【ACADEMY】ジェンダーに配慮したキャラクターカスタマイズツールの設計方法

Devcomでは,フリーランスのナラティブデザイナーであるArden Osthof氏が,ジェンダーを包括した設計のヒントを開発者に紹介した

【ACADEMY】ジェンダーに配慮したキャラクターカスタマイズツールの設計方法

 先月のDevcomで,シニアナラティブデザイナーのArden Osthof氏は,「Playing with gender: A design framework for character customisation」と題した講演で,ゲームメーカーが主人公作成ツールをより包括的なものに改善するためのヒントを与えた。

 Osthof氏は,以前Ubisoftに在籍し,過去のプロジェクトには「アノ」シリーズや「ディビジョン 2」がある。現在はフリーランスのナラティブデザイナーとしてRho Labyrinthsの「Mars Vice」や,Screen Juiceの「Morbid Metal」に携わっている。

 同氏は2017年からキャラクター作成ツールについて研究しており,とくにこれらのツールがいかにジェンダーを包含できるか,そしてプレイヤーが自分自身を正確に表現し,投影するためにどのような選択肢を提供できるかを研究している。

 ジェンダー・インクルーシブ・デザインについてのポイントを紹介したのち,Osthof氏の講演は,ジェンダーの表現にもっと配慮するために,ゲームを作りながら自問自答すべきことがテーマになった。

「選択」と問題点,そして解決への糸口


 Osthof氏はまず,ゲームで定期的に起こる問題,同氏が言うところの「選択」について語った。

 「多くのゲームの冒頭で,こんなことが提示されるかもしれません。『あなたは男の子ですか? それとも女の子ですか?』」と同氏は説明する。「そして,どちらかを選ぶことになります。何を選んだかによって,外見が与えられるかもしれません。NPCがあなたにどう話しかけたり,あなたについてどう話したりするかも自動的に変わります。また,何らかのカスタマイズが可能なゲームであれば,どちらを選んだかによってカスタマイズの選択肢が違ってくるかもしれません。男の子としてプレイするのであれば短めの髪型が4種類,女の子としてプレイするのであれば長めの髪型が12種類といった具合です」

 ゲームによっては,この最初の決断がストーリーの展開や,ロマンスの選択肢など,タイトルを通してプレイヤーが選べるさまざまな選択肢に影響を与える。

 「では,大まかに言って,なぜこれが問題なのでしょう。さきほど例示したものは,どれもプレイヤーの選択ではないからです。プレイヤーから選択肢が奪われています。男性か女性かという最初の選択だけで,あとはすべて自動化されているのです」

「プレイヤーの自由が増えることで誰もが恩恵を受けます」

 「明らかに,これは,この2つの選択肢のうちの1つに自分自身を見出だせないかもしれないノンバイナリープレイヤーや,この1つのセクションだけを望まないトランスプレイヤーにとって制限となります。しかし,正直なところ,トランスジェンダーであろうとシスジェンダーであろうと,これはすべてのプレイヤーを制限するものです。最終的には,プレイヤーの自由が増えることで誰もが恩恵を受けます。長髪の男性もいるでしょうしね」と同氏は微笑んだ。

フリーランスのナラティブデザイナー Arden Osthof氏
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 同氏は,ここ数年で多くの進歩があったことを認めつつも,プレイヤーやメディアからの監視の目や,この問題を調査し,より多くの選択肢を提供することへの期待が高まっていることに言及した。

 「では,これに代わる選択肢にはどのようなものがあるのか,簡単に概要を説明しましょう。私がジェンダー・インクルーシブ・デザインについて発見したのは,多くの人が,それをできるだけ包括的なものにするためには,天下のあらゆる選択肢を提供する非常に詳細なキャラクター作成ツールに(見えるように)すべきだと思いがちだということです」

 「それは素晴らしいことです。プレイヤーにすべてのコントロールを与え,好きなものを組み合わせられるのですから。そして,身体的特徴やアクセサリーの選択肢は実に豊富でしょう。このようなキャラクター制作ツールは本当にクールで,人気があり,ゲームによく合っています。でも,別のやり方もあるんです」

 ゲーム開始時にプレイヤーに代名詞を選択させ,ゲーム中どのように呼びかけられたいかを選択させる手法もある。Osthof氏は,このようなオプションを提供した最初のタイトル,2015年に発売されたMidBossの「2064: Read Only Memories」を例示した。

 ゲーム開始時,プレイヤーは自分の名前を聞かれ,代名詞を選択する。これは,he/him,she/her,they/them,いくつかの新代名詞,カスタム入力など幅広い可能性を提供している。

 「ほかのゲームでは,曖昧な主人公を選んだり,ジェンダーの記号をすべて取り除いたりと,まったく違う道を行くものもあります」とOsthof氏は語った。「そうすることで,すべてのプレイヤーに自分自身を投影できる空間を与えられます」

2015年にリリースされたMidBossの「2064: Read Only Memories」は,プレイヤーに代名詞を選ばせる
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 同氏は,BancyCoの「Alone with You」も例に挙げる。このゲームでは主人公の容姿が分からず,性別,民族,年齢などの手がかりも得られない。これは,一人称視点のゲームや,トップダウンストラテジーでもよく見られるデザイン上の選択だ。

 「では,これらの異なるもののうち,どれが正しいのか,どれがおすすめなのか」と同氏は続ける。「完璧な方法など存在しません。私が示したものの中には,互いに正反対のものもあります。あなたが作ろうとしているゲームには,本当に正しい方法しかないのです。ジェンダーは本当に複雑なので,あなたのゲームに必要な解決策は,きわめてカスタマイズする必要があります」

ゲーム制作中に自問すべき5つの問い


あなたのゲームにおいて,(もしあるなら)ジェンダーはどのような役割を果たすか

 Osthof氏は最初の質問として,自分たちのタイトルに合った解決策を見つけるために,ジェンダーがゲームにとって重要かどうか,重要だとしたらどのような役割を果たすのか,開発者たちが考えるように呼びかけた。ここでのスケールは,性別がゲームプレイの重要な要素である「ザ・シムズ」のようなものから,性別が無関係であるだけでなく,必要かどうかさえ疑わしい「アノ」のようなシリーズまであると説明した。

 「ほとんどのゲームは,ジェンダーがある意味では重要だが,ある意味では無関係だという,スペクトラムの中間に位置することになります」

 例えば,「ドラゴンエイジ:インクイジション」では,性別はロマンスの選択肢では関係するが,戦闘には影響しない。そこでOsthof氏は,ゲームメーカーにもっと深く掘り下げ,自問自答するよう呼びかけた。

  • あなたのゲームのテーマにジェンダーは関わっているか(アイデンティティ,クィアネスなど)
  • ゲームプレイに影響を与えるべきか(ロマンスや会話の選択肢など)
  • ゲーム世界に異なる性別システムや種族の生態はあるか(例:ファンタジーやSF)
  • ジェンダーはどのように深みを増すのか。加えると損になるか

どのようにプレイヤーを指すのか

 Osthof氏が指摘する2つ目の質問は「非常に簡単なもの」で,ゲームがプレイヤーキャラクターをどこでどのように呼ぶかを中心に展開される。

 「NPCなのか,メニューなのか,ナレーションなのか。すでにお伝えしたように,この問題に取り組む方法のひとつが,代名詞の選択です。せっかくなら,2つ以上の代名詞を用意することを強くお勧めします」とOsthof氏は「2064: Read Only Memories」の例を指し示した。

「せっかく(代名詞の選択を提供する)なら,2つ以上の代名詞を用意することを強くお勧めします」

 「似たようなことをする別の方法として,あまり注目されていないですが,私がとても面白いと思っているものに,肩書きや名前の使用があります。というのも,プレイヤーについてあまり語られない場合,代名詞が必ずしも最良の選択とは限りませんし,直接的な呼びかけには多くの選択肢があるのです。もし,キャラクターがいつもプレイヤーに直接話しかけるなら,三人称の代名詞を選択させても,あまり意味がないかもしれません」

 同氏は「Sunless Seas」の例を挙げ,プレイヤーは性別に関わるもの,関わらないものの中から肩書きを選ぶと説明した(マダム,サー,市民,船長など)。このデザイン上の選択は,肩書きのトーンを強調して世界観を構築し,ジェンダーを別のタイプのロールプレイと組み合わせていることも指摘された。

 また,性別を完全に避けてyouだけを使うこともできるが,性別は関係ないと判断した場合は,ほかの場所で誤って性別のある言葉を使わないように注意しようと,同氏は付け加えた。

 このセクションの最後に,同氏は開発者たちに次のような問いを自問するよう注意をうながした。

  • 誰が/何がプレイヤーに語りかけるか(NPC,ナレーター,メニューテキストなど)
  • 選択肢を提供するか,それとも中立的な言葉を使うか
  • どのようにロールプレイを強化するか
  • ゲームのジャンルに合う言語の種類は
  • ローカライゼーション・マネージャーに相談したか

Calicoのキャラクター制作ツールは,1つのボディテンプレートから動作し,スライダーでさまざまな機能を調整できる
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プレイヤーアバターの基本は何か?

 ジェンダー・インクルーシブ・デザインのもうひとつの重要な側面は,プレイヤーのアバターと,プレイヤーに自分自身を投影するキャンバスを与える方法だ。

 「多くの代名詞を用意し,カスタマイズのオプションをすべてアンロックし,いろいろなものをミックス&マッチさせるような最高の意図も,最終的に,理想的な女性と理想的な男性のような,2つの理想的なボディの選択をプレイヤーに提示するのなら,かなり無意味なものになるでしょう」とOsthof氏は指摘する。「では,予算をかけずにこれを実現するには,ほかにどんな方法があるのでしょうか」

 同氏は,その課題を解決する3つの方法を提示した。

 1つは,Peachy Keen Gamesの「Calico」(上の画像)に見られるように,1つのボディテンプレートからブレンドシェイプを作成し,さまざまなスライダーで胸,腰,肩,顔の特徴などを微調整して,独自のボディタイプを作成する方法だ。

 このトピックについて,Osthof氏はFlying Cat StudioのAubrey Scott氏によるGDC講演「Genderf*ck 2077」を推薦した。

 この課題を解決するもうひとつの方法は,(「セインツロウ」のように)原型を提供し,プレイヤーがそれをさらにカスタマイズできるようにすることだ。Osthof氏は,キャラクター作成プラットフォームPicrewの例も挙げながら,2Dと3Dの両方で機能することが利点だと語った。

 最後のオプションは,テンプレートをまったく使わないことだ。「Sunless Skies」では,プレイヤーは顔の特徴を組み合わせながらシルエットを作ることになる(右画像)。

 このセクションのまとめとして,Osthof氏は開発者に次のようなことを考えるよう呼びかけた。

  • ゲーム内でプレイヤーは自分のキャラクターをどう見るべきか
  • ジャンルの決まりは(ビジュアルノベルのポートレート,三人称モデルなど)
  • 二元論を打ち破って選択肢を増やすには
  • 「理想的な身体」に陥ることなく,費用対効果を高める方法とは

どうすればプレイヤーは自分自身を正確に表現できるのか

 4つ目の質問は,繊細さと多様性をデザインすること,そしてプレイヤーに自分自身を正確に表現するチャンスを与えるため,「その間にある小さなステップのすべて」を得ることについてだとOsthof氏は語る。

 「前のセクションですでに触れましたが,スライダーを使って,その間の小さなステップをすべて得るというアイデアです。そうすれば,小さなステップごとに選択肢を増やせます。これは,ボディタイプやボディパーツにも使えますが,例えば声の高さなど,ほかのものにも使えます」

「最終的に,2つの理想的なボディの選択をプレイヤーに提示するのなら,最高の意図はかなり無意味なものになるでしょう」

 その正確さを得るもうひとつの方法は,「ザ・シムズ」のような超詳細なキャラクター制作ツールというアイデアに戻ることだが,これに代わるものとして,ファッションやアクセサリーの導入によって,プレイヤーが自分自身を投影しやすくすることが挙げられる。

 例えば,服や傷跡,アクセサリーをトランス仕様にできるとOsthof氏は語る。乳房切除術の傷跡は現在「ザ・シムズ」のオプションになっているが,他の例としてはシェイプウェアやバインダーがあり,後者は例えば「Dream Daddy」で提供されているカスタマイズオプションだ。

 このトピックについても,ゲームメーカーが自問すべき質問をいくつか挙げよう。

  • どのような前提をプレイヤーにゆだねて選択させられるか
  • プレイヤーの選択肢をより細かくするにはどうすればいいか
  • どうすれば中間を提供できるか
  • 仕事量を増やさずに,プレイヤーの選択肢を増やせるか

プレイヤーは体験の中でどのように自分を表現できるか

 最後に,Osthof氏はゲーム内でプレイヤーに自分のアイデンティティを表明させることの重要性について語った。例えば,NPCとの有意義なインタラクションを作るにはどうしたらいいか考えてみよう。

 オリジナルのあだ名も楽しいと,同氏は「どうぶつの森」で村人がプレイヤーにニックネームを付ける例を挙げて言及した。同氏は,それが「ジェンダーの問題」ではなく,「面白い遊び方」であることを認めている。

 もし,あなたのタイトルがマルチプレイに対応しているのなら,プレイヤー同士がシンボル(例えば,彼らのアイデンティティを表す旗など)を通じてどのようにコミュニケーションを取れるかを考え,「コミュニティとプライドを持つ機会」を与えよう。

 Oshtof氏は,さらに上を目指すために,自分のゲームについて自問自答できるいくつかの質問を提示した。

  • プレイヤーは自分の性自認をどのように表明できるか
  • プレイヤーはほかのプレイヤーとどのようにコミュニケーションを取れるか
  • プレイヤーはどのようにしてコミュニティ感覚を作り出せるのか
  • プレイヤーは,クィアなキャラクターやテーマと有意義に交流できるのか
  • ジェンダーを表現する楽しい方法とは

 Devcomにログインしていれば,Arden Osthof氏の講演「Playing with gender: A design framework for character customisation」を,イベントページで再視聴できる。このトピックをより深く掘り下げ,上記の各質問を徹底的に説明し,ローカライゼーションの課題について指摘し,さらに多くのガイダンスとヒントを提供している。


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