【ACADEMY】燃え尽き症候群について耳寄りなすべての話

職業性燃え尽き症候群の経験者たちが,その原因,影響,回避方法について専門的かつ個人的な見解を語る

【ACADEMY】燃え尽き症候群について耳寄りなすべての話

 クランチ(修羅場),労働条件,メンタルヘルスは,何年も前からゲーム業界で頻繁に議論されるトピックだ。先月のGame Developers Conferenceでは,個人とプロの専門家たちによるパネルディスカッションで,このテーマがじっくりと取り上げられた。

 Take ThisのクリニカルディレクターであるRaffael Boccamazzo博士は,職業性燃え尽き症候群の概要を説明し,医学界ではどのように評価されているか,どういったことが原因になるのかを詳細に説明した。

 その後,Spry Foxのリードゲームデザイナー・Alicia Fortier氏,Blizzard Entertainmentのリードコンテンツデザイナー・Osama Dorias氏,The OutsidersのリードUXデザイナー・Anna Brandberg氏が,それぞれの職業性燃え尽き症候群の経験や,そこから学んだことを紹介した。


燃え尽き症候群とは?


 Boccamazzo博士が最もよく使われるモデルと呼び,世界保健機関による疾患の定義の基礎ともなった,マスラックの職業性燃え尽き症候群モデルでは,“職場で長期間の圧倒的なストレスにさらされることによる慢性的な症候群”と定義されており,主に3つの基準があり,そのすべてが揃わないと“完全な燃え尽き症候群”にはならない。

Boccamazzo博士のプレゼンテーションにおけるスライド
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疲労困憊


 「単に肉体的に疲れていて,数日休めば治るというものではありません」とBoccamazzo博士は語った。「私たちが話しているのは,蔓延し,骨の髄まで浸透し,魂を砕くような認知的・感情的疲労のことで,逆説的に私たちの休息や回復の能力を妨げているものです」

非効率


 「“自信喪失”や“インポスター症候群”だけではありません。燃え尽き症候群になると,私たちの効率は明らかに低下します。しかも,一度や二度ではなく,長期間にわたり一貫してパフォーマンスが低下するのです」

シニシズムあるいは個人的な無関心


 「自分自身や周囲の人に対する怒りなど,気分の変化が見られるかもしれません。無関心のような認知の変化が起こることもあります。肉体的には無理をして,下手なりに仕事をこなすかもしれませんが,精神的には追い詰められているのです。しかも長期間にわたって」

 Boccamazzo博士は,燃え尽き症候群には他のモデルもあること,この分野における研究のほとんどは医療や教育のようなサービス業に基づいていることなど,いくつかの注意点を挙げた。さらに,1つまたは2つの属性にのみ焦点を当てた研究もあり,苦痛の表現方法には文化的な違いもあるため,症状は必ずしも世界中で一様ではないとのことだ。

 結局のところ,職場に起因するストレスが慢性的な影響を及ぼしていると思われる人には,職場のストレスを専門とする地域の専門家に相談することを推奨するという。

 マスラックのモデルは,燃え尽き症候群の6つの要因を指摘している。

  1. 仕事量 - 現実的にこなせる仕事量より多い仕事を常に与えられていないだろうか。スコープクリープは,レイオフやそれに伴う人員整理と同様に,これに拍車をかける可能性がある。
  2. 報酬 - 自分の貢献に対して適切に報酬が与えられているか。単なる給料だけでなく,個人的に意味のある方法で評価されることも含まれる。Boccamazzo博士が言うように“ピザパーティーではダメだ”。
  3. コントロール - 自分の仕事のやり方や内容に影響を与えることができるか。仕事がトップダウンで指示されているのか,スケジュールや働く場所などについて提案できるのか。
  4. コミュニティ - 職場への帰属意識を持っているか。あるいは,正社員と契約社員,アイデンティティ,障害の有無,仕事の役割,部署などによって,微妙に,またはあからさまに分断されていないか。帰属意識を低下させるようなことは,燃え尽き症候群の原因となる。
  5. 公平性 - 政策,規則,手続き,昇進,懲戒は誰にでも平等に適用されているか。それとも不公平の影響を受けていると思われる人々がいるのか。
  6. 価値観 - 会社の目標は従業員としての自分の価値観と一致しているか。また,会社はその表明した価値観を一貫して実行しているか。従業員第一主義を掲げながら,その行動は利益を優先していないか。

