【月間総括】残念な結果のFF16が引き起こすスクエニの組織改革と,PS5で年間2500万台を目指すSIEの目標
今月は決算について述べていきたい。
先月の連載ではソニーと任天堂の話をメインに据えていたが,スクウェア・エニックスやファイナルファンタジー(FF)に対する関心の高さをうかがい知れたと感じているので,まずはスクウェア・エニックスについて話そうと思う。
先般開催された決算説明会では,(1)FF16は想定内の上限か下限かであれば,もうひと伸び欲しかった,(2)FF16がもうひと伸び足りなかった背景にはPS5の普及率の低さがあり,普及率に合わせた施策を打つ,(3)開発費は全額計上したので今後は利益になる,などが語られた。
会社側としては,FF16は相当に頑張ったもののPS5の普及率が壁になり,今一つだったということだろうと東洋証券としては認識している。
そのうえで,第1四半期決算に関しては大きな減益となった。
これは第1四半期の決算説明資料だが,デジタルエンタテインメント事業は88億円の増収である。
内訳は,(1)MMOが前年同期比41億円の減収,(2)スマートデバイスが50億円の減収,一方でHDゲームは169億円の増収となっていて,これはFF16の300万本以上の販売(出荷+ダウンロード)とピクセルリマスターの効果である。
損益は114億円の悪化である。開示がないためこの内訳は正確には分からない。
東洋証券の推計ではMMOとスマートデバイスで30億円程度の減益,ピクセルリマスター他が15億程度の増益効果と見ており,差分の100億円程度がFF16の損失(赤字)だったと考えている。これがどの程度正確かは分からないが,少なくとも減益要因の大半がFF16と考えて良さそうである。
このような結果に終わったのは,この四半期に開発費を全額償却した一方,販売日数が10日間だったためである。ただ日本での初動のパッケージの推計本数は37万本程度で,現時点でも40万本強と言ったところで,初動から伸びていないのは問題である。先月も指摘したが,FF16は,長期回収するとなれば今までと売れ方が違っていないとおかしい。筆者が失敗と考えているのもこの点である。
このように書くと世界でどうかとなるのだが,アメリカのヒットチャートを見た感じでは,大きく伸びていないよう見える。
またFF16は,タイレシオで健闘したという意見も目にした。しかし,このタイレシオで健闘したという表現自体に驚いた。なぜなら,タイレシオに適正な水準があるという主張を初めて見たからである。タイレシオだとSwitchローンチ時に「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」がアメリカ国で100%超,日本でも60%を超えたという驚異的な数字が出ている。さらに,初動では高くなかった「桃太郎電鉄 〜昭和 平成 令和も定番!〜」(発売時点での国内パッケージタイレシオは2%だった)が290万本(8月13日時点 すべてファミ通調べ)という国内パッケージだけで9.6%のタイレシオを達成した事例もあるので,ソフト発売時にタイレシオを使い,適正な水準があるとするのは,首をかしげてしまう。
おそらく主張している方々は,タイレシオ論はハードがソフトの販売動向を決めているという東洋証券の主張そのものになっていることに気づいていないのである。
スクウェア・エニックス側は同様にPS5の普及で考えると健闘したとしているのだが,「ELDEN RING」や「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」が初動で1000万本を超えるセールスをしている現状を考えると,外部から見えている状況は残念ながら相当に悪い。もう少しこの背景を考えたいと思う。
スクウェア・エニックスで明らかになっている現象を列挙すると,
(1)AAAの発売間隔が広がる一方である
(2)同社のタイトルのメタスコアの振れ幅が大きい
(3)スマートフォンゲームのサービス期間が短いものが出ている
といったことであろう
(1)については皆さん異論がなかろう。ドラクエもFFも発売間隔がどんどん長くなっているのである。FF15から16は7年も経っている。これでは小学生の間に一度も遊ばない可能性もあり,子供が触れるものではなくなってしまっている。FF16のプロデューサーである吉田直樹氏が話したことと,会社がやっていることが今一つマッチしていない。
