【ACADEMY】ミーティングに死を:リモートゲーム開発におけるチームワークを再考する

NDreams ElevationのGlenn Brace氏がフルリモートスタジオ設立の秘訣を語る

【ACADEMY】ミーティングに死を:リモートゲーム開発におけるチームワークを再考する

 何十年もの間,ゲーム開発は物理的な空間を共有するグループで行われてきた。私たちがどのように関わり合うかは,私たちの精神に刻まれており,ある程度は私たちが暮らす物理的な空間によって定義される。これは,奇妙で素晴らしく,遊び心のあるオフィスデザインが,ゲーム業界でありふれていることを見れば分かる。

 COVID-19の大流行でオフィスが閉鎖された後,今年の初めにActivision Blizzard(関連英文記事)が行ったように,従業員をオフィスに戻そうとしたり,義務付けたりしている企業もある。しかし,それはうまくいくのだろうか。分散化した従業員のせいとされる納期の遅れや,ときどき発生する生産性の低下をなくせるのだろうか。

 データはそれを否定しており, Fortune(関連英文記事)は「オフィスが(パンデミックによって)閉鎖されたことで,米国の生産性は2020年の第2四半期に急上昇し,2021年にも高い水準を維持した」と報告している。その後の生産性の低下は,多くの人がオフィスワークに戻されたことと重なる。

 これらの議論から,私はnDreams Elevationのビジョンに立ち戻った。私たちは完全な「バーチャル」チームが,協調性,品質,効率性などを損なうことなく,クリエイティビティとアウトプットを効果的に発展させられると信じている。ここでは,私たちのスタジオでどのようにこれを確立しようとしているのか,そして参考になると思われるいくつかのアプローチを紹介する。




オフィスをバーチャルで再現しない


 フルリモートスタジオを確立することは,絶対に手に入れるべき機会だ。そのためには,何を達成したいのか真剣に考え,その目標を達成するためのプロセスを,良い面も悪い面も分析することが不可欠だ。

 ミーティングを例に挙げよう。これは,扱い方を間違えると分裂を招き,カレンダーを食い荒らす時間の浪費になりかねないものだ。そもそもミーティングとは何だろうか。大まかに言えば,特定のトピックについて議論するために,共有スペースに人が集まることだ。長年,この共有スペースは物理的なもの,つまり会議室であり,これを中心にミーティングの概念そのものが形成されてきた。

 たいていの場合はうまくいくのだが,ミーティングには一部の人しか招待されないので,盲点ができたり,人々が重要な情報を見逃してしまったりすることがある。また,これは本質的に時間に縛られるものとなっている。つまり,決められた時間に共有スペースにいる人が会話に参加し,壁の外にいる人は会話に参加しないのだ。

 多くの企業が定義している典型的なオンラインミーティングはこの名残で,凝り固まった社会的構造や境界線を仮想空間に再現しているのだが,この理由は見当たらない。

 長年の訓練や凝り固まった行動を元に戻すのは簡単ではないが,以下のステップは良い出発点となる。


ビジョンを明確にする


 成功するチームは,毎日何を目指して仕事をしているのかが明確であり,リモートワークのチームも同様だ。むしろ,この領域にさらに注力することが求められる。

 何よりもまず,自分たちの働き方に有意義な影響を与える,重要な優先順位を書き出してみよう。共有されるべきビジョンが見えてくるはずだ。

 これは基本的に,非常に明確で簡潔なスタジオの目標,「何を」「なぜ」をすべて明記した具体的なミッションを指す。優柔不断になりがちなスタジオにおける避難所であり,北極星となるのだ。

 「私たちは素晴らしいゲームを作る」というのは立派な志かもしれないが,チームメンバーが指針を必要とする際に活用できるステートメントではない。この声明は,厳しい試練に耐えうるものでなければならない。そして,できるだけ早い段階で,全員が理解できるように確立しておくことが重要だ。

 用語の意味を具体的に示すだけでも,チーム全体の指針として,ビジョンに十分な重みと権威を与えられる。

成功するチームは,毎日何を目指して仕事をしているのかが明確であり,リモートワークのチームも同様だ。むしろ,この領域にさらに注力することが求められる。

 上層部から下層部まで,すべてのチームメンバーが「なぜ」を理解していないと,さらなる明確さを求めるメンバーが制作を中断したり,混乱や先の見えない状況でメンバーが無気力になったりすることがある。ビジョンが明確になれば,人々はプロジェクトにとって何が良いことで,何が悪いことかを判断する権限を与えられ,従来のミーティングの多くが不要となり,制作が止まっている時間を減らせるのだ。

 指示を期待しているようなチームメンバーの依存を避けるために,対策を検討しよう。私たちのチームは,このような理由からゲームディレクターの役割を持たず,チームに革新や発見,ビジョンに貢献する権限と責任を与えるというコミットメントを示している。

 「ソフトウェアにある証拠」は,チーム内で何がうまくいっていて,何がうまくいっていないのかを示す重要な指標であるべきだ。そして,スタジオの誰もがゲームの最新ビルドを定期的かつ批判的にプレイして,証拠の有無を認識できるほどに,ビジョンが理解されているという自信を持つ必要がある。

 どのスタジオも独自のビジョンと,それを実現するための方法を持っているだろう。重要なのは「何を」「なぜ」という部分を確立して,チームメンバー全員がビジョンを守っていけるように説明することだ。


知識をアクセスしやすく,永続的なものとする


 バーチャルツールを導入し,情報と共同作業のチャンネルを維持することは,ゲームチェンジャーになる。私たちは,流動的なコミュニケーションとチームの透明性を確保するために,「Miro」と「Microsoft Teams」の組み合わせを使用しているが,ほかにも無数の選択肢があり,その中にはあなたがすでに使っているものもあるかもしれない。

 Miroはオンラインホワイトボードツールで,クリエイティブな共同作業やプランニングに適している。規律正しく一貫した方法で使用し,チームメンバー全員が熱心に更新すれば,チーム全体でリアルタイムの開発情報やアップデートに透明性をもってアクセスできる。合意の取れた声明やアイデアは永遠に公開され,進行状況は全員に通知される。

 これは事実上,ミーティングの逆に位置しており,たとえ会話の場にいなくても,アイデアは共有され,関わり合うことができるのだ。

Miroボードの例
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 Microsoft Teamsは,役割別に24時間365日,参加/退出可能なチャンネルを運営できるので,Miroの理想的な相方となる(DiscordやSlackなど,ほかのソフトウェアでも同様のことが可能だが,重要なのはその使い方だ)。

 一般的には,プロジェクトの書類や進行中の作業用に1つのアプリケーションを用意し,その場限りの議論をしたい時に,もう1つのアプリケーションを使用するのが良い方法だ。

 2つのアプリケーションを使うことで,アイデア出し,議論,フィードバック,指導,レビュー,そしてスタジオの雰囲気など,チームのあらゆる情報とコミュニケーションをカバーできる。このペアリングは,私たちの共同作業工程において,ほぼすべての側面で不可欠なものであり,共同作業を本当に重視するならば,すべてのチームメンバーに全チャンネルへのアクセス権を与えるべきだ。

すべてがオープンになれば,意思決定はその場で,目に見える形で説明され,理解される。

 このアプローチは,一般的なオフィス空間での共同作業では不可能な拡張性を持ち,各人は知識のある場所に身を置くことが求められる。チーム全員が自分の責任において行動し,時間を管理し,効果的な共同作業を行うために,適切な場所で活躍できるようになるのだ。すべてがオープンになれば,意思決定はその場で,目に見える形で説明され,理解される。そして,会議のスケジュールも不要となる。

 うまくいくには規律が必要だ。もし会話が間違った場所で始まったなら,それを移動させなくてはならない。また,フィードバックはオープンで行われるため,シニアメンバーはレビューの形式を明確かつ簡潔にする必要がある。選ばれた人たちの小さなグループでレビューするために,別室に行くことはないはずだ。フィードバックは,チームメンバー全員が参加できるチャンネルで行われ,その結果や次のステップを理解し,記録に残す必要がある。

 オフィス経験のあるシニアメンバーは,適応に苦労するかもしれない。しかし,ジュニアメンバーは,より自然に引き寄せられるはずだ。考え方を変えるには少し時間がかかるが,指導や即席のワークショップ,スタジオの仲間意識など,有機的なメリットは大きい。

 また,言うまでもなく,カレンダーは無料だ。


旅への参加権をチームメンバーに与える


 オープンな体制では,必然的にチームメンバー全員に要求されることが変わってくる。自分の階級に関係なく,チーム全体に対して率直な意見を述べる義務が生じるのだ。

 これは,委員会でゲームを作ることや,開発を民主化することを意味しているわけではなく,専門知識や経験は重要で,決して軽視できるものではない。しかし,スプリントプランニングの段階やそれ以降で,全員が自分の意見を持ち,進むべき道を一致させることも重要だ。

 プロジェクト開発で鍵となるポイント(私たちの場合はスプリントの終了時)において,最新のビルドが直面するもっとも重要な問題について,チーム全体に投票する機会を与えることを検討してほしい。ステップ2に従って,チーム全体にビジョンへの信頼感を持たせることができれば,その結果は強力なものとなるだろう。

 もっとも多く指摘された問題は,次の開発フェーズで必ず対処することを義務付けよう。何が問題なのか,ある程度のコンセンサスがあれば,解決策を共同で考えるようにチームをうながすのは,かなり容易となる。

