ほかの予定が入らないと考えるのは非現実的なので,私は1週間のスケジュールを決めません」とShefta氏は語る。「予想以上にいろいろなことが出てきたり,圧倒されそうになったりする週は,一歩引いて,『今これをやらないことの本当の影響は何だろう』と考えるようになりました」
「大きな影響があるのか,あるいはまったく影響がないのかを考え,答えがノーなら,やらなくてもいいと思います。常にすべてをこなすことはできないし,それを受け入れれば受け入れるほど,燃え尽きる可能性は低くなります」
自信を持って決断する
リーダーは日常的に決断を下さなければならないが,Shefta氏は正しい決断を下すために以下の質問を提案する。
- その決断はチームのためになるか
- ゲームの方向性と合致するか
- ビジネスのニーズに合っているか
- 目標につながっているか
このような疑問に対して,答えとなるデータやリスクアセスメントが存在することもあるが,直感で判断して構わない場合もある。
「自信を持って決断することは非常に重要です。そうでなければ,チームの間に不確実性や不安を生み,決断の不在が開発の妨げになり,大きな代償を払うことになりかねません」
「最悪の場合でも,間違った決断は学びにつながる失敗となります。早めに失敗することを心がけてください」
Shefta氏は,これまで話してきたリーダーシップのすべての側面の中で,チームとビジネスがあなたを頼りにしている以上,自分自身を大切にすることが最も重要だと付け加えた。
「リーダーシップを発揮する立場にあるのなら,最終的には現実的で冷静な方法で物事に対処しなければなりません。なぜなら,ストレスの多い状況では,人々はあなたの顔色をうかがい,あなたの態度が反映されるからです。自分自身が元気であってこそ,人々に貢献できます」
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