 Boccamazzo博士は,これらの問題は多くのケースで,燃え尽きた個人の力では解決できないことを強調した。

「すべての要因はリーダーによってもたらされていて,燃え尽き症候群と戦うために必要なシステムレベルの変化も同様です」
Rafeal Boccamazzo博士

 「これらの要因の中から,個人のセルフケアによって解決できる問題を探してみてください。すべての要因はリーダーによってもたらされていて,燃え尽き症候群と戦うために必要なシステムレベルの変化も同様です」と彼は語った。

 「職業性燃え尽き症候群に関して,システムを変更せずに個人の回復力とセルフケアに焦点を当てることは,漏れのあるボートで,より上手に泳ぐ方法を学ぶ必要があると人々に示唆するようなものです。水泳を学ぶのは素晴らしいことですが,ボートを修理する必要があります」

 職業性燃え尽き症候群は,離職率の上昇,長期の病欠,常習的な欠勤,出勤しているが事実上何も達成していない状態を表すプレゼンティズムと関連があると,彼は指摘した。

 さらに,Boccamazzo博士は,燃え尽きた人が退職する場合,他の人を連れて行く可能性が2倍高いという調査結果も示した。

 また,風評被害(“燃え尽きた社員は噂をする”と彼は指摘した)や,新しいアイデアを発言するのに十分な安心感やサポートがない場合,創造性に影響を与えることは言うまでもないだろう。

 「燃え尽き症候群を,できれば道徳的・人間的な問題として考えてほしいですが,コストや製品という観点から見るにしても,真剣に取り組んで対処すべき理由には事欠きません」とBoccamazzo博士は述べた。


プレッシャーとニュアンス


 Alicia Fortier氏のプレゼンテーションでは,自身の燃え尽き症候群の経験が語られ,燃え尽き症候群に至るまでに感じたさまざまなプレッシャーと,物事を俯瞰で捉えるために今も自分に言い聞かせている状況の違った見方(ニュアンス)について,対比して説明された。

プレッシャー:私は常に能力を発揮する必要がある。分からないことはすべて欠点だ。

 学生時代は,徹夜やゲームジャムへの参加,高成績を取るための努力などが日常茶飯事で,社会人になった時にはすでに疲れ果てていたというFortier氏。それでも彼女は努力を怠らなかった。

 「学びたい,与えたい,そして自分自身と自分の居場所を証明したかったんです」とFortier氏は語った。「そして,皆さんの中の何人かと同じように,自衛の意識や自分を守る手段を持ち合わせていませんでした」

ニュアンス:現実には,時間,練習,経験によって学んでいき,学ぶべきことは文字通り無限に存在する。

 「成長するために学ぶべき大切なことは,今はもう十分というタイミングを見極めることです」とFortier氏は言う。「自分に忍耐強くなりましょう。今いる場所と,まだ学ばなければならないことに対して,自分に猶予を与えてあげてください」

「その余分な努力をするために,あなたは何を犠牲にしているのですか。睡眠,友人,家族ですか?」
Alicia Fortier氏

 彼女は,開発者がよく“ゲーム作りはスプリントではなくマラソンだ”と言うことを指摘し,最初から全力疾走してしまっては,そこからどうやって加速し,何が残っているというのだろうかと語った。

 「自分がどこにエネルギーを使っているのか,批判的に考えてみてください」と彼女は言う。「何を学んでいるのか,そして,もう少し学ぶためにどれだけの余分な努力が必要なのか。その余分な努力をするために,あなたは何を犠牲にしているのですか。睡眠,友人,家族,いつまでそれらを犠牲にするのでしょうか?」

 Fortier氏は,2016年のある日,とあるプロジェクトに取り組んでいたところ,方向転換が発生して,必要な再作業に対応するために遅くまで残業していた時のエピソードを披露した。その際,家族の猫に別れを告げるための獣医の予約に間に合わず,それにあとから気づいたという。その後,関係ない理由で予約が遅れていたことが分かり,数日後にお別れをすることができたそうだ。

Fortier氏のプレゼンテーションにおけるスライド
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プレッシャー:仕事を任されているのなら,要求されたとおりにすべてをやり遂げなければならない。

 Fortier氏は,全力を尽くして文句も言わずに過剰な仕事をこなすと,そのようなアウトプットが自分にとって当たり前だという期待を持たせてしまう問題を指摘し,与えられた仕事量に無理がある場合は,それを理解してもらう必要があると語った。

ニュアンス:自分の限界を知ること,助けを求める方法,そして“ノー”と言うタイミングは,すべて重要なスキルだ。

 Fortier氏は,“ノー”と言うことはスキルであり,誰にでも自然にできることではないので,時間をかけて開発しなければならないと具体的に説明した。

 「目標は,自分自身を擁護する方法を学ぶことです」と彼女は語った。「そして,それには訓練が必要なので,練習してください。しかし,Boccamazzo博士が言うように,完全にコントロールできるわけではなく,周りのリーダーのサポートがなければ,本当に難しいことなのです」

 サポートがない場合は,自分の価値やスキルを反映しているのではなく,リーダーの判断ミスを反映しているのだと,Fortier氏は強調した。

プレッシャー:ほかのみんなは順調だ。私は大げさで,もっと頑張らないといけない。

ニュアンス:私は自分の感情に耳を傾ける必要がある。それは有効で重要なことだ。

 「私たちは,ほかの人が何を抱えているのかを知ることはできませんし,その人の見かけが,内面とは違うかもしれません」と,Fortier氏は語った。

 自分の感情に耳を傾ける際は,自分の中に“何か怖いもの,何か暗いもの”がないかを考えることが重要であり,それが人生のほかの部分を解き明かすかもしれないので,疑問を持つことを恐れているのだと彼女は付け加えた。それは,長く複雑なプロセスかも知れないが,たとえある瞬間にそれを経験する準備ができていなくても,少なくともそれがそこにあることを認めることが重要なのだと彼女は言う。

プレッシャー:これを終わらせないと,チームプレイヤーとして失格で,失敗したことになる。

ニュアンス:私は去ることを許されている。

 「創造的な自分を焼き尽くしてしまうのは,誰の責任でもありません」とFortier氏は語った。「成果物,期待,約束,期限から一歩引いて,真の難しい質問を自分に投げかけてみてください。自分がいる場所は,自分を助けているのだろうか,それとも傷つけているのだろうか?」

 彼女は,“情熱”はこの業界ではよくあることで,それが人々のためになるのと同じくらい簡単に,人々に逆らうことがあると付け加えた。燃え尽き症候群の最中であっても,それを無視することは難しい。

 「気にしないようにするのは,とても難しいことです」とFortier氏は言う。「“もう気にしない”と言っている自分に気づいたことが何度もありました。私は嘘をついていて,いつも気にしていました。そして,それは美しく,貴重で,守るべきものだと思います。だから,私たちが今のようなシステムで仕事をしている限り,皆さんには,自分の仕事に対するのと同じような気遣いを,自分自身にもしてほしいのです」


沈黙の中の苦しみ


 Osama Dorias氏は,このところゲーム業界の有名人となっている。Gameloft,Ubisoft,Minority Media,WB Games Montrealといった企業でのデザイン業務に加えて,Dawson Collegeでゲームデザインを教え,Montreal Independent Games Awardsを主催し,The Habibis podcastの共同ホストや,分科会IGDA Muslims in Gamesの共同リーダーも務めている。

 プレゼンテーションで詳しく述べられたように,彼も職業性燃え尽き症候群に悩まされている。

 「自分の話をすることで,燃え尽き症候群がどのようなものか知ってもらえたらと思います」とDorias氏は語った。

「“燃え尽き症候群”になったと話すと,たいてい“私もそうだった”という答えが返ってきます。そして,私たちはたった一人で静かにそうなるのです」
Osama Dorias氏

 同僚の多くが,彼が話してみるまで彼の苦しみに気づいていなかったのと同じように,彼も人々に共感してもらえるとは思ってもみなかったそうだ。

 「多くの人々と話をしました」と彼は言う。「“燃え尽き症候群”になったと話すと,たいてい“私もそうだった”という答えが返ってきます。そして,私たちはたった一人で静かにそうなるのです」

 Dorias氏は長い間,世間の注目を浴びて忙しくしてきたが,燃え尽き症候群で苦しんだのは母親が乳がんと診断され,彼女の世話をするために仕事の日数を減らしてスケジュールを組み直さなければならなかった2019年にまで遡る。しかし,彼女が寛解した矢先,パンデミックが発生した。

 「とても外向的で,本当に極度の外向的な人間である私にとって,喜びとエネルギーを与えてくれるすべてのことをやめるのは,非常に困難でした」とDorias氏は言う。

 つまり,教えることも,ジムに通うことも,イベントを企画することも,人前で話すことも,社交辞令を言うことさえも,Dorias氏が溺れそうに感じる場合を除いてなかった。