どんなアイデアや要望も,上下関係を意識することなく,チームのほかのメンバーから真剣に質問されることを,積極的に奨励するべきだ。

 もちろん,その解決策に全員がすぐに同意するわけではない。どんなアイデアや要望も,上下関係を意識することなく,チームのほかのメンバーから真剣に質問されることを,積極的に奨励するべきだ。それが有意義に機能するには,Miroボードに書いたメモを提出するなど,さまざまな方法で安全にフィードバックする機会を提供することも重要となる。どんなに歓迎されても,誰もが群衆の中で発言したいとは思わないだろう。

 このプロセスには多くの利点がある。シニアは,チームの姿勢を学ぶだけでなく,より練られたアイデアで潜在的に精査することを余儀なくされる。ジュニアメンバーは,学ぶ機会を得ることで成長できる。そして何より,職責やアプローチ,納期について,すべての関係者が完全に一致していることが確認できるのだ。

 重要なのは,開発を進める前に懸念事項や疑問点を徹底的に洗い出し,チームの全員が明確かつ集中して前進できるようになることだ。そうすると再作業が少なく,整合性が取れ,より大きな成果を正しい方向で出せるようになる。


チームを守る


 リモートワーカーは,オフィス勤務の人と比べて孤立しやすい,あるいはストレスを感じやすいという話を見聞きしたことがあると思う。「リモート」という言葉はまさに他の人から切り離されることを意味するので,私たちはスタジオを「バーチャル」という言葉で表現し,自分たちのイメージに合うようにした。

 バーチャルスタジオでは,チームの健康状態を把握することを強く意識する必要がある。個人のストレスは目立ちにくいが,表面上は仕事に満足しているように見えて,黙って辞表を出すというのは,絶対に避けなければならないシナリオだ。

 まずは,業務時間内に高い水準で完成させられる仕事を計画することが重要となる。簡単に思えるかもしれないが,必ずしもそうではないことを,皆知っているだろう。

 チームや個人を失敗させることがないようにしよう。開発目標がどの程度達成可能かチームと話し合い,目標の設定にあたってチームの意見を聞く方法を,正式に決めておくと良いだろう。

 目標設定の経験に基づいて,Miroのフィボナッチスケール機能を使い,それぞれの目標がどの程度達成可能か,どの程度のクオリティかを,チーム全体で投票することをおすすめしたい。

 そうすることで,異なる視点を得て,盲点を補えるようになるとともに,予期せぬ複雑さについてほかの人を教育し,分野間における知識の隔たりをなくすことも可能となる。やがて,物事が複雑かどうかについて,人々の意見が一致するパターンが見えてくるはずだ。これは,チーム内の整合性が確立されつつあることを示し,個人が黙って苦しむ可能性が著しく低くなることを意味する。

チームや個人を失敗させることがないようにしよう。
開発目標がどの程度達成可能かチームと話し合い,目標の設定にあたってチームの意見を聞く方法を,正式に決めておくと良いだろう。

 コミュニケーションというテーマで言えば,チームにもっと話をさせるために,コミュニケーションチャンネルの数を減らすという選択肢もある。直感に反するかもしれないが,チャンネルを少なくすることで,各人がより深いレベルで関わり合うようになり,まるで物理的な空間を共有しているように社交的になる可能性が高くなる。

 私たちが長い間,機能するモデルとして知っていたものが,今は疑問視されている。その一つが,オフィスという概念とその仕組みだ。人材獲得や,(多くの人にとって)快適な在宅勤務など,物理的なスタジオではなくバーチャルスタジオを選ぶ理由はたくさんあるが,物事がどう違うのかを十分に考慮せずにそうするのは,ほとんど意味がない。

 「ミーティング」という概念のように,長い間あたりまえのように使ってきたものを含めて,すべてを疑う機会がある。

 もちろん,この仕組みがすべてのチームに当てはまるとは限らないし,nDreamの中にもチームごとに独自のやり方が存在しているが,私たちはすでに,これが業界全体で機能する構造であると信じるに足るものを見てきた。

 重要なメッセージは,旧来の物理的な構造がない以上,すでに知られているモデルを単に複製するだけではいけないということだ。何よりもまず,実現したいことを明確にするために,時間と労力を割くことである。自分のチームやプロジェクトに合ったものを目指して試行錯誤しよう。

 この(比較的)新しい世界で,何がうまくいき,何がうまくいかないのかを,私たち全員がさらに学ぶことで,業界を皆にとってより良いものにしていけるのだ。


Glenn Brace氏は,nDreams Elevationのスタジオ責任者で,以前はClimax Studiosのアートディレクターを務めていた。2022年1月に設立されたElevationは,AAAおよびコアなVRゲーム体験の作成に焦点を当てたフルリモートスタジオだ。

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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら