Alibaba Cloudによる「Web 3.0東京サミット」開催,ブロックチェーンゲームの可能性とは

 2023年3月22日,Alibaba Cloudによる「Web 3.0東京サミット」が開催された。

 Web 3.0とはなにか?
 曰く,Web 1.0はWebページによる企業などからの一方向なコミュニケーションであり,Web 2.0ではブログやSNSで個人での情報発信や双方向のやり取りが可能になり,Web 3.0ではGAMA(GAFA)などの巨大IT企業に依存することなくいろいろなことができ,取引も安全になるという。インターネットの変遷を知っている人ならいくらでもツッコミが入れられるようなただのバズワードではある。

 その核となるのは,分散型自律処理と仮想通貨やNFTなどに代表される改竄の困難なデータ群,そしてそれを安全にやり取りするための手順,スマートコントラクトである。ここではその細かい内容については省略する。

 長くなってしまう前書きついでにあらかじめお断りしておくと,私はブロックチェーン関連のビジネスについては控えめに言っても懐疑派である。いまだに胡散臭いものという評価だ。ブロックチェーンを用いた技術の可能性などについては評価しているが,そこに集っている人々が胡散臭すぎると感じている。

 そう思っているのは私だけではないだろう。技術的な関心から研究を行っていたIBMやMicrosoftはいち早く手を引いている。これは,封建時代に王朝が民主主義の研究をするかというと,まずやらないだろうという点で,ある程度納得はできる。

 しかし,ゲーム業界でもUbisoftなどは研究はしているものの,それを使ったゲームを作るわけではないと明言しており,ゲームのジャンルなどについては比較的寛容なSteamでも,ブロックチェーンゲームは扱わないとしているほか,我々の母体ともなる本家GamesIndustry.bizでもブロックチェーンゲームは記事として扱わないという旨の声明をわざわざ発表している。

 ゲーム業界のメインストリームでの扱いはアダルトゲーム並かそれ以上に悪いという珍しいジャンルだ。それでも多くの企業が注目する,ないしは研究だけは続けていたり,メタバースに毛色を変えて扱えないかと検討していたりする。そういった立ち位置である。

 以前,とあるWeb 3.0の入門書が回収騒ぎで話題になったことがあったのを記憶している人も多いと思うが,別にその本が特に間違いだらけだったというわけではない。当時のWeb 3.0の入門書としては平均的なレベルのものにすぎなかった。胡散臭い人に向けた本なら胡散臭い内容で問題なかったのだが,まともな本のフリをして同じような内容のモノを出してしまったのがいけなかったのだろう。実際のところ,技術的な専門書でも内容に誤りがあることは別に珍しくはない。分かっているはずの人でも説明の都合上,捻じ曲げた内容にしていることは結構ある。たいていはスルーしてもらえるものなのだが,叩かれたということは,なにかとこのジャンルに鬱憤の溜まっていた人が多かったのだろう。

 ブロックチェーンゲームについては,そういった胡散臭いところと紙一重であるほか,法的にも難しい側面がある。それでも次世代プラットフォームの候補の1つであることは間違いなく,半ば金鉱掘りのようなチャレンジャーが熱気を持って集まっているジャンルでもある。

 で,Alibaba CloudのWeb 3.0向けソリューション群である。そういった(少し胡散臭いかもしれない)面々を支えるのは,胡散臭さのないネットワーク技術だ。ブロックチェーン技術そのものは,胡散臭さの対極にあるものであり,それを十全に生かせるネットワークインフラも堅固な環境が提供されている。

 例えると,遥かな海の向こうには未開の新大陸があるのかもしれないし,ないのかもしれない。もし存在したら大きな利権が期待できる(かもしれない)。大きな船を持っているところはざっと調べた結果,どこも様子見だ。すでにビジネスを確立している中堅どころなども同様である。海のことなどまったく知らない人たちは,大きな船を作るぞとあちこちからお金を集めている。小さな漁船やカヌーを持つ人たちの中にもレッドオーシャンに倦んで新大陸を目指して旅立とうとしているところもある。Alibaba Cloudの立ち位置は,そういう新大陸向け航海の需要があるなら,それに耐える船を安く提供しようという造船屋といったところだ。

 とても長い前振りとなってしまったが,そのうえで動くものがなんであったとしても,支えるインフラ自体はかなりまっとうなモノであることは最初にお断りしておきたい。


Alibabaのゲーム向けWeb3ソリューション


 アリババクラウド・ジャパンサービスHead of Web3 OfficeであるKent Ohwada氏が講演した同社のWeb3ソリューションエコシステムについて紹介してみたい。

 多くの人が期待しつつもうまい使いどころに苦慮していると言われるWeb3技術だが,実際にAlibabaがこの技術を使ったプロジェクトも存在する。Truspleは国際貿易決済サービス,DCIは中国の著作権申請・保護サービス,Whale Seekは中国の文化財やデジタルアートのNFTシステム,TaaSは農作物や水産物の物流に使用するトレーサビリティサービスだ。それぞれスマートコントラクト,ブロックチェーントークン,NFT,トークンの取引履歴などといったWeb3技術の特徴を生かした運用がされている。ちなみに中国は政府レベルでWeb3技術に熱心な国でもある。


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 さて,本題はWeb3のゲーム運用なのだが,日本は法的規制も厳しいので,日本でブロックチェーンゲームが進展するようなことはそれほど期待されていない模様。しかし,コンテンツ制作力は注目されており,海外を中心として運営されるブロックチェーンゲームのベースになる部分の開発を担当することを期待されているようだ。

 今後Web3ゲームが進展していく可能性,ないしWeb3ゲームのメリットとして3つの方向性が挙げられた。

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 まず,Web3の新たな要素を生かした新しい種類のゲームの創生だ。新テクノロジーは,これまでになかったゲーム性を生み出すかもしれない。
 次に,少額決済への対応だ。クレジットカードなどに代表される決済手段では,1円,10円,さらにその下といった単位での課金は難しい。しかし,東南アジアやアフリカなどの新市場への進出を行うにはそういった少額での決済も必要になってくる。Web3を使えばこれまでにない少額決済も可能になる。

 最後にメジャープラットフォームからの脱却だ。ゲーム業界ではコンシューマゲームを筆頭に,スマホゲームでも利益の数割をプラットフォーム業者に渡さなければならない仕組みになっている。Web3の分散自律の仕組みを使えば,そういったものの支配から脱却したゲームの展開も可能になるかもしれない。

 ちなみに,このイベントの別のセッションで行われたゲーム制作者によるフリートークでは,これらのうち,Web3の技術的特性からどうしたら新しいゲーム性を作れるかを中心に話が行われていたが,これは3つの要素のうちで最も不確実なものでもある。そもそも実現するかどうかすら分からない。

 それに対して,少額決済による新市場への進出とメジャープラットフォームからの脱却は,かなり実現可能そうな方向性である。Web3ゲームを進めるうえで重視すべき項目と言えるだろう。もっとも,プラットフォームからの脱却は主要集客手段の放棄にもつながり,拡大するであろう広告予算とレベニューシェアでどちらが得になるのかは微妙なところかもしれないが。

 さて,Web3を使ったゲームはこれまでのゲームとはいろいろな点で違いがある。どのようなトークンを使えばいいのか,どのように管理すればいいのかなどに知識が必要で,参入障壁は高くなっている。

 そのような部分をまとめてサポートしようというのが,新たに始まるAlibaba BlockChain Node Serviceだ。当イベントの開催と同時に招待制での試験運用が開始されている。

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 Alibaba BlockChain Node Serviceは,Webインタフェース上から簡単に新たなノードを構築できるというものだ。

 2023年後半にはさらにAlibaba BlockChain Data Service,年度末にBlockChain開発プラットフォームが続いてリリースされる予定となっており,将来的にはビジュアルインタフェースでスマートコントラクトを構築できるようになるという(現状ではスクリプト言語での記述が必要)。

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 Alibaba BlockChain Node Serviceはクラウド業者にによるものなので,ダイナミックに運用規模を変更することが可能であり,世界最高レベルのトランザクション性能と,Alibaba自身のソリューションとパートナーによるソリューションを組み合わせて,これだけですべてが完結するトータルWeb3プラットフォームが提供されている。

 パートナーのソリューションとしては,Web3技術を使った安全なウォレットサービスSafeheronなども紹介されていた。「ブロックチェーンを使えばお金のやり取りは完全に安全になるんだろう?」と思う人もいるかもしれないが,実際には過去に多くの仮想通貨盗難事件なども起きている。その多くはブロックチェーンの部分ではないところが原因になっていたりするのだ。Saferonでは,ハードウェアレベルから始まって,複数の暗号鍵を分散して管理するようなレベルまで4階層のセキュリティ層を備えており,PCやスマホなど多くのプラットフォームに対応できる柔軟性を持っている。クライアント部のソースコードが提供されるので,ゲームへの組み込みも簡単だという。

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 さらにゲームエンジンのCOCOSだ。COCOS-2Dという名で聞いたことのある人もいると思うが,3D機能も備えていた。最新のCocos Creatorでは3D機能が大きくバージョンアップされており,多くのプラットフォームで3Dゲームにも対応できるようになっている。Unreal EngineやUnityの次くらいに使われているゲームエンジンかもしれない。

 COCOSを使うメリットで最大のものは,HTML5での出力である。Web3は多くのプラットフォームで利用が可能なのだが,ゲームを展開するとなるとどうしてもHTML5ベースのものとなってしまう。UnityでもHTML5への出力はできるのだが,まだ重いといった評価のようだ。Webゲームを中心に広がっていたCOCOSは手軽にHTML5ゲームを開発できる。中国で開発されているCOCOSの開発元YAJI Softwareはアリババクラウドのパートナーでもあるのだ。

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 さらにWeb3開発APIであるNodeRealが加わる。これはWeb3ベースのサービスをサーバーアプリケーションの開発なしで行えるようにするAPIとなっている。JSONなどで手軽に扱え,秒間1万回を超えるような決済処理にも耐える高速性がウリとなっている。ブロックチェーンを使った処理ではハッシュ値の計算が重いことでも知られているが,ゲームでの用途を考えるなら,その部分が高速であるに越したことはない。

 会場でのデモでは,Web3ベースで作られたFPSで,すべてのデータをトークンとして保存しつつ,リアルタイムにプレイできる様子が示されていた。Web3のトークンには変更の履歴がすべて記録されているので,ゲーム中の全パラメータを記録したリプレイデータを提出できればリモートのゲーム大会でのチート防止に役立つのではないかとOhwada氏は語っていた(※リプレイデータの改竄に関するチートに限られるとは思うが)。

 そしてできあがったシステムが本当に安全なのかをチェックするのがSSA,スマートコントラクトの安全性評価ソリューションである。AIによる検査のほか専門家による評価も行われ,間違いが起きてはいけないシステムへの備えを万全にしている。

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 これらのWeb3プラットフォームの活用を支援するためにAlibabaが行っている取り組みも紹介された。1つはHAPathonで香港のHashKeyとAlibabaが共同で行っているWeb3ゲームのグローバルハッカソンだ。賞金総額は20万ドルで,東京ラウンドの締め切りは(もうまもなくだが)3月31日となっている。
 さすがにそちらには間に合わないという向きには,国内でのWeb3ハッカソンであるasobiHack_Tokyoがある。これはイベント当日に発表されたもので,Alibaba Cloud BlockChain Node ServiceやCOCOS Creator,Safeheronなどのトライアル利用が可能になる。賞金総額は350万円だ。

Alibaba Cloudによる「Web 3.0東京サミット」開催,ブロックチェーンゲームの可能性とは Alibaba Cloudによる「Web 3.0東京サミット」開催,ブロックチェーンゲームの可能性とは

 そのほか,新たにWeb3の開発ハブとなる施設Web3Lab@Shibuyaを渋谷に開設する。これは招待制のイノベーションハブとなるもので,技術サポートや各種セミナーや勉強会,ゲームクリエイターとWeb3技術者によるブレインストーミング,コミュニケーションを推進するものとなる。

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 なお,Alibaba Cloud BlockChain Node Serviceのテストサービスは招待制で開始されているが,本番サービスは2023年夏頃になる予定だそうだ。金額などの詳細は現在調整中とのこと。

 Web3の仕組みを生かしたゲームがどのような形で登場してくるのかは分からない。スマートフォン登場時には,タッチスクリーンを生かしたゲームなどはなく,みんなメーカーが用意した仮想ジョイパッドを使って既存のゲームを移植しているだけだった。

 クリエイターによるトークセッションでは,Angry Birdsの登場でそれが劇的に変化したとし,Web3技術でも同じようなブレイクスルーが見つかるはずだという熱い姿勢が見受けられた。

 前述のように,そういった新機軸の部分が見つからなくても,少額決済やプラットフォーム離脱といった方向でWeb3の意義を活用できる可能性もある。今回発表されたソリューションでWeb3ゲーム開発は,かなり現実的なものとなってきているので,どのような形で成果が出てくるのかに注目したいところだ。