Dorias氏のプレゼンテーションにおけるスライド
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 Dorias氏は3つの寝室があるアパートに住んでいて,以前は広々とした印象だったが,ロックダウンによって寝室で仕事をするようになると,すぐにそれは変わってしまい,薄い扉はますます多くなる子供たちの喧嘩の音をさえぎることはできず,長期間狭い場所に閉じ込められているように感じた。

 Dorias氏は,睡眠から仕事まで1日のほとんどの時間を寝室で過ごし,食事や,夜に数時間テレビを見る時だけそこを離れたという。

 「結果として不眠症になりました」とDorias氏は語る。「眠れませんでした。部屋にいても仕事のことしか考えられないのです」

 多くの夜,彼は1〜2時間しか眠れず,夜通し壁を見つめて,仕事に使うコンピュータを見ないようにした。

 「以前は喜びを感じていた活動から,喜びを感じられなくなりました」とDorias氏は言う。「ビデオゲームをするのも,映画を見るのも,本を読むのも,何もかもが楽しくなかったんです。それらはすべて,雑用のような気がしました。“ああ,仕事から切り離さないといけない。何か別のことをしなければならない。これをやらなきゃいけないんだ”と思って,それ自体を仕事のように感じました」

「先のことは考えられませんでした。その日を生き残る,その時間を生き残る,その瞬間を生き残る,その仕事を生き残る……」
Osama Dorias氏

 彼は,うつ病になり,偏頭痛に悩まされ,激しい疲労感と突然のパニック発作を経験した。この時点で,彼はリモートで教えたり,話したり,指導をしたりするようになっていたが,それも減らしてしまった。

 「先のことは考えられませんでした」とDorias氏は語る。「その日を生き残る,その時間を生き残る,その瞬間を生き残る,その仕事を生き残る,何をするのもサバイバルでした。そして,毎日が前日よりもつらくなりました。エネルギーがどんどん減っていき,すべてに無関心になっていき,集中できなくなりました」

 また,Dorias氏が常軌を逸した状態と表現するように,彼は理由もなく怒り出すようになった。態度の変化は仕事にも影響を与え,普段の楽観的で前向きな性格が,皮肉屋で悲観的な性格に変わったことで,職務を果たしにくくなったのだ。

 「ただそこにいるだけで,そこにいないような休憩がどんどん長くなっていきました。やがて,一度に何日も,何週間も休むようになりました」

 そんなある日,Dorias氏は気分が良くなったという。エネルギーと意欲が湧いてきて,その1週間はものすごく生産性が上がった。しかし,実際に良くなったわけではなく,翌週に数日間ベッドから起き上がれなくなる経験をした。

 「倒れる前にエネルギーが爆発するのは普通のことです」とDorias氏は語った。「溺れている人が水没してもう動けなくなる前にバタバタするのと似ています」

 彼はついに上司に自分が経験してきたことを話し,医師の診察を受けさせられ,すぐに病気休暇をとらされた。

 回復のプロセスは簡単ではなかったが,すぐに進展が見られるようになった。散歩を始め,パーソナルトレーナーや理学療法士に診てもらった。パニック障害,睡眠障害,血圧を改善するために,さまざまな薬を服用した。

 「ほんの少し良くなってきたと感じるまで,どれだけ悪かったかを知ることはできません。そして,それがどれほど役に立ったかを実感するのです」とDorias氏は語る。

 彼は家族とともに,アパートから独立したオフィスのある家に引っ越し,それによって仕事から解放され,子供たちに自分の部屋を与えたので,喧嘩も減った。

 しかし,そのような前進があっても,彼は短い時間を除いて,ほとんど不幸な状態だった。

「医師に自分の状況を誤って伝え,あまりにも早く仕事に復帰してしまったのです。これまでで,もっとも愚かなことでした」
Osama Dorias氏

 「現実として,私は自分の価値を生産性と結びつけて考えていて,私は生産的ではありませんでした」とDorias氏は言う。「私は役立たずで,それは私が無価値だということです。だから,医師に自分の状況を誤って伝え,あまりにも早く仕事に復帰してしまったのです。これまでで,もっとも愚かなことでした」

 復帰して最初の1週間は十分に順調だったが,やがてDorias氏は自分が間違いを犯したことに気づいた。スタジオの主任を辞めたが,それでも仕事量についていけなかった。そこで彼は,業界の友人たちに自分の状況を話し,彼らの多くが燃え尽き症候群を経験していることを知った。

 そこで彼は,3か月の休暇を取得することにした(今思えば危険な選択肢だったと彼は指摘する)。しかし休暇を取っても,以前のようにクリエイティブな仕事や,問題解決に取り組むことができないことに気づいた。彼は会社を辞めて,Unityで“シニアパートナー・リレーションマネージャー”の職に就いた。面接では燃え尽きたことを率直に伝えたが,それでも歓迎してもらえた。

 Dorias氏はUnityで9か月働いたが,その間に創造性が戻り始め,自分が回復し始めたことを実感したという。デザインの仕事に戻りたいと思ったDorias氏は,昨年10月にBlizzard Entertainmentに就職し,面接の際に自分が経験したことを再び伝えた。

 「以前は人並み以上に成功していたのに,今はそれなりとなってしまったので,期待してしまうのでしょうか。だから,自分に優しくしようと思っているのですが,まだ再発することがあります」とDorias氏は語る。「目が覚めると,もう何もできないと思う日があります。ありがたいことに,今は数時間となってきましたが。少しずつ良くなってきています」

 「そして,脳がフル回転すると昔のOsamaに戻るんです。1日に3つのものをデザインして,それらを完成させ,素晴らしい出来栄えに仕上げます。今でも私の中のどこかに,自分が誰であったかが残っています」

 「一番大変だった時に助けてくれた方々に,ものすごく感謝しています。私は皆さんを愛していますし,多くの方がここにいらっしゃいます。そして私の話が,クリエイティブな燃え尽き症候群に悩む人たちにとって,警告のサインを知り,私たちは一人ではないのだと知る助けになればと思います」


“Utmattningssyndrom(疲労症候群)”


 Dorias氏と同じく,Anna Brandberg氏もパンデミックによって職業性燃え尽き症候群になった経験がある。

 「パンデミックが発生する直前に,私は新しい仕事のために世界を横断してストックホルムに引っ越しましたが,すぐに異国の街で孤立している自分に気づきました」とBrandberg氏は語る。「周囲と隔絶していて,私には仕事しか残されていなかったので,それに身を投じました」

 Brandberg氏は月曜日から金曜日まで120%の力で仕事をこなし,週末はベッドから起き上がることができなかったという。

 「そして,生産性の低い自分を責めて,また極限まで自分を追い込むのです」と彼女は語る。

 そのため,夜もリラックスできず,不安と不眠に悩まされるようになり,睡眠薬を処方されるようになった。

「皿洗いをしていると突然,床に涙の水たまりを作り,息ができなくなるほど泣き叫び,その理由も分からないのです」
Anna Brandberg氏

 「私は毎日パニック発作と精神崩壊を起こしていました」と彼女は言う。「皿洗いをしていると突然,床に涙の水たまりを作り,息ができなくなるほど泣き叫び,その理由も分からないのです」

 彼女は食事を忘れ,“恐ろしいほど劇的な”体重減少を起こし,髪が抜けていることに気づいた。

 「本当に怖かったのは,ブレインフォグに支配された時でした」と彼女は語る。「私は一日のうちで,自分の人生の何時間かを失うようなことがありました。ミーティングを終えても,自分自身はもちろんのこと,誰が何を言ったのかが文字通りまったく分かりません。文章の途中で突然,英語の全体像が分からなくなるのです。自分の頭脳をまったく信用できないことに気づきました」

 しかし,やるべきことがあり,その結果休みを取ることに彼女は罪悪感を覚えた。Brandberg氏は,病的な完璧主義に悩まされており,完璧でないものは失敗だと感じていたという。

 「“大丈夫ですか”と聞かれるたびに泣き出してしまうので,聞くのはやめてほしいとお願いしたほどです」とBrandberg氏は語る。「自分がボロボロになっていることを知られたくなかったのです」

 彼女はずっと,自分は強い人間で,ほかの人が助けを求めてくるような人間だと思っていたので,自分は大丈夫だと振る舞い続けようとした。

 「最初の一歩は,自分が実は大丈夫ではなかったと気づくことでした」とBrandberg氏は言う。「私は溺れていて,助けが必要だと認めなければなりませんでした。そして助けを求めると,すぐにそれが得られることを知りました」

 スウェーデンは,職業性燃え尽き症候群が実際の医学的診断名である世界9か国のうちの1つで,“Utmattningssyndrom”が臨床用語なのだと彼女は説明した。公的医療制度によって,彼女は医師の予約やストレスリハビリなど,必要なものをすべて自己負担なしで受けることができた。