(2)は「BABYLON'S FALL」や「FORSPOKEN」のスコアが低い一方,FF16やオクトパストラベラーは高いといった状況で,出来不出来のばらつきが大きい。
(3)スマートフォンゲームは客観的な指標がないが,サービス終了まで一年程度のゲームが多く見られる状況にあり,コンシューマ機用ゲームと同様にユーザからの評価が低下しているのではないかと思われる。
これら発売間隔の長期化とゲームの品質のバラツキが大きいことが,ユーザー離れを引き起こしているのではないか。両方に共通する事象は,開発規模の増大である。
そして急激に拡大する開発規模の組織統治がうまくいっていないのではないかという問題が浮かび上がる。
すでに桐生社長もこの点には気づいていると思われるが,この問題への対応は至難だと思う。なぜかというと,この開発費の増大が品質のバラツキを産み出し,ひいてはユーザー離れを引き起こす問題は,カプコンの辻本会長が20年以上前には気づいていて,その対応に10年以上の時間が掛かったからである。
当時,まだスマートフォンゲームは存在していなかったが,初代PlayStationまでのゲーム開発では,とりあえず作って出来上がったら品質が悪いので作り直す,という手法が良く行われていた。宮本代表取締役の「卓袱台返し」とかつて言われていたものだが,ゲーム開発が億円単位になってくると,この手法は極めて効率が悪くなったのである。
この規模で作り直すと大きな損失が発生するため,ゲームの出来に満足しないまま発売されるケースが続出し,カプコンの業績は大きく変動した。任天堂もゲームのリリースが安定しなくなった。
辻本会長はこのままでは立ちいかなくなると考え,非常に早期から3つの施策を実施した。具体的には,(1)PCを含めたマルチ展開,(2)年100人以上の積極的採用,(3)標準化された開発環境の整備である。その結果,多くのクリエーターが同社を去ることになった。それでも辻本会長は強い意志で組織改革を断行し,開発規模が大きくなっても一人当たりの単価が上がらないように工夫しつつ,大規模開発のノウハウが組織に残るような体制整備に10年以上の時間をかけたのである。
常に30年後を考える辻本会長の慧眼には,この20年驚かされ続けている。筆者がカプコンを高く評価しているのは,この長期的に問題を捉える視野の広さにある。そして,これが今のカプコンの成功につながっている。
任天堂もゲームキューブからSwitchまで苦労することが多かったわけで,対応に多くの時間がかかった。ここに至るまでスクウェア・エニックスは業績が順調だったため,壁にぶつからなかったのであろう。
いろいろな経営者などに話をうかがっていると,プロデューサーの権限が強すぎるようである。
今の上場企業は牽制が働くように,執行と財務は分離するのが一般的である。これを専門用語でガバナンス(統治・支配・管理)と言うのだが,執行と予算管理を一人で行う状態は好ましくないとされている。企業でも,CEOとCFOを分離しているのはこのためだ。今後は,大規模開発にマッチした組織体制を確立する必要があろう。
スクウェア・エニックスも開発規模の増大にマッチした組織に変えていく必要があるが,やろうとしてもカプコンが実行した時期よりも規模が大きくなった今日,5年程度で実現することは非常に困難だと思うのである。
しかも前回も指摘したが,スクウェア・エニックスはSIE同様に批判をよしとは思っていないように筆者には見えている。特に日本は,「ご清聴ありがとうございました」の文化なので褒めるとは沈黙することである。これでは,褒める言葉が出てこないは当たり前である。そのことを理解しておかないと批判ばかりで悲しくなるということになるのだ。
もう一つ,外部の意見なしに改革を行うのは日本では困難を伴うのに,批判をよしとしないになると前途は多難だろう。
任天堂については来月にすることにして,次にソニーグループの決算にふれよう。
ソニーグループのゲーム事業は増収減益だった。増収になったのは為替の効果に加えて,苦戦が続いていたゲームソフト販売がFF16の効果もあり,ようやく上向いたことが大きい。ただ損益はBungieの買収費用の増加もあって減益だった。
肝心のPS5の販売(着荷)台数は330万台と,会社の想定と東洋証券の予想(500万台)を下回った。説明会でソニーグループは,「第1四半期はさしたるマーケティング施策なしでも売れるだろうと見ていたが,想定外の販売不振となり急遽第2四半期に入って主に海外で値下げなどの施策を行って挽回を図っている」とコメントした。
これには大変驚いたのだが,要するに
(1)PS5はPS4より優れたゲーム機であるので,PS4より需要があって当然である。
(2)これまでPS4を下回っていた原因は,半導体調達難による供給不足である。
(3)よって,供給難が解消すれば飛ぶように売れる。
こういう三段論法だったと推測される。
東洋証券ではPS5は売れないだろうとずっと前から予測しており,実際には売れているとネットでは揶揄されていたのは承知していたし,それに対して仮需が入っているので本当に売れているどうか分からないとここで説明してきた。
その供給難が解消した結果,第1四半期のPS5は日本を除いて売れなかったのである。
この点はまさに,自分たちのビジネスが無敵だと思っているので足下を掬われているとの,先月の筆者の指摘そのものではないだろうか。
ハードの安売りではソフトを買わないユーザーが増えるだけと説明会では説明していたが,この辺りも筆者のいうハードがソフト販売の動向を決めているとの指摘通りだと思う。ここ最近起こっている出来事は,筆者の形仮説に基づく予想ハード主導型理論とそう大きな差があったとは思えないのである。
話を戻そう。PS5はPS4よりも需要がある前提だったのだが,第1四半期の実績はその想定が怪しくなってきたことを示している。年間2500万台の計画を必達目標だとしているのも,PS4以上になるというジム・ライアン氏のプレゼンがあればこそ,である。
東洋証券では,「PS5はPS4より需要がないのでは?」と主張していたのだが,今実施されているサマーセールはPS5の動向が厳しくなってきていることを示していると言えるだろう。
上のグラフをご覧いただくと分かりやすいと思うが,ソニーグループやSIEはPS5の販売台数が第1四半期で予定より早くPS4に追いつく想定をしていたはずである。しかし,実際には販売が失速してしまった。
次の四半期は570万台以上の販売(着荷)台数がないとPS4に追い付けない。年末商戦期はさらに1000万台以上が必要だ。
任天堂の故岩田氏や古川社長は,「ゲーム機は勢いのビジネスだ」と言っていたが,一度勢い失ったPS5が小幅の値下げで勢いを取り戻せるか注目である。
ソフトに関してはようやく伸びたのだが,FF16が期待通りだったのかは微妙なところである。というのもソニーグループは今期のソフト販売を微増としていた。FF16の動向を相当慎重に見ていたといえ,上方修正したとされる現状でもPS5の販売増はなかったし,アクティブユーザーは大きく変化していない。
経験則的にハードの牽引は販売本数の10%ぐらいに見えるので,もともと大きくないと東洋証券では考えている。だがFF7とMH4と言う大きな成功と失敗を体験しているSIEにとってはAAAの失敗は存続にかかわる大事だと思われていると考えているので,これが達成できなかったのは失敗だったことになろう。
東洋証券ではソフト販売はハードで決まると考えているので,PS5の勢いがなくなってきているのは心配な点である。
すでに予測した通り,PSVR2もなかったことにされてしまった感がある。PS Plusも会員数が非開示になってしまった。失敗はすべてなかったことになるので,SIEのアメリカ本社は常勝不敗と受け止めているだろう。そして,それがユーザーの優越感を引き起こしてしまっている。
ソニーグループは失敗を認めないのでユーザーの要求は肥大化する一方である。ユーザーは常勝のSIEに求める要求水準をPS6では一段と引き上げるだろう。
美麗なグラフィックス,圧倒的なボリューム,際限ない欲求に対応していると開発費は鰻登りで,とどまるところを知らない。しかし,ユーザーからの批判に耐えられないSIEは性能一辺倒からの脱却は困難であろう。
このままでは厳しい結果が待っているのではないだろうか。この解決策を提示できるだろうかと最近よく考えるのである。
先月の連載ではソニーと任天堂の話をメインに据えていたが,スクウェア・エニックスやファイナルファンタジー(FF)に対する関心の高さをうかがい知れたと感じているので,まずはスクウェア・エニックスについて話そうと思う。
先般開催された決算説明会では,(1)FF16は想定内の上限か下限かであれば,もうひと伸び欲しかった,(2)FF16がもうひと伸び足りなかった背景にはPS5の普及率の低さがあり,普及率に合わせた施策を打つ,(3)開発費は全額計上したので今後は利益になる,などが語られた。
会社側としては,FF16は相当に頑張ったもののPS5の普及率が壁になり,今一つだったということだろうと東洋証券としては認識している。
そのうえで,第1四半期決算に関しては大きな減益となった。
これは第1四半期の決算説明資料だが,デジタルエンタテインメント事業は88億円の増収である。
内訳は,(1)MMOが前年同期比41億円の減収,(2)スマートデバイスが50億円の減収,一方でHDゲームは169億円の増収となっていて,これはFF16の300万本以上の販売(出荷+ダウンロード)とピクセルリマスターの効果である。
損益は114億円の悪化である。開示がないためこの内訳は正確には分からない。
東洋証券の推計ではMMOとスマートデバイスで30億円程度の減益,ピクセルリマスター他が15億程度の増益効果と見ており,差分の100億円程度がFF16の損失(赤字)だったと考えている。これがどの程度正確かは分からないが,少なくとも減益要因の大半がFF16と考えて良さそうである。
このような結果に終わったのは,この四半期に開発費を全額償却した一方,販売日数が10日間だったためである。ただ日本での初動のパッケージの推計本数は37万本程度で,現時点でも40万本強と言ったところで,初動から伸びていないのは問題である。先月も指摘したが,FF16は,長期回収するとなれば今までと売れ方が違っていないとおかしい。筆者が失敗と考えているのもこの点である。
このように書くと世界でどうかとなるのだが,アメリカのヒットチャートを見た感じでは,大きく伸びていないよう見える。
またFF16は,タイレシオで健闘したという意見も目にした。しかし,このタイレシオで健闘したという表現自体に驚いた。なぜなら,タイレシオに適正な水準があるという主張を初めて見たからである。タイレシオだとSwitchローンチ時に「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」がアメリカ国で100%超,日本でも60%を超えたという驚異的な数字が出ている。さらに,初動では高くなかった「桃太郎電鉄 〜昭和 平成 令和も定番!〜」(発売時点での国内パッケージタイレシオは2%だった)が290万本(8月13日時点 すべてファミ通調べ)という国内パッケージだけで9.6%のタイレシオを達成した事例もあるので,ソフト発売時にタイレシオを使い,適正な水準があるとするのは,首をかしげてしまう。
おそらく主張している方々は,タイレシオ論はハードがソフトの販売動向を決めているという東洋証券の主張そのものになっていることに気づいていないのである。
スクウェア・エニックス側は同様にPS5の普及で考えると健闘したとしているのだが,「ELDEN RING」や「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」が初動で1000万本を超えるセールスをしている現状を考えると,外部から見えている状況は残念ながら相当に悪い。もう少しこの背景を考えたいと思う。
スクウェア・エニックスで明らかになっている現象を列挙すると,
(1)AAAの発売間隔が広がる一方である
(2)同社のタイトルのメタスコアの振れ幅が大きい
(3)スマートフォンゲームのサービス期間が短いものが出ている
といったことであろう
(1)については皆さん異論がなかろう。ドラクエもFFも発売間隔がどんどん長くなっているのである。FF15から16は7年も経っている。これでは小学生の間に一度も遊ばない可能性もあり,子供が触れるものではなくなってしまっている。FF16のプロデューサーである吉田直樹氏が話したことと,会社がやっていることが今一つマッチしていない。
(2)は「BABYLON'S FALL」や「FORSPOKEN」のスコアが低い一方,FF16やオクトパストラベラーは高いといった状況で,出来不出来のばらつきが大きい。
(3)スマートフォンゲームは客観的な指標がないが,サービス終了まで一年程度のゲームが多く見られる状況にあり,コンシューマ機用ゲームと同様にユーザからの評価が低下しているのではないかと思われる。
これら発売間隔の長期化とゲームの品質のバラツキが大きいことが,ユーザー離れを引き起こしているのではないか。両方に共通する事象は,開発規模の増大である。
そして急激に拡大する開発規模の組織統治がうまくいっていないのではないかという問題が浮かび上がる。
すでに桐生社長もこの点には気づいていると思われるが,この問題への対応は至難だと思う。なぜかというと,この開発費の増大が品質のバラツキを産み出し,ひいてはユーザー離れを引き起こす問題は,カプコンの辻本会長が20年以上前には気づいていて,その対応に10年以上の時間が掛かったからである。
当時,まだスマートフォンゲームは存在していなかったが,初代PlayStationまでのゲーム開発では,とりあえず作って出来上がったら品質が悪いので作り直す,という手法が良く行われていた。宮本代表取締役の「卓袱台返し」とかつて言われていたものだが,ゲーム開発が億円単位になってくると,この手法は極めて効率が悪くなったのである。
この規模で作り直すと大きな損失が発生するため,ゲームの出来に満足しないまま発売されるケースが続出し,カプコンの業績は大きく変動した。任天堂もゲームのリリースが安定しなくなった。
辻本会長はこのままでは立ちいかなくなると考え,非常に早期から3つの施策を実施した。具体的には,(1)PCを含めたマルチ展開,(2)年100人以上の積極的採用,(3)標準化された開発環境の整備である。その結果,多くのクリエーターが同社を去ることになった。それでも辻本会長は強い意志で組織改革を断行し,開発規模が大きくなっても一人当たりの単価が上がらないように工夫しつつ,大規模開発のノウハウが組織に残るような体制整備に10年以上の時間をかけたのである。
常に30年後を考える辻本会長の慧眼には,この20年驚かされ続けている。筆者がカプコンを高く評価しているのは,この長期的に問題を捉える視野の広さにある。そして,これが今のカプコンの成功につながっている。
任天堂もゲームキューブからSwitchまで苦労することが多かったわけで,対応に多くの時間がかかった。ここに至るまでスクウェア・エニックスは業績が順調だったため,壁にぶつからなかったのであろう。
いろいろな経営者などに話をうかがっていると,プロデューサーの権限が強すぎるようである。
今の上場企業は牽制が働くように,執行と財務は分離するのが一般的である。これを専門用語でガバナンス(統治・支配・管理)と言うのだが,執行と予算管理を一人で行う状態は好ましくないとされている。企業でも,CEOとCFOを分離しているのはこのためだ。今後は,大規模開発にマッチした組織体制を確立する必要があろう。
スクウェア・エニックスも開発規模の増大にマッチした組織に変えていく必要があるが,やろうとしてもカプコンが実行した時期よりも規模が大きくなった今日,5年程度で実現することは非常に困難だと思うのである。
しかも前回も指摘したが,スクウェア・エニックスはSIE同様に批判をよしとは思っていないように筆者には見えている。特に日本は,「ご清聴ありがとうございました」の文化なので褒めるとは沈黙することである。これでは,褒める言葉が出てこないは当たり前である。そのことを理解しておかないと批判ばかりで悲しくなるということになるのだ。
もう一つ,外部の意見なしに改革を行うのは日本では困難を伴うのに,批判をよしとしないになると前途は多難だろう。
任天堂については来月にすることにして,次にソニーグループの決算にふれよう。
ソニーグループのゲーム事業は増収減益だった。増収になったのは為替の効果に加えて,苦戦が続いていたゲームソフト販売がFF16の効果もあり,ようやく上向いたことが大きい。ただ損益はBungieの買収費用の増加もあって減益だった。
肝心のPS5の販売(着荷)台数は330万台と,会社の想定と東洋証券の予想(500万台)を下回った。説明会でソニーグループは,「第1四半期はさしたるマーケティング施策なしでも売れるだろうと見ていたが,想定外の販売不振となり急遽第2四半期に入って主に海外で値下げなどの施策を行って挽回を図っている」とコメントした。
これには大変驚いたのだが,要するに
(1)PS5はPS4より優れたゲーム機であるので,PS4より需要があって当然である。
(2)これまでPS4を下回っていた原因は,半導体調達難による供給不足である。
(3)よって,供給難が解消すれば飛ぶように売れる。
こういう三段論法だったと推測される。
東洋証券ではPS5は売れないだろうとずっと前から予測しており,実際には売れているとネットでは揶揄されていたのは承知していたし,それに対して仮需が入っているので本当に売れているどうか分からないとここで説明してきた。
その供給難が解消した結果,第1四半期のPS5は日本を除いて売れなかったのである。
この点はまさに,自分たちのビジネスが無敵だと思っているので足下を掬われているとの,先月の筆者の指摘そのものではないだろうか。
ハードの安売りではソフトを買わないユーザーが増えるだけと説明会では説明していたが,この辺りも筆者のいうハードがソフト販売の動向を決めているとの指摘通りだと思う。ここ最近起こっている出来事は,筆者の形仮説に基づく予想ハード主導型理論とそう大きな差があったとは思えないのである。
話を戻そう。PS5はPS4よりも需要がある前提だったのだが,第1四半期の実績はその想定が怪しくなってきたことを示している。年間2500万台の計画を必達目標だとしているのも,PS4以上になるというジム・ライアン氏のプレゼンがあればこそ,である。
東洋証券では,「PS5はPS4より需要がないのでは?」と主張していたのだが,今実施されているサマーセールはPS5の動向が厳しくなってきていることを示していると言えるだろう。
上のグラフをご覧いただくと分かりやすいと思うが,ソニーグループやSIEはPS5の販売台数が第1四半期で予定より早くPS4に追いつく想定をしていたはずである。しかし,実際には販売が失速してしまった。
次の四半期は570万台以上の販売(着荷)台数がないとPS4に追い付けない。年末商戦期はさらに1000万台以上が必要だ。
任天堂の故岩田氏や古川社長は,「ゲーム機は勢いのビジネスだ」と言っていたが,一度勢い失ったPS5が小幅の値下げで勢いを取り戻せるか注目である。
ソフトに関してはようやく伸びたのだが,FF16が期待通りだったのかは微妙なところである。というのもソニーグループは今期のソフト販売を微増としていた。FF16の動向を相当慎重に見ていたといえ,上方修正したとされる現状でもPS5の販売増はなかったし,アクティブユーザーは大きく変化していない。
経験則的にハードの牽引は販売本数の10%ぐらいに見えるので,もともと大きくないと東洋証券では考えている。だがFF7とMH4と言う大きな成功と失敗を体験しているSIEにとってはAAAの失敗は存続にかかわる大事だと思われていると考えているので,これが達成できなかったのは失敗だったことになろう。
東洋証券ではソフト販売はハードで決まると考えているので,PS5の勢いがなくなってきているのは心配な点である。
すでに予測した通り,PSVR2もなかったことにされてしまった感がある。PS Plusも会員数が非開示になってしまった。失敗はすべてなかったことになるので,SIEのアメリカ本社は常勝不敗と受け止めているだろう。そして,それがユーザーの優越感を引き起こしてしまっている。
ソニーグループは失敗を認めないのでユーザーの要求は肥大化する一方である。ユーザーは常勝のSIEに求める要求水準をPS6では一段と引き上げるだろう。
美麗なグラフィックス,圧倒的なボリューム,際限ない欲求に対応していると開発費は鰻登りで,とどまるところを知らない。しかし,ユーザーからの批判に耐えられないSIEは性能一辺倒からの脱却は困難であろう。
このままでは厳しい結果が待っているのではないだろうか。この解決策を提示できるだろうかと最近よく考えるのである。