Brandberg氏のプレゼンテーションにおけるスライド
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 Brandberg氏には雇用主と面談してくれるケースワーカーが付き,持続的な回復を可能にするために仕事量を調節するよう指示された。彼らは彼女にゆっくりと過ごすように言い,あまり早く仕事に復帰することが害になる可能性についても説明したが,Brandberg氏はそれを聞き入れなかった。「最高のリハビリをしたい,早く仕事に復帰したいと思っていました!」

 医師はすぐにでも仕事を完全に休ませようとしたが,彼女はパートタイムで働くことを主張した。

 「医師はすぐに100%の病気休暇にしようとしましたが,私はもちろんそれを拒否しました」とBrandberg氏は語った。「これ以上は無理だと悟るまで,2か月にわたってパートタイムで働くことを主張しました。その後は,2か月間完全に休んでから,ストレスリハビリに通いつつ,25%の仕事に復帰しました」

 のちに,Brandberg氏は通常の労働時間の50%で働くように慎重に移行し,最終的にフルタイム勤務に戻った。このプロセスは全部で9か月かかった。

 「話を聞いておけばよかったと思います」とBrandberg氏は言う。「すぐに休みを取っていれば,危機的な状況を回避できたかもしれません。そして,もっと穏やかな復帰を認めるべきだったと思います」

 仕事に復帰したからと言って,完全に回復したわけではない。Brandberg氏によると,職業性燃え尽き症候群からの回復期は何年も続き,症状が長引いたり,ストレスに対する耐性のなさが顕著になったりするそうだ。

 「これは,数年経った今でも悩んでいることなのです」と彼女は語る。「以前のようなストレスにはもう耐えられません。前よりもずっと早くボロボロになってしまい,処理できるはずのことを自分ができないことがストレスになります」

 彼女は,回復がスムーズな上向きの曲線ではないこと,挫折が起こること,それを回復プロセスの一部として受け入れ,原因や影響を理解することの重要さを強調した。

 「私は2年経った今でも,燃え尽き症候群からの回復を続けています」と彼女は言う。「回復は一般的に何年もかかりますが,わずか数週間で劇的な変化を起こすこともできます」

「燃え尽き症候群は個人的なものではなく,システム的な失敗です。職場があなたをダメにしたのであって,その逆ではないのです」
Anna Brandberg氏

 彼女は,燃え尽き症候群になりそうな人,あるいは経験した人に,いくつかの提案をした。

 「何よりもまず,燃え尽き症候群は個人的なものではなく,システム的な失敗であることを忘れないでください」と彼女は語る。「職場があなたをダメにしたのであって,その逆ではないのです」

 自分の仕事量の責任者に相談し,計画を立てるのを手伝ってもらうことを彼女は提案した。また,燃え尽き症候群による休職から復帰する場合は,再び危機的な状態に陥らないように,仕事量や責任の所在を調整する必要があるという。

 「職場に合わせるのはあなたの役目ではありません」と彼女は語る。「職場があなたに合わせるのです。そして,もし職場が回復プランに協力してくれないのであれば,今の仕事に留まるべきかどうかさえ,検討してみてください。特権的な立場から言っていることは理解していますが,あなたの仕事はあなたの健康すべてを危険にさらす価値があるのでしょうか?」

 管理職にとって,後任者を探して,雇用し,訓練するよりも,現在の従業員の回復を支援するほうが早く,簡単であることも彼女は指摘した。

 さらに,やるべきこと,完璧でなくてもよいこと,完全に外注できることについて認識を見直すように彼女はアドバイスした。また,困難な時期を乗り越えるには,職場の内外において自身のサポートネットワークを確認することも重要である。

 「あなたは,簡単なことでも手伝ってくれる人がいることに驚くでしょう」と彼女は言う。「あなたのくだらない小さな精神衛生のために,あなたをくだらない小さな散歩に引きずり出してくれる人を,2,3人書き出してください」

 最後にBrandberg氏は,オーバーワークは仕事ができる期間をすぐに縮めてしまうことを指摘し,仕事を大局的に捉えることを人々に求めた。

 「私たちはビデオゲームに携わっているのです」と彼女は言う。「忘れがちですが,あなたのゲームが完璧な世界よりも少し悪くても,実施に死ぬ人はいません。どんなゲームも,会社も,プロジェクトも,あなたの健康に見合うものではありません」


本講演はGDC Vault(外部リンク)で無料公開されている厳選された講演のうちの1つなので,プレゼンテーション全体を見たい人はチェックしてほしい。

